宇宙空間が地政学的な競争の最前線へと変貌するなか、米国防総省(ペンタゴン)が新たな一手を打った。国防イノベーションユニット(Defense Innovation Unit、以下DIU)は2026年2月17日、商用技術を活用した静止軌道(GEO)監視衛星の公募である「Geosynchronous High-Resolution Optical Space-Based Tactical Reconnaissance(GHOST-R)」、通称「Ghost Recon」プログラムを正式に開始した。提案の締め切りは3月3日だ。

このプログラムの核心は単純明快だ。高度約36,000km、地球の自転と同期して”静止”しているかのように見えるGEO上には、通信衛星やミサイル早期警戒衛星など、各国にとって戦略的に最も価値の高い宇宙資産が集中している。そこに安価な商用衛星を送り込み、友軍・敵対国双方の衛星を至近距離から撮影し、その正体と状態を把握する。従来の軍専用プログラムでは到達できなかったコストとスピードの壁を、民間の技術力で突き破ろうという構想なのだ。

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GEO監視の”能力格差”という現実

DIUの公募文書は、米国が抱える宇宙監視上の脆弱性を率直に認めている。「国防総省は、GEOにおける友軍・敵対国双方の衛星について、高解像度のSpace-to-Space画像を提供し、その動向を継続的に把握するための衛星が不足している」こう明記されたのは、同省にとって異例の率直さだ。

現在、GEO監視の中核を担っているのは、米宇宙軍のGeosynchronous Space Situational Awareness Program(GSSAP)と呼ばれる衛星群だ。「近隣監視(Neighborhood Watch)」の異名で知られるこのコンステレーションは、GEO帯域を巡回して不審な物体を監視してきた。後継となるRG-XXプログラムも進行中だが、いずれも従来の防衛調達プロセスを経た高コスト・長期開発型のシステムである。

GHOST-Rが目指すのは、この既存体制を補完する形での、より低コストかつスケーラブルな偵察能力の構築だ。公募文書は、「既存および計画中の記録プログラム(Programs of Record)と比較してコストを削減しつつ、高解像度撮影を実現しなければならない」と明確に求めている。

24か月でMVP、48か月で本格運用

GHOST-Rの調達モデルは、従来の軍事衛星プログラムとは根本的に異なる。公募文書は3段階のマイルストーンを設定している。

契約から24か月以内に、商用運用衛星を用いてGEO上の宇宙物体(Resident Space Object: RSO)の高解像度電子光学(EO)画像を撮影すること。これがMinimum Viable Product(MVP)の定義である。続く36か月以内に、衛星の所有・運用体制を「商用所有・商用運用(COCO)」から「政府所有・政府運用(GOGO)」へ移管する。そして48か月以内に、政府運用開始後の初年度を通じて、週1回以上のDrive-byまたはInclined Track偵察ミッションを実施可能であることを実証しなければならない。

この段階的移管モデル自体が、Defense Newsが「軍事宇宙プログラムの伝統的な調達方法からの逸脱」と評したように、ペンタゴンの宇宙調達における構造変化を物語っている。企業がまず自社のリスクと技術で衛星を構築・打ち上げ・運用し、実績を証明したうえで政府に引き渡す。失敗リスクの一部を民間側が負う代わりに、成功すれば大規模なフォローオン生産契約を競争なしで直接受注できる仕組みである。10 U.S.C. § 4022(f)に基づくこのフレームワークは、プロトタイプから本格配備への橋渡しを加速させる意図が明白だ。

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10km先から衛星を”解剖”する

GHOST-R衛星に課される技術的要求は、高度な宇宙航行能力(Rendezvous and Proximity Operations: RPO)と、精密な画像収集能力の両立を求めるものだ。

公募文書が規定する撮像性能は、ESPA Grande級(約700kg)の宇宙機を10km以上離れた距離から撮影し、スタートラッカー、通信ペイロード、ミッションペイロードといった衛星の主要サブシステムを識別可能な解像度(Fully Resolved Imagery)を得ることである。GEOでの10kmという距離は、宇宙の尺度では”至近距離”にあたる。対象衛星の周囲を慎重に機動しながら、太陽光の照射角度を最適化してパーツレベルの詳細を捉えるという運用が想定されている。

バスシステムには、Unified S-Band(USB)プロトコルによる政府地上インフラとのデータ通信、NSA Type 1暗号化による送信データの保護、そしてRPO能力が最低要件として求められる。衛星の設計寿命は3年以上、サイバーセキュリティはRisk Management Framework(RMF)準拠で、Authority to Operate(ATO)を取得できる水準が必須だ。さらに、バスと主要ペイロードの構成要素は2028年までに「実証済みの宇宙実績(Proven Space Heritage)」を示さなければならない。

加えて、「拡張能力」として注目すべき項目がいくつかある。まず、Natural Motion Circumnavigation(NMC)やForced Motion Circumnavigation(FMC)――対象衛星の全周を24時間かけて周回し、複数面からの撮影を行うミッション。そして、軌道上での燃料補給(Refuelability)による寿命延長と機動性向上。これらは入札時の必須要件ではないが、公募文書は「長期的なコスト効率と任務の柔軟性を提供する能力として評価される」と明記しており、事実上の差別化要因だ。

「非協力的」な対象をどう追うか

公募文書の中で際立つのが、「非協力的RSO(Uncooperative RSOs)」への対処能力への言及である。Defense Newsの報道は、この点を「他国の衛星が撮影されることに協力的ではなく、米国の宇宙機から離れるように機動する可能性がある」と読み解いている。

これは、GEO監視が平時のSpace Situational Awareness(宇宙状況把握)の延長ではなく、対抗的な環境下での情報収集活動であることを意味する。公募文書は、複数機を協調させて一つの対象を追尾・撮影する「M vs 1」ミッションや、追跡されていない・非協力的なRSOの「検知と位置特定」能力を拡張要件として挙げている。

こうした運用コンセプトは、宇宙空間がもはや”安定した聖域”ではないという認識に基づいている。中国やロシアがGEOで自国衛星の近くを巡回する”インスペクター衛星”を運用しているとされる中、米国側も同等かそれ以上の近接監視能力を、しかも迅速かつ低コストに、商用技術で確保しようとしているのだ。

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コンステレーション拡張と10年の持続性

GHOST-Rは単発のデモンストレーションではない。公募文書は、入札企業に対して「公開カタログに掲載されたすべてのGEO RSOに対し、10年間にわたって30日ごとの再訪レートを維持するコンステレーション拡張計画」の提示を求めている。

米宇宙軍が管理するSpace-Track.orgの公開データベースには、数百基のGEO衛星が登録されている。それぞれを30日周期で再訪するには、複数機の衛星を戦略的に配置し、燃料消費を最適化しながらオービタル・マヌーバを繰り返す必要がある。入札企業は、単機あたりの年間偵察ミッション数、δV(速度変化量)バジェット、スルーレート(姿勢変更速度)、ペイロードの角度分解能とMTF(変調伝達関数)を明示した上で、衛星の反復生産コスト(Recurring Cost)とコンステレーション全体のライフサイクルコストを提示しなければならない。

10年という時間軸は、衛星の設計寿命(3年以上)を大きく超える。代替機の継続的な生産・打ち上げが前提であり、まさに「安く作り、速く回す」というスパイラル型の調達哲学がここに表れている。

高まる「商業宇宙×国家安全保障」の融合

GHOST-Rは、ペンタゴンが近年加速させている「商業宇宙能力の軍事利用」という大きな潮流の中に位置づけられる。DIUのCommercial Solutions Opening(CSO)フレームワークを通じた公募であり、Other Transaction(OT)協定による柔軟な契約方式が採用されている。10 U.S.C. § 4022の要件が適用され、「非伝統的防衛契約者(Nontraditional Defense Contractor)」からの意味ある貢献が求められる点も、既存の防衛大手ではなく、宇宙スタートアップや新興のRPO技術企業を積極的に取り込もうとする姿勢を反映している。

宇宙領域における競争は、もはや大国間の核抑止力を支える静止軌道上の戦略資産の安全性に直結する。衛星の攻撃・妨害・欺騙が現実の脅威として語られる時代に、「敵が何を持ち、何をしているかを正確に知る」能力は、抑止そのものの基盤となる。GHOST-Rが求めるのは、まさにその基盤を商用技術の速度とコストで構築する試みである。

3月3日の締め切りに向けて、米国の宇宙産業がどのような提案を出すのか。そしてこのプログラムが、静止軌道における安全保障の力学をどう変えるのか。その答えが出るまでに、そう長くはかからないだろう。


Sources