JCET(長電科技)が、中国の先進パッケージング投資を上海臨港へ広げる。6月25日の開示によると、同社は支配子会社を設立し、上海臨港新区「東方芯港」万祥産業園に先進パッケージング・テスト工場を建設する計画だ。投資総額は78億元(約1,852億円)。うち設立予定子会社の資本金は40億元(約950億円)で、残る38億元(約902億円)はプロジェクト実施会社が自ら調達する。換算は2026年7月5日更新の1人民元=23.74945円に基づく。
これを後工程の単純な増設と見ると、実態を見誤る。AIや高性能計算では、複数のダイや部品をどれだけ近く、安定して組み合わせるかが、性能と実装密度に直結する。JCETの新工場計画は、その領域へ78億元(約1,852億円)を振り向け、2028年下半期に第1期を完成させるという表明である。
78億元、約1,852億円計画の中身
今回の投資は、JCETが6月24日に開いた第9期取締役会第3回臨時会議で承認された。採決は賛成12、反対0、棄権0。開示資料では、株主総会への付議は不要で、重大な資産再編にも関連取引にも当たらないと説明している。
計画地は上海臨港新区の「東方芯港」万祥産業園だ。プロジェクト名は先進パッケージング・テスト工場で、実施主体は新設予定のプロジェクト会社となる。JCETはここでハイエンド先進パッケージングの生産能力を広げ、同社の生産拠点網を補完するとしている。
建設は2段階に分かれる。第1期は工場建設、内装工事、設備投資を含み、2028年下半期の完成を予定する。第2期は主に設備投資による能力拡張で、技術、市場、第1期の到達状況を見ながら調整される。つまり、今回の開示は、投資先と金額、実施会社、第1期の完成時期を確定させたにすぎない。具体的な処理能力、対象顧客、装置サプライヤーは明らかにされていない。
先進パッケージングは何を増やすのか
パッケージングは、ウェハー上で作られたチップを製品として使える形に組み立てる工程である。電気的接続、保護、放熱に加え、テストも担う。従来は前工程の微細化が性能向上の主役だったが、AIアクセラレータや高性能計算では、ロジックやメモリ、チップレットなど複数の部品を一つのパッケージ内で近づける設計が重くなっている。
JCETの技術ページと年報を見ると、対象範囲は広い。WLPや2.5D/3Dパッケージング、SiPを手がけ、フリップチップやTSVベースのインターポーザも扱う。SiPでは複数のICや部品を単一のシステムやモジュールにまとめ、性能、機能、処理速度を高めながら実装面積を抑えるという。フリップチップは、ワイヤではなくはんだバンプでダイを基板へ直接つなぎ、高密度な接続と良好な熱・電気特性を狙う方式だ。
このため、臨港新工場の意味は「中国でパッケージング工場が増える」という表現より狭く、深い。先進パッケージングは、チップレット化や複数部品の近接実装で、AIサーバー向け部品の密度と電気特性を左右する。JCETは工場名に先進パッケージング・テストを掲げることで、この需要を取り込む姿勢を明確にした。
業績は伸びるが、投資負担は軽くない
JCETの2025年売上高は388.71億元(約9,232億円)で、前年から8.09%増えた。親会社株主に帰属する純利益は15.65億元(約372億円)で2.75%減ったが、同社は国内需要の回復と国産半導体代替の進展で国内工場の販売が伸びた一方、原材料コストや新工場の立ち上げ費用が利益を圧迫したと説明している。
事業構成の変化には、投資計画の背景が表れている。2025年の用途別売上比率は通信電子36.4%、消費電子23.6%、コンピューティング電子21.3%だった。自動車電子は9.6%、工業・医療電子は9.1%である。伸び率ではコンピューティング電子が42.6%、工業・医療電子が40.6%、自動車電子が31.7%増えた。スマートフォンや一般消費電子への依存を薄め、計算、車載、産業向けへ重心が移っている。
2026年第1四半期は、売上高が91.71億元(約2,178億円)で前年同期比1.76%減った一方、親会社株主に帰属する純利益は2.90億元(約69億円)で42.74%増えた。成熟工場の受注が比較的充実し、稼働率が高く維持されたことが粗利と純利益を押し上げたという。自動車、コンピューティング、工業・医療の3分野は合計で売上比率45%を超えた。
ただし、78億元(約1,852億円)の投資は小さくない。2025年の営業キャッシュフローは46.52億元(約1,105億円)であり、今回計画の総額はそれを上回る。開示資料が38億元(約902億円)をプロジェクト会社の自己調達資金と明記している以上、資金投入のタイミングは建設の進捗を直接左右する。
次の関門は土地、許認可、設備だ
開示資料は、前向きな投資計画であると同時に、進捗リスクも具体的に並べている。まず、プロジェクト実施には建設地の国有建設用地使用権を取得する必要がある。取得時期、面積、価格には不確実性が残る。
さらに、建設計画の許可、着工許可、環境影響評価の承認なども必要になる。国や地方の政策、審査条件が変われば、予定通りに承認を得られない可能性がある。設備調達や据え付け、調整が遅れれば、第1期の2028年下半期完成にも影響する。
市場側の条件も残る。先進パッケージングの需要はAIや高性能計算で伸びているが、設備投資は、顧客の採用やパッケージ仕様に加え、歩留まりと量産価格がそろって初めて回収できる。JCETは第2期の能力拡張を、市場と技術、第1期の達成状況に応じて動的に調整するとしている。ここは慎重な書き方だ。
今回の計画でまず確認すべきなのは、土地取得と許認可の進捗である。次に、どのパッケージング方式が臨港の主力になるか、そして2028年後半の時点でAI/HPC向け需要がどの程度まで実需として残っているかだ。78億元(約1,852億円)の投資は、中国の先進パッケージング能力を押し上げる一手になる。ただし、その成否は開示資料に書かれていない能力、顧客、歩留まりの数字で決まる。