Goldman Sachsが、中国の7nm以下ウェハー供給不足率は2025年の92%から2035年に34%へ縮むと予測した。South China Morning Post(SCMP)が8月24日に報じた。国内供給が需要の約3分の2まで伸びる計算だが、そこにはSMICが先端工程の能力を毎年増やし、歩留まりを2026年の23%から2035年に75%へ引き上げる前提が置かれている。34%はすでに見えた到達点ではない。先端工程の能力と良品率を10年間そろえて改善できるかを問うシナリオである。
「92%から34%」を逆算すると見える44倍という倍率
予測の終点は、2035年の月間供給41万枚に対して需要61万9,000枚である。国内供給比率は約66.2%となり、なお月20万9,000枚が不足する。「不足率34%」は自給率34%という意味ではない。需要の約3分の1を国内生産で満たせないという意味だ。
公表された成長率と2035年の値から逆算すると、2025年の先端工程ウェハー供給は月約9,300枚、需要は月約12万8,800枚で、供給比率は約7.2%となる。報道された92%の不足率とおおむね整合する。丸められた数字からの逆算なので厳密な起点値ではないが、予測が要求する変化の大きさはつかめる。
ただし、Goldman Sachsの元レポート全文は確認できず、報道の「供給」がウェハー投入能力、良品ウェハー換算、製品構成調整後のどれを指すかは確定できない。本稿の44倍は、2025年と2035年で同じ供給定義が使われたと仮定した倍率である。歩留まり改善だけから導いた生産量ではない。
供給を年平均46%で10年間増やすと、月間枚数は約44倍になる。一方、需要は年平均17%で約4.8倍だ。供給比率は約9.2倍に上がる。つまり、34%という終点を作るのは緩やかなキャッチアップではなく、報道上の供給指標を毎年ほぼ半分ずつ増やす拡張である。数年の遅れでも計算は大きく崩れる。
モデルが並べる能力増強と歩留まり75%
Goldman Sachsのモデルは、SMICが2026年から2031年まで毎年、月3万〜5万枚分の先端工程能力を追加すると置く。2032年から2035年は毎年、月2万枚分を加える。単純に積み上げると10年間の追加能力は月26万〜38万枚分に達するが、何枚を投入できるかと、何個の良品を取り出せるかは別の数字である。
歩留まりの想定は2026年の23%から2030年に50%、2035年に75%へ上がる。52ポイント、倍率では約3.26倍の改善だ。不良が多ければ良品数は伸びず、ウェハー1枚当たりのコストも下がらない。製造条件を安定させ、欠陥を減らし、同じ設計を繰り返し高い比率で良品にできるかは、能力増強とは別にモデルが置く前提である。
SMICの2026年第2四半期決算は月109万6,500枚の総生産能力と93.7%の稼働率を開示した一方、7nm以下の生産能力と歩留まりは開示していない。総能力は標準ロジック8インチ換算で、成熟工程を含む全社の数字だ。7nm以下のウェハー予測と横に並べて比率を計算することはできない。
同四半期の設備投資は18億3,570万ドル、売上高は30億556万8,000ドルだった。当該四半期に全社が高稼働で大規模な設備投資を行ったことは確認できるが、それだけで7nm以下の増設余力は判断できない。Goldman Sachsが置いた23%の先端工程歩留まりを裏づける会社開示でもない。モデルの中心にある数字ほど、公開決算からは見えにくい。
DUV多重パターニングと量産性の壁
SMICは極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置を使わず、深紫外線(DUV)リソグラフィと多重パターニングを組み合わせて7nm級の製造へ到達した。多重パターニングでは、複雑な回路を複数の簡単なパターンへ分け、露光と成膜、エッチングを繰り返す。回数が増えるほど位置合わせと欠陥管理が難しくなり、処理時間も延びる。
ASMLは2025年版年次報告の自社モデルで、DUV多重パターニングからEUV単一パターニングへ移ると、ウェハー当たりの工程数を約20%減らせるとしている。EUV装置自体の消費電力は大きい。それでも製造ライン全体では露光後の成膜やエッチングも減るため、欠陥、コスト、サイクル時間を抑えやすい。DUVで微細な回路を描けることと、競争力のある良品を大量に流せることの間には、工程統合の壁がある。
装置制約も露光機1種類で完結しない。米商務省産業安全保障局(BIS)は2024年12月、露光を含む24種類の半導体製造装置と3種類のソフトウェアを追加規制した。成膜やエッチングに加え、イオン注入と熱処理も対象だ。計測・検査や洗浄も規制範囲に入る。オランダも特定の先端DUV装置を許可制にしている。ただし申請ごとの審査であり、DUVの全面輸出禁止ではない。
歩留まり75%へ向かうには、露光解像度を上げるだけでは足りない。各工程のばらつきを測り、欠陥の原因を特定し、装置を高い稼働率で保つ必要がある。一方、Goldman Sachsの公開報道からは、中国製EUV装置の量産をモデルへ織り込んでいるか確認できない。公開情報で確認できるのは、モデルが高い歩留まり改善と能力増強を同時に置いていることまでだ。75%という歩留まり前提と、設備調達や国産化を同じ因果鎖として扱うことはできない。
7nm以下は2035年の「先端」を意味しない
7nm以下という集計範囲は、中国国内の供給基盤がどこまで広がるかを測るには分かりやすい。だが、技術フロンティアは固定されていない。TSMCは7nmを2018年に量産し、EUVを使うN7+を2019年に量産へ移した。さらに2nmは2025年第4四半期に量産へ入り、A14は2028年の量産を予定している。
この時間差を置くと、2035年に7nm以下ウェハーの66%を国内供給できても、その時点の最先端工程へ追いついたとは言えない。TSMCがA14を2028年に量産予定である以上、7nmの量産規模と2035年の最先端への到達度は別々に測る必要がある。最先端から遅れていても、7nm級の安定供給を増やすことには、中国国内の対象需要を満たす意味がある。
メーカーが付けるノード名も、同じ数字なら密度と性能が等しいという規格ではない。SMICの7nmとTSMCのN7を名前だけで比較して、追いついた年数を求めることはできない。Goldman Sachsの34%は国内需要に対する不足率を測る数字であり、技術差を一つの年数へ変換する数字ではない。
Goldman Sachsは、中国の半導体自給率が数量ベースで2010年1月の38%から2026年6月に約70%へ上がったとも推計した。この70%と、2035年の先端工程ウェハー国内供給比率約66%は矛盾しない。前者は成熟工程を含む半導体全体の数量、後者は7nm以下のウェハー需給を数えている。
金額を分母にすると自給率は下がると同社はみている。成熟工程の小型チップを多数作れば数量は増えるが、高価なAIアクセラレータや高帯域メモリーを輸入すれば価値ベースの依存は残るからだ。ウェハー枚数も演算能力を表さない。同じ1枚でも、ダイ面積、歩留まり、設計、実装方法によって得られるチップ数と性能が変わる。
そこで34%を読むときは、何の不足率かを固定する必要がある。対象は中国国内で需要がある7nm以下のウェハーで、チップ売上高でもAI計算能力でもない。この区別を外すと、供給網の改善を技術覇権の交代と誤読したり、逆に最先端との差だけを見て国内供給の拡大を過小評価したりする。
2030年に能力増強と50%歩留まりを確かめる
2035年を待たなくても、予測は2030年に一度試される。Goldman Sachsは、その年にSMICの先端工程歩留まりが50%へ上がり、中国の半導体設備投資が820億ドルへ達すると見込む。歩留まりが23%から50%へ改善し、増設したラインで同じ品質を維持できれば、モデルが置く能力増強の一部を検証できる。設備投資だけが増え、先端工程別の良品供給が伸びなければ、34%は遠のく。
もう一つの変数は需要だ。モデルは7nm以下ウェハー需要が10年間に年平均17%で増えると置く。AI投資が上振れすれば月61万9,000枚の需要予測も膨らみ、供給が計画どおりでも不足率は高くなる。逆に需要が鈍れば、国内供給比率は製造技術の改善が弱くても上がり得る。自給率の上昇を、そのまま製造競争力の上昇とみなせない理由である。
2030年に確認すべきなのは、SMICの全社能力ではなく、7nm以下で得られる良品の増え方だ。そこへ先端DUVの許可、計測・検査装置の調達、TSMCがA14以降を量産する速度を重ねれば、供給基盤と技術フロンティアを別々に追える。34%という終点を待つ前に、工程別の能力や歩留まりが開示されれば、能力増強と50%歩留まりという二つの前提を別々に検証できる。


