Micron Technologyは2026年7月4日、広島県東広島市の広島工場で新たなクリーンルームに着工した。第1期工事の面積は約30万平方フィート、約2万8000平方メートルで、製造装置の搬入開始は2028年後半を予定する。総合建設パートナーはフジタだ。
この建設は、建屋の追加より広い意味を持つ。Micronは広島を、1β DRAMの生産や1γ DRAMでのEUV露光導入を担ってきた拠点として説明している。AIサーバー向けの広帯域メモリ(HBM)と、データセンターから端末まで広がる先端DRAMの需要が同時に伸びるなかで、広島の役割が量産能力と技術移行の両方に広がる。
2万8000平方メートルが示す建設段階への移行
今回の発表で確定した変化は、AI向け先端メモリの広島投資が、構想や支援決定から建設工程へ移ったことだ。Micronによると、新クリーンルームは段階的に建設される。第1期の面積は約2万8000平方メートルで、製造装置の搬入は2028年後半に始まる見込みである。
同社は、このプロジェクトを2013年のエルピーダメモリ買収以降、広島拠点で最大規模のクリーンルーム増設と位置付ける。広島工場はもともとDRAMの開発と量産の結節点として使われてきた。式典を取材したEE Times Japanによると、マイクロンメモリ ジャパンの野坂耕太氏は、広島工場が開発と生産を同一拠点で行う点を挙げ、次世代製品を同地で作ることはMicronの戦略に直結すると語った。
投資額の大きさも、プロジェクトの性格を物語る。Micronの発表は、経済産業省が2025年9月12日に発表した最大5360億円の支援を受けて進めるとする。一方、EE Times Japanは、今回の新クリーンルーム建設を含む広島工場への投資額を1兆5000億円と報じている。補助金で単発の施設を足すというより、先端DRAMの世代交代を長期で支える設備投資に近い。
1γ DRAMとHBMをつなぐ広島の役割
広島新棟の意味は、Micronの製品ロードマップと重ねると見えやすい。同社は2025年2月、1γ(1ガンマ)DRAMノードを使ったDDR5メモリのサンプル出荷を発表した。1γは同社の第6世代10nm級DRAMノードで、1β比でウェハー当たりのビット数を30%以上増やし、16Gb DDR5では最大9200MT/s、前世代比で最大15%の速度向上と20%超の電力削減をうたう。
この改善は、AIサーバー用途を越えて広がる。Micronは1γをDDR5、LPDDR5X、自動車向けLPDDR5Xなどへ広げる計画を示している。2026年度第3四半期の決算発表では、1γベースの256GB DDR5 RDIMM認定サンプルを主要サーバーエコシステム企業へ出荷し、1γ 16Gb LPDDR5Xが大手スマートフォンOEMで量産立ち上げに入ったことも明らかにした。
HBM側でも、世代交代は進んでいる。Micronは2026年3月、NVIDIA Vera Rubin向けに設計したHBM4 36GB 12Hの量産出荷を2026年第1四半期に始めたと発表した。ピン速度は11Gb/s超、帯域幅は2.8TB/s超で、同容量・同スタック高のHBM3E比で帯域幅は2.3倍、電力効率は20%超改善するという。さらに同社は、1γ DRAMを使うHBM4Eの開発が進んでおり、2027年の量産を見込むと説明している。
広島新棟がどの製品をどの時点で担うかは、Micronの発表文だけでは特定できない。ただし同社は広島について、米国やグローバルの研究開発チームと連携し、次世代AI向けの先進DRAMやHBMの開発を支える拠点だと述べている。つまり今回のクリーンルームは、床面積の拡張であると同時に、1γ以降のDRAMをAI向け製品へ展開するための製造余力を増やす手段でもある。
414億ドル決算が映すAIメモリ投資の重さ
Micronが広島投資を進める背景には、AI需要で変わった同社の売上構成がある。2026年度第3四半期の売上高は414億5600万ドルで、前年同期の93億100万ドルから大きく増えた。営業キャッシュフローは253億8800万ドル、同四半期の純資本支出は70億8400万ドルに達した。
事業別に見ると、クラウドメモリ部門の売上高は137億6900万ドル、コアデータセンター部門は115億2400万ドルだった。モバイル・クライアント部門の115億2100万ドルを合わせても大きいが、クラウドとデータセンターだけで同社の成長を引っ張っていることが分かる。Sanjay Mehrotra CEOは同決算で、AI時代におけるメモリの戦略的価値と、技術・製品・供給への記録的投資を強調した。
この数字は、広島の新棟が短期の供給制約をすぐ解くという意味ではない。製造装置の搬入開始は2028年後半であり、Micronが2027年量産を見込むHBM4Eとは時間軸がずれる。むしろ今回の投資は、1γ以降のDRAMとHBM世代が複数年にわたり増えることを前提に、次の立ち上げ余力を先に確保する動きだ。
政策支援は供給網と地域雇用に及ぶ
広島プロジェクトは、企業投資であると同時に、日本の半導体政策の一部でもある。Micronは、経済産業省、広島県、東広島市の支援に謝意を示し、サプライヤー、学術機関、地域社会との協力を深めるとしている。国内調達や地域購買を促し、周辺のサプライチェーンやサービス産業にも雇用を生むという説明だ。
雇用面では、将来的に1000人以上を含む労働力拡大への貢献を見込む。広島県知事の横田美香氏は、次世代メモリ半導体の量産が経済安全保障、県内サプライチェーン、多くの雇用創出に寄与するとの期待を示した。半導体投資は、工場内の製造装置だけで完結しない。人材育成、建設・保守の体制、部材調達の裾野がそろって初めて動く。
それでも、未確定の点は残る。Micronは新棟のウェハー投入能力、製品別の生産配分、クリーンルーム完成時期を明らかにしていない。広島がAIメモリ供給のどこまでを担うかは、2028年後半の装置搬入と、その後に公表される量産世代で見えてくる。
2027年にはHBM4Eの量産計画が控え、2028年後半には広島新棟の装置搬入が始まる。次の確認点は、この二つの時間軸がどのようにつながるかだ。AI向けメモリの競争は、製品発表の速さから、複数年の製造余力を先に押さえられるかへ移っている。