スマートフォンの出荷シェアランキングが四半期ごとに発表されるたび、首位を守った企業は「勝ち組」として扱われる。2026年4〜6月期(Q2)、世界出荷で首位を守ったSamsungは、同じ四半期にモバイルやTV、家電を担うDX(Device eXperience)部門で2011年以降では初めての赤字を出していた。原因は皮肉にも、同社自身の半導体部門が主導したメモリ価格の高騰だった。出荷シェアの勝者と収益の敗者が、同じ企業の内部に同居する四半期になった。
Samsung首位死守の裏で中国3社が総崩れになった出荷実態
市場調査会社Omdiaによれば、2026年Q2の世界スマートフォン出荷でSamsungは6050万台、シェア22%(前年比+2ポイント)を記録し、前年比+5%増で首位を守った。Appleは5,510万台、シェア20%、前年比+23%を記録し、第2四半期の出荷台数としては過去最高を更新した。対照的に、Xiaomiは3120万台(シェア11%、前年15%)で前年比-26%、OPPOは2840万台(シェア10%、前年12%)で-17%、vivoは2150万台(シェア8%、前年9%)で-18%と、中国勢3社がそろって2桁の減少を記録した。
ただし「世界出荷が前年比何%減ったか」という総括数字になると、調査会社によって姿が変わる。Omdiaは当初、市場全体の前年比を-4%と速報したが、2026年7月30日付で-6%、約2億7200万台へ確定値を改定した。Samsung、Apple、Xiaomi、OPPO、vivoの個社別シェアは確定後も変わっていない。
Counterpointは-11%で「2013年以来最低のQ2」と位置づけ、同社集計ではSamsungのシェアを24%(+4ポイント)、Appleを20%(+3ポイント)とやや高めに算出している。IDCはさらに異なり、世界出荷を-6.7%、2億7700万台と発表した一方、中国本土に限れば-4.3%、約6600万台で5四半期連続の減少になったとする。この中国市場ではHuaweiとAppleだけが前年比約20%増と伸び、Huaweiのシェアは22.6%(前年18.1%)、Appleは18.1%(前年13.9%、出荷+24.4%)まで拡大した。
3社の数字が一致しないこと自体は集計対象や推計手法の違いによるもので、統計としての異常ではない。それでも共通するのは、SamsungとAppleに買い替え需要が集まり、中国のボリュームブランドが軒並み落ち込んだという構図だ。首位の座は盤石な指定席ではない。2024年1月には13年守ってきたSamsungの首位をAppleが2023年通期で初めて奪う番狂わせが報じられており、今回はその逆にSamsungが数字の上で首位を守り切った四半期といえる。その意味で今回の首位は市場全体の追い風というより、中国勢の失速に支えられた側面が大きい。
中国メーカーが総崩れになった理由
XiaomiやOPPO、vivoの失速の背景にあるのは、AIサーバー向けに殺到したメモリ需要の急増だ。スマートフォン向けの供給は、その陰で細っていった。SK HynixやMicron、そしてSamsung自身が、DRAMやNANDの生産ラインをAI向け高付加価値品にシフトさせた結果、スマートフォン向けの供給が逼迫した。DRAMとNANDの価格上昇率は算出方法によって幅があり、契約ベースでは四半期比58〜75%程度、現物(スポット)価格では年間で700%超に達したとも報じられている。
ただしDRAMとNANDでは供給構造の集中度が異なる。DRAMの世界生産はSamsung、SK Hynix、Micronの3社がほぼ独占している一方、NANDは2026年Q1の売上高ベースでSamsung29%、SK Hynix18%、Micron13%に加え、Kioxia14%、SanDisk13%、YMTC13%の計6社にシェアが分散している。それでもDRAMの価格交渉力は事実上この3社に握られており、AI向けを優先すれば、スマートフォンメーカー側に残る交渉の余地は乏しい。
部品コストが跳ね上がると、影響を最も強く受けるのは薄利多売型の低価格帯機種だ。XiaomiやOPPO、vivoの主力はいずれも中価格帯以下のモデルで、メモリコストの上昇分を販売価格に転嫁しきれず、出荷を絞らざるを得なくなった。IDCは、2025年に1億7000万台あった100ドル未満の機種が経済的に成立しなくなるリスクを指摘している。世界全体の平均販売価格についても、IDCは当初523ドルまで上昇すると見積もっていたが、その後550ドルへ上方修正した。
この供給逼迫は、メーカー側の年間計画そのものを狂わせている。Xiaomiは2026年通期の出荷目標を当初の約1億8000万台から最大7000万台分(約4割)引き下げ、1億1000万〜1億7000万台の範囲に修正したと報じられている。Transsionも約1億1500万台から最大4500万台分引き下げ、7000万〜8500万台の範囲に修正したという。理由として挙げられているのが、まさにSamsung、SK Hynix、Micronによるメモリ生産のAIシフトだ。下方修正が現実になれば、両社の販売網や在庫計画にも玉突きの調整が及ぶ可能性がある。
Samsungを追い詰めた「自家中毒」の内訳
出荷台数だけを見れば、Samsungは今四半期の「勝者」に見える。だが同じ四半期の決算を見ると、その勝利の中身は一様ではない。Samsungのモバイル、TV、家電などを含むDX部門は2026年Q2の営業損益が8000億ウォンの赤字となり、前年同期(2025年Q2)の3兆3000億ウォンの黒字から一転して、現行の会計区分で比較可能な2011年以降では初めての赤字に転落した。DX部門の中でもスマートフォンとネットワーク事業を合算したMX/NW事業は7000億ウォンの赤字で、前年同期の3兆1000億ウォンの黒字、2026年Q1の2兆8000億ウォンの黒字から急転した。
Samsungはスマートフォン単独の損益を開示していないため、Galaxy S26やAシリーズの販売がどこまで貢献したかは公表数値だけでは切り分けられない。ただしSamsung自身が決算資料の中でDX部門について「部品コストの増加により営業成績が悪化した」と説明しており、メモリに限らない部品コスト全般の上昇がDX部門の収益を圧迫したことはSamsung自身が公式に認めている。
一方でSamsung全社の2026年Q2営業利益は89兆5000億ウォン(前年比+1814%)、純利益は71兆6000億ウォン(+1300%)、売上は171兆5000億ウォンで、いずれも過去最高を更新した。この利益のほぼすべてを支えたのが半導体(DS)部門で、営業利益は89兆2000億ウォンに達している。前年同期(2025年Q2)の全社営業利益は4兆7000億ウォンだったから、1年でおよそ19倍に膨らんだ計算になる。2026年7月31日時点のレート(1ウォン≈0.112円)で換算すると、DX部門の8000億ウォンの赤字は約896億円、MX/NW事業の7000億ウォンの赤字は約784億円、全社の89兆5000億ウォンの営業利益は約10兆240億円に相当し、同じレートでDS部門の89兆2000億ウォンを換算すると約9兆9904億円になる。
DS部門の黒字89兆2000億ウォンをDX部門の赤字8000億ウォンで割ると、その差は約111.5倍になる。同じ企業の同じ四半期の中に、片方が900億円近い赤字を計上し、もう片方がその100倍以上の黒字を稼ぎ出す部門が同居している計算だ。別の切り口で見れば、DX部門の8000億ウォンの赤字は全社の89兆5000億ウォンの営業利益のわずか0.89%程度の規模に過ぎない。スマートフォンとネットワーク事業を合算したMX/NW事業だけで見ても、DS部門との差は約127.4倍、全社利益に対する比率は約0.78%とほぼ同水準だ。
金額の小ささとは裏腹に、2011年以降で比較可能な統計上初めて赤字という一線を越えた事実の重みは数字以上に大きい。DRAMとNANDの価格を押し上げているのがSamsung自身のDS部門であるという構図が、その重みをいっそう際立たせている。
実際、Omdiaの出荷データをもとに「Samsungが首位を守った」「中国勢が失速した」と報じた記事群は、同じ四半期にSamsungのDX部門が抱えた損益には触れていない。出荷シェアという勝敗表と、部門別の損益計算書は、同じ企業の同じ四半期を映しながらまったく別の物語を語っている。この四半期の勝者と敗者を並べると、得をしたのはSamsungのDS部門とSK Hynix、Micron、そして出荷を伸ばしたAppleであり、割を食ったのはXiaomiやTranssion、OPPO、vivoといった中国のボリュームブランド、そしてSamsung自身のDX部門という入り組んだ構図が浮かぶ。この非対称こそが、2026年Q2のスマートフォン市場の実像に近い。
インド市場ではvivoが首位、Samsungは僅差の2位に
世界全体では中国勢が総崩れとなったが、地域を絞ると勢力図は逆転する。Counterpointによれば、2026年Q2のインド市場は出荷が前年比-10%で6年間で最大のQ2減少となったが、シェア争いの首位はvivo(18%)で、Samsungは僅差の2位にとどまった。OPPOが14%、Xiaomiが13%と続くなか、新興ブランドのNothingは前年比+105%で市場最速の成長率を記録した。インドで首位を守れなかったことは、Samsungのグローバルな出荷シェアそのものは押し下げないものの、収益性の高い主要市場の一角でシェアを確保しきれていない証拠であり、MX/NW事業の収益圧迫という自家中毒の輪郭をさらに濃くする材料になる。
東南アジアについてはQ2個別の集計がまだ公表されておらず、直近で確認できるのは2026年1〜3月期(Q1)時点の数字になるが、Samsungはトップ5ブランドの中で唯一出荷を伸ばし、シェアは19%から21%へ2ポイント上昇、出荷台数も前年比+4%増の460万台を記録していた。同時期のTranssionは4位でシェア16%、340万台、前年比-10%と苦戦している。地域ごとに勝敗の顔ぶれが入れ替わる状況は、メモリ高騰の影響が価格帯や販売網の強さによって非対称に効いていることを示している。
メモリ高騰は下期も続く見通し、日本の店頭にも波及しうる
IDCは中国市場のリポートの中で、下期(7〜12月期)がさらに厳しくなる可能性に言及している。メモリ価格の高騰が短期間で収まる材料は今のところ見当たらず、XiaomiやTranssionのように年間出荷目標を下方修正するメーカーが今後も増える余地がある。IDCが523ドルから550ドルへ引き上げた平均販売価格の予測が現実になれば、低価格帯機種を主力にしてきたメーカーほど収益構造の見直しを迫られる。
メモリ価格の高騰は、日本の消費者にとっても遠い話ではない。Galaxy S26シリーズは国内でもドコモ、au、IIJmioなどが取り扱っており、部品コストの上昇はAndroidとiPhoneを問わず今後の価格改定に波及しうる。同じDRAMとNANDはPCやゲーム機、家電製品にも使われており、価格への波及経路はスマートフォンに限らない。Samsungの今四半期が示したのは、値上げの受益者と被害者が同じ企業の中に同居しうるという構図であり、この構図は半導体を持たない他のスマートフォンメーカーにはさらに重くのしかかる。



