テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

Chromeが突然クラッシュする謎、その犯人はMicrosoft Family Safetyだった – これは「バグ」ではなく「意図されたブロック」なのか?

Y Kobayashi

2025年6月21日4:25PM

2025年6月初旬から、世界中のWindowsユーザー、特に家庭や学校でPCを利用する層から悲鳴にも似た報告が相次いだ。「Google Chromeが起動しない」「一瞬だけ表示されて、すぐに消えてしまう」。エラーメッセージすら表示されないこの不可解な現象は「沈黙のクラッシュ」として広がり、多くのユーザーを混乱の渦に巻き込んだ。当初はChromeのバグやWindows Updateの不具合が疑われたが、調査が進むにつれて、その原因が驚くべき場所にあることが判明した。犯人は、子どもたちをオンラインの脅威から守るはずの「Microsoft Family Safety」だったのである。

しかし、物語はここで終わらない。これは単なるソフトウェアの不具合、いわゆる「バグ」ではなかった。その背景には、Microsoftによる意図的な「機能修正」、長年放置されてきた別のバグの存在、そして巨大プラットフォーマーの戦略的思惑が複雑に絡み合っていた。これは単なる技術トラブルなのか、それともOSの支配者による、ブラウザ戦争が新たな段階に進んだことを示唆するものなのだろうか?

スポンサーリンク

何が起きているのか? – ユーザーを襲った「沈黙のクラッシュ」とその奇妙な回避策

この問題が表面化したのは、6月3日頃のことだった。RedditMicrosoftのサポートフォーラムには、同様の症状を訴える投稿が殺到した。

「今朝からChromeがクラッシュして、それ以来開けなくなった。一瞬だけ点滅するけど、エラーメッセージも出ずに開けない」

「アンインストールして再インストールしても、セーフモードで試してもダメ。タスクマネージャーにも何も残らない」

ユーザーたちはあらゆる手段を試したが、解決には至らない。そんな中、コミュニティから一つの奇妙な、しかし効果的な回避策が発見され、瞬く間に拡散された。それは、「Chromeの実行ファイル名(chrome.exe)を、別の名前(例: chrome1.exe)に変更する」というものだった。

この魔法のような対処法は多くのユーザーを救ったが、同時に新たな疑問を生んだ。なぜファイル名を変えるだけで問題が解決するのか?これは、問題の根源がChrome自体にあるのではなく、外部の何かが「chrome.exe」という名前のプロセスを監視し、意図的に終了させていることを強く示唆していた。

見かけ上の「バグ」と、その裏に隠された「修正」という真相

この謎を解き明かす鍵は、Microsoft関係者であるericlaw氏が自身のブログ「text/plain」で公開した技術解説にあった。彼の説明によれば、この現象は新しいバグではなく、むしろ長年機能不全に陥っていたバグが「修正」された結果だという。

話は、Microsoft Family Safetyの「コンテンツフィルタリング」機能に遡る。この機能を有効にすると、保護者は子どものWeb閲覧を管理できる。そして、そのフィルタリングを確実に行うため、Family SafetyはMicrosoft Edge以外のサードパーティ製ブラウザ(Chrome、Firefoxなど)をブロックするように設計されている。フィルタリング機能はEdgeブラウザに深く統合されており、他社ブラウザではその監視が困難なためだ。

具体的には、Windowsのバックグラウンドで動作する「Parental Controls」サービスが、chrome.exeのような既知のブラウザのプロセスが起動するのを監視している。そして、それを検知すると、数百ミリ秒というごく短時間のうちにプロセスを強制終了させる。これが「沈黙のクラッシュ」の正体だった。

衝撃的なのは、この「サードパーティ製ブラウザのブロック機能」が、過去長期間にわたってバグにより正しく動作していなかったという事実だ。つまり、多くのユーザーは、本来ブロックされるはずのChromeを問題なく使えていたのである。そして2025年6月初旬、Microsoftはこのバグを修正し、本来の設計通りの動作、すなわちChromeのブロックを復元した。ユーザーから見れば「突然Chromeが使えなくなった」という新しい問題だが、Microsoftの視点では「長年のバグをようやく修正できた」というわけだ。

スポンサーリンク

なぜ通知も出ないのか? – もう一つのバグが招いた大混乱

しかし、話はさらに複雑になる。本来の設計では、Family SafetyがChromeをブロックする際、ユーザーに対して「保護者の許可が必要です」というダイアログボックスを表示し、子どもが保護者に利用許可を求めることができる仕組みになっている。

ところが、ここに第二のバグが存在した。ericlaw氏によれば、Family Safetyの設定で「アクティビティレポート」をオフにしている場合、この許可を求めるダイアログが表示されずに、ブラウザプロセスがただ静かに終了させられてしまうのだ。

この二つの出来事が重なった結果、最悪のシナリオが生まれた。

  1. Microsoftが長年のバグを修正し、意図通りChromeのブロックを開始した。
  2. しかし、アクティビティレポートをオフにしている多くのユーザー環境では、第二のバグにより、ブロックされた理由を示す通知が一切表示されなかった。

これにより、ユーザーは何の説明もないまま、突然愛用のブラウザを奪われるという理不尽な状況に陥った。学校のIT管理者や、PCに詳しくない保護者にとっては、まさに悪夢のような事態であったことは想像に難くない。

単なる「修正」で済まされないMicrosoftの戦略的意図

この一連の出来事を、単なる「技術的な修正ミス」と片付けることはできない。そこには、OSプラットフォーマーとしてのMicrosoftの戦略と、長年にわたるブラウザ市場での競争の歴史が色濃く反映されているからだ。

Microsoftが自社のOSであるWindows上で、最大の競合製品であるGoogle Chromeの動作に干渉するというのは、極めてデリケートな問題だ。かつてInternet ExplorerをOSにバンドルしたことで独占禁止法違反の厳しい裁定を受けた歴史を持つ同社にとって、今回の件は過去の過ちを想起させかねない。

近年、Microsoftは自社製ブラウザEdgeの利用を促すため、時に「強引」とも言える手法を用いてきた。ChromeのダウンロードページにEdgeの優位性を訴えるポップアップを表示したり、Windowsの検索機能をEdgeに固定したりといった手法は、多くのユーザーから批判を浴びてきた。

今回の「修正」も、その文脈の中で捉える必要がある。たとえそれが「セキュリティのため」「ペアレンタルコントロールの仕様」という正当な理由付けがあったとしても、結果として最大の競合相手をブロックし、自社製品(Edge)への乗り換えを暗に促す形になっている。特に、混乱を招く第二のバグを放置したまま「修正」を強行した点については、ユーザー体験よりもプラットフォームのコントロールを優先したとの批判を免れないだろう。これは、オープンなプラットフォームであるべきOSが、自社サービスを優遇するための「壁のある庭(Walled Garden)」へと変貌していく兆候の一つと見ることもできるかもしれない。

スポンサーリンク

今すぐできる対処法 – ユーザーが取るべき具体的なステップ

混乱が続く中だが、幸いにもユーザーがこの問題を解決するための具体的な方法は存在する。GoogleやMicrosoftが案内している公式な対処法は以下の通りだ。保護者やPC管理者は、Microsoft Family Safetyの管理ページで設定を変更する必要がある。

  1. Webブラウザで https://family.microsoft.com にアクセスするか、Family Safetyのモバイルアプリを開く。
  2. 設定を変更したい子どものアカウントを選択する。
  3. 以下のいずれかの方法で設定を変更する:
    • 方法A(フィルタリング自体を無効化): [コンテンツの制限](またはEdgeタブ)にある「不適切なWebサイトをフィルターする」というスイッチをオフにする。これにより、Edgeでのフィルタリングも無効になるが、Chromeや他のブラウザが利用可能になる。
    • 方法B(Chromeを個別に許可): [アプリとゲームの制限](またはWindowsタブ → Apps & Games)に移動し、ブロックされているアプリの一覧から「Google Chrome」を見つけ、ブロックを解除する。

これらの設定変更は、PCに反映されるまで数分かかる場合がある。非公式な回避策である「chrome.exeのリネーム」は一時しのぎにはなるが、Chromeのアップデートなどで問題が再発する可能性があるため、上記いずれかの公式な方法で対処することが強く推奨される。

これはブラウザ戦争の新たな一幕か?

今回の騒動は、単なる技術的な混乱では終わらない。それは、私たちが日常的に利用するデジタル・プラットフォームの裏側で、巨大企業間のパワーゲームが常に繰り広げられている現実を浮き彫りにした。Microsoftが「バグの修正」という名の下に行った一つの変更が、いかに広範囲な影響を及ぼし、ユーザーの信頼を揺るがすかを示す好例となった。

この一件は、OSプラットフォーマーが持つ絶大な力を改めて我々に突きつけている。彼らはその気になれば、自社エコシステムに有利なように、いとも簡単にゲームのルールを変更できるのだ。ユーザーとしては、利便性の裏にあるこうしたプラットフォーマーの意図を理解し、より賢く、そして批判的な視点を持ってテクノロジーと向き合っていく必要がある。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする