Valveの据え置き型SteamOS端末「Steam Machine」は、AMDのFSR 4対応で発売後の評価軸が変わり始めている。ValveはThe Vergeに対し、AMDと協力してFSR 4をSteam Machineへ導入すると説明した。提供時期はまだ示していないが、「coming soon」とし、アップスケーリング画質を大きく改善するはずだとしている。
この話が重要であるのは、Steam Machineの製品設計そのものに関わるためだ。Steam Machineは半独自仕様のAMD RDNA 3 GPUを載せる小型PCで、Valveの公式ページは「FSRによる4K/60fps」を製品の柱に置いている。一方、AMDがGPUOpenで公開しているFSR SDK 2.2では、MLベースのFSR Upscaling 4.1.0はRadeon RX 9000シリーズ以上を要件とし、それ以外のハードウェアではFSR 3.1.5へ戻るとされてきた。Steam MachineへのFSR 4対応は、この境界をSteamOSの実機で越えられるかという問いになる。
FSR 4はSteam Machineの4K表示を支える
Steam Machineは1,049ドルから始まる安くない製品だが、家庭用ゲーム機ではなくSteamOSで動く小型PCだ。Valveの公式ページは、約160mm角の筐体、内蔵電源、Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.3、DisplayPort 1.4、HDMI 2.0、USB-C 1基、USB-A 4基などを訴求し、Steam Controller用の無線アダプタも本体に内蔵すると説明している。SteamOSはゲーム向けに最適化される一方、アプリや別OSを入れられるPCとしての自由度も残す。
その自由度と引き換えに、Steam Machineはゲーム機のような固定された性能プロファイルを持たない。ValveはSteam Machine Verifiedを用意し、各ゲームが同端末でどう動くかを示す仕組みを広げるが、The Vergeのレビューでは、初期状態のAAAタイトルは1080pまたは1440pから4Kテレビへアップスケールして使う場面が多い。8GBのVRAMとミドルレンジ級のGPUを前提にすると、重いゲームをネイティブ4Kで押し切る設計ではない。
FSR 4の意味は、フレームレートを魔法のように増やすことではなく、低い内部解像度から4Kテレビへ出したときの見え方をどこまで自然にできるかにある。FSR 3世代でも解像度を上げる役割は果たせるが、動きのある場面の細部、粒子表現、ゴースト、時間方向の安定性は、リビングの大画面では価格に対する印象を左右する。1,049ドルのSteam Machineで「PCらしさ」を受け入れてもらうには、画質の粗さをユーザーの手作業だけに預けられない。
AMDの公開SDKはまだRX 9000中心に書かれている
AMDがGPUOpenで公開しているFSR SDK 2.2には、FSR Upscaling 4.1.0、FSR Frame Generation 4.0.0、FSR Ray Regeneration 1.1.0、FSR Radiance Cachingの技術プレビューが含まれる。アップスケーリングは低解像度のフレームから高解像度フレームを生成するMLベースの機能で、AMDはゴースト低減、粒子表現の維持、細部と時間方向の安定性を改善点として挙げている。
SDKの設計も従来のFSRから変わっている。ML系の機能を事前ビルド済みの署名済みDLLとして提供し、ゲーム側はFSR APIを通じて呼び出す形を採る。将来のAMD Software: Adrenalin Editionドライバが、ゲームの更新なしにML系技術のバージョンを上げられる仕組みも説明されており、開発者にとっては個別タイトルごとにアップスケーラを丸ごと組み直すより、APIとDLLの組み合わせで更新を受けやすくなる。
ただし、この公開SDKだけを読むとSteam Machineへの道筋はまだ見えない。GPUOpenの要件欄は、FSR Upscaling 4.1.0をRadeon RX 9000シリーズ以上かつShader Model 6.4対応とし、FSR Frame Generation 4.0.0やRay Regeneration 1.1.0はRX 9000シリーズ以上とShader Model 6.6を求める。FSR Upscaling 4は対象外のハードウェアではFSR 3.1.5を自動選択するとも書かれており、Steam MachineのRDNA 3 GPUはこの文書上の標準ルートから外れる。
RDNA 3への拡張がSteam Machineへの道を開く
AMDはその後、FSR 4.1の対象を古いRadeonへ広げる方向へ動いた。AMDは6月22日、AMDがRadeon RX 7000シリーズ向けにFSR Upscaling 4.1を正式投入すると発表した。RDNA 3世代のデスクトップGPUを対象にしたもので、5月時点では7月提供とされていた計画より前倒しになる。AMDのJack Huynh氏は、RDNA 3 APUへ広げるために軽量なMLモデルを開発しているとも説明している。
Steam Machineはデスクトップ向けのRX 7000そのものではないが、GPU世代としてはRDNA 3に属する。ValveがAMDとFSR 4導入を進めているという説明は、AMDがRDNA 3向けに進める軽量化やINT8系の実装が、SteamOS上の製品にも届くかどうかを示す材料になる。
Proton ExperimentalやSteamDB上のFSR 4.1.1 INT8 DLLらしき痕跡は、開発作業の方向をうかがわせる。だが、削除されたマニフェストやユーザーが取得したDLLの動作報告だけでは、Steam Machine向けの提供時期や品質保証は確定できない。現時点で確かなのは、ValveがAMDと協力していること、AMDがRDNA 3へFSR 4.1を広げていること、公開SDKの標準要件がまだRX 9000中心に書かれていることの三点だ。
これを合わせると、Steam MachineのFSR 4対応はすぐ使える追加機能の配布ではなく、AMDとValveがRDNA 3向けのMLアップスケーリングをSteamOSの配布、Proton、ゲーム側のFSR統合とどう接続するかの問題になる。WindowsのAdrenalinドライバでRX 7000に入る機能が、そのままSteamOSで同じ形になるとは限らない。
FSR 4.1が変えるのは解像度ではなく動きの見え方だ
AMDの説明でSteam Machineに効いてくるのは、対応GPUの一覧だけではない。FSR Upscaling 4.1.0の技術文書は、カラー、深度、モーションベクトル、露出、ジッター、HDRなど、ゲーム側が渡す情報の扱いを細かく定義している。FSR 4は過去フレームと現在フレームの情報を使って高解像度画像を再構成するため、モーションベクトルの品質やレンダリングパイプライン上の配置が画質に直結する。
AMDはSDK 2.2で、FSR Upscaling 4.1.0について一部タイトルでの画質改善につながる推論更新と、複数シェーダーの性能最適化を挙げている。GPUOpenの説明では、4.1.0でよりシャープな画像、Ultra Performanceや動的解像度スケーリング時の改善も示されている。ゲームごとに内部解像度を落として4Kテレビへ出す場面が多いSteam Machineでは、この種の改善は平均fpsの数字より体感に出やすい。
FSR 4対応だけでSteam Machineが専用機のような性格を持つわけではない。FSRは対応ゲームの入力情報とレンダリング設計に依存する。Steam Machine側にFSR 4が入っても、ゲームごとの設定、アップスケール元解像度、VRR対応テレビ、Steam Machine Verifiedの判定、開発者が用意するプリセットがかみ合わなければ、ユーザーは引き続き自分で調整することになる。
焦点はSteamOSでの配布方法と対象ゲームへ
Valveの今回の説明で、Steam Machineの4K構想は少し現実味を増した。1,049ドルの小型SteamOS PCが、FSR 3世代の画質に縛られ続けるのか、FSR 4.1のRDNA 3展開に乗れるのかで、発売後の見え方は大きく変わる。ValveがFSR 4を「coming soon」と言ったことは、少なくとも同社がこの点を製品価値の中心に置いていることを示す。
確認すべき点は三つある。第一に、Steam Machineで提供されるのがFSR 4.1のアップスケーリングなのか、MLフレーム生成まで含むのかだ。AMDの公開資料では、Frame Generation 4.0.0はRX 9000シリーズ以上を要件にしており、Steam Machine向けに同じ話として扱う根拠はまだない。第二に、提供経路がSteamOSのシステム更新なのか、Proton Experimentalのような互換レイヤーなのか、ゲーム側のFSR API統合なのかだ。第三に、対象タイトルがどれだけ早くSteam Machine Verifiedや推奨設定へ反映されるかだ。
Steam Machineは、安いゲーム機ではなくPCゲームをテレビへ持ち込むためのValve製の箱として売られる。1,049ドルからという価格帯では、画面が粗く見える場面をユーザーの知識だけで埋める余地は小さい。FSR 4対応はSteam Machineを別物にする切り札ではないが、Valveが掲げる4K/60fpsの体験を実際のリビングで破綻させないための条件になっている。