Supra Elemental Recoveryは9月30日、北米の産業副産物から高純度スカンジウムを回収する研究について、米国防総省の国防兵站局(DLA)から契約を受注したと発表した。対象は、中小企業の研究開発を支援するSBIRのPhase Iで、同社の分離技術をスカンジウムを含む原料に適用できるかを評価する。
スカンジウムは航空宇宙向けの合金や燃料電池などに使われる一方、米国は供給を輸入に依存している。テキサス大学オースティン校から生まれたSupraが今回試すのは、国内の産業副産物に含まれるスカンジウムを分離し、製造業で利用できる材料へつなげる技術だ。
同社の特徴は、3Dプリントしたスポンジ状のカートリッジに目的の元素を吸着させ、後から取り出すという構想にある。ただし、今回の受注発表が示しているのは、スカンジウムを含む原料への適用可能性を調べる研究の開始であり、量産時の回収率や純度を実証したものではない。
特定のイオンを選択的に捕らえる化学的な仕組みと、液体を効率よく流す多孔質構造を組み合わせた技術が、実際の工場で扱う複雑な原料にも通用するのか。その結果が、米国内で新たなスカンジウム供給源を作れるかを左右する。
米国が輸入に頼る理由は、資源そのものの少なさではない
米地質調査所(USGS)の『Mineral Commodity Summaries 2026』によると、米国では2025年、スカンジウムの商業的な採掘・回収は行われておらず、見掛け消費量に対する純輸入依存度は100%だった。小規模なスカンジウム金属の精製設備は存在するものの、国内資源から商業規模で回収する能力とは別である。
スカンジウムは、航空宇宙部品などに使われるアルミニウム合金や、発電用の固体酸化物形燃料電池などに利用される。
供給が難しい理由は、スカンジウムが地球上にほとんど存在しないからではない。USGSは、資源としては広く存在する一方、高濃度でまとまって産出することが少なく、経済的に回収できるものの多くは他の金属を生産する際の副産物として得られると説明している。世界の生産も、ニッケルやチタンの処理工程や、すでに処理された尾鉱・残渣などからの回収に依存している。
そこで必要になるのが、大量の他成分に混じった少量のスカンジウムを選択的に取り出す技術だ。原料にスカンジウムが含まれているだけでは、顧客が購入できる材料にはならない。濃縮や精製にかかる費用まで含めて、商業的に回収する価値があるかを判断する必要がある。
日本も、このサプライチェーンの一部を担っている。USGSが出荷記録から把握した2021〜2024年の米国向け酸化スカンジウムの輸入元は、日本が89%、中国が11%だった。
ただし、スカンジウムには専用の貿易コードがないため、付加価値の高い中間材料や完成品に含まれるスカンジウムはこの統計に含まれない。この数字を、米国で使われるすべてのスカンジウムの原料産地を示す割合とみなすこともできない。
同じUSGS資料では、フィリピンで得られたスカンジウムを含む材料を日本へ送り、酸化物へ加工する流れも紹介されている。資源を回収する国と、精製する国が同じとは限らない。
Supraが目指しているのは、このサプライチェーンのうち、副産物から目的元素を分離する工程を米国内へ新たに構築することだ。
3Dプリントした多孔質カートリッジで元素を選択的に回収する
Supraが2月3日の事業開始時に示した工程では、まず産業廃棄物を溶解し、その液体を再利用可能なカートリッジへ通す。カートリッジが目的の元素を選択的に吸着し、その後に放出させて回収する。
複数の元素を順番に分離することを想定した仕組みであり、固体の廃棄物をそのままフィルターへ通して元素をふるい分けるものではない。
テキサス大学オースティン校の説明では、3Dプリントした多孔質材料がスポンジのように働き、水やアルコールを使って金属を回収すると説明している。溶媒抽出とイオン交換の利点を組み合わせるという。
ここで重要なのは、孔の大きさだけで金属イオンを選別しているわけではないことだ。目的のイオンを化学的に捕らえる仕組みと、液体が材料内部まで行き渡る多孔質構造の両方を利用する。
その考え方を理解する手掛かりとなるのが、Supraの技術発明者でもあるJonathan Sessler氏、Zachariah Page氏らが関わった研究だ。Keldy S. Mason氏らが2024年に査読誌Journal of the American Chemical Societyで発表した「3D-Printed Porous Supramolecular Sorbents for Cobalt Recycling」では、コバルトを対象に同様の考え方を試している。
公開されている著者稿によると、金属イオンと相互作用する「分子受容体」をアクリル系高分子の骨格へ固定し、その材料を多孔質の形状に成形した。光で樹脂を硬化させる3Dプリントと、重合時に材料が相分離する現象を組み合わせ、微細な孔と部材全体の形状を作り込んでいる。
液体と接触する表面積や、イオンが材料内部を移動する距離を調整することで、吸着できる量や速度を変えられる。
さらに、吸着した金属を回収するには、金属を保持する力を切り替える必要がある。この研究では、エタノール中で塩化コバルトを吸着させた後、水へ移すことでコバルトを放出できた。溶媒の極性が変化し、イオンと周囲の溶媒との相互作用が変わるためだ。
分子受容体を固体材料へ固定しておけば、金属を取り出した後もカートリッジ側の材料を再利用できる。
再利用試験では、吸着と放出をそれぞれ12時間行い、5回繰り返しても性能に統計的に有意な変化は確認されなかった。結果は独立した3回の試験の平均である。
コバルトとリチウムを分離する実験も行われたが、使用したのは両者の塩をエタノールへ溶かした模擬浸出液だった。スカンジウムを含む実際の産業副産物を連続処理した結果や、工場での長期耐久性を示すものではない。
基礎実証と原料評価、商業運転は分けて考える
産業副産物からスカンジウムを回収する事業自体は、すでにカナダで実用化されている。
Rio Tintoは、ケベック州で二酸化チタンを製造する際に生じる副産物流を利用し、Sorel-Tracyの商業規模実証施設で2022年5月に高純度酸化スカンジウムを初めて生産したと説明している。同社によれば、この回収のために新たな採掘を行う必要はない。
現在公開されている資料が示す技術段階は、コバルトを対象とした基礎実証、Supraによるスカンジウム原料への適用可能性の評価、Rio Tintoによる副産物からの商業規模の回収に分けられる。
| 公開資料・時点 | 対象と確認された段階 | 供給能力を判断する際の限界 |
|---|---|---|
| Mason氏らの論文、2024年 | コバルト塩の吸着・放出、5回の再利用などを基礎実証 | 現在のスカンジウム用カートリッジと材料組成が同じとは確認できず、スカンジウム量産時の性能も示していない |
| Supraの受注発表、2026年9月30日 | 北米の産業副産物へ分離技術を適用できるかを評価するPhase I研究 | 達成できる純度、回収率、処理量などの数値は公表されていない |
| Rio Tintoの操業説明、初回生産は2022年5月 | 二酸化チタン製造時の副産物流から酸化スカンジウムを回収 | Supraとは異なる技術による操業事例であり、Supraの性能を裏付けるものではない |
この分類は、異なる技術の回収率やコストを同条件で比較したものではない。副産物からスカンジウムを供給する事業がすでに存在することと、Supraの新しい分離材料が特定の原料で実用になることは別々に確かめる必要がある。
USGSが2025年について「米国内では商業回収が行われていない」としていることも、カナダで商業規模の回収が行われていることとは矛盾しない。
また、酸化スカンジウムを回収できても、そのまま航空機向けの合金に使えるわけではない。そこから金属や合金へ加工し、用途ごとの規格を満たす工程がさらに必要になる。
Supraの研究が対象としているのは、そのサプライチェーンの上流に位置する分離・回収工程である。
国内供給への距離を決めるのは、実際の原料と連続運転
DLAの制度説明によると、SBIRのPhase Iでは技術の実現可能性を評価し、Phase IIでは工程や製品の試作・概念実証を進め、Phase IIIで商業利用を目指す。今回の契約は、その最初の段階に位置する。
Supraは契約額や、評価に使う具体的な原料の詳細を公表していない。国防総省の支援を受けたことだけから、商業生産の開始時期を予測することはできない。
同社は2月、従来方式と比べて選択性と処理速度が最大100倍になるという初期結果を示し、200万ドルのプレシード資金を調達したことも発表した。
ただし、この「100倍」については、比較対象となる方式や原料条件、性能の絶対値が発表資料からは分からない。企業が示した初期段階の評価であり、スカンジウムの生産量が100倍になることを意味するものではない。200万ドルの資金調達額も、今回の研究契約の金額とは別である。
工場で実用になるかを判断するには、どの原料から、どれだけのスカンジウムを回収し、最終的にどの程度の純度まで高められるかを確かめる必要がある。
純度が高くても、原料に含まれるスカンジウムの多くを取り逃せば、供給源としての価値は下がる。逆に高い回収率を達成しても、他の元素が大量に混入すれば、その後に追加の精製工程が必要になる。純度と回収率の両方を、実際に使う原料ごとに評価しなければならない。
さらに、事業としての採算はカートリッジ単体の性能だけでは決まらない。産業副産物を分離処理に適した液体へ変える前処理にもコストがかかる。使用する溶媒をどこまで再利用できるか、カートリッジがさまざまな不純物にさらされても性能を維持できるかによっても、運転費は変わる。
公開研究で示された吸着と放出のサイクルを、実際の工場で液体を連続的に流しながら繰り返す工程へ移行できるかが、商業化に向けた重要な条件になる。
今回のDLA支援で問われるのは、米国内の産業副産物にスカンジウムが含まれているという事実を、実際に利用できる回収工程へつなげられるかである。
実際の産業副産物を使って純度と回収率を安定させ、前処理やカートリッジの再利用まで含めたコストを示すことができれば、Supraの技術は既存の工場から新たな重要鉱物を取り出し、米国内のスカンジウム供給を補う選択肢になり得る。
