IDCの速報値によると、2026年7〜9月期の世界スマートフォン出荷台数は前年同期比22.0%減の2億5530万台となり、四半期として過去最大の減少率を記録した。ただし、今回の急減は市場全体が一様に縮小したというより、メモリ価格の高騰によって採算が悪化した低価格帯のスマートフォンが、特に大きな打撃を受けた結果と考えられる。実際、減少した約7200万台のうち9割強にあたる約6620万台が、SamsungとApple以外のメーカーによるものだった。メーカー別の出荷動向に加え、メモリ価格や部品原価、消費者の買い替え行動を分析すると、スマートフォン市場で起きている構造的な変化が見えてくる。
世界スマホ出荷が過去最大の減少、SamsungとAppleの合算シェアは約45%に
2026年7〜9月期の世界スマートフォン出荷台数について、IDCは前年同期比22.0%減の2億5530万台と推計した。前年同期の3億2730万台から約7200万台減少した計算になる。一方、OmdiaとCounterpoint Researchは、いずれも前年同期比20%減と推計している。Reutersの報道によると、Counterpointは7〜9月期の出荷台数が2012年以来の低水準になったと指摘した。いずれも速報値であり、今後改定される可能性がある。
調査会社によって減少率には約2ポイントの差があるものの、SamsungとAppleの市場シェアについては、3社ともほぼ同じ結果を示している。IDCはSamsungが22.6%、Appleが22.4%、OmdiaとCounterpointはそれぞれ23%、22%と推計しており、いずれも上位2社の合算シェアは約45%となった。Omdiaは、この割合が前年同期から約8ポイント上昇したと説明している。
IDCの出荷台数から計算すると、SamsungとAppleの合算シェアは前年同期の37.0%から45.1%へ上昇した。OmdiaとCounterpointのシェアは整数に丸められており、前年同期の基準値も調査会社によって異なるため、数値を厳密に比較することはできない。それでも、スマートフォン市場全体が大幅に縮小するなかで、上位2社への集中が進んだという傾向は共通している。以下では、メーカー別の出荷台数が公開されているIDCの速報値を基に、その変化を詳しく見ていく。
減少した約7200万台の9割強がSamsungとApple以外に集中
IDCの速報値をメーカー別に見ると、出荷台数の減少が特定のメーカー群に集中していることが分かる。2026年7〜9月期と前年同期の出荷台数は次のとおりだ。
| メーカー | 2026年7〜9月期 | 2025年7〜9月期 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| Samsung | 5780万台 | 6140万台 | 5.8%減 |
| Apple | 5730万台 | 5970万台 | 4.0%減 |
| Xiaomi | 3070万台 | 4340万台 | 29.2%減 |
| OPPO | 2560万台 | 3910万台 | 34.5%減 |
| vivo | 1910万台 | 2790万台 | 31.5%減 |
| その他 | 6480万台 | 9600万台 | 32.5%減 |
SamsungとAppleの合計出荷台数は、前年同期の1億2110万台から1億1510万台へ600万台減少し、減少率は5.0%にとどまった。一方、Xiaomi、OPPO、vivo、その他のメーカーを合わせた出荷台数は、2億0640万台から1億4020万台へ6620万台減少し、前年同期比32.1%減となった。メーカー別の減少台数を合計すると7220万台となり、そのうちSamsungとApple以外が占める割合は91.7%に達する。市場全体の減少台数である約7200万台との差は、IDCが公表した各社の数値を丸めていることによるものだ。
前年同期には、SamsungとApple以外のメーカーが世界出荷台数の約63%を占めていた。仮にすべてのメーカーの出荷台数が一律に22%減少していれば、全体の減少分に占める割合も約63%になるはずだ。しかし実際には、減少分の9割強がこのメーカー群に集中している。今回の市場縮小が、メーカー間で大きく異なる影響を及ぼしていることは明らかだ。
ただし、メーカー別の集計をそのまま価格帯別の集計とみなすことはできない。Samsungも低価格帯のスマートフォンを販売しており、XiaomiやOPPOなども高価格帯の製品を展開しているためだ。それでも、調査会社の分析は、今回の出荷減少が低価格帯に集中しているという見方を裏付けている。Counterpointは4〜6月期の分析で、Xiaomi、OPPO、vivoは価格に敏感なエントリークラスからミドルレンジの製品への依存度が高く、その分だけ影響が大きいと説明した。7〜9月期のReutersの報道でも、Xiaomiが利益率を守るために低価格機への依存を減らしたと伝えられている。
IDCのFrancisco Jeronimo氏も、低価格機への依存度が高い中国系メーカーは、利益率を維持するか販売台数を確保するかという難しい選択を迫られていると指摘する。Omdiaも7月の分析で、メーカー各社が2026年に入り、低価格帯から段階的に撤退していると説明していた。こうした動きは7〜9月期に突然始まったものではなく、少なくとも前四半期から続いている。
IDCの4〜6月期速報値を同じ方法で集計すると、SamsungとAppleの合計出荷台数は前年同期比1210万台増、増加率は11.4%だった。一方、それ以外のメーカーは3200万台減少し、16.8%減となっていた。7〜9月期にはSamsungとAppleも前年割れに転じたものの、それ以外のメーカーの減少率は16.8%から32.1%へとほぼ倍増している。つまり、スマートフォン市場全体の落ち込みが加速するなかで、上位2社以外のメーカーへの影響が一段と深刻になったことになる。
メモリ価格高騰が低価格スマホを直撃、値上がり鈍化でも出荷減が続く理由
低価格帯のスマートフォンが特に大きな影響を受けている背景には、メモリ価格の高騰がある。スマートフォンの部品原価(BOM)に占めるメモリの割合は、製品の価格帯によって大きく異なる。Omdiaによると、2026年1〜3月期には400ドル未満の機種でメモリが部品原価の60%近くを占め、99ドル未満の機種では64%を超えていた。低価格機ほどメモリのコスト比率が高いため、同じ割合でメモリ価格が上昇しても、端末全体の原価に与える影響は大きくなる。
ただし、これらの比率は1〜3月期の観測値であり、7〜9月期の部品原価を直接示すものではない。それでも、低価格帯ほどメモリ高騰の影響を受けやすいという構造は、Omdiaの出荷予測にも表れている。同社は5月の時点で、2026年の世界スマートフォン出荷台数が全体では12%減少する一方、400ドル未満の価格帯では22%超減少し、400ドル超の価格帯では5.7%増加すると予測していた。
メモリの供給構造も、スマートフォンメーカーにとって厳しい状況が続いている。主要メモリメーカーがAI向けの広帯域メモリ(HBM)やサーバー向けDRAMへ生産能力を振り向けているため、スマートフォン向けメモリの供給が圧迫されているのだ。Counterpointは、こうした生産能力の移行によって、スマートフォンなどに使われるLPDDR4の供給量が2026年に40%超減少すると予測している。TrendForceも5月の時点で、4〜6月期のLPDDR4Xの平均価格が前期比70〜75%以上、LPDDR5Xが78〜83%上昇すると見積もっていた。
一方、汎用DRAMの契約価格については、7〜9月期に13〜18%、10〜12月期には10〜15%の上昇が見込まれている。ただし、4〜6月期の数値はLPDDR4XやLPDDR5Xの平均価格、7〜9月期以降の数値は汎用DRAMの契約価格を対象としており、同じ指標を継続して測定したものではない。したがって、これらの数値を単純につなげてメモリ価格の上昇率がどれだけ鈍化したかを比較することはできない。
重要なのは、メモリ価格の上昇ペースが落ち着いても、スマートフォンの出荷減少には歯止めがかかっていないことだ。IDCのNabila Popal氏によると、7〜9月期のメモリコスト上昇率は前期比10%台前半にとどまり、それ以前の数四半期に見られた約50〜100%という上昇率から大きく鈍化した。しかし、世界スマートフォン出荷台数の前年同期比減少率は、4〜6月期の6.7%から7〜9月期には22.0%へと拡大している。価格の上昇率が鈍化しても、すでに高騰した価格水準が下がるわけではない。TrendForceも9月30日、メーカーが保有していた比較的安価な部品在庫の枯渇がスマートフォン生産を圧迫しており、コスト上昇は今後も続くと説明している。
Omdiaの9月の予測では、200ドル未満のスマートフォンが市場全体に占める割合は、2025年の40.6%から2027年には25.6%まで低下する見通しだ。市場全体の出荷台数が減少する一方で、販売される製品の構成が高価格帯へ移行するという予測は、メーカー別の出荷減少の偏りとも整合する。低価格機の採算が悪化することで、メーカーが製品の高価格帯への移行を進め、購入者も従来の価格で新品を入手しにくくなっていると考えられる。
日本市場でもスマートフォンの値上げが進んでいる。iPhone 17 Proは7月中旬に明らかになった価格改定で、最低価格が約17万9800円から19万4800円へと約8%上昇した。熊本日日新聞に掲載された共同通信の報道では、メモリ半導体の高騰と円安の影響とみられると説明されている一方、米国では値上げされていない。日本での価格上昇には為替要因も重なっているため、値上げ幅のすべてをメモリ価格の高騰によるものと判断することはできない。
需要低迷も影響、10〜12月期の出荷動向が見極めの焦点に
今回のスマートフォン市場の急減については、メモリ価格の高騰だけでなく、消費者の需要そのものが弱まっているという見方もある。TechNodeによると、IDCが集計した2026年7〜9月期の中国市場の出荷台数は、前年同期比15.4%減の5790万台となり、主要メーカーで2桁成長を記録したのはHuaweiだけだった。ただしIDCは、中国市場の減速についても、メモリやその他の部品コストの上昇が小売価格に転嫁され、消費者の買い替え周期が長期化したことを原因として挙げている。Francisco Jeronimo氏も、価格上昇が店頭に反映されるにつれて、現在の端末をより長く使い続ける消費者が増えていると指摘した。
CounterpointのShilpi Jain氏は、7〜9月期のReutersの報道で、消費者が整備済みスマートフォンや価格に対する価値の高い製品を選ぶ傾向が強まっていると説明した。同氏は4〜6月期の分析でも、当初は部品供給の問題だったものが、現在では需要の問題へと発展したと指摘している。つまり、部品コストの上昇によって新品の価格が高くなり、それが消費者の購買行動を変化させるという連鎖が起きている。
Omdiaも9月の予測で、買い替え周期の長期化、中古スマートフォン市場の拡大、技術の成熟など、5つの構造的な要因を挙げている。特に、旧世代の高価格帯モデルが、新品の低価格機と同程度の価格で購入できるようになり、消費者の選択肢が変化している点を指摘した。また、SamsungとAppleの出荷台数も7〜9月期には前年割れしており、市場全体で需要が弱まっていることは否定できない。ただし、Appleについては、標準モデルのiPhone 18が存在せず、発売月の出荷台数が少なかったことも減少要因だとCounterpointは説明している。
こうした需要側の要因を考慮しても、今回の落ち込みが低価格帯に集中しているという見方は変わらない。IDCが指摘する買い替え周期の長期化も、そもそも部品コストの上昇が端末価格に転嫁された結果として説明されており、メモリ高騰と切り離せるものではない。中古品や旧世代の高価格帯モデルへの需要流出も、Omdiaの分析では新品の低価格機との競合を強める要因となっている。需要の減少と製造コストの上昇が同時に進み、その影響が低価格帯に集中していると考える方が、SamsungとApple以外のメーカーに出荷減少の9割強が偏った事実を説明しやすい。
また、中国市場の減少率は15.4%で、世界全体の22.0%を下回っている。このため、中国市場の需要低迷だけで世界的な出荷急減を説明することも難しい。地域ごとの需要動向に違いがあるとしても、複数の市場で共通して作用するメモリ価格の高騰や、それに伴う低価格機の採算悪化を考慮する必要がある。
CounterpointのYang Wang氏は6月1日に公開した市場見通しで、今回のスマートフォン市場の減速は、新型コロナウイルスの流行期や2022〜2023年に起きた需要主導の落ち込みとは異なり、供給側の問題が発端になっていると説明した。一方、同社のJain氏は4〜6月期の分析で、メモリ危機が需要にも影響を及ぼし、エントリークラスやミドルレンジの端末を従来の価格で販売することが難しくなったと指摘している。両者の説明は矛盾するものではなく、供給側のコスト上昇が端末価格やメーカーの採算を圧迫し、最終的に消費者の需要にも波及したという一連の変化として理解できる。したがって、メモリ価格の高騰を唯一の原因と断定するのではなく、コスト上昇と需要の弱まりが重なり、特に低価格帯で大きな影響が生じたと捉えるのが妥当だろう。
この見方が今後も成り立つかどうかは、IDCが公表する2026年10〜12月期の速報値で検証できる。注目すべき指標は、SamsungとAppleの合計出荷台数の減少率と、それ以外のメーカーの減少率の差、そして上位2社の合算シェアの変化だ。7〜9月期には、両グループの減少率に27.1ポイントの差があり、上位2社の合算シェアも前年同期の37.0%から約45%へ上昇していた。次の四半期で減少率の差が10ポイント未満に縮まるか、上位2社の合算シェアが前年同期を上回らなければ、低価格帯を中心とした市場縮小という見方を再検討する必要がある。なお、10ポイントという基準は今回の分析のために設けた目安であり、IDCが定めたものではない。
反対に、10〜12月期も両グループの減少率の差が10ポイント以上開き、SamsungとAppleの合算シェアが前年同期を上回るようであれば、低価格帯から先に市場が縮小する構図が続いていると判断する材料になる。スマートフォン市場がどこまで縮小するかだけでなく、どの価格帯の製品が市場から失われ、どのメーカーがその影響を受けるのかが、今後の重要な焦点となる。



