Teslaの次世代AI推論プロセッサー「AI5」について、Samsungの製造工程に合わせた設計がテープアウトに到達した。Samsung FoundryのプリンシパルエンジニアであるJames KimはLinkedInで、米テキサス州テイラー工場の「最新2nm工程」で製造し、Teslaの新製品に組み込む予定だと記した。投稿は報道後に削除され、Samsungも顧客に関わる案件へのコメントを控えている。このため、これは製造当事者が明かした重要な進捗だが、Samsungの正式発表ではない。
テープアウトは量産開始を意味しない。Teslaは2026年4月にAI5の最終チップ設計を完了したと公表しており、今回はその設計をSamsungのトランジスタ、配線、設計ルールに合わせた物理データへ落とし込んだ段階に当たる。ここからフォトマスクを作り、ウェーハを流し、動作する試作チップが得られて初めて性能と量産性を検証できる。
4月の設計完了から、Samsung向けマスクデータへ
Elon Muskは4月15日、TeslaのAIチップ設計チームに「AI5のテープアウト」を祝う投稿を送った。4月22日の2026年第1四半期資料でも、Teslaは「4月に次世代AI5推論プロセッサーの最終チップ設計を完了した」と説明している。ただし、この時点の対外説明は、Samsung版のマスク用データが完成したことまで明示していなかった。
ASICの開発では、機能を定めた論理設計を、実際のトランジスタと金属配線の位置へ変換する。その後、タイミングと消費電力を解析する。配線の混雑を解消し、製造ルールへの適合も検査して、GDSIIなどの最終データをファウンドリに渡す。同じAI5という名前でも、Samsung版とTSMC版はこの作業を個別に行う必要がある。
今回の投稿が新しいのは、Samsung版の物理実装がその検査を終え、実チップの製造へ渡せる状態になった点である。とはいえ、Teslaの公式計画はAI5の生産を2027年としている。Kim氏の「間もなく組み込まれる」という表現に具体的な日付はなく、製品搭載を数週間後の出来事と解釈する根拠もない。
同じAIソフトを、二つの物理版で動かす
Teslaの製造分担は、4カ月で書き換わった。2025年7月にMusk氏は、SamsungがAI4を製造し、TSMCがAI5を、Samsungのテイラー工場がAI6を担当すると説明していた。ところが同年11月、AI5とAI6の両方をSamsungとTSMCで作ると説明を更新した。両社は設計を物理形状へ変換する方法が異なるため、わずかに異なるAI5ができるが、TeslaのAIソフトウェアを同じように動かすというのが同社の目標である。
二社併用によって、Teslaは二つの先端工程から生産能力を確保し、立ち上げリスクを分散できる。一方で歩留まりの改善が遅れても、もう一方から供給できる可能性を持てる。その代わり、Teslaは配置配線からタイミング、電力、テストまで二組の物理実装を検証し、同じ学習済みモデルが両方で同等に動く環境を維持しなければならない。開発費も検証工数も増える。
Teslaがそのコストを負うのは、AI5を大量に使う計画だからだ。2025年第4四半期資料では、AI5をAI4比50倍の性能へ引き上げる目標を掲げ、演算能力を10倍、メモリ容量を9倍にすることに加え、量子化とsoftmax演算のハードウェア処理による5倍の改善を挙げている。どの指標を組み合わせた「50倍」なのかは詳しく開示されておらず、現時点ではTeslaの設計目標である。
SF2の性能目標とテイラーの量産設備
Samsungが2023年に示した第1世代の2nm工程「SF2」は、3nmのSF3と比べて性能を12%高め、電力効率を25%改善し、チップ面積を5%縮めるとしていた。2nmの量産対象は2025年のモバイルから2026年のHPC、2027年の自動車へ広げる計画だった。AI5の開発時期は、HPCから自動車へ対象を広げるSamsungの2nm量産計画と重なる。
これらはSamsungが公表したSF2とSF3の工程間目標であり、AI5そのものの性能差ではない。さらにKim氏の投稿は「最新2nm工程」と記すだけで、SF2P+、SF2T、SF2Zといった派生プロセス名を挙げていない。工程の世代名を外から当てはめると、性能と生産時期の両方を誤る。
Samsungの2026年第1四半期決算は、先端工程のラインが第2四半期にフル稼働となる見通しと、大口の2nm顧客を増やす方針を示した。下期には第2世代2nmのモバイル向け生産を拡大する。ただし、この決算資料はAI5を名指ししておらず、先端ラインがテイラーにあるとも書いていない。個人投稿と企業開示の間には、なお確認が必要な部分が残る。
テイラーの設備は、米政府がSamsungに最大47億4500万ドルを直接支援する先端半導体拠点の一部である。Samsungはテキサス州中部に370億ドル以上を投じ、テイラーに2つの先端ロジック工場と研究開発工場を整備する。米国立標準技術研究所の資料は2nmの大量生産を目的に挙げる一方、計画する設備を2030年までに稼働させる予定としている。AI5のテープアウトは、この長期計画に具体的な顧客製品を結びつけた。
2027年までに残る試作と同等性の検証
AI5の細かい製造計画は、両ファウンドリの公開ロードマップともまだ完全にはかみ合っていない。Musk氏はTSMC版AI5を当初は台湾、その後にアリゾナ州で作ると説明していた。一方、米政府が公開するTSMCのアリゾナ州拠点の計画では、第1工場が4nmと5nm、第2工場が3nmで2028年に生産開始、N2とA16を扱う第3工場は2020年代末までの稼働予定だ。
公開日程どおりなら、2027年のAI5初期供給をアリゾナ州のN2で賄うとは断定できない。生産拠点、ノード、日程のいずれかが今後変わる可能性がある。少なくとも「Samsung版が2nmならTSMC版も2nm」とは結論できない。TeslaとTSMCはAI5のプロセス名を開示しておらず、異なるノードで同じソフトウェア環境を実現する可能性も残る。
Samsung版は、フォトマスクと試作ウェーハの製造、パッケージ後の動作試験、Teslaによる認定、量産歩留まりの改善へと進む。車両に搭載するなら、温度や振動を含む信頼性の検証も加わる。二社版を混在させる場合は、同じAIモデルに対する出力、遅延、消費電力が製品の許容範囲に入るかどうかも確かめる必要がある。
TeslaのAI5は、Samsung側の製造ルートでもマスク作製の手前まで来た。この先の評価を変えるのは「テープアウト」という言葉の反復ではなく、Samsungが試作チップを製造し、Teslaが認定を終え、2027年の生産計画を量産数と搭載製品まで具体化できるかどうかである。