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NVIDIA、産総研「ABCI-Q」で世界最大級の量子研究を加速:G-QuAT開所と合わせ日本の量子・AI戦略が本格始動

Y Kobayashi

2025年5月19日

量子コンピューティングとAIの融合が加速する中、日本の科学技術研究をリードする産業技術総合研究所(産総研)が、量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)の本部棟落成式を開催した。これに合わせ、NVIDIAは2025年5月19日、台湾で開催中のCOMPUTEXにて、G-QuATが運用する量子コンピューティングに特化した世界最大級の研究用スーパーコンピューター「ABCI-Q」の性能をNVIDIAの技術が加速していることを発表した。この動きは、日本の量子技術およびAI戦略が新たな段階に入ったことを示すものであり、国内外から大きな注目を集めている。

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G-QuAT開所とABCI-Q – 日本の量子研究、新時代へ

産総研が新たに設立したG-QuATは、量子技術とAI技術を融合させ、その成果をビジネスとして展開することを目指すグローバルな研究拠点だ。その中核を担うのが、今回本格稼働が伝えられたABCI-Qである。ABCI-Qは、既存のAI橋渡しクラウド基盤(ABCI)を量子研究へと拡張させたもので、世界でも有数の規模と性能を誇る研究用スーパーコンピューターとして位置づけられている。

産総研は、G-QuATとABCI-Qを通じて、量子コンピュータの実用化に向けた研究開発を加速し、関連産業の創出と国際競争力の強化を目指す方針だ。特に、企業との連携を重視し、実用的なアプリケーション開発やサプライチェーンの強靭化、人材育成にも取り組むとしている。2025年5月18日には石破茂総理大臣もつくば市の量子コンピュータ研究施設を視察し、量子戦略を抜本的に強化する考えを示すなど、国を挙げた取り組みが加速している。

NVIDIAの技術が支える「ABCI-Q」の圧倒的性能

ABCI-Qの驚異的な計算能力を支えているのが、NVIDIAの最先端テクノロジーだ。このスーパーコンピューターには、2,020基のNVIDIA H100 Tensor Core GPUが搭載され、NVIDIA Quantum-2 InfiniBandネットワーキングプラットフォームによって相互接続されている。さらに、ハードウェアとソフトウェアを統合的に制御するオープンソースのハイブリッドコンピューティングプラットフォームであるNVIDIA CUDA-Q™と連携することで、実用的かつ大規模な量子コンピューティングアプリケーションの実行を可能にする。

NVIDIAでCAE、量子、およびCUDA-Xを担当するシニアディレクター、Tim Costa氏は、「量子ハードウェアとAIスーパーコンピューティングをシームレスに統合することは、量子コンピューティングの潜在的な可能性を誰もが活用できる未来の実現を加速します。NVIDIAと産総研の協力は、量子エラー訂正やアプリケーション開発といった分野の進展を促進し、実用的かつアクセラレーテッド量子スーパーコンピューターの構築に不可欠な役割を果たします」とコメントしており、両者の連携による成果に大きな期待を寄せている。CUDA-Qは、GPUを活用して量子コンピューティングのシミュレーションを大幅に高速化する技術であり、専門的な量子コンピュータがなくとも高度な研究開発を進めることを可能にするものとして注目されている。

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多様な量子ビット方式を統合 – ハイブリッド戦略の意義

ABCI-Qの特筆すべき点は、その計算能力の高さに加え、多様な量子ビット実装方式に対応するハイブリッドプラットフォームであることだ。具体的には、富士通が開発を進める超伝導量子ビットプロセッサ、米QuEra Computing社の中性原子量子プロセッサ、そして東大発スタートアップOptQC社が開発するフォトニクス(光)量子プロセッサと統合されている。

現在、量子コンピュータの実現に向けて様々な方式が研究開発されているが、それぞれに長所と課題があり、現時点ではどの方式が最終的に主流となるかは見通せない。ABCI-Qのようなハイブリッドアプローチは、異なる方式の量子コンピュータを連携させ、それぞれの利点を活かした研究や、特定の課題に対して最適な組み合わせを探求することを可能にする。

産総研G-QuATの副センター長である堀部雅弘氏は、「ABCI-Qは、日本の研究者が量子コンピューティング技術が直面する核心的な課題を探索し、実用化への道を加速させることを可能にします。ABCI-Qに搭載されたNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングプラットフォームは、科学者が量子コンピューティングの進展に必要な基盤システムの実験を行うことを可能にし、研究を推進します」と述べており、多様な量子技術の実験場としての役割を強調している。

量子コンピュータが拓く未来と日本の挑戦

量子コンピュータは、従来のコンピュータでは計算に膨大な時間を要するような複雑な問題を、桁違いの速さで解ける可能性を秘めている。その応用範囲は、新薬や新素材の開発、金融市場の高度な分析、物流や交通システムの最適化、エネルギー効率の改善、さらには気象予測の精度向上による防災など、極めて広範だ。

今回のG-QuAT開所とABCI-Qの本格稼働は、日本がこの量子技術革命において世界をリードしようとする強い意志の表れと言えるだろう。NVIDIAとの強力なパートナーシップは、ハードウェアとソフトウェアの両面で日本の研究開発を加速させ、量子エラー訂正技術の確立や実用的なアプリケーション開発といった喫緊の課題解決に貢献することが期待される。

NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang氏は、COMPUTEXの基調講演でもこのABCI-Qについて触れるとみられており、量子・AI融合時代におけるNVIDIAの戦略と、日本の研究機関との連携の重要性が改めて示されるだろう。

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日本発、量子・AI革命に繋げられるか

今回の発表は、単に高性能なスーパーコンピュータが稼働を開始したというニュースに留まらない。ここにいくつかの重要なポイントがあると考えられる。

第一に、日本の国家戦略としての本気度だ。近年、米国や中国をはじめとする主要国は、量子技術を経済安全保障上の重要技術と位置づけ、莫大な投資を行っている。日本も「量子未来社会ビジョン」や「量子未来産業創出戦略」を掲げ、産学官連携での取り組みを強化しており、G-QuATとABCI-Qはその中核を担う存在だ。石破総理の視察や「量子産業化元年」との位置づけは、その象徴と言えるだろう。ただし、予算的には米中、欧州に比べると桁が1つ足りないのは否めない。

第二に、NVIDIAの量子分野におけるエコシステム戦略である。NVIDIAは、GPUにおける圧倒的なシェアとCUDAという強力な開発環境を武器に、AI分野で確固たる地位を築いた。同様の戦略を量子コンピューティング分野でも展開しようとしていることは明らかだ。CUDA-Qプラットフォームを提供し、世界中の研究機関や企業と連携することで、量子コンピュータの「OS」とも言える地位を狙っていると考えられる。産総研との連携は、その重要な布石となるだろう。

第三に、多様な量子ビット方式への対応という現実的なアプローチである。前述の通り、量子コンピュータはまだ発展途上の技術であり、どの方式が最終的に勝利するかは未知数だ。ABCI-Qが複数の国産および海外の量子プロセッサと接続できるハイブリッド設計を採用したことは、特定の技術に偏ることなく、幅広い可能性を探求するという日本の現実的かつ戦略的な判断と言える。これにより、世界中の様々な知見を取り込みつつ、日本の強みを活かした研究開発が可能になる。

今後の課題としては、こうした最先端の研究設備を使いこなせる高度な人材の育成、量子技術を活用した具体的なユースケースの創出と社会実装、そしてグローバルな研究開発競争の中での日本のプレゼンス向上などが挙げられる。G-QuATとABCI-Qが、これらの課題を克服し、日本発のイノベーションを生み出す原動力となるか、今後の動きに注目したいところだ。


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「NVIDIA、産総研「ABCI-Q」で世界最大級の量子研究を加速:G-QuAT開所と合わせ日本の量子・AI戦略が本格始動」への1件のフィードバック

  1. とりあえずABCI-Qに無駄に「ありがとうございます」と一言投げたら、その解析に何ワットぐらい電気が消費されるのか試したい。
    (注:ChatGPTは『ありがとう』のようなごく短い入力であれば、消費電力は約0.0004kWhとされている)

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