OpenAIがSamsung Electronicsとの次世代チップ開発で協力を深めている。Reutersによると、OpenAI韓国責任者のHarrison Kim氏は2026年9月9日、ソウルの記者会見で共同研究・生産の進展に言及した。両社はすでにAIインフラ計画「Stargate」のメモリ供給で提携しており、OpenAIも独自の推論チップを開発している。ただし、今回の発言ではSamsungが担う部品や工程は説明されておらず、協業の広がりを理解するには、メモリと演算チップを結ぶ技術まで見る必要がある。
共同研究・生産の進展と受注発表の違い
Kim氏は、開発中の次世代チップについて、Samsungとの共同研究・生産が特に進展した協力分野の一つだと説明した。Reutersの配信記事では、それ以上の詳細は明かしていない。Samsungも顧客に関する情報は確認できないと回答している。OpenAI側が協力の進捗を語った一方、Samsungによる具体的な製造受注の発表にはなっていない。Reutersは、初代Jalapeñoの製造をTSMCが担うとOpenAIが6月に説明したことも伝えている。今回の発言から、その分担が変わったとは判断できない。
両社の協力は、2025年10月1日に発表した意向書による提携から続く。Samsung ElectronicsはStargateの戦略的メモリパートナーとして、高性能で省電力のDRAMを供給する計画を示した。当時の発表にある月最大90万枚というDRAMウエハーの数字は、OpenAIのメモリ需要の見通しだ。Samsung単独への発注量でも、実際の出荷枚数でもない。
実は、この時点のSamsungの説明にも、メモリに加えてロジック半導体や受託製造の能力、先端パッケージングが登場していた。異なる種類の半導体を組み合わせる技術を、OpenAI向けの強みとして挙げていたのである。今回新たに加わったのは、次世代チップの共同研究・生産で進展したという発言だ。どの技術がどの製品に採用されたかは、引き続き明らかになっていない。
推論チップでメモリが効く理由
OpenAIとBroadcomは2026年6月24日、独自の推論チップJalapeñoを発表した。推論とは、学習済みのAIモデルを使って入力を処理し、回答を生成する工程である。OpenAIはモデルや製品の要件をもとにチップを設計し、Broadcomが半導体としての実装やネットワーク技術を提供する。基板からラック、システムまでの構築にはCelesticaが関わる。
この分担でOpenAIが得るのは、モデルを既存の半導体に合わせるだけでは得にくい設計の自由度だ。どの処理を速くし、どこでデータを待たせないようにするかを、実際のAIサービスの使われ方から決められる。部品ごとの性能を高めても、データを渡す途中で待ち時間が増えれば、回答全体は速くならない。
OpenAIの8月25日の技術説明は、その理由を入力処理と回答生成の違いから示している。入力をまとめて処理する段階は演算負荷が大きく、回答を順に生成する段階はメモリ帯域の制約を受けやすい。コアやチップの間でデータを動かす通信も待ち時間を生むため、Jalapeñoでは生成中に参照するKVキャッシュなどの配置を制御し、移動を減らす設計を採る。
つまり、OpenAIにとってメモリメーカーとの協力は、必要な数量を確保する意味に加え、演算回路へどうデータを届けるかを詰める意味を持ち得る。Samsungとの具体的な設計分担は未公表だが、メモリを取り巻く技術が推論の高速化と直結する理由はここにある。
メモリと受託製造の間にある技術
Samsungは2026年2月12日、広帯域メモリHBM4の量産と商用出荷を開始したと発表している。HBMはDRAMを積層したメモリで、SamsungのHBM4は、積層DRAMの基部にあるロジック回路に4nm製造技術を使う。この「ロジック・ベースダイ」はメモリ側の構成要素であり、AIの計算を担う演算チップそのものではない。
同社はHBM4で、データの入出力端子を従来の1,024本から2,048本へ増やし、メモリ事業とファウンドリー事業が設計・製造技術を協調して最適化したと説明する。ファウンドリーとは半導体の受託製造事業だ。メモリ製品の開発にも先端ロジックの製造能力が使われるため、「メモリか、ファウンドリーか」という二択では協力の中身を捉えきれない。
Samsungの技術とOpenAI向けの公表状況(2026年9月10日時点)
| 分野 | 公表されている内容と時点 | OpenAI向けに確認できる範囲 |
|---|---|---|
| メモリ供給 | SamsungとOpenAIが2025年10月にStargate向け提携の意向書を発表 | 戦略的メモリパートナー。個別チップへの採用内訳は不明 |
| メモリ内部のロジック | Samsungが2026年2月に4nmロジック・ベースダイを使うHBM4の出荷を発表 | Samsung製品の技術。今回の協業での採用は未公表 |
| 演算チップとメモリの実装 | Samsungが2026年8月に垂直積層するzHBMの構想モデルを公開 | 将来技術の紹介。OpenAIによる採用発表はない |
| 演算チップ本体の受託製造 | 演算チップ本体のSamsungへの製造委託は未公表 | 9月9日の会見でも担当工程、製造プロセス、数量は説明されていない |
表の根拠はSamsungの提携発表、HBM4出荷発表、FMSでの技術発表、およびReutersの会見報道である。HBM内部のロジック製造に関わることと、AIの演算チップ本体を受託製造することは、別の受注である。協業の価値を判断する際にも、どの部品を誰が設計し、製造するのかを確認する必要がある。
次の世代で確認すべき分担
Samsungが8月5日に披露したzHBMは、従来は演算チップの横に置くHBMを、その上に積み重ねる構想だ。データが移動する距離を縮め、帯域や電力効率を改善することを狙う。顧客の要件に合わせた回路をメモリと演算チップの間の層へ組み込む設計も想定する。一方、展示されたのは構想モデルであり、OpenAI向けの量産品ではない。
Samsungのメモリも、すべてが同じ開発段階にあるわけではない。同社の8月の説明では、HBM4は2月に量産へ入り、HBM4Eは5月に顧客向けサンプルの出荷を始めた。製品として出荷するものと、評価用サンプル、さらに先の構想を区別すれば、協力先がどの世代で参加するかによって、事業に結びつく時期も違うことが分かる。
OpenAIはJalapeñoを2026年末までに自社の計算基盤へ配備し始める計画だ。8月時点で第2世代の開発は進み、第3世代も形になりつつあると説明しているが、Samsungの担当世代は示していない。また、NVIDIAなど他社製アクセラレーターの配備も学習・推論の両方で続ける方針である。独自チップの開発を、既存の供給先を一斉に置き換える計画と捉えるのは早い。
今後、Samsungが担当する部品と量産時期が明らかになれば、協業がメモリの供給確保に効くのか、データ転送の改善に効くのか、演算チップ本体の製造にも広がるのかを具体的に評価できる。OpenAIが狙う応答速度と電力効率の改善を継続するには、その分担を次世代の製品として実装し、サービスで稼働させるところまで進める必要がある。
