日産自動車とHondaは、次世代のソフトウェア定義車両(SDV)で使う高性能メインECUとゾーンECUを共同開発する。対象には車載OSとミドルウェアに加え、車両制御ソフトウェアの主要部分も入る。両社は2026年8月31日に契約締結を発表し、共通の電気・電子(E&E)アーキテクチャーを2029年度以降の車両へ適用する目標を置いた。2024年に始めた基礎研究は、ハードウェアとソフトウェアを一体で量産へ運ぶ段階に移ったのである。
発表は開発費の削減と速度向上を掲げるが、両社はすでに別々の車載OSと開発環境を築いている。共通化で重複を減らすには、どちらの技術を残すかより先に、共通層と各ブランド固有層の境界、更新と認証を誰が統括するかを決めなければならない。
共同研究から量産前提へ、2年の助走
両社のSDV協業は2024年8月1日、次世代プラットフォームの「基礎的要素技術」を調べる共同研究として始まった。当時の計画は、まず1年をめどに基礎研究を終え、成果が出れば量産開発を検討するというものだった。ECUや車載OSを共通仕様にするとは、まだ決めていなかった。
その後、両社は経営統合を検討したものの、2025年2月に協議を終了した。ただし、2024年8月に定めた知能化・電動化分野の戦略的パートナーシップは残した。資本と経営を一つにする案が消えた後も、SDVの共同研究は切り離されなかった。
| 時点 | 両社が公表した段階 | 量産との距離 |
|---|---|---|
| 2024年8月 | 基礎的要素技術の共同研究を開始 | 成果が出れば量産開発を検討 |
| 2025年2月 | 経営統合協議を終了 | 戦略的パートナーシップは継続 |
| 2026年8月 | ECUとソフトウェアの共同開発契約を締結 | 共通仕様の構築へ移行 |
| 2029年度以降 | 両社の次世代SDVへ適用する目標 | 対象車種や地域は未公表 |
2024年8月の基礎研究は、2026年8月に量産適用を目指す共同開発契約へ進んだ。もっとも、2029年度以降という日付は発売の確約ではない。仕様を固め、試作車で検証し、各市場の認証を通した先に量産がある。
共通化はECUから車両制御ソフトまで届く
今回の対象は、SoCを載せた高性能メインECUと、車両の各エリアを統括するゾーンECUである。高性能メインECUへ計算処理を集め、各ゾーンのECUがその周辺を受け持つ構成なら、機能ごとに専用ECUを積み上げる設計より、ソフトウェアを車種間で移しやすくなる。両社の共同発表はECUの個数や配置を明らかにしていないため、具体的なゾーン構成までは断定できない。
共同範囲は、そのECU上で動く車載OS、ミドルウェア、車両制御ソフトウェアの主要部分にも及ぶ。車載OSは計算資源とアプリケーションの実行を管理し、ミドルウェアは上位の機能が個々の半導体や通信方式へ直接依存しないための共通機能を担う。ここがそろえば、二社の開発者は同じインターフェースと検証環境を使い、車種ごとの機能を作り込みやすくなる。
一方、契約は車両制御ソフトの「主要部分」まで共通化するとした。画面や音声サービスの共通化に比べ、車両の動きや安全に近い層へ踏み込む。開発量を減らせる範囲は広がるが、運転感覚や先進運転支援をどの層で作り分けるかという設計判断は難しくなる。共通化率も、独自に残す機能も公表されていない。
ASIMO OSと日産独自基盤、残された統合問題
Hondaは2025年1月、独自の「ASIMO OS」をSDVの中核に据える方針を示した。2026年モデルでは自動運転・運転支援、車両の基本制御、車内情報・娯楽の三つの領域にECUを集約し、次の世代では一つの高性能ECUへさらに集める計画だった。仮想ECUと仮想車両を使い、実機の完成前から開発とテストを進める環境も構築している。
日産が2026年6月に説明した「日産スケーラブルオープンソフトウェアプラットフォーム」も、車両OS、クラウド上のデータ基盤、開発用SDKで構成される。車両OSではVehicle APIを介してハードウェア差を吸収し、Linux、リアルタイムOS、AUTOSARを用途ごとに使い分ける。日産も車両制御をセントラルECUへ集約し、仮想ECUで実車前に検証する考えだ。
| 比較層 | Hondaが公表した基盤 | 日産が公表した基盤 | 2026年の共同発表 |
|---|---|---|---|
| 車載OS | ASIMO OS | 日産スケーラブルオープンOS | 共通仕様を構築 |
| E&E構成 | 3ドメインからセントラル型へ | セントラルECUへ制御を集約 | 高性能メインECUとゾーンECUを共同開発 |
| 開発環境 | 仮想ECU・仮想車両 | データ基盤・SDK・仮想ECU | クラウドとSDKの共通範囲は未記載 |
両社は独自の車載OSと開発基盤を持つが、共同仕様へどう接続するかは公表していない。ASIMO OSを広げるのか、日産の基盤を取り込むのか、共通部分を新しく作って両OSを上に残すのかで、移行費用と開発組織は大きく変わる。既存車への更新を続けながら2029年度の共通基盤を作るなら、旧系統と新基盤の並行保守は避けにくい。
規模を生かすほど、更新責任の分担が難しくなる
共同開発の利点は重複開発を減らし、ECUと半導体の調達、仮想検証、無線更新の仕組みを大きな台数へ広げられる点にある。共通部分の修正は、複数の車種へ展開しやすい。対して共通部分の欠陥や脆弱性は、両社の車両へ同時に波及し得る。変更を急ぐほど、誰が修正を承認し、どの車両構成へ配信できるかを正確に追跡しなければならない。
車載ソフトの更新は、スマートフォンの配信より制約が多い。国連規則第155号はメーカーのサイバーセキュリティ管理を、第156号はソフトウェア更新管理を扱う。対象車両とソフトウェアの版を記録し、更新の互換性、完全性、真正性を確認するほか、更新に失敗した場合の復旧や安全な実行も求められる。共通OSができても、各社と各車種が負う安全上の責任は消えない。
海外では、共同基盤を運営する組織の形も先に試されている。VolkswagenとRivianの共同事業は1,500人を超える開発組織でゾーン型の電子構成とソフトウェアを作り、Volkswagenは2027年の量産車から使う計画だ。Eclipse S-COREでは、自動車メーカーと供給企業が高性能ECU向けの安全系コアをオープンソースで共同開発し、各社はその上の独自機能へ人員を振り向ける。日産とHondaは、専任組織の有無、知的財産の帰属、外部企業が参加できる境界をまだ示していない。
2029年度より前に見るべき三つの節目
最初の節目は、共同仕様の名称と責任体制である。車載OSの系譜、SoCとECUの供給企業、変更承認の仕組みが公表されれば、二社が既存技術を寄せ集めるのか、共通基盤を長期運営するのかを見分けやすくなる。投資額や削減額が未公表のままでも、専任組織と調達範囲は本気度を測る材料になる。
二つ目は試作と仮想検証だ。共同仕様を実装した仮想ECUでソフトウェアを動かし、Honda車と日産車の異なるセンサーや駆動系へ接続できれば、共通層と車種固有層の境界が実装で確かめられる。逆に、車種ごとの分岐が増え続ければ、共通化による速度と費用の利点は薄れる。
三つ目は対象車種と認証の開示である。今回の発表はSDVを対象としたが、EV専用とは書いておらず、地域と車格に加えて想定台数や発売順も明らかにしていない。2029年度の目標を量産へ変えるには、対象車を定め、サイバーセキュリティと更新管理を含む認証工程へ入る必要がある。共通基盤が二社の開発負担を下げながら製品差を残せるかは、その車両計画が出た時点で初めて具体的に判定できる。
