米Trump政権が、カリフォルニア州やコロラド州などで進む独自のAI(人工知能)規制を無効化することを目的とした、極めて攻撃的な大統領令の草案を検討していることが明らかになった。

複数のメディア(Transformer, FedScoop, NBC News等)が入手した2025年11月19日付のドラフト文書によると、この大統領令は「国家AI政策に対する州法の妨害の排除(Eliminating State Law Obstruction of National AI Policy)」と題され、連邦政府の権限を最大限に行使して、州レベルの規制を法的に封じ込めることを狙っているという。

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大統領令の核心:「AI訴訟タスクフォース」の設置

この大統領令案の最も注目すべき点は、司法省(DOJ)およびPam Bondi司法長官に対し、「AI訴訟タスクフォース(AI Litigation Task Force)」の設置を命じていることだ。

州法を狙い撃ちにする法的実働部隊

草案によれば、このタスクフォースの「唯一の責任」は、州のAI法に対して異議を申し立て、無効化することにある。具体的には、以下の法的根拠を用いて州法を攻撃する計画だ。

  • 州際通商条項(Interstate Commerce Clause)の違反: インターネットやAIモデルは州境を越えて展開されるため、個々の州が独自の規制を課すことは「州際通商に対する過度な負担」であり、憲法違反であるという論理を展開する。
  • 合衆国憲法修正第1条(言論の自由)の違反: AIの開発者に対し、アルゴリズムやモデルの詳細な開示を強制する州法(例:California州のSB 1047/SB 53等)は、企業の言論の自由を侵害すると主張する。

標的となる州法

ドラフトでは、特にカリフォルニア州コロラド州の法律が名指しで批判されている。Trump氏は、カリフォルニア州で最近成立したAI安全性に関する法律(SB 53等)について、「AIが破滅的なリスクをもたらすという純粋に投機的な疑念に基づいた、複雑で負担の大きい開示・報告法」であると断じている。

「兵糧攻め」作戦:連邦補助金を人質にした圧力

法的措置に加え、Trump政権は「資金」を武器に州政府へ圧力をかける構えだ。

BEAD資金の凍結

草案には、商務長官に対し、州のAI法が連邦政府の方針と矛盾する場合、その州を「ブロードバンド公平アクセス・配備(BEAD)プログラム」の資金提供対象から除外するよう指示する内容が含まれている。
BEADプログラムは地方のインターネットインフラ整備に不可欠な資金源であり、これを「人質」に取ることで、州政府にAI規制の撤回を迫る狙いがある。R Street InstituteのシニアフェローであるAdam Thierer氏は、カリフォルニアのような巨大な州に対してどこまで効果があるかは未知数としつつも、予算の取り消しや制限による圧力は現実的な脅威となり得ると指摘している。

「負担の大きい」規制を行う州への資金停止

Trump政権の「AIアクションプラン」では、AI関連の連邦資金が「負担の大きいAI規制を行う州」に流れることを阻止する方針が示されており、今回の大統領令はその実行部隊としての役割を果たすことになる。

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3. Silicon Valleyの影響と「反Woke」イデオロギー

この強硬な方針の背後には、シリコンバレーの有力投資家たちの影響と、Trump氏独自の政治的イデオロギーが色濃く反映されている。

a16zとベンチャーキャピタルの影

「州際通商条項」を用いて州法を無効化するというアイデアは、有力ベンチャーキャピタルであるAndreessen Horowitz (a16z) が9月に発表した提言と酷似している。a16zなどの投資家たちは、州ごとに異なる規制(パッチワーク規制)がスタートアップ企業の成長を阻害するとして、連邦レベルでの統一(あるいは規制撤廃)を強く求めてきた。

「Woke AI」との戦い

Trump氏は、州レベルの規制がAIに政治的バイアス(いわゆる「Woke」な思想)を埋め込む温床になっていると主張している。
連邦通信委員会(FCC)の委員長Brendan Carr氏は、カリフォルニア州などの規制が「真実を追求するAI」ではなく、「DEI(多様性・公平性・包摂性)を推進するWokeなAI」を生み出す恐れがあると指摘。FCCが介入し、連邦レベルの報告・開示基準を設けることで、こうした「偏った」州法を先制的に無効化(プリエンプション)する可能性を示唆している。

また、ホワイトハウスのAI・暗号資産担当「皇帝」であるDavid Sacks氏も、この大統領令に基づく省庁間の調整に深く関与しているとされる。

連邦議会での攻防と「プランB」としての大統領令

この大統領令草案が浮上した背景には、連邦議会での立法プロセスの難航がある。

  • NDAAへの条項追加の失敗: 共和党議員らは、Steve Scalise下院院内総務らが中心となり、国防権限法(NDAA)などの必須法案に「州AI法の凍結(モラトリアム)」条項を盛り込もうと画策してきた。しかし、超党派の反対や、Ron DeSantis(フロリダ州知事)、Sarah Huckabee Sanders(アーカンソー州知事)といった共和党知事からの反発に遭い、実現が危ぶまれている。
  • 大統領令への切り替え: 立法による解決が困難と見たTrump陣営は、大統領令という「行政権の行使」によって、議会を迂回し強行突破を図る「プランB」に移行しつつあると見られる。

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法的実現性は?

この大統領令が実際に署名され、施行された場合、法的に有効かについては議論が分かれている。

専門家の見解

  • 権限の限界: Center for Democracy and Technology(CDT)のTravis Hall氏は、「大統領は大統領令を通じて州法を先制的に無効化(プリエンプション)することはできない。それは議会の権限である」と強く批判している。
  • 訴訟の泥沼化: 連邦政府が州を訴えるという前代未聞の構図は、長期間にわたる法廷闘争を招くことが確実視される。しかし、Trump政権にとっては、訴訟を起こすこと自体が州への威嚇となり、規制導入を躊躇させる効果(萎縮効果)を期待している可能性もある。

テクノロジー連邦主義の崩壊

このニュースは単なるAI規制の話にとどまらない。これは、伝統的に「州の権限(States’ Rights)」を重視してきた共和党が、テクノロジー産業の要請とイデオロギー闘争のために、連邦政府の権限を極大化させるという、歴史的な転換点を示唆している。

GoogleやOpenAI、Anthropicといった主要なAI企業の本拠地である米国が、国として「統一された、規制の緩い市場」を目指すのか、それとも州ごとの「安全性を重視した規制」を許容するのか。この大統領令の行方は、世界のAI開発のスピードと方向性を決定づける重要な試金石となるだろう。


Sources