Qwen3.8は、クラウドで試すモデルから、重みを手元の環境へ持ち出して検証できるモデルへ進んだ。QwenはHugging FaceでQwen3.8-27Bと同FP8、Qwen3.8-2.4T-A95Bと同FP8の4リポジトリを公開している。7月19日の時点で確認できたのはQwen3.8-Max-Previewのクラウド提供、総2.4兆パラメータ、そして重みを「soon」に公開するという方針だった。今回は配布ファイルが揃い、構成、評価表、ライセンスまで読めるようになった。
ただし、同じQwen3.8という名前から同じ導入条件を想像すると外れる。27Bは視覚入力を持つ高密度モデルで、Apache 2.0で配布される。対して2.4T-A95Bはテキスト生成のMoEであり、Qwen3.8-Max Licenseが適用される。モデルの規模に加え、機能、配備時の容量、商用サービスに掛かる条件も別々に見る必要がある。
予告から実物へ、二つの公開モデルは別の性格を持つ
27Bの正式なパラメータ数は277億8142万7952である。64層、隠れ層の幅5120の言語モデルに視覚エンコーダーを組み合わせ、画像と動画を入力できる。Gated DeltaNetとFFNを3層続け、続いてGated AttentionとFFNを1層置く4層構成を1組として、これを16組積むハイブリッド構成で、複数トークン予測(MTP)も学習に使った。手元で画像や動画を扱える視覚言語モデルとして提供される点が、この版の出発点になる。
2.4T-A95Bは、総パラメータが2.4兆、1トークン当たりで活性化するパラメータが950億のMoEである。92層、隠れ層の幅8192で、512の専門家から経路選択される10個と共有の1個を使う。こちらもGated DeltaNetとGated Attention、MTPを組み合わせるが、公開リポジトリの用途はテキスト生成である。公開重みの2.4T版を、画像や動画もそのまま入力できるモデルとしては扱えない。
コンテキスト長も二段階に分けるべきだ。両モデルの標準値は262,144トークンで、27BはYaRNにより1,000,000トークンへ、2.4T版は1,010,000トークンへ拡張できるとモデルカードは説明する。27Bでは固定倍率のYaRNが短文性能へ影響し得るため、Qwenは長文が必要な場合だけ有効にするよう注意している。拡張可能な上限と、常時その設定で使う状態は同じではない。
活性950億でも、公式FP8の配布物は約2.50TB
MoEの「活性950億(95B active)」は、1トークンを処理する際に活性化する規模を示す。全重みを保存し、読み込む容量が950億パラメータ分になるという意味ではない。2.4T-A95Bの公式safetensorsは、BF16版が4,892,365,649,336バイト、213ファイルで約4.89TBに達する。公式FP8版でも2,496,102,697,232バイト、同じく213ファイル、約2.50TBである。
この差は、Max級モデルの重みを公開する意味と、実際に配備する難しさを同時に示す。重みを取得して詳細を検証できることと、一般的な単一ワークステーションで扱いやすいことは別である。必要なGPU構成はデータ型や並列化方式に左右される。KVキャッシュ、コンテキスト長、バッチ数もメモリ使用量を変えるため、ファイル容量から特定のGPU台数やVRAM要件を導くことはできない。
Qwen3.8-2.4T-A95Bは思考モードを無効にできず、推論量はxhigh、medium、lowから選ぶ。推論時に思考モードを切り替えたいサービスは、この制約も事前に確認しなければならない。950億という活性規模だけでは、利用時の応答形式や運用負荷までは決まらない。
27BはApache 2.0で視覚入力を扱う
27B系はApache 2.0で提供される。Hugging Face上の27Bと27B-FP8にはapache-2.0と表示され、LICENSEにはApache License 2.0の全文がある。利用・改変から再配布、サブライセンスまで許諾する一方、ライセンスの添付や表示、変更通知などの条件がある。2.4T版へ同じ条件を当てはめないことが前提になる。
配布サイズは27Bでも軽くない。BF16のsafetensors合計は55,563,006,776バイトで、18ファイル、約55.6GBである。公式FP8は66ファイル、30,866,866,928バイト、約30.9GBとなる。これは配布ファイルの容量であり、KVキャッシュや視覚エンコーダーの一時メモリ、実行時の上乗せ分を含むGPU要件ではない。公式FP8が約30.9GBだからといって、単一24GB GPUへ全体がそのまま収まるとは言えない。
機能面では、27Bの思考モードは既定で有効である。推論量(reasoning_effort)はxhigh、medium、lowから選べる。過去の思考を保持するpreserve_thinkingにも対応し、リクエストごとに思考モードを切り替えられる。視覚入力の有無と推論の切り替えを必要とする利用者にとって、27Bは2.4T公開版とは異なる候補になる。規模を縮めたMax版というより、入出力と操作性が違うモデルとして選ぶべきだろう。
商用利用を許すMax Licenseには規模別の条件がある
2.4T-A95Bと同FP8は、Hugging Face上のライセンス表示がother、名称がqwen3.8-maxである。Qwen3.8-Max Licenseは、利用・改変から販売やホスティング、追加学習まで広く許諾する。商用利用を一律に禁じるライセンスではない。その一方で、一定の規模や事業の型に達する場合、Apache 2.0にはない義務を定める。
商用製品またはサービスの月間アクティブ利用者が1億人を超える、または月間売上が2000万ドルを超える場合、製品UIでモデル名を目立つ形で表示しなければならない。また、ライセンシーと関連会社がModel as a ServiceまたはAI Work Assistant事業を行い、連続する12カ月の合計売上が5000万ドルを超える場合は、商用利用前にQwenから別ライセンスを得る必要がある。
ライセンスがいうModel as a Serviceには、第三者が入力やパラメータ、学習データを実質的に制御できるAPIやホスト型エンドポイントが当たる。AI Work Assistantは、AIコーディングまたは業務生産性の向上を主目的とする独立製品を指す。第三者へモデルの出力や能力を提供しない内部利用は、この追加契約条件から除かれる。単目的の翻訳ツールや別分野向けの支援ソフト、AI支援を主目的としない製品内機能も定義上の除外例である。導入判断では、モデルを使うかどうかに加え、誰に何を提供する事業なのかを条件文に照らす必要がある。
ベンチマークとホスト版の機能は別に確かめる
Qwenは27Bのモデルカードで、Terminal Bench 2.1を73.0、SWE-bench Proを61.7、CoWorkBenchを70.7と報告する。比較欄ではQwen3.6-27Bがそれぞれ63.4、53.5、61.0、Qwen3.7-Plusが64.0、57.6、65.1である。数値はQwen自身の評価であり、独立評価による性能順位ではない。Vision2WebはClaude Code harnessとgpt-5.4-2026-03-05 judge、SWE-MMはClaude Code harnessを使うなど、評価条件が明記されている。
2.4T版のカードにもTerminal Bench 2.1やSWE-bench Proの結果が載るが、モデルごとに異なるharnessによる比較を含む。Fable 5の結果にはfallbackが関与し得るという注記もある。数値を読む際は、モデル名の並びではなく、各ベンチマークのharnessと条件まで確認する必要がある。
さらに、Qwen CloudのQwen3.8-Maxは公開版を基に、視覚入力と思考しない応答、標準1,000,000トークンのコンテキストを追加する。公式内蔵ツールも加わると2.4Tのモデルカードに記されている。公開重みを取得しても、ホスト版の機能が同一になるわけではない。手元での配備を選ぶなら、第三者が速度と実メモリ、品質をどの条件で測るかとともに、必要な入出力や思考モードの挙動が公開版で満たせるかを確かめる段階に入った。
今回確認できるのはオープンウェイトの配布である。OSIのOpen Source AI Definition 1.0は、オープンソースAIに学習データの情報と学習・実行コード、パラメータを求める。Qwenのモデルカードで確認できるのは学習済み重みと設定、tokenizer、推論例であり、学習データの情報と完全な学習コードは提示されていない。重み公開という到達点を、別の定義であるオープンソースAIと混同しないことも、導入後の説明責任につながる。



