AlibabaのQwenチームは2026年7月19日、2.4兆パラメータの次期旗艦モデル「Qwen3.8」を予告した。重みは近く公開するという。しかし、現在使えるのは月額制のToken PlanとQoder系製品に載った「Qwen3.8-Max-Preview」であり、ダウンロード可能なモデルではない。Qwenは「Fable 5に次ぐ」と自ら評価するものの、その順位を確かめる性能表もまだない。性能表と重みの公開を残したまま、有料の試用窓口を先に開いた発表である。
2.4兆より先に動いた月額制プレビュー
Qwen3.8-Max-Previewは、Qwen Cloudの案内ではToken Plan限定で提供される。100万トークンのコンテキストを持ち、思考モード、関数呼び出し、内蔵ツールに対応する。一方、構造化出力は未対応と表示されている。個人向けToken Planの仕様では、テキスト生成に加えて視覚理解も利用できる。
Qwenの開発者Shuai Baiは、同モデルをチーム初の1兆パラメータ超のマルチモーダルモデルと説明し、画像、動画、文書を処理できるとした。対象はコード生成に限らない。Qoderの告知は、フルスタック開発、データ分析、Officeワークフローなど、長い手順を要する業務でQwen3.7-Maxを上回ると主張している。
ただし、改善幅は示されていない。Alibabaが5月20日に発表したQwen3.7-Maxも、エージェント型コーディング、複雑な推論、長時間のタスク実行を狙った旗艦モデルだった。Qwen3.8で確定した変化は、2.4兆という公称規模、Qwenチーム初となる1兆超のマルチモーダルモデル、オープンウェイト化の予告である。どの仕事がどれだけ良くなったかは別に測らなければならない。
「Fable 5に次ぐ」を測る数字がない
2.4兆という数字は、モデルが保持できる知識やパターンの容量を考える手掛かりにはなる。だが、1トークンを生成するたびに2.4兆個すべてを計算するとは限らない。Mixture of Experts(MoE)なら、その時点で必要な専門家だけを選んで動かせるためだ。Qwen3.8がMoEか高密度モデルか、各トークンで何個のパラメータを使うかは公表されていない。
量子化形式、推奨する推論構成、実測速度も不明である。したがって、2.4兆から必要なGPU台数やメモリ、推論原価を計算することはできない。総パラメータ数は、配備の重さを直接表す数字ではない。
同じ問題が「Fable 5に次ぐ」という評価にも当てはまる。Qwenは比較した課題、Fable 5の版、思考量、エージェントの実行環境、試行回数を開示していない。ベンチマークの結果もモデルカードもない以上、これはQwen側の自己評価である。100万トークンやツール対応は製品仕様として確認できるが、モデルの総合順位はまだ確定していない。
Kimi K3との違いは、公開までに示した情報量
Qwen3.8の予告は、2.8兆パラメータのKimi K3が登場した直後に出た。両モデルとも現時点では重みを配っておらず、まず自社のアプリやAPIで利用者を受け入れている。違うのは、オープンウェイト化までに開示した材料の量だ。
| 項目 | Qwen3.8 | Kimi K3 |
|---|---|---|
| 公称パラメータ数 | 2.4兆 | 2.8兆 |
| 現在の提供 | Token PlanとQoder系のMax-Preview | Kimi製品とAPI |
| 重み公開 | 「近く」と予告、日付なし | 7月27日までと予告 |
| 構成 | 未公表 | KDA、AttnRes、Stable LatentMoE。896専門家から16を選択 |
| コンテキスト | 100万トークン | 100万トークン |
| 性能評価 | 結果と条件を未公表 | 公式の評価表と実行条件を公開 |
| 価格の見え方 | 月額Credit制。従量単価は未掲載 | 100万トークン当たり入力3ドル、出力15ドル |
Kimi K3の方が4000億パラメータ大きいから高性能だ、とは言えない。Kimiも活性パラメータ数を公表しておらず、896分の16という専門家の選択比率だけから推計することはできない。また、Kimiの評価表には異なるエージェント環境やFable 5のフォールバックが混在する。公開された数字が多くても、同じ条件で測った普遍的な順位にはならない。
それでも、Kimiは構成、API単価、評価条件、重み公開の期限を先に示した。Qwen3.8はモデルの中身より、提供方法と自己評価を先に発表している。両者の競争は2.4兆対2.8兆の大きさ比べではなく、配布後に第三者が性能と運用費を再現できるかで決まる。
90〜98%減はAPI価格ではない
AlibabaはPreviewの初動をCredit割引で押している。Qoderでは通常時間の消費係数を0.5倍から0.05倍へ下げ、90%減とした。シンガポール時間の22時から8時、日本時間では23時から9時まで、係数は0.01倍となり98%減になる。キャンペーンの終了日は決まっていない。
この割引は、Qoder内で消費するCreditの係数に適用される。100万トークン当たりのAPI単価が90%または98%下がったわけではない。消費分はQoder側の契約枠へ計上され、追加Creditを配るキャンペーンでもない。専門家モードや一部のサブエージェント呼び出しは対象外になる場合がある。
個人向けToken Planの期間限定価格は、Liteが月6ドル、Standardが18ドル、Proが68ドルである。最も安いLiteでも5時間に700 Credits、7日間に2500 Creditsという二つの上限がある。個人用APIキーはClaude CodeやCursorなどでの対話利用に限られ、自動スクリプト、アプリのバックエンド、非対話のバッチ処理には使えない。
つまり、現段階のQwen3.8は汎用の従量APIとして投入されたわけではない。月額プランと自社エージェント製品で、実際の長時間タスクを試してもらう導線が先に整えられた。大幅なCredit割引も、その試用窓口に適用されている。
オープンウェイトの勝負は配布後に始まる
Qwen3.8を現時点でオープンウェイトモデルと呼ぶのは早い。Qwenが発表したのは重み公開の予定であり、配布ファイルとライセンスはまだない。モデルカードと技術報告も未公開だ。利用者が自社環境へ持ち込み、量子化や推論基盤を選び、同じ課題を再実行できる段階には達していない。
公開時に確認すべき材料は明確だ。各トークンで使う活性パラメータ数、専門家の構成、量子化形式、必要な計算機、再現可能な評価手順、商用利用と改変を定めるライセンスである。Token Plan外の従量API単価も、自社運用とクラウド利用を比べるには欠かせない。
Alibabaが重みの公開日を示し、これらの情報を一緒に出せば、2.4兆という規模は初めて自社運用の判断材料になる。「Fable 5に次ぐ」という主張は、重みを待たなくても、比較する版、思考量、実行環境、試行回数を揃えれば検証できる。重みの配布後に始まるのは、自社環境で同じ結果と運用費を再現できるかという評価だ。次の判断材料は新しい形容詞ではなく、条件を揃えた数字と配布物である。



