中国のグラフィックスカード市場で、販売チャネルの値札が数日単位で書き換わり始めた。Wccftechが2026年7月26日に掲載したMSI製品の価格表では、GeForce RTX 5090 D v2からRTX 3050まで23製品の更新価格がすべて従来価格を上回り、上昇率は人民元ベースで8.5〜20.0%に達する。NVIDIAがGDDR7とGDDR6を含むGPUキットの価格を引き上げたとの報道から3日後、中国の流通価格にも急な改定が表面化した。ただし、MSIの表には値上げ要因の内訳がなく、GPUキットとの直接の因果は確認できない。
ただし、中国でGPUが一律に2割以上値上がりしたわけではない。NVIDIAとAMDの中国向け公式ページに載る開始価格は据え置かれ、同じ日の最安店と別店舗を比べた差額まで「値上げ率」として扱われている。いま起きているのは公式価格の全面改定ではなく、在庫を持つ卸・小売が次回の仕入れを見越して提示価格を上げ、店舗間の差も広がる局面である。
23製品すべて上昇、8.5〜20.0%
Wccftechが「7月25日のMSI公式流通価格」として掲載した画像には、従来の「前台价」と更新後の価格が並ぶ。表の23行を人民元のまま計算すると、最小の改定はRTX 5070 Gaming Trio OCの5,899元から6,399元への8.5%増、最大はRTX 5080 Shadow 3X OC/Ventusの9,999元から11,999元への20.0%増だった。
| MSI製品 | 従来価格 | 更新価格 | 上昇率 |
|---|---|---|---|
| RTX 5090 D v2 24GB Ventus 3X OC | 22,999元 | 25,999元 | 13.0% |
| RTX 5080 16GB Shadow 3X OC/Ventus | 9,999元 | 11,999元 | 20.0% |
| RTX 5070 Ti 16GB Shadow 3X OC | 7,699元 | 9,199元 | 19.5% |
| RTX 5070 12GB Ventus 3X OC | 5,499元 | 5,999元 | 9.1% |
| RTX 5060 Ti 16GB Shadow 2X OC Plus | 4,299元 | 4,699元 | 9.3% |
| RTX 5060 8GB Shadow 2X OC | 2,599元 | 2,999元 | 15.4% |
| RTX 5050 8GB Gaming OC | 2,599元 | 2,999元 | 15.4% |
| RTX 3050 6GB Ventus 2X E OC | 1,649元 | 1,899元 | 15.2% |
価格改定は最上位だけに偏っていない。RTX 5090 D v2は3,000元、RTX 5080は2,000元上がる一方、RTX 5060とRTX 5050も400元、RTX 3050も250元上昇した。絶対額では上位製品が大きいが、比率では8GBの普及価格帯も15%台に達している。
掲載表には、MSI製品の提示価格が更新されたことしか記録されていない。Wccftechは約1週間前との比較としているものの、画像自体に日付や取引数量はなく、実際にその価格で何枚売れたかも分からない。それでも、同一製品の旧価格と新価格がそろうため、一時点の店頭写真より変化を測りやすい。
「最大28.8%」が測っているもの
WccftechがAMD Radeonの上昇率を14.3〜28.8%とした根拠は、時間の経過ではなく店舗間の差である。掲載表には「過去最安」「当日最安」「中国の希望小売価格」に続いて、JD.com、Taobao、Pinduoduoなどの価格が並ぶ。各店舗欄の割合は、いずれも当日最安値を分母にしていた。
たとえばRadeon RX 9060 XT 16GBは、表中の当日最安値が412ドル相当、中国の希望小売価格が428ドル相当、JD.comが531ドル相当である。「28.8%」は531ドルと412ドルの差であり、希望小売価格との比較なら24.1%になる。しかも当日最安値は希望小売価格を下回る。28.8%を「中国市場での値上がり」と呼ぶと、同じ日の店舗間スプレッドが過去からの上昇に置き換わってしまう。
RX 9070 XTも同じだ。当日最安値708ドル相当に対してJD.comは826ドル相当なので16.6%高いが、中国の希望小売価格738ドル相当との比較では11.9%である。AMDが公表した中国価格はRX 9070 XTが4,999元、RX 9070が4,499元、RX 9060 XTは16GB版が2,899元、8GB版が2,499元だ。どの基準を選ぶかで数字は変わる。
7月24日付の「七彩虹グラフィックスカード特価表」として掲載された画像も、現在の価格水準は示せるが、値上がり率は測れない。旧価格の列がないからだ。さらに、NVIDIAの開始価格は標準仕様の基準であり、大型クーラーや工場出荷時のオーバークロックを備える上位モデルには元からプレミアムが乗る。現在価格と公式開始価格の差を、そのまま今回の値上げ分にはできない。
1,400元と400元、異なる二つの価格基準
メモリ容量による差は、同じ製品系列を比べると見えやすい。七彩虹の表では、iGame RTX 5060 Ti Ultra OCの16GB版が5,250元、8GB版が3,850元で、差は1,400元、比率では36.4%だった。NVIDIAが2025年4月に公表した開始価格は16GB版が3,599元、8GB版が3,199元で、差は400元、12.5%である。
Colorfulの現行表では、16GBを選ぶための上乗せ額がNVIDIAの発売時開始価格の差より1,000元大きい。ただし、この1,000元をすべてGDDR7の追加費用とは断定できない。16GB版と8GB版では仕入れ時期や在庫量が異なる可能性があり、販売店が設定する利幅も開示されていないからだ。現在のColorful Ultra OC系列では、NVIDIAが公表した開始価格よりも容量差に大きな値幅が付いているが、その内訳は分からない。
GDDRの影響は、容量が大きい製品ほどメモリ部品の総額が増えるため現れやすい。一方で、MSIの表では16GB版が常に最大率で上がったわけではない。RTX 5060 Ti 16GB Shadowは9.3%増だったのに対し、8GBのRTX 5060 ShadowとRTX 5050はともに15.4%増である。値上げ率はメモリ容量だけで決まらず、旧在庫と次回調達価格の差、製品ごとの利益率、販売チャネルの判断が重なっている。
需要が弱くてもGDDR価格は上がる
GDDR6とGDDR7の価格上昇は、グラフィックスカード需要が強いから起きているとは限らない。TrendForceは7月3日、ノートPC出荷の弱さとRTX PRO 6000 Blackwellの需要が想定ほど伸びなかったため、グラフィックスDRAMの需要自体は抑えられていると分析した。それでもメモリメーカーが生産能力をほかの主力製品へ振り向けた結果、GDDR6・GDDR7の供給は絞られ、DRAM全体の値動きに沿って価格が上がっているという。
同社は2026年第3四半期の汎用DRAM契約価格を前四半期比13〜18%上昇と予測する。この数字はGDDRの個別見積もりではないが、供給側が価格を下げて数量を取りに行く局面ではないことを示す。需要が弱ければ安くなるという通常の関係を、生産配分の変更が崩している。
供給を短期間で増やすのも難しい。Micronは6月24日、DRAMとNANDの需給逼迫が2027年を越えて続くとの見通しを示した。増産計画では、アイダホ州のID1工場が最初のウエハーを出すのは2027年半ば、ID2は2028年後半で、台湾・銅鑼の既存工場からまとまった製品出荷が始まるのも2027年半ばを見込む。これはGDDR専用の供給計画ではないが、DRAM全体で即効性のある増産余力が乏しいことは分かる。
公式価格より実売と在庫回転
NVIDIAの中国向けページでは、RTX 5080が8,299元、RTX 5070 Tiが6,299元、RTX 5070が4,599元からという開始価格が現在も表示されている。RTX 5060 Tiは16GB版3,599元、8GB版3,199元、RTX 5060は2,499元、GDDR6を使うRTX 5050は2,099元からのままだ。AMDの公式価格も同様に維持されている。
公式価格が変わらなくても、買える在庫がなければ購入者の負担は下がらない。反対に、販売店が次回の仕入れを警戒して一時的に値札を上げても、在庫が補充されれば価格差が縮むことはある。GPUキットの値上げ、AICの価格表、販売店の提示価格、成立した取引価格は別々に追わなければならない。
8月以降に確認すべきなのは、同じ型番・同じ販売店の成約価格が再入荷後も維持されるかである。MSIの23製品に出た8.5〜20.0%の改定が実売へ定着し、NVIDIAとAMDが公式価格まで直すなら、中国の急騰は短期的な在庫調整から新しい価格帯へ移ったと判断できる。
