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NVIDIA、GPU価格を最大15%引き上げか? AIブームの陰で忍び寄るコスト増の波紋

Y Kobayashi

2025年5月13日

NVIDIAが、ゲーミング用およびAI(人工知能)用GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)の価格を、製品により5%から最大15%程度引き上げたと報じられている。製造コストの急増や米中間の関税問題、中国への輸出規制などが複合的に影響し、その負担が消費者に転嫁され始めた格好だ。この動きは、高性能GPUを求めるゲーマーやクリエイター、そしてAI開発を推進する企業にとって、無視できない影響を及ぼす可能性がある。

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幾重にも重なるコスト増圧力:NVIDIAを値上げに踏み切らせた「複数の危機」

今回の価格改定の背景には、NVIDIAが直面する「複数の危機」があると、台湾の電子部品業界メディアDigitimesが報じている。

まず深刻なのが、製造コストの高騰だ。特に、NVIDIAの次世代GPU「Blackwell」シリーズの生産を、台湾TSMCの米国アリゾナ工場へ移行したことが大きな要因として挙げられている。 アリゾナ工場での生産は、材料費、物流費、人件費など、あらゆる面で台湾国内での生産に比べてコストが嵩むと指摘されている。 このコスト増が、最終製品価格に影響を及ぼし始めているというわけだ。

さらに、米中間の貿易摩擦に伴う関税問題も影を落とす。 米国と中国が相互に課している高関税は、サプライチェーン全体にコスト増をもたらしており、NVIDIAもその影響を免れていない。CEOのJensen Huang 氏自らが米中間を往来し、関税の影響を最小限に抑えようと努めていると報じられているが、根本的な解決には至っていないようだ。

そして、中国への高性能AIチップ輸出規制もNVIDIAの経営に打撃を与えている。 米国政府による規制強化により、NVIDIAはAIチップ「H20」などの中国向け輸出が制限され、四半期収益で約55億ドルもの機会損失を被ったと伝えられている。 この巨額の損失を補填し、安定した収益性を維持するために、NVIDIAはほぼ全ての製品ラインナップで価格を引き上げるという決断に至ったと見られる。

RTX 5090は10%超、AI向けGPUは最大15%の値上げか? 具体的な影響範囲

Digitimesの報道によると、NVIDIAはほぼ全ての製品で公式価格を引き上げ、パートナー企業もそれに追随する形で価格を改定しているという。

特に注目されるのが、フラッグシップゲーミングGPU「GeForce RTX 5090」だ。 発表当初からプレミアム価格で取引されていたが、今回の価格改定により、台湾市場では発売当初の約9万台湾ドルから約10万台湾ドルへと、10%以上の価格上昇が見られたとされる。 日本円にして約43万円から約48万円(1台湾ドル=約4.8円で換算)への値上がりとなり、ただでさえ高額なハイエンドGPUがさらに手の届きにくい存在になりつつある。その他のRTX 50シリーズのゲーミングGPUについても、5~10%程度の価格上昇が報告されている。

実際、XDA Developersによると、RTX 5070は希望小売価格(MSRP)550ドルに対し、最低でも610ドル、一部モデルは750ドルで販売されているという。 また、RTX 5060 Tiの16GBモデルも、MSRP430ドルに対して米国では490ドル以下で販売されたことがないと指摘されており、公式価格の引き上げ以前から市場価格は高止まりしていた状況がうかがえる。

日本では幸いなことにまだ値上がりは見られないが、そもそもが基本モデルの希望小売価格が393,000円であるのに対し、ほとんどの製品が50万円以上で販売されている状況から、ここから更なる値上げが起こった場合、ますます一般消費者の手が届きにくい製品になりそうだ。

AI向けGPUも例外ではない。データセンター向けの「H200」「B200」といったAIアクセラレータについても、約10~15%の価格上昇が見られ、サーバーベンダーもこの値上げ分を顧客に転嫁し始めているという。 中国市場でのAIチップ販売が制約を受ける中、米国およびその他の国々のクラウドサービスプロバイダーからの旺盛な需要が、NVIDIAのAI部門の収益を下支えしているものの、コスト増の圧力は価格に反映されざるを得ない状況のようだ。

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NVIDIAの収益確保戦略と市場への波紋:消費者の負担増は避けられないのか?

NVIDIAは、これらの価格引き上げ策によって、月末に発表される財務報告では、市場予測の範囲内で「素晴らしい利益結果」を達成するだろうとDigitimesは予測している。 中国以外でのAIチップの旺盛な需要と、クラウドサービスプロバイダーによる投資拡大が主な要因だ。

しかし、このNVIDIAの利益確保戦略は、最終的に消費者の負担増へと繋がる。WCCFtechは、NVIDIAが「収益性をこれ以上妥協せず、その負担をエンドユーザーに負わせている」と指摘する。 特にゲーミングGPU市場においては、RTX 50シリーズの初期在庫の少なさや、MSRPでの入手困難といった状況が続いており、今回の「公式な」価格引き上げは、既に高騰している市場価格をさらに押し上げる要因となりかねない。

XDA Developersは、「NVIDIAが転売屋に対して『俺に任せろ』と言わんばかりに価格を吊り上げている」と皮肉を込めて報じており、消費者の不満が透けて見える。 RTX 5090に至っては、在庫を見つけること自体が困難で、見つかったとしても最低3,000ドルは覚悟しなければならない状況だと伝えている。

価格安定化への道筋は? 米中貿易協定に一縷の望みも

昨日、米中両政府が関税を115%削減する可能性のある貿易協定に合意したというニュースが報じられたが、これが将来的な価格低下に繋がる一縷の望みになる可能性もあるだろう。 しかし、この関税引き下げが実際に製品価格に反映されるまでには、相応の時間がかかることも考えられ、短期的な価格安定化は期待薄かもしれない。

製造コストの上昇、地政学リスク、そしてAIという巨大市場を巡る国家間の覇権争い。これらの複雑な要因が絡み合い、NVIDIAのGPU価格を押し上げている。ゲーマー、クリエイター、そしてAI開発に携わる全ての人々にとって、この価格高騰の波がどこまで広がり、いつまで続くのか、固唾を飲んで見守る状況が続きそうだ。テクノロジーの進化の恩恵を誰もが享受できる未来のためにも、サプライチェーンの安定化と、より健全な価格競争が生まれることを期待したい。


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「NVIDIA、GPU価格を最大15%引き上げか? AIブームの陰で忍び寄るコスト増の波紋」への1件のフィードバック

  1. > ここから更なる値上げが起こった場合、ますます一般消費者の手が届きにくい製品になりそうだ。

    その前に、日本の一般的な消費者には10万円以上のビデオカードは手が出ないと思っていた。

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