独Ferdinand-Braun-Institut(FBH)と英ストラスクライド大学、ケンブリッジ大学の研究チームが、遠紫外線(far-UVC)を出すLEDを使い、最大1.5 Gbpsの光無線通信を実証した。FBHは2026年9月30日、235 nm未満の波長を使った光無線通信として最高速度だと発表した。
遠紫外線は地表に届く太陽光の影響を受けにくく、屋外でも背景雑音を抑えやすい。今回、LEDを使ってギガビット級の通信が可能であることを示した意味は大きい。ただし、実験は室内で送受信器を向かい合わせた30 cmの通信であり、応答帯域が最も広いLEDが最高の通信速度を記録したわけでもない。実験結果からは、LEDの微細化や信号処理による高速化だけでなく、受信器へ十分な光を届けることの重要性も見えてくる。
30 cmの通信で最大1.5 Gbps
Hichem Zimi氏らの研究は、査読を経た会議論文として「CSNDSP 2026」の会議録に収録された。学会は7月15~17日に開催され、大学の研究記録では論文の公開日は8月24日となっている。9月末のFBHによる発表は、この研究成果を改めて広く紹介したものだ。大学の論文情報
送信器には、FBHが作製した窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)製のLEDを使った。論文では「235 nm」のLEDとして扱っているが、実際に測定された発光ピークはおおむね233~234 nmで、発光スペクトルの半値全幅(FWHM)は約10 nmだった。
半値全幅とは、ピークの半分以上の強さで光っている波長範囲の広さを示す。つまり、このLEDは一つの波長だけを出す光源ではなく、ピークを中心とした一定の波長範囲に光を放っている。
研究チームは2枚のレンズでLEDの光を集め、約30 cm先に置いたアバランシェフォトダイオード(APD)で受信した。APDは、弱い光を電気信号へ変換するとともに、内部で信号を増幅できる受光素子だ。
FBHによると、測定は通常の室内照明の下で行われた。太陽光による雑音を受けにくい波長を利用する利点はあるものの、今回の1.5 Gbpsは屋外環境で確認された速度ではない。
高速化には、LEDそのものの改良だけでなく、信号の送り方も効いている。研究チームは以前、同じ微細構造のLEDを使い、光のオン・オフによって情報を送る方式と等化処理を組み合わせて650 Mbpsを実証していた。
今回は、直流バイアスを加えた光OFDMを利用した。データを複数の周波数成分へ分け、それぞれの信号対雑音比(SNR)に応じて、載せるビット数と電力を変える方式だ。状態のよい周波数成分には多くの情報を載せ、雑音の影響を受けやすい部分には少なくすることで、限られた通信帯域を効率よく使う。
最大1.5 Gbpsは、ビット誤り率3.8×10⁻³を基準として評価した伝送速度である。これは受信したすべてのビットに誤りがなかったという意味ではなく、前方誤り訂正(FEC)を利用することを前提とした基準だ。
また、送信波形の生成と受信後の復調処理はオフラインで行われた。したがって、今回の数字は通信方式そのものの性能を示すものであり、常時動作する完成済みの通信機器や、利用者が実際に得られるデータ転送速度を実証したものとは分けて考える必要がある。Zimi氏らの会議論文
帯域が最も広いLEDが、最高速度だったわけではない
実験では、標準型の「Std」、中間サイズの「S2」、発光面積が最も小さい「S3」という3種類のLEDを比較した。いずれもチップ自体は1 mm角だが、実際に光を出す部分の形状と面積が異なる。
S2とS3では、小さな正方形の発光部分を複数並べ、S2は22個、S3は8個を電気的に並列接続している。
発光部分を小さくすると、半導体の接合部に電荷を蓄える性質である「接合容量」を小さくできる。また、同じ電流をより狭い面積へ流すことで電流密度が高まり、発光に関わるキャリアの再結合時間も短くなる場合がある。こうした効果によって、LEDが電気信号の変化へより速く追従できるようにするのが微細化の狙いだ。
ところが、通信速度の順位は帯域の広さとは一致しなかった。
発光面積が最も小さいS3は、−3 dB帯域が140.8 MHzと3種類の中で最も広かった。しかし、最高通信速度は1.3 Gbpsにとどまり、65.8 MHzの標準型が記録した1.5 Gbpsを下回った。
| LED設計 | 帯域測定時の電流 | 同条件の光出力 | −3 dB帯域 | 最高通信速度 | 最高速度時の電流 |
|---|---|---|---|---|---|
| 標準型Std | 70 mA | 1.73 mW | 65.8 MHz | 1.5 Gbps | 100 mA |
| 中間型S2 | 20 mA | 0.64 mW | 91.3 MHz | 1.5 Gbps | 70 mA |
| 最小型S3 | 20 mA | 0.63 mW | 140.8 MHz | 1.3 Gbps | 50 mA |
出典:Zimi氏ら、CSNDSP 2026。著者稿のTable IIに記載された帯域・光出力と、III節およびFig. 6の最高速度・駆動電流を組み合わせた。帯域と光出力は同じ動作点で測定した値だが、最高通信速度はそれぞれ別の電流で得られている。通信距離は約30 cmで、前述のビット誤り率を基準としている。公開著者稿
−3 dB帯域は、LEDへ加えた電気信号の変化に対する応答が、低い周波数を基準として3 dB低下する周波数を示す。値が大きいほど高速な変化を伝えやすいが、その数字がそのまま1秒間に送れるビット数になるわけではない。
OFDMでは、一つの周波数成分に複数のビットを載せられる。そのため、MHzで示される帯域幅を、そのままMbpsの通信速度へ置き換えることもできない。
研究チームは、S3の広い帯域が最高通信速度につながらなかった理由として、受信光量と雑音の影響を挙げている。発光面積を小さくしたLEDは光出力も小さくなり、受信側で得られるSNRが低下した。
LEDそのものが高速に明滅できても、受信器へ十分な光が届かなければ、その変化を正確に読み取れない。結果として、一つひとつの周波数成分へ多くの情報を載せにくくなる。
つまり、LEDを小さくして帯域を広げれば、それだけで通信速度が上がるわけではない。論文でも、熱の影響と電流の流れ方が性能へ与える影響を十分に分離できていないとしている。
今後さらに高速化するには、LEDの応答を速くすると同時に、光を効率よく受信器へ集める仕組みや、受光器の感度を高めることも必要になる。
太陽光の雑音が少なくても、遠くまで届くとは限らない
280 nm未満の太陽由来の紫外線は大気上層でほぼ吸収され、地表にはほとんど届かない。可視光や赤外線を使う光通信と比べると、UVC帯では太陽光が受信器の背景雑音になりにくい。FBHが屋外通信への応用に期待する理由の一つだ。FBHの発表
ただし、太陽光による雑音が少ないことと、送信した信号が遠くまで十分な強さで届くことは別の問題だ。
LEDから出た光は距離とともに広がり、受信器へ入る割合が小さくなる。距離を延ばせば、今回の実験でも通信速度を左右したSNRは下がりやすい。太陽光という外部雑音を抑えられても、受信する光そのものが弱くなる問題は残る。
通信距離を考える手掛かりとして、同じ研究グループが2025年に「Optics Express」で発表した別の研究がある。
市販のLEDを使った見通し通信では、235 nmのLEDで2 m・1 Gbps、10 m・0.5 Gbpsを達成した。一方、255 nmのLEDでは2 mで2 Gbps、30 mで0.9 Gbpsを記録した。
したがって、先行研究について「最大2 Gbpsを30 mで実現した」とまとめたり、「235 nm帯で30 mまでギガビット級通信を実現した」と説明したりすると、異なる条件の結果を組み合わせることになる。2025年の先行論文
前年の実験と今回の実験では、使用したLEDも通信距離も異なる。今回の30 cm・1.5 Gbpsと、以前の2 m・1 Gbpsを単純に比較して、微細化によって何%性能が向上したと計算することはできない。
それでも、波長や送信光量によって到達距離と通信速度が変わることや、UVCを使ったギガビット級光無線通信の研究が継続して進んでいることは分かる。
遠紫外線には、空気中の分子によるレイリー散乱が、波長が短いほど強くなるという特徴もある。送信した光の一部が空気中で別の方向へ散乱すれば、送信器と受信器が真正面から向き合っていなくても信号を受け取れる可能性がある。
これは光が壁を通り抜けるという意味ではない。空気中で散乱した光を、直接とは異なる経路から受信する「非見通し通信」の考え方だ。
FBHは今後、こうした非見通し通信でどの程度の距離まで利用できるのか、また環境条件が通信へどのように影響するのかを調べるとしている。
今回の1.5 Gbpsは、送信器と受信器の間に直接の光路を確保した実験結果である。障害物がある状況でも同じ速度を出せるわけではなく、散乱した弱い光をどこまで効率よく受信できるかが次の課題になる。
人の近くで使うには、波長だけで安全性を判断できない
約233 nmの光は、従来の殺菌用紫外線として使われる254 nmの光と比べ、皮膚の表面で強く吸収され、深部まで届きにくい。この性質から、人がいる空間でも遠紫外線を利用できる可能性が研究されている。
ただし、「遠紫外線だから人体に安全」と波長だけで判断することはできない。今回の通信論文でも、安全性については引き続き研究が必要な分野としている。
David Welch氏らが「Photochemistry and Photobiology」に報告した別の研究では、長波長側の不要な光を抑えるフィルターを備えた233 nmのLEDを使い、人の皮膚組織などへの影響を調べた。
2人のドナーから得た皮膚組織へ100 mJ/cm²を照射し、30分後に調べたところ、表皮細胞の約8%で、DNA損傷の一種であるシクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)が確認された。同じ照射量の254 nm光では約45%だった。
233 nmの光が254 nmより深部へ影響しにくいことを示す結果ではあるが、DNAへの影響が完全にゼロだったわけではない。Welch氏らの皮膚安全性研究
この研究で使われた人の皮膚組織は、同じ皮膚タイプの2人のドナーから得たものに限られる。著者らも、年齢や皮膚の色などが異なる人を含め、さらに検証する必要があるとしている。
また、この研究では光学フィルターを備えた照射装置を使っている。同じ233 nm付近のLEDだからといって、その結果を今回の通信用LEDへそのまま当てはめることはできない。
人体への影響を考える際には、発光ピークの波長だけでなく、その周囲にどの程度の波長成分が含まれるか、どの強さの光をどれだけの時間浴びるかによって決まる累積照射量も確認する必要がある。皮膚への影響を調べた結果だけで、眼を含む長期的な安全性まで保証することもできない。
実用化するには、必要な距離で通信できるだけの光を受信器へ届けながら、人が受ける遠紫外線の量を許容範囲に抑える装置設計が求められる。
受信器の感度を高めたり、より効率よく光を集めたりできれば、通信速度や距離を伸ばせるだけでなく、必要な送信光量そのものを減らせる可能性もある。
求める通信距離と速度を、人が許容できる照射条件の範囲内で同時に実現できるか。その両立が、遠紫外LEDによる高速通信を研究室の実験から、人のいる環境で使える技術へ進めるうえで重要になる。
