Preferred Networks(PFN)と米Tenstorrentは2026年10月20日、光電融合技術を活用した生成AI向けプロセッサーの共同研究が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業に採択されたと発表した。PFNが3次元メモリ実装技術を採用したAIチップレットを、Tenstorrentが機密計算に対応するCPUチップレットを開発し、両社の技術を統合して一つのシステムを構築する。目指すのは、生成AIの学習と推論を高性能かつ高い電力効率で処理できる計算基盤だ。研究開発は2031年度まで進め、その後の事業化を目指す計画であり、個々の半導体技術の進歩をAIシステム全体の性能向上につなげられるかが焦点となる。

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光電融合と3次元メモリでAI処理のボトルネックを解消

PFNが開発するAIチップレットの特徴は、3次元メモリ実装技術によって極めて高いメモリ帯域幅を確保する点にある。チップレットとは、プロセッサーの機能を複数の小さな半導体チップに分け、それらを組み合わせて一つのシステムを構成する技術だ。今回の共同研究では、AIの演算を担うチップレットとCPUチップレットをそれぞれ開発し、光電融合技術と先端パッケージング技術を用いて統合する。演算処理、メモリアクセス、チップ間通信のそれぞれを改善することで、生成AIの処理性能と電力効率の向上を目指す。

生成AIの処理性能を左右するのは、演算器そのものの計算能力だけではない。大量のデータをメモリから演算器へ供給する必要があるため、データ転送が追いつかなければ、演算能力を十分に活用できなくなる。マイナビTECH+は、今回の3次元メモリ実装について、メモリを立体的に配置してプロセッサーとの距離を縮め、必要な転送帯域を確保するとともに、データ移動の効率を高める狙いがあると解説している。演算器の性能を高めるだけでなく、演算器へデータを供給する仕組みも改善することで、システム全体の処理効率を引き上げる考えだ。

一方、光電融合技術は、電気信号と光信号を組み合わせ、プロセッサー間などのデータ通信を高速化しながら消費電力を抑える技術である。従来の電気配線による通信では、転送するデータ量が増えるほど、帯域幅や消費電力が課題となる。そこで、データ通信の一部に光を利用することで、大容量のデータをより効率的に伝送することを目指す。3次元メモリ実装が主に演算器とメモリの間のデータ転送を改善するのに対し、光電融合はプロセッサー間などの通信を担う。今回の共同研究では、これらの技術を先端パッケージングと組み合わせ、システム全体のデータ転送効率を改善する。

PFNが公表した開発内容と役割分担は、次のように整理できる。

開発対象 担当 主な開発内容
AIチップレット PFN 先端プロセスを応用した3次元メモリ実装により、極めて高いメモリ帯域幅を目指す
CPUチップレット Tenstorrent 先端プロセスとオープンアーキテクチャを活用し、機密計算に対応するCPUを開発する
システム統合 PFN・Tenstorrent 光電融合技術と先端パッケージング技術を活用し、AIプロセッサーを一つのシステムに統合する

この役割分担からは、AIチップレットのメモリ帯域幅を拡大する開発と、CPUを含めたシステム全体の性能を高める開発が並行して進められることが分かる。ただし、AIチップレット単体で高い性能を達成しても、それがシステム全体の処理速度や電力効率にそのまま反映されるとは限らない。CPUとの連携やチップ間通信、実際のAIアプリケーションで発生するデータ転送なども性能に影響するためだ。両社が目指す学習・推論の高性能化と高効率化については、統合したシステムで検証する必要がある。

Tenstorrentが担当するCPUチップレットでは、機密計算(Confidential Computing)への対応も重要な開発項目となる。機密計算は、データの保存時や通信時だけでなく、処理中のデータも保護することを目的とした技術だ。マイナビTECH+は、クラウドや共有型のAI基盤で機密性の高いデータを扱う用途との関連を指摘している。ただし、CPUの設計にオープンアーキテクチャを採用することと、機密計算の安全性を確保することは別の課題である。今回の研究では、CPUチップレットの開発に加え、実証用ソフトウェアを通じて機密計算への対応を検証する計画だ。

研究開発は2031年度まで、事業化はその後を目指す

今回の共同研究は、NEDOが進めるポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業の一環として実施される。NEDOが10月20日に公表した採択通知では、研究開発の事業期間を開始時点から原則5年(60カ月)以内としている。一方、PFNは共同研究を2031年度まで進め、その後の事業化を目指す方針を示した。つまり、2031年度は研究開発の目標年限であり、その時点で製品が発売されると決まったわけではない。また、NEDOの「研究開発開始時点から60カ月以内」という条件と、PFNが示した「2031年度まで」という計画は期間の表し方が異なるため、発表日を起点に研究開始日を単純に逆算することもできない。

PFNが別途進めているAIプロセッサーの開発計画とも、時間軸を区別する必要がある。ITmedia AI+は10月21日、PFNの既存製品計画である「MN-Core L1000」の提供予定が、当初の2026年から2027年へ変更されたと報じた。ただし、今回の共同研究で開発するAIチップレットがMN-Core L1000そのものであるとは、PFNの発表では説明されていない。したがって、MN-Core L1000の提供時期と、2031年度まで続く共同研究の完了時期を同一視することはできない。両者は別の開発計画として捉える必要がある。

NEDOがこの事業を通じて目指しているのは、将来のポスト5G情報通信システムを支える先端半導体について、国内で設計・製造できる技術基盤を確保することだ。生成AIの普及によって計算資源への需要が拡大するなか、半導体の演算性能だけでなく、メモリや通信技術を含めた技術開発が重要になっている。ただし、PFNとTenstorrentの発表にある「最先端プロセス」という表現だけでは、採用する具体的な製造プロセスや製造委託先までは分からない。国内で先端半導体技術を確保するという政策上の目標と、今回開発するチップレットの実際の製造場所については、分けて考える必要がある。

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AI for ScienceとフィジカルAIで実用性能を検証

今回の共同研究には、PFNとTenstorrentに加え、複数の大学や研究機関も参加する。東京大学、神戸大学、東洋大学は再委託先として、科学研究にAIを活用する「AI for Science」や、現実世界で認識・判断・行動する「フィジカルAI」に向けた、特定分野に最適化されたアプリケーションの研究開発を担当する。同じく再委託先として、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と日本原子力研究開発機構(JAEA)も参加する。また、テンストレントジャパンは、CPUチップレットの設計と、機密計算機能を検証するためのソフトウェア開発を担う予定だ。

このように、半導体そのものの開発だけでなく、実際に利用するAIアプリケーションまで研究対象に含まれている点が特徴だ。プロセッサーの演算性能やメモリ帯域幅が向上しても、実際のアプリケーションがその性能を十分に活用できなければ、期待する効果は得られない。今回の研究成果を評価するには、AIチップレットのメモリ帯域幅だけでなく、光接続を含むシステム全体の消費電力や、対象アプリケーションの処理性能を確認する必要がある。機密計算についても、実証用ソフトウェアを使い、どのようなデータをどの範囲まで保護できるのかが検証の対象となる。これらは公表された開発分担から考えられる評価項目であり、各機関がすでに性能や安全性を実証したという意味ではない。

PFNとTenstorrentが掲げる高性能・高効率なAIプロセッサーは、現時点では共同研究の目標である。今回の発表では、開発するシステムの具体的なメモリ帯域幅や消費電力、既存製品と比較した処理速度の向上率などは示されていない。今後、研究成果を評価するには、どのような構成のシステムで、どのAIアプリケーションを動作させ、どのような条件で性能と消費電力を測定したのかが重要になる。特に、科学研究向けのAIとフィジカルAIでは、求められる処理性能や応答速度、電力効率が異なる可能性があるため、それぞれの用途に応じた検証が必要だ。

今後の研究で注目されるのは、3次元メモリ実装と光電融合技術が、実際のAI処理でどの程度の性能向上や消費電力削減につながるかという点だ。対象アプリケーションや測定条件が具体化すれば、メモリ帯域幅の拡大や光通信の導入が、どの処理のボトルネックを解消するのかを評価できるようになる。個々の半導体技術の進歩をシステム全体の性能向上につなげ、その効果を実際のAIアプリケーションで実証できるかが、研究成果の事業化を判断する重要な材料となる。