2026年上半期、中国のAIチップ企業は揃って増収を記録し、Cambriconの売上は59.96億元で前年同期比108.13%増、Moore Threadsは17.36億元で147.42%増、Birenに至っては12.36億元で1,998%増となった。同じころ、NVIDIAが2026年1月期(FY2026)通期で計上した中国本社顧客向け売上は全社比9.1%にとどまり、続く2027会計年度第3四半期の見通しからは中国データセンター向けの計算売上が丸ごと外された。需要も資金も政策も中国側に揃っている。それでもSCMPは2026年8月、中国の主要な大規模言語モデル開発企業が最先端モデルの訓練になおNVIDIAチップを使っていると報じた。増収と依存が同時に起きているこの状態は、チップ単体の性能差では説明がつかない。
中国勢の急増収と、中国売上を失って売上を倍にした会社
NVIDIAは対中H20向けに45億ドルの引当を計上したが、その後ライセンス下で実際に計上できた売上は約6000万ドルにとどまり、引当は実現売上の75倍に達した。どちらの金額も2026年1月期のForm 10-Kという同じ書類に並んで載っている。2025年4月に米政府がH20の対中輸出へライセンスを要求し、NVIDIAは在庫と購入義務の評価として45億ドルを第1四半期に落とした。同年8月に一部のライセンスが下り、それに基づいて立った売上が6000万ドルだった。45億ドルの引当は在庫評価と購入義務の両方を含む費用であり、その後の実現売上とは会計上の性質が異なる。
同じ10-Kで、NVIDIAは自社の立場を率直に書いている。2026会計年度末の時点で中国のデータセンター計算市場での競争から事実上締め出されており、その締め出しが競合の開発者や顧客のエコシステムを世界規模で拡大させる助けになった、という記述である。Jensen Huangは2025年10月、Citadel Securitiesのイベントでの対談で「95%のシェアから0%になった。どの政策立案者もそれが良い考えだとは思えないはずだ」と述べている。企業側の自己申告と経営者の発言が、同じ方向を指している。
ところが会社の決算はその逆を向いた。2027会計年度第2四半期(2026年7月26日締め)の売上は962億ドルで前年同期比106%増、データセンター部門は890億ドルで117%増だった。データセンターは全体の92.5%を占める。そして第3四半期の見通し1080億ドルには、中国からのデータセンター計算売上を一切見込んでいないと明記されている。世界最大級のAIチップ市場をゼロと置いた四半期見通しが、そのまま前四半期を上回る売上計画になっている。
中国売上の比率が落ちた理由も、分子だけを見ると読み違える。NVIDIAの中国(香港を含む)本社顧客向け売上は、2024会計年度の123億3000万ドルから2025会計年度に250億4800万ドルへ倍増し、2026会計年度は196億7700万ドルへ減った。絶対額では約21%の減少である。
一方で全社売上は1304億9700万ドルから2159億3800万ドルへ1.65倍になった。その結果、全社比は20.2%、19.2%、9.1%と推移する。9.1%という数字の半分は、分母の膨張が作っている。
この「中国売上」は顧客の本社所在地で集計した金額であり、中国国内へ渡ったチップの額ではない。同じ10-Kは、2026会計年度に台湾本社の顧客へ計上したデータセンター売上のうち76%が台湾以外の最終顧客に帰属すると推定している。地域別の売上表は顧客企業の本社所在地を並べたものであって、計算資源が実際に置かれた場所の地図ではない。
規制の6段階と、そのたびに変わった製品

米国の対中AIチップ規制は2022年10月7日から2026年1月13日にかけて、少なくとも6つの転換点を経た。表に絞った6段階のうち4回は規制の強化、2回は緩和である。強化のたびにNVIDIAは規制値の下に収まる中国向け製品を出し、次の強化でその抜け道が塞がれるという応酬が続いた。ここに挙げた6段階以外にも、2025年1月の先端半導体規則強化や同年8月の外資系ファウンドリー向け特例廃止など、対象を絞った規制強化が別途重ねられている。
| 日付 | 規制側の措置 |
|---|---|
| 2022-10-07 | BISが先端コンピューティングと半導体製造装置の対中輸出規制を発動。A100とH100が対象に入る |
| 2023-10-17 | BISが改定規則を公表。総処理性能に加えて性能密度を判定基準へ追加し、相互接続帯域を基準から外す |
| 2024-12-02 | 第3弾でHBM(新ECCN 3A090.c)、半導体製造装置24種、ソフトウェア3種を追加。140超をEntity Listへ指定 |
| 2025-04-09 | 米政府がNVIDIAへH20の対中輸出に許可が必要と通知。NVIDIAは最大約55億ドルの費用計上を開示 |
| 2025-05-13 | 商務省がAI Diffusion Rule(2025年1月15日公表・5月15日施行予定)の撤回を発表 |
| 2026-01-13 | BISが許可審査方針を改定し、H200とAMD MI325Xおよび同等品を個別審査の対象へ |
表の6行のうち、規制設計として最も変化したのは2023年10月17日の改定である。2022年の最初の規制は、総処理性能が一定値を超えることと、チップ間の相互接続速度が600GB/s以上であることを、別々の条件として併用していた。演算の規模を保ったまま相互接続だけを規制値の下まで落とせば、規制の対象から外れる設計が可能になる。NVIDIAが出したA800とH800がそれに当たる。
翌年の改定は、この抜け道を性能密度という第2の物差しで塞いだ。ダイ面積あたりの演算性能を見れば、相互接続を細らせても高密度な計算チップであることは隠せない。規制の書き方が「何をつなげるか」から「どれだけ詰まっているか」へ移ったのがこの時点だ。
2024年12月2日の第3弾は、対象を演算チップからメモリ半導体・製造装置・ソフトウェアへ広げた。帯域密度が1平方ミリメートルあたり2GB/sを超えるHBMを新設のECCN 3A090.cで捕まえる書き方で、現行生産中のHBMはすべてこの閾値を超える。完全遵守の期限は同年12月31日に置かれた。中国側から見れば、演算チップを国内で設計できるようになっても、その隣に積むメモリの入手経路が同時に細ったことになる。
応酬はここで終わっていない。2025年7月15日、NVIDIAは米政府からH20の対中販売再開の保証を得たと発表し、商務省は8月に許可を出し始めた。H20の中国売上の15%を米政府へ納付する条件が付いたと報じられている。ところがその2か月後の9月17日、中国のサイバースペース管理局が国内企業へNVIDIA製RTX Pro 6000Dの発注停止と検証中止を指示したとBloombergが伝えた。
2026年1月13日のBIS発表文が明記した条件は、米国顧客向けの世界的な生産能力を減らさないこと、中国側購入者が顧客審査を含む輸出管理手続きを導入していること、米国内での独立した第三者試験を経ていることの3点である。翌14日にH200の対中輸出が正式承認され、中国向けは米国顧客への販売量の50%を超えられないことに加え、米国内検査のため再輸入されるH200には25%の輸入関税が課される条件が付いたと報じられたが、この2条件はBISの発表文には書かれていない。
CUDAが標準になるまでの20年と、乗り換えに要る人月

規制が動き始めた2022年10月の時点で、NVIDIAのソフトウェア資産はすでに15年分積み上がっていた。CUDAはGeForce 8800 GTX(G80)と同時の2006年11月に発表され、SDKの一般公開は2007年2月である。NVIDIA自身は2026年のGTCでこれを「20 Years of CUDA」と呼び、起点を2006年に置いた。
G80が何をしたかというと、頂点シェーダと画素シェーダの専用パイプラインを廃し、128個のシェーダプロセッサを単一のプログラマブルな演算プロセッサ群へ統合した。グラフィックス専用の固定回路を汎用の計算器に組み替えたこの設計変更が、GPUで計算を回すという発想の前提になっている。当時の主用途は科学技術計算で、深層学習はまだ視野になかった。
転機は2012年に来た。Alex KrizhevskyらのAlexNetはImageNet(ILSVRC-2012)でtop-5誤り率15.3%を記録し、2位の26.2%を大きく引き離した。
訓練に使われたのは市販のGeForce GTX 580が2枚である。データセンター向けの専用機材は使っていない。店頭で買えるゲーミングGPUだった。NVIDIAはこれを自社のAIハードウェア投資の起点として語っている。
ここからNVIDIAはCUDAの上に層を足していく。2014年9月に深層学習プリミティブのライブラリcuDNNを公開し、畳み込みや正規化といった頻出演算を最適化済みの部品として配った。2017年5月のGTCではVoltaアーキテクチャとTesla V100を発表し、第1世代Tensor Coreを載せた。行列積和を専用回路で処理するこのユニットは、その後の主要な学習フレームワークが標準的な高速化経路として組み込む計算基盤になる。
CUDAという土台、cuDNNという部品、Tensor Coreという専用回路。この3層はそれぞれ別の年に、別の必要から積まれた。NVIDIAは10-Kで、CUDAおよび同社のソフトウェアツールを使う開発者が世界で750万人を超えると記載している。Jensen Huangが2024年6月のComputexで示した数字は500万人だった。
この積み上げが乗り換えコストとしてどう効くかは、SCMPが2026年8月10日に伝えた移行現場の証言に表れている。Ascend移行に関わった北京の技術者の説明では、DeepSeekのようにソースコードまで公開されたモデルとその蒸留版なら、技術者2〜3人を1か月ほど追加すれば国産チップ上で訓練できる。ところがMoonshot AIのKimi K3のように重みだけを公開するモデルでは、技術者10人規模で6か月超の追加作業が要りうるという。人月に直せば2〜3人月に対して60人月で、20倍を超える開きになる。中央値の2.5人月で割れば24倍前後である。
同じ報道で、上海の大学附属研究機関でAIモデルを開発するJames Wang氏は、CUDAのコードはAscend上でそのまま動かず大規模な書き換えが必要で、既存のワークフローを移すには少なくとも50%多い時間とコストがかかりうると述べた。
なぜ公開の形態でこれほど差が出るのか。ソースコードが公開されたモデルは、訓練ループも並列化の方式もデータの流し方も読める。移植する側は、その記述をAscend向けの呼び出しへ置き換えていけばよい。
重みだけが公開されたモデルでは、その重みを再現する訓練の手続きを外から組み直すことになる。どの演算がどの精度で、どの順序で、どのメモリ配置で実行されていたかを推測しながら、Ascend上で同等の数値挙動を出す実装を作る作業になる。CUDAの20年は、この推測を要らなくする既製部品の在庫でもある。移行が推論から先に進んでいるのも同じ理由で、推論は計算グラフが固定されており、訓練に比べて再現すべき手続きが少ない。
なぜ+1,998%の増収企業が、それでもまだ赤字なのか
Biren Technologyの2026年上半期売上は12.36億元、前年同期比1,998%増である。2026年8月28日に香港取引所へ提出した中間業績で確報として示された数字で、粗利率は42.7%(前年同期比10.8ポイント上昇)、純損失は5,610万ドルまで76.4%縮小した。増収率が20倍でも、損益はまだ赤である。なお、8月17日に同社が香港取引所へ提出した中間業績予告では増収率のレンジが1,852%から2,107%と示されていた。流通している「2,107%」はこのレンジの上限見通しであって、実績ではない。
3社の数字を並べると、増収の大きさと足元の体力が別物であることが見える。
| 企業 | 2026年上半期売上 | 前年同期比 | 損益 |
|---|---|---|---|
| Cambricon(688256.SS) | 59.96億元 | +108.13% | 親会社株主帰属純利益23.11億元(+122.61%) |
| Moore Threads(688795.SS) | 17.36億元 | +147.42% | 純損失1,156.31万元(95.73%縮小) |
| Biren(6082.HK) | 12.36億元 | +1,998% | 純損失5,610万ドル(76.4%縮小) |
黒字を出しているのはCambricon1社で、残る2社は損失の縮小局面にいる。3社とも増収の出どころは国内需要の囲い込みにある。外資製アクセラレータを政府資金のプロジェクトから締め出す調達規制が、そのまま各社の受注になった。
Cambriconは2026年6月下旬に株価が一時1,620元まで上昇し、終値1,595.55元で科創板(STAR Market)初の時価総額1兆元銘柄となった。Moore Threadsは2025年12月5日の科創板上場初日に終値600.50元、公開価格比425.46%高で引け、上半期はクラウド向けのAI計算製品が売上の97.5%を占めた。Birenは2026年1月2日に香港取引所メインボードへ上場し、機関投資家の需要は募集株数の約26倍、個人向けは約2,348倍の申込を集めている。
Huaweiは非公開企業のため同じ形式の決算は出さないが、AIチップ事業の売上見込みは2025年の約75億ドルから2026年に約120億ドルへ拡大するとされ、3社と同様の急伸を示す。ただし設計思想は別だ。
2025年9月18日のHuawei Connectで徐直軍がAscendの3年ロードマップを公表し、Ascend 950PRを2026年第1四半期、950DTを同年第4四半期に置いた。950DTは自社HBMのHiZQ 2.0を144GB積み、メモリ帯域4TB/s、FP8で1 PFLOPSという仕様である。設計思想が出るのは単体の仕様よりも束ね方の側で、Atlas 950 SuperPoDは950DTを最大8,192個搭載してFP8で8 EFLOPSを出すと説明されている。チップ1個の性能で勝てないなら、つなぐ数で埋めるという選択だ。
ソフトウェア側でも、Huaweiは2025年8月にCANN(Compute Architecture for Neural Networks)のオープンソース化を発表し、同年9月末までに全オペレータをGitCodeで公開する方針を示した。2026年4月24日にDeepSeekがV4をプレビュー公開した当日、HuaweiはAscend 950PRと950DTがV4に即日対応したと発表している。
それでも、中国市場で外資がどれだけ押し戻されたのかは1つの数字に落ちない。2025年の中国AIチップ市場における海外勢シェアの推計は、IDCの調査をReutersが伝えた59%と、TrendForceの予測をSCMPが伝えた34%で25ポイントの開きがある。前者はNVIDIA55%とAMD4%の合算でカード出荷枚数ベースとみられ、後者は出荷台数か金額かを原文で確認できていない。集計指標と母集団の定義が違えば、同じ年の同じ市場でもこれだけ振れる。国産比率を1つの数字で語るなら、どの調査のどの指標かを添えなければ意味が定まらない。
HBMというもう一つの天井

Huaweiの2026年におけるAscend 910Cの生産目標は約60万個とされるが、中国国内でHBMを手がけるCXMTの生産能力は年間約200万スタックにとどまり、Ascend 910C換算では25万〜30万個分にしかならない。目標は供給能力の約2倍にあたる。この換算はSemiAnalysisが2025年9月8日時点で示した推計で、CXMTは2025年半ばからHuaweiへHBM3のサンプル出荷を始め年内量産を目指していると2026年1月時点で報じられており、状況は動いている可能性がある。
ロジック側の余裕と比べると、制約の所在がはっきりする。SMICの7nm以下の生産能力は2025年末の月産45,000枚から2026年に60,000枚、2027年に80,000枚へ拡大する見込みで、Ascendのダイを量産するのに要するのは最大でも月20,000枚という分析がある。この見立てに従えばロジックは足りている。
ただし同じN+2のラインには、Cambricon、Biren、Moore Threads、MetaX、Alibaba傘下のT-Head、Baidu Kunlunxin、Huawei HiSiliconが集中してウェハ枠を奪い合う。SMIC全体の稼働率は2026年第2四半期時点で93.7%に達したと報じられており、N+2ラインを含む生産能力全体がすでに逼迫していることを示す。こちらの見方では国産チップの量はロジック側でも詰まっている。Huawei1社だけを見るか、国産設計企業全体を見るかで結論が変わる。どちらの見立てでも、HBMがもう一方の天井であることは共通している。
なぜメモリが計算チップの生産量を決めるのか。AIアクセラレータは演算ダイの周囲にHBMを積んで1つのパッケージにする構造で、演算ダイが何枚できてもHBMのスタックが揃わなければ製品として出荷できない。Ascend 910Cは1個あたり128GBのHBMを載せるとされ、その分のスタックが届かなければパッケージは完成しない。演算側とメモリ側の生産量は掛け算にはならず、小さい方で決まる。
そのHBMを2024年12月2日のBIS規制が捕まえた。帯域密度が1平方ミリメートルあたり2GB/sを超えるものを対象にした結果、現行生産中のHBMは全て規制値の上に立つ。ここで起きたのが駆け込みである。SemiAnalysisの推計では、Samsungは中国へ1,140万スタックのHBMを供給し、うち700万スタックは規制の発表から施行までの1か月間に集中した。
他の供給元を含めた計1,300万スタックは、Ascend 910Cで160万パッケージ分に相当する。中国のAIチップ産業は、規制が閉まる直前に駆け込んだ在庫を食い潰しながら国産HBMの立ち上がりを待っている状態にある。Cambriconの制約として挙がる要因も同じ並びで、SMICの7nmにおける最大ダイの歩留まりが約20%と報告されていることに加え、HBM調達をSK hynixとSamsungに依存している点が指摘されている。
中国比率が下がる装置メーカーと、上がる装置メーカー

東京エレクトロンの中国向け売上比率は2024年4〜6月期の49.9%から2026年4〜6月期に30.4%へ低下した一方、TOWAは35.9%から40.9%へ上昇しており、日本の半導体製造装置企業への規制の波及は一様ではない。
| 企業 | 前期 | 直近 | 方向 |
|---|---|---|---|
| 東京エレクトロン(四半期・中国向け構成比) | 49.9%(2024年4〜6月期) | 30.4%(2026年4〜6月期) | 低下 |
| SCREENホールディングス(通期・中国向け構成比) | 42%(2025年3月期) | 38%(2026年3月期) | 低下 |
| TOWA(通期・仕向地ベース) | 35.9%(2025年3月期) | 40.9%・222.3億円(2026年3月期) | 上昇 |
3社の数字を同じ向きで読んではいけない。東京エレクトロンとSCREENは前工程、TOWAは後工程のパッケージング装置を主力にしており、製品構成が違う。期間の粒度も、東京エレクトロンだけ四半期で他2社は通期である。
それでも方向が割れている事実は残る。東京エレクトロンの2026年3月期通期の中国向け比率は34.1%で、四半期比率を四半期売上高で加重すると34.06%となり通期値と整合する。TOWAの中国向け売上は金額でも192.1億円から222.3億円へ増えた。
この非対称は、規制が何を止めて何を止めていないかを映している。先端ロジックの前工程装置は輸出管理の中心に置かれ、中国の投資も先端から成熟ノードへ振り替わった。一方、パッケージングやテストといった後工程は規制の網が相対的に粗く、HBMを積むにも、チップレットをつなぐにも設備が要る。SCREENホールディングスは2026年3月期の決算説明会で、従来はレガシー汎用品向けが中心だった中国のメモリ投資にHBMなど高性能領域の需要が増えており、同社に参入する機会が生じたと説明した。同社の後藤氏は、MATCH法が成立し履行された場合の影響について、中国向け売上のうち10%から15%程度と見込んでいると述べている。
ここに構造上の皮肉がある。中国のHBM内製化を止めることが米国の規制目的の1つであるにもかかわらず、HBM製造に要るTSV(シリコン貫通電極)形成の先端装置は、CXMTが日本のサプライヤー経由で調達できる状態にあるとSemiAnalysisは指摘する。日本の装置企業は、中国のAI計算能力を縛る側と支える側の両方に立っている。前工程で比率が落ちた分を後工程で取り返す動きは、企業としては合理的で、規制の設計から見れば穴に見える。国内の半導体装置株を見る投資家にとっても、「中国比率」という一語で括れる時期は終わっている。
二つの壁が崩れる条件と、次に動く3つのスイッチ
中国側は2026年、米国が売ると言い中国が買わないという逆転も見せた。ByteDanceとTencentは2026年8月、NVIDIA H200の輸入初回分をそれぞれ受け取ったと報じられている。この輸入には中国国家発展改革委員会(NDRC)による個別の承認が要り、報道によれば北京はハードウェアの多くを香港など本土外にとどめておくことを望んでいるとされる。輸出管理の関門を抜けても、もう一つの関門が北京側に立っている。
その背景にあるのは調達比率の規制で、政府が公表した自給率の数値目標ではない。2025年8月には国有のデータセンター企業に対しチップの50%以上を国産品にするよう求め、同年11月には政府資金が入るプロジェクトから外国製アクセラレータを排除し、進捗30%未満の案件は撤去対象とした。そして2026年6月、2兆元(2,950億ドル)を5年で投じる全国AIデータセンター網の構想が伝えられ、技術の80%以上を国産調達とし、NDRC主導で2028年に統合する枠組みが示された。50%、全面排除、80%という3つの数字は、対象となる施設の範囲がそれぞれ違う。同じ「国産化率」として並べると、政策の段階が読めなくなる。
2つの壁が崩れるかどうかは、この記事で追った2つの指標が動くかで判断できる。ソフトウェア側は、重みだけを公開するモデルをAscendへ移す工数が、現在の10人×6か月超からオープンソースモデル並みの2〜3人×1か月へどれだけ近づくかである。CANNのオープンソース化はその方向の手であり、torch_npuアダプタがPyTorch本体の変更に追随して安定するか、Huaweiの個別最適化なしに公開モデルが動くかが検証点になる。メモリ側は、CXMTのHBM3が2026年内に量産へ届き、年産200万スタックという推計を上振れさせるかどうかだ。Ascend 910Cの60万個という目標は、この1点で達成可能にも不可能にもなる。
短期で動きうるスイッチは3つある。1つはB30Aの米国認可で、H20の後継として開発されたこのBlackwell系製品はB300のおよそ半分の演算性能とメモリ帯域を持つとされるが、輸出許可はまだ出ていない。2つ目は遠隔アクセスの扱いで、中国のAI企業は東南アジアのデータセンターの計算資源を借りて規制対象チップを使っており、Institute for AI Policy and StrategyのCassia King氏が指摘するとおり、米国の輸出管理は物理的なチップを対象にしていて遠隔アクセスを対象にしていない。これを埋めるRemote Access Security Actは2026年1月に下院を通過したが、上院はまだ可決していない。3つ目はMATCH法の成否で、SCREENが影響を見積もったとおり、成立と履行の形しだいで装置と保守の流れが変わる。
CUDAの20年は、誰かが20年分の資金を積めば買えるものではない。2012年のAlexNetが市販のGTX 580を2枚で動いたときから、フレームワークも教科書も採用事例もCUDAの上に積まれてきたからだ。
中国側がその差を詰めるとしても、同じ道を20年かけて歩き直す必要はない。推論から訓練へ用途を1段ずつ上げながら、国産HBMの量が揃う時点に合わせて移行を進める道が残っている。DeepSeek V4がAscend上で即日推論できたように、公開形態が開かれたモデルほど移行は速い。中国のモデル開発企業がソースコードの公開へ踏み込むほど国産チップへの移行は加速するという関係は、規制の設計側が想定していなかった経路である。



