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Stellantisが半固体電池の実用化に前進、2026年に「Dodge Charger」に搭載へ

Y Kobayashi

2025年4月25日

Stellantisは、提携するバッテリースタートアップFactorial Energyの半固体電池セルの検証成功を発表した。このFEST技術は18分での急速充電と高いエネルギー密度を両立し、2026年の実証車両搭載を目指すことで次世代EVバッテリーの実用化に大きく近付いた。

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高性能「FEST」技術、18分で90%充電達成

Stellantisと米国のバッテリースタートアップ、Factorial Energyは2025年4月24日(現地時間)、車載用途サイズの半固体電池セルの検証に成功したと発表した。これは、次世代EV(電気自動車)バッテリーの実用化に向けた大きな一歩となる。

Stellantisは、日本でも人気のJeepや、FIAT、Peugeot、Citroën、Alfa Romeoなど、多様なブランドを傘下に持つ世界有数の自動車メーカーだ。同社は2021年にFactorial Energyに対し7500万ユーロ(約12億円)を出資しており、今回の成果はこの戦略的提携の重要なマイルストーンである。

今回検証されたのは、Factorial Energyの「FEST® (Factorial Electrolyte System Technology)」と呼ばれる技術を採用した77Ah(アンペア時)のセルである。この技術は、従来のリチウムイオン電池で用いられる液体電解質の代わりに、ゲル状または固体に近い電解質を使用する「半固体電池」に分類される。Factorial Energyの技術は、特にリチウム金属負極(充電時に活物質が析出する側)の安定化に重点を置いたポリマーベースのシステムであるとされる。

驚異的な性能スペック:

  • エネルギー密度: 375Wh/kg。これは現在のリチウムイオン電池の業界平均(200~300Wh/kg)を大幅に上回る値であり、より少ないバッテリー容量で長い航続距離を実現したり、車両の軽量化に貢献したりする可能性を示す。
  • 急速充電: 室温環境下で、バッテリー残量15%から90%までをわずか18分で充電可能。EVの利便性を大きく向上させる。
  • サイクル寿命: 600回以上の充放電サイクルを経ても性能を維持。車載用としての耐久性基準達成に向けて前進している。
  • 高出力: 最大4Cの放電レートに対応。これはバッテリー容量の4倍の電流を1時間で放電できる能力を示し、EVの加速性能など、高いパフォーマンス要求に応えることができる。
  • 動作温度域: -30℃から45℃(-22°Fから113°F)の広い温度範囲での動作を確認。従来の固体電池技術の限界を超え、様々な気候条件下での安定した性能が期待される。

Stellantisは、この先進的なバッテリーセルを2026年までに実証用の車両フリートに搭載する計画を既に発表している。具体的には、同社の象徴的なマッスルカーのEV版である「Dodge Charger Daytona」のプロトタイプがテスト車両として使用される予定だ。Dodge Charger Daytonaはパフォーマンス重視のモデルであり、このバッテリーの高出力特性を実証するのに適していると言える。

次世代バッテリー開発競争とStellantisの戦略

EVの普及において、バッテリー技術の進化は最も重要な要素の一つである。現在の主流であるリチウムイオン電池は性能向上を続けているが、さらなる航続距離の延伸、充電時間の短縮、安全性向上、そしてコスト削減を目指し、世界中の企業が次世代バッテリーの開発にしのぎを削っている。

その中でも「全固体電池」は、液体電解質を固体に変えることで、理論的にはエネルギー密度や安全性を飛躍的に高められる「切り札」として期待されている。しかし、製造コストや耐久性、動作温度などの課題が多く、実用化には時間がかかると見られていた。

Factorial Energyが今回検証に成功した「半固体電池」は、完全な固体ではないものの、固体電池の利点を取り入れつつ、既存のリチウムイオン電池製造プロセスとの親和性も考慮された、より現実的なアプローチと言える。Factorial EnergyのCEO、Siyu Huang氏は、「単一の特性を最適化するのは簡単だが、車載サイズのバッテリーで高いエネルギー密度、サイクル寿命、急速充電、安全性をバランスさせることはブレークスルーである」と述べており、今回の成果が単なるスペック向上ではなく、実用化に向けた重要な進歩であることを強調している。

実用化への課題と展望

Factorial Energy自身も、開発初期の20Ahセルから現在の77Ah/100Ahクラスのセルへとスケールアップする過程で、「生産地獄」を経験したと認めている。材料や生産歩留まりに関する多くの課題を乗り越えてきたという。

また、現時点でのコストは依然として大きな課題である。Huang氏によれば、現在のAサンプル(初期試作品)のコストは、量産されているリチウムイオン電池セルの10倍から30倍にもなる可能性があるという。しかし、今後の量産規模の拡大や、大手バッテリーメーカーとの提携などを通じて、コスト削減には慎重ながらも楽観的な見通しを示している。

この技術がもたらす潜在的なメリットは大きい。バッテリーパック単体で約90kgの軽量化が可能であり、さらに固体(半固体)電池は構造的な補強や冷却システムの簡素化が期待できるため、車両全体では220kgから900kgもの軽量化につながる可能性があるという試算もある。車両重量0.45kgあたり5ドルのコスト削減が見込めるとする業界の一般的な指標に基づけば、理論上は1台あたり2,500ドルから10,000ドルのコスト削減ポテンシャルも秘めている。もちろん、これは将来的な目標であり、技術が成熟し量産が軌道に乗ることが前提となる。

Stellantisの最高技術責任者であるNed Curic氏は、「このブレークスルーは我々を全固体電池革命の最前線に立たせるものだが、ここで止まるつもりはない。我々は協力して限界を押し広げ、さらに先進的なソリューションを提供し、顧客のためのより軽量で効率的、かつコストを削減できるバッテリーに近づけていく」とコメントしている。

StellantisとFactorial Energyの取り組みは、セル開発に留まらず、バッテリーパックの構造最適化、車両への統合効率向上、そして航続距離とコスト効率の全体的な改善にまで及んでいる。

全固体電池については、トヨタ自動車が2028年までに航続距離1000km超を実現する全固体電池の量産を目指すと発表しているほか、VolkswagenとQuantumScapeの提携、Mercedes-BenzやHyundaiのFactorial Energyへの出資、ホンダの計画、そして中国のCATLやBYDといった巨大バッテリーメーカーの急速な技術開発など、競争は激化している。今回の発表は、Stellantisがこの次世代バッテリー開発競争において、確かな一歩を踏み出したことを示すものである。


Sources

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