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ゲーム性能はOSで選ぶ時代?SteamOS、性能でWindows 11を凌駕:PCゲーム覇権交代の始まりか

Y Kobayashi

2025年6月27日

Ars Technicaが公開した最新のベンチマークテストが、業界に衝撃を与えている。Lenovoの携帯ゲーミングPC「Legion Go S」において、ValveのSteamOSがMicrosoftのWindows 11を主要なゲームで上回る性能を示したのだ。これは単なる性能比較に非ず、PCゲーミングの勢力図を塗り替えかねない、歴史的な転換点の幕開けかもしれない。

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衝撃のベンチマーク:特化型OSが汎用OSを上回った日

今回の検証は、テクノロジーメディアArs Technicaが、同一ハードウェア(Lenovo Legion Go S)上でOSを入れ替え、その性能差を厳密に比較したものである。テスト対象となったのは、『Cyberpunk 2077』や『Returnal』といった近年のAAAタイトルを含む5作品だ。

結果は驚くべきものだった。5作品中4作品で、SteamOSがWindows 11よりも高い平均フレームレート(fps)を記録したのである。特にその差が顕著だったのが『Returnal』だ。高グラフィック設定(1920×1200解像度)において、SteamOSが平均33fpsと比較的快適なプレイ水準を維持したのに対し、Windows 11(Lenovo公式ドライバー)は平均18fpsと、プレイが困難なレベルにまで落ち込んだ。

「LenovoのWindowsドライバーからSteamOSに変更することは、プレイ困難な18fpsと、十分にまともな33fpsとの違いを意味した」

Ars Technica

この結果が持つ意味は大きい。約10年前、同メディアがValveの「Steam Machines」構想時代に実施したテストでは、SteamOSはWindowsに対し、性能面で著しく劣っていた。今回の結果は、その状況が完全に逆転したことを示している。長年PCゲーミングの玉座に君臨してきたWindowsが、特定の条件下で挑戦者に明確な敗北を喫した瞬間である。

10年越しの逆転劇、その技術的背景

なぜ、このような逆転劇は可能になったのか。その背景には、Valveによる長年にわたる執念ともいえる技術投資と、両OSの根本的な設計思想の違いが存在する。

Valveの執念が生んだ「Proton」と「Mesa」の進化

SteamOSの心臓部には、Windows向けゲームをLinux上で動作させるための互換レイヤー「Proton」がある。かつて「互換レイヤーは性能低下を招く」というのが常識だった。しかし、Valveはこの常識を覆すべく、Protonの開発に莫大なリソースを投じ続けてきた。その結果、Protonは単なる翻訳機から、Windowsの命令を極めて効率的に処理する最適化エンジンへと昇華した。

さらに、ValveはLinuxのグラフィックドライバー群である「Mesa」の改良にも深く関与してきた。OS、互換レイヤー、グラフィックドライバーというソフトウェアスタック全体でゲームに最適化されたエコシステムを構築したことが、今回の性能向上に直結している。これは、汎用OSであるWindowsでは実現が難しい、垂直統合的なアプローチの勝利と言えるだろう。

「ゲーム専用」という構造的優位性

もう一つの要因は、OSの設計思想そのものにある。Windows 11は、文書作成から動画編集、そしてゲームまで、あらゆる用途を想定した「汎用OS」だ。そのため、バックグラウンドではユーザーが意識しない多数のプロセスが常に稼働しており、これが貴重なCPUやメモリのリソースを消費する。

対してSteamOSは、徹頭徹尾「ゲーミング専用」に設計されている。不要なプロセスを極限まで削ぎ落とし、システムリソースをゲームプレイに集中させる。このOSオーバーヘッドの差が、特にリソースが限られる携帯ゲーミングPCにおいて、決定的な性能差として現れたのだ。

人気YouTuberのDave2D氏が実施した別の比較レビューでは、性能だけでなくバッテリー持続時間においてもSteamOSがWindowsを圧倒する結果が報告されている。インディーゲーム『Dead Cells』のプレイでは、SteamOS版が約6時間以上持続したのに対し、Windows版は3時間弱と半分以下だった。これは、SteamOSの電力効率の高さと、Windowsがバックグラウンドで消費する電力の大きさを如実に物語っている。

露呈したWindowsの「重さ」とドライバー問題

一方で、今回のテストはWindowsが抱える課題を浮き彫りにした。Windows 11は、オフィスワークからクリエイティブ作業、そしてゲーミングまで、あらゆる用途に対応する「汎用OS」である。その万能性と引き換えに、システムは肥大化し、常に多くのバックグラウンドタスクやテレメトリ(情報収集機能)が動作している。これらがゲームパフォーマンスの足を引っ張る「OSオーバーヘッド」となることは、以前から指摘されてきた。

さらに深刻なのは、ドライバーの最適化問題だ。Ars Technicaのテストでは、Lenovoが提供するLegion Go S向けの公式グラフィックドライバーが数ヶ月間更新されておらず、これがパフォーマンス低下の一因となっていた。非公式ながらASUSのROG Ally向けに提供された新しいドライバーを導入することでWindows側の性能は向上したものの、それでもなお多くのテストでSteamOSには及ばなかった。これは、ハードウェアメーカーとMicrosoft、そしてゲーム開発者の連携が複雑化し、最適化が行き届きにくいというWindowsエコシステムの構造的な課題を示唆している。

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携帯機から始まる地殻変動:市場への波及効果

この技術的優位性は、急成長する携帯ゲーミングPC市場の勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めている。

加速する携帯ゲーミングPC市場のOS戦争

Nintendo Switchの空前の成功以降、携帯ゲーミングPC市場は活況を呈している。調査会社IDCのデータによれば、Steam Deckの推定販売台数が400万台に達する一方、ROG AllyなどWindows搭載機の合計は200万台に留まる。既に市場はValveの戦略を肯定し始めているのだ。

今回の結果は、この流れをさらに加速させるだろう。LenovoがSteamOS版のLegion Go SをWindows版より約130ドルも安価に設定している点は注目に値する。これはWindowsのライセンス費用が不要なためだ。「高性能」かつ「低価格」という、消費者にとって極めて魅力的な選択肢が生まれたことで、ASUSやMSIといった他のメーカーも追随を迫られる可能性は高い。

Microsoftの焦燥と反撃の狼煙

もちろん、王者Microsoftも手をこまねいているわけではない。同社はこの問題を認識しており、今後のアップデートで「Xbox Experience for Handheld」と呼ばれる携帯機向けの最適化を行うと発表している。これは、ゲームプレイ中のバックグラウンドタスクを最小限に抑え、パフォーマンスを向上させる狙いだ。

しかし、これは対症療法に過ぎないかもしれない。SteamOSの優位性は、OSの根幹、カーネルレベルの設計思想に根差している。汎用OSとしての互換性や機能を維持したまま、特化型OSの効率性にどこまで迫れるのか。Microsoftは極めて困難な舵取りを迫られているのではないだろうか。

ゲーマーと開発者が迫られる「選択」の時代

このOS覇権戦争は、我々ユーザーとゲーム開発者にも新たな「選択」を迫る。

現状、ユーザーが享受できるメリット・デメリットは明確だ。最高のパフォーマンスとバッテリー効率、そして洗練されたUXを求めるならSteamOS。一方で、『Fortnite』や一部のアンチチート搭載タイトル、そしてPC Game Passとの完全な互換性を重視するならWindows、という構図になる。

だが、長期的にはこの構図も変化するかもしれない。SteamOS搭載機のシェアが拡大すれば、ゲーム開発者にとってLinux/Protonへの対応は「やれたらやる」から「やらねばならない」に変わる。開発のデファクトスタンダードがWindowsから徐々にシフトしていく可能性すら、もはや絵空事とは言えなくなってきた。

10年前、誰もが不可能だと考えた挑戦が、今、現実のものとなった。この小さな携帯機から始まった地殻変動が、PCゲーミングの未来をどう形作っていくのか?今後の展開が楽しみだ。


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