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米中、関税戦争に90日間の「休戦」合意:テクノロジー株は急騰、貿易摩擦緩和へ一筋の光明か

Y Kobayashi

2025年5月12日

緊迫化していた米中間の貿易摩擦に、ひとまずの「休戦」が訪れた。ホワイトハウスが2025年5月12日に発表した共同声明によると、米国と中国は、互いに課していた追加関税の大部分を90日間停止することで合意した。 この電撃的な合意を受け、世界の金融市場、特にテクノロジーセクターは即座に好感。これまで関税の重圧に苦しんできた関連企業の株価は軒並み急騰し、長期化する貿易戦争の行方に一筋の光明が差したかに見える。 しかし、これは本格的な解決への第一歩なのか、それとも束の間の小康状態に過ぎないのだろうか。

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合意の核心:関税は具体的にどう変わるのか?

今回の合意は、スイス・ジュネーブで週末にかけて行われた米中間の協議の成果だ。 両国政府が発表した共同声明には、具体的な関税の変更措置が明記されている。

まず米国側は、2025年4月2日発令の大統領令14257号で定められた中国製品(香港・マカオ特別行政区を含む)への追加関税率のうち、24パーセントポイント分を90日間停止する。ただし、同大統領令に基づく残りの10パーセントの追加関税は維持される。さらに、4月8日の大統領令14259号および4月9日の大統領令14266号によって修正・課されていた追加関税は撤廃される。

一方、中国側もこれに呼応する。国務院関税税則委員会公告2025年第4号で定められた米国製品への追加関税率のうち、24パーセントポイント分を同じく90日間停止し、残りの10パーセントの追加関税は維持する。そして、同委員会公告2025年第5号および第6号によって修正・課されていた追加関税を撤廃する。 加えて、中国は2025年4月2日以降に米国に対して実施していた非関税障壁(関税以外の貿易制限措置)についても、停止または撤廃するために必要なあらゆる行政措置を講じることを約束した。

この措置は、2025年5月14日までに実施される予定だ。

報道によっては、米国の対中関税率が145%から30%へ、中国の対米関税率が125%から10%へ引き下げられる、といった単純化された数字も伝えられている。 しかし、ホワイトハウスの公式発表に基づけば、これは最近課された複数の関税措置の一部を「停止」および「撤廃」するものであり、より複雑な構造を持つ。特に米国側には、別途フェンタニル危機に関連して課されている可能性のある関税 や、元々のベースとなる関税が存在する可能性があり、単純な引き算ではない点に注意が必要だろう。重要なのは、最近の報復関税合戦によって急激に引き上げられた関税率が、大幅に緩和されるという事実である。

米国財務長官Scott Bessent氏は、ジュネーブでの記者会見で「我々は90日間の停止で合意し、関税レベルを大幅に引き下げる」と述べ、「より均衡の取れた貿易を望んでおり、双方がその達成にコミットしていると考える。どちらの側もデカップリング(経済の切り離し)は望んでいない」と付け加えた。

市場は歓喜:テクノロジー株、半導体株が軒並み高騰

このニュースは、金融市場に大きな安堵感をもたらした。特に、米中貿易摩擦の影響を最も強く受けてきたテクノロジーおよび半導体セクターの株価は、発表を受けて急騰した。

CNBCの報道によると、プレマーケット取引(市場開始前の時間外取引)の段階で、NVIDIAは約4%、AMDは約5%、BroadcomとQualcommもそれぞれ約5%上昇した。 サプライチェーン全体にも好影響は波及し、先週マクロ経済の不確実性を理由に投資家向け説明会を延期したMarvell Technologyは7.5%急騰。 世界最大の半導体受託製造企業であるTSMC(台湾積体電路製造)の米国預託証券(ADR)も約4%上昇した。 欧州市場でも、半導体製造に不可欠な露光装置を供給するASMLが4.5%上昇、Infineonも大幅高となった。

これらの半導体関連企業は、米中間の技術覇権争いの最前線にあり、輸出規制や関税の影響を直接的に受けてきた。Trump政権下では一部の半導体や電子機器が報復関税の適用除外となっていた時期もあったが、それも一時的な措置とされ、常に関税のリスクに晒されてきた経緯がある。

テクノロジー大手も例外ではない。中国からの輸入品を扱うTemuや、中国電子商取引大手Alibabaの米国上場株は、プレマーケットで9%近く上昇した。 サプライチェーンや製造拠点を中国に大きく依存するApple、Amazon、Tesla、Meta(旧Facebook)、そして前述のNVIDIAやAMDといった米国の巨大テック企業も、軒並み5%から6%の上昇を見せた。 NASDAQ先物も約3.8%上昇し、市場全体の期待感の高まりを示した。

特にAppleにとって、この関税緩和は朗報と言えるだろう。同社は依然としてiPhoneの約90%を中国で製造しており、先日の決算発表では、関税によって現四半期に9億ドルのコスト増が見込まれると明らかにしていた。 関税停止のニュースを受け、Appleの株価はプレマーケットで7%以上も上昇した。 また、多くのマーケットプレイス出品者が中国製品に依存しているAmazonの株価も8%以上上昇した。

ウェドブッシュ証券のテクノロジーリサーチ担当グローバルヘッド、Daniel Ives氏は、「米中がより広範な合意に向けて明らかに加速していることから、2025年には市場とハイテク株が新高値を更新する可能性が出てきたと我々は考えている」と述べ、「今朝のニュースは強気派にとって大きな勝利であり、週末明けの最良のシナリオだ」と評価した。

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交渉継続への布石か?

今回の合意は、あくまで「90日間」の時限的なものだ。この期間は、両国がより恒久的な貿易関係の解決策を見出すための交渉期間と位置づけられている。

共同声明では、関税措置の実施後、両国が経済・貿易関係に関する協議を継続するためのメカニズムを設立することが明記されている。 中国側代表は国務院副総理のHe Lifeng氏、米国側代表はScott Bessent財務長官とJamieson Greer米国通商代表(USTR)が務める。 協議は、中国と米国で交互に、あるいは両国の合意に基づき第三国で開催される可能性があるという。

Trump大統領は以前、NBCのインタビューで関税率を引き下げる用意があることに言及しつつも、「ゼロにはならない」と述べていた。 今回の合意は、その発言とも一部整合性が取れる動きと言えるかもしれない。重要なのは、両国が対立のエスカレーションではなく、対話による解決の道を選んだという点だろう。Bessent財務長官が述べたように、「デカップリング」を避け、何らかの形で「均衡の取れた貿易」を目指すという共通認識が、今回の合意の根底にあるのかもしれない。

残された課題:「デミニミス」問題は未解決

今回の合意は大きな前進ではあるが、すべての問題が解決したわけではない。特に注目すべきは、米国が最近撤廃した「デミニミス(De Minimis)ルール」の適用除外の問題が、今回の合意では全く触れられていない点だ。

デミニミスルールとは、少額(米国では800ドル未満)の輸入品について関税を免除する制度である。このルールは、中国発の格安EコマースプラットフォームであるTemuやSheinなどが、事実上関税を回避して米国市場に大量の商品を送り込むための「抜け穴」として機能していると指摘されてきた。 米国政府は2025年5月2日をもってこの適用除外を撤廃しており、今回の関税停止合意はこの措置には影響を与えない。

つまり、800ドル未満の個人輸入品などについては、引き続き(あるいは新たに関税が)課される状況が続くことになる。これは、特定のビジネスモデルを持つ企業にとっては、依然として大きな課題として残る。

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楽観は時期尚早か、それとも転換点か

米中による90日間の関税停止合意は、激化する一方だった貿易戦争において、重要な転換点となる可能性を秘めている。市場の熱狂的な反応は、この合意がいかに待望されていたかを物語っている。特に、サプライチェーンの混乱やコスト増に苦しんできたテクノロジー企業や半導体企業にとっては、まさに恵みの雨と言えるだろう。

しかし、手放しで楽観視するのはまだ早い。これはあくまで一時的な「休戦」であり、根本的な問題解決に向けた交渉はこれからが本番だ。デミニミス問題のように、積み残された課題も少なくない。 今後90日間の交渉で、両国が持続可能で互恵的な関係を再構築できるのか、それとも再び対立が激化するのか。世界経済の行方を左右する米中交渉の行く末を、固唾を飲んで見守る必要がある。この一時的な緩和が、企業によるサプライチェーン再編の動きにどのような影響を与えるのか、そして技術覇権を巡る両国の根本的な対立構造に変化をもたらすのか、引き続き注視していく必要があるだろう。


Sources

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