ゲーム業界で10年以上続いてきたコンソール優位の時代が、あと2年で終わりを告げる可能性が出てきた。市場調査会社Newzooは2026年3月12日、「2026年 PC & Console Gaming Report」を公開し、PCゲーミングの収益がCAGR(年平均成長率)6.6%で拡大し、2028年までにコンソールの4.4%成長を上回ることを予測した。PC・コンソール合算の市場規模は2028年に1,037億ドルへ到達する見込みだ。

プレイヤーの行動様式、収益モデル、地理的な市場構成、この三つが連動して変化し、その複合的な動きがPCを押し上げている。2028年の逆転は、一つの要因が弾けて起きるのではなく、複数の地殻変動が静かに積み重なった結果として訪れる公算が大きい。

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パンデミック後の停滞から抜け出した2025年

ゲーム業界は2020年代前半の急成長の後、しばらく踊り場に差し掛かっていた。Newzooはこれを「ポスト・パンデミック・プラトー」と呼ぶ。その停滞に終止符を打ったのが2025年で、PC・コンソールの合算収益は前年比7%増の883億ドルを記録した。同社はこれを「パンデミック後の最初の注目すべき拡大」と位置づけ、2028年に向けた継続的かつ緩やかな成長サイクルの幕開けと分析している。

ただし、この成長の中身は2020年代前半とは根本的に異なる。あの時代の成長エンジンは「プレイヤー数の爆発的な増加」だった。2025年はその逆で、世界全体のプレイ時間は前年比で1%減少した。プレイヤーの数そのものが急増するのではなく、すでに取り込んだユーザーから、どれだけ効率的に収益を引き出すか、つまり「マネタイゼーションの精度」が問われる時代に移行したのだ。

Newzoo のMarket Intelligence部門ディレクター、Manu Rosier氏はこう述べている。「規模だけではもはや成果を保証しない。プレイヤーがどこで時間を使い、なぜそこにいるのかを理解することが、戦略上の必須事項になっている」。

東アジアで広がるPCゲーマー基盤

PC収益成長の地理的な牽引役は、東アジアだ。なかでも中国は2025年にPCゲーマー数が11.7%増加し、市場拡大に大きく貢献した。ただし、Newzooがあえて指摘する点として、成長の「質」が地域によって大きく異なる。

Newzooのコンサルティング部門ディレクター、Ben Porter氏は、GDC Festival of Gamingの会場でGamesIndustry.bizに対してこう語った。「中国の成長はプレイヤー数の増加によるところが大きく、ユーザーあたりの平均収益(ARPU)は低い。一方、韓国や日本はARPUが非常に高い国だ」。

韓国市場は、PCゲーミングにおける「高ARPU市場」の典型例だ。PC房(PCバン)文化を背景に、Leagueシリーズや自国産MMORPGへの課金が根強く、ARPUの絶対値は東アジアの中でも突出している。ゲーム産業振興法のもとで規制整備が進んだことも、公正な課金環境の醸成に寄与しており、単純なプレイヤー数の増加に依存しない堅固な収益構造を持つ。同国がPC事業者にとって「量より質」の市場である所以がここにある。

一方、東南アジアは成長の「速度」において注目に値する地域だ。インドネシア、タイ、ベトナムでは若年人口の増加とスマートフォン普及を背景に、PCゲーミングへの入口としてカフェやゲームセンター形態のPC施設が依然として機能している。SteamのタイやインドネシアにおけるアクティブユーザーはPC房文化と異なる経路でエコシステムに接続されており、現時点のARPUは低いものの、Z世代が経済的自立を得るにつれて購買力が高まる余地は大きい。Newzooが2028年にPC単体のプレイヤー人口が10億人を突破すると見込む根拠の一端は、この地域の人口構造的な追い風にある。

Porter氏が特に注目しているのは日本市場だ。「日本はこれまで歴史的に、モバイル第一、コンソール第二、PCは三番手という市場だった。しかし今、Steamをより積極的に取り込み始めている」という。もともとコンソール文化が根付いていた日本でのPC市場の浸透は、ARPUの絶対値が高い韓国とは異なるプロセスで進んでいる。日本の場合、コンソールタイトルがSteam同時リリースという形で供給され始めたことで、既存のゲーマーがプラットフォームをまたいで移動しやすくなった。購買力の高いユーザー層がSteamエコシステムに流入するこの動きは、PC収益を量的にも質的にも押し上げる要因になる。

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プレミアムゲームの復権と価格帯の二極化

PCプラットフォームで収益成長を牽引したのはプレミアムゲームだ。2025年のPC収益に占めるプレミアムゲームの割合は29%で、AAA・AA・インディータイトル全体で11.8%増加した。とりわけ注目すべきは、上位20タイトル以外のエンゲージメントが2022年の33%から2025年の42%へと拡大した点だ。プレイヤーの関心が特定の大型フランチャイズに集中するのではなく、多様なタイトルへと分散しつつあることを示している。

価格帯の動きも興味深い。Porterが「クロスプラットフォームの価格スイートスポット」と呼ぶ30〜50ドルの価格帯が最も速い成長を見せている。PC単体を見ると、30ドル未満のタイトルも存在感を増しており、2025年にはこの価格帯で500万ドルを超える収益を上げたタイトル数が26本と、前年の17本から大幅に増加した。さらに30ドル未満の新作タイトルの収益は156%増という急伸ぶりだ。

ARC RaidersBattlefield 6のような作品が示したのは、プレイヤーが「似たような無料ゲームの海を泳ぐより、完成度の高い体験にまとまった金額を払う」という選好の変化だ。かつて「無料プレイが当たり前」と言われた時代のPC市場の常識が、静かに書き換えられている。

コンソール側では、プレミアムタイトルが2025年収益の約半分を占め、前年比12%増加した。50ドル超のタイトルがプレミアム収益の約80%を占める一方で、マイクロトランザクション収益は微減しており、Newzooは「一部のライブサービスエコシステムへの圧力を反映する」と分析する。

Game Passという複雑な等式

Xbox陣営のGame Passがコンソール収益の統計を歪める構造についても、今回のレポートは踏み込んだ分析を行っている。Game Passのデイワン提供戦略は、タイトルの実売数を表面上は低く見せる。『Clair Obscur: Expedition 33』や『The Elder Scrolls 4: Oblivion』のようなビッグタイトルがXboxの売上チャートから消えるのは、それらの購買をGame Passのサブスクリプション料金が代替しているからだ。

Porter氏はこれを「他プラットフォームへのマーケティング・ロスリーダー」と表現する。Game Passでプレイしたユーザーが口コミや話題性を生み出し、PS5やPCでの有料購買を促す——という連鎖が起きているという解釈だ。「生の販売数字だけを見れば、XboxはPCに比べてやや見劣りするように映る。特に価格帯別の分析ではそれが顕著だ」というPorterの言葉は、Xboxが数字上で「損をしている」わけではなく、収益の計上が別の形に変換されているという複雑な実態を示している。

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デジタル流通と日本市場:Steamが変えた「入口」の地政学

2025年のフィジカルゲーム販売が過去最低を更新したという事実は、業界全体のインフラが完全にデジタルへ移行したことを裏付ける。SteamとEpic Games Storeが担うデジタル流通の拡大は、PCプラットフォームの収益基盤と直結している。パッケージ流通に依存するコンソールと異なり、PCはストアフロントのグローバルな即時配信能力を持ち、小規模デベロッパーの作品もワールドワイドで同時リリースできる。この構造的な優位が、前述した30ドル未満タイトルの収益急増とも連動している。

日本市場における変化は、この文脈で特に興味深い。国内のコンソールタイトルがSteam同時リリースを標準化しつつある動きが、日本ゲーマーのPCへの移行を後押ししている。フロム・ソフトウェアの『エルデンリング』や、カプコンの各タイトルで確認されたように、かつては「PS独占→後日PC移植」だったリリース戦略が変わり始めた。この変化は日本メーカー側の意識転換を示すと同時に、Steamにとっては日本語コンテンツの充実という正のフィードバックループを生んでいる。

Steamが地域ごとの価格設定(Regional Pricing)を採用していることも、東南アジアや東欧などの新興市場での浸透を加速させている要因だ。ユーザーは自国通貨で現地に即した価格でゲームを購入でき、デベロッパーはグローバル市場へのアクセスを失わずに済む。このモデルはコンソールのリージョンロック的な制約とは根本的に異なり、「デジタル流通の民主化」とも呼べる仕組みが、PC市場の裾野拡大に無視できない貢献をしている。

ソフトウェアとハードウェア、二つの時計

今回のNewzooレポートがソフトウェアの収益動向に特化したものである点は、読み解くうえで重要な留意点だ。ハードウェアの販売動向は含まれておらず、ゲームPC本体やコンソール機器の市場は別の文脈で動いている。

そこで現在、業界全体に影を落としているのがRAM市場の動向だ。AIインフラへの大規模投資がメモリ需要を押し上げており、半導体の供給制約と価格上昇がゲーム業界に連鎖する可能性を、PC Gamerは指摘している。Sonyは2026年については価格への影響は限定的と説明しているが、2027〜2028年にかけての状況は不透明なままだ。Newzooが描いた成長シナリオは、ハードウェア供給が現状程度に安定している前提の上に成り立っている。

コンソールはハードウェアサイクルに収益が大きく左右される構造が依然として続く。Porterが語るように、「コンソールは世代交代のタイミングで支出行動が変わる」という特性が、安定した成長軌道を描くうえでの構造的な制約になっている。PCはバージョンアップが個別に行われ、プレイヤーが自分のペースで移行するため、収益の波は緩やかだが、下振れのリスクも小さい。

Newzooのデータが示す2028年の逆転は、PCゲーミングが爆発的に盛り上がって起きるのではなく、コンソールとは異なる「構造的な安定成長」の蓄積として実現する可能性が高い。ユーザー数を指標に置けばPCの優位は明確だが、一人あたりの収益やエンゲージメント密度といった別の物差しを持ち込めば、答えは変わってくる。それが業界にとって何を意味するかは、誰が何を勝利の定義とするかによって、大きく異なるだろう。


Sources