Samsungが、次世代の頭脳となる「Exynos 2600」チップのプロトタイプ(試作品)量産を、同社の最先端2nmプロセスで開始したことが報じられた。 これは、同社が推進する最先端2nmゲート・オール・アラウンド(GAA)プロセス技術を用いた初の製品となると見られており、Samsung Foundryの未来、ひいては世界の半導体業界の勢力図を左右する戦略的な一歩として、業界内外から大きな注目を集めている。
忍び寄るTSMCの影、Samsungが踏み出した「2nm」という未来への一歩
韓国メディアNewDailyが報じたところによると、Samsungは2026年初頭に発売が見込まれる「Galaxy S26」シリーズへの搭載を目指し、Exynos 2600チップの試作品量産に着手したとのことだ。 このチップの最大の特徴は、Samsungが世界に先駆けて開発を進める「2nm GAA(Gate-All-Around)」プロセスで製造される点にある。
半導体における「nm(ナノメートル)」は回路線幅を示し、この数値が小さいほど、より多くのトランジスタをチップに集積でき、性能向上と消費電力削減を実現できる。 現在の最先端が3nmである中、2nmプロセスは次世代の覇権を握るための重要な技術だ。
今回の「試作品量産」は、開発プロセスにおける重要なマイルストーンである。 韓国の報道によれば、これは初期の試験生産を終え、本格的な量産を見据えてウェハーの投入量を増やし、設計の検証や機能テストを行う段階だ。 この後には「リスク生産(Risk Production)」と呼ばれる、品質や歩留まりを最終評価するための少量生産段階が控えており、Samsungは年内のリスク生産開始を内部目標に掲げているという。 このスケジュールが順調に進めば、Galaxy S26の発売(例年2月頃)に先駆け、2〜3ヶ月前には本格的な量産体制に移行する見通しだ。
50%への険しい道のり – 「歩留まり」が握るExynos 2600の運命
しかし、その道のりは決して平坦ではない。最先端プロセスの実用化において、最大の障壁となるのが「歩留まり」、すなわち製造したチップの中から良品が生まれる割合だ。
報道によると、Exynos 2600の初期試験生産における歩留まりは30%程度だったとされる。 SamsungのシステムLSI(設計)とファウンドリ(製造)の両部門は、性能を犠牲にすることなく、この数値を50%以上に引き上げることを当面の目標としている。 しかし、アナリストは、コスト的に見合う安定した量産体制を築くには、最低でも60%から70%の歩留まりが必要だと指摘する。
この歩留まり問題は、Samsungにとって苦い記憶を呼び起こさせる。当初、Galaxy S25シリーズに搭載予定だった3nmプロセスの「Exynos 2500」は、この歩留まりが目標に達せず、最終的に搭載を断念。結果として、S25シリーズは全モデルが競合であるQualcomm製のSnapdragonチップを採用することになった。 この一件は、Samsungの収益性に打撃を与えただけでなく、「Exynos」ブランドの信頼性にも影を落とした。
だからこそ、今回のExynos 2600にかかる期待とプレッシャーは計り知れない。過去の失敗を繰り返し、2nmプロセスでもつまずくようなことがあれば、Samsungのファウンドリ事業とExynosの未来は、さらに厳しいものとなるだろう。
Samsungグループ「三位一体」の悲願
Exynos 2600の成功がもたらす意味は、単一の事業部の成果に留まらない。これはSamsungグループ全体にとって、まさに「三位一体」の悲願達成に向けた重要な布石なのだ。
ファウンドリ事業の復権
長年、TSMCの後塵を拝してきたSamsungファウンドリにとって、2nm GAAプロセスはゲームチェンジャーとなりうる技術だ。TSMCも2nmプロセスの量産を2025年後半に計画しているが、GAA構造の導入ではSamsungが先行している。 もしExynos 2600でその性能と安定性を証明できれば、AppleやQualcommといった巨大顧客をTSMCから奪還する大きな足がかりとなる。
System LSI事業(Exynos)の自立
自社開発のExynosは、長らくQualcommのSnapdragonとの性能比較に晒されてきた。 Exynos 2600がSnapdragonを凌駕する性能を実現できれば、悲願である「AP自立」が現実味を帯びてくる。これは、高価な外部チップへの依存を減らし、グループ全体の収益構造を改善することに直結する。
MX事業(Galaxy)の製品力最大化
Appleが自社設計のAシリーズチップとiPhoneを緊密に連携させ、最高のユーザー体験を生み出しているように、Samsungも自社製APをGalaxyに最適化することで、ハードウェアとソフトウェアのポテンシャルを最大限に引き出すことができる。これは、AI機能の統合や独自のユーザー体験を創出する上で、決定的な競争優位性となるだろう。
これら3つの事業部の思惑が一致するExynos 2600は、まさにSamsungの技術力と戦略の結晶であり、その成功はグループ全体に巨大なシナジーをもたらすのである。
TSMCとの最終戦争 – 2nmを巡る次世代半導体覇権の行方
視点を業界全体に広げれば、この動きはTSMCとの次世代半導体覇権を巡る「最終戦争」の幕開けとも言える。TSMCはすでに2nmプロセスの開発で順調な進捗を見せており、2025年後半の量産開始を予定している。 顧客からの引き合いも強く、その牙城を崩すのは容易ではない。
Samsungに残された時間は少ない。wccftechは、TSMCがすでに4月から2nmウェーハの注文受付を開始したと報じており、Samsungは一刻も早く歩留まり問題を克服し、顧客に具体的なロードマップを提示する必要がある。
一方で、Qualcommが次期Snapdragonの一部をSamsungの2nmプロセスで製造するのではないか、という噂も浮上している。これが事実となれば、TSMC一強体制に風穴を開ける大きな一撃となるだろう。
Exynos 2600の成否は、2026年のスマートフォン市場の行方を占うだけではない。それは、今後10年のテクノロジー業界の基盤を支える半導体という名の心臓部を、誰が握るのかを決定づける、極めて重要な意味を持つ戦いなのだ。
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「Samsung、2nm GAA Exynos 2600試作量産開始:揺らぐ半導体覇権、Galaxy S26の命運を握る戦略的動向」への1件のフィードバック