レアアースを掘り出せても、それを磁石に変える工場がなければ供給網は完成しない。米国防総省はこの数年、MP Materials、Energy Fuels、Phoenix Tailingsといった採掘や精製を担う企業に巨額の資金を投じ、中国依存からの脱却を急いできた。だが2026年6月、3社が新たに獲得した政府融資や買収の総額は30億ドルを超えた一方で、生産される酸化物や金属の主な買い手は住友商事アメリカを通じた日本企業と韓国メーカーだった。国内で掘ったレアアースがアジアの磁石工場に流れていく理由は、米国がまだ持たない「川下」の産業基盤にある。
1週間で30億ドル超が動いた「脱中国」計画
Energy Fuelsは2026年6月18日、米戦争省(Department of War)傘下の戦略資本局(Office of Strategic Capital)から7億2,500万ドル(約1,177億円、1ドル=162.4円換算、2026年7月時点)の条件付き融資を獲得した。融資は20年満期で、ユタ州White Mesa Millの精製能力拡張と、新設するレアアース金属や合金の工場に充てられる。その2日前の6月16日には、Phoenix Tailingsが同じ戦略資本局から5億ドル(約812億円)の条件付き融資を取り付けている。同社が計画する「Freedom Facility」向けで、総額約10億ドル規模の資金計画の中核だ。
Energy Fuelsはさらに6月23日、ドイツの磁石メーカーVacuumschmelze(VAC)を19億ドル(約3,086億円、現金7億1,800万ドルと新株6,590万株、負債1億4,000万ドル承継の合計)で買収する契約を発表した。取引完了は2027年初頭を見込む。2件の政府融資(7億2,500万ドルと5億ドル)だけで合計12億2,500万ドル(約1,989億円)、VAC買収を加えた3社の資金動員額は31億2,500万ドル(約5,075億円)に達する。CIA系ベンチャーキャピタルIQT(In-Q-Tel)が出資するPhoenix Tailingsまで政府系資金の対象に入った点は、この分野への政策的な力の入れ具合を示す。
生産物の行き先は住友商事と韓国メーカーだった
MP Materials(ネバダ州、米国最大のレアアース生産企業)の主力製品であるネオジム、プラセオジム(NdPr)の酸化物や金属は、同社の最新四半期決算で最大の収益部門になっている。その大半は住友商事アメリカとの契約に基づき日本企業向けに生産されたものだ。この提携は2023年2月に発表された既存の枠組みが、2026年になって収益の柱として実を結んだ結果である。MP Materialsは2026年第1四半期に匿名の米テクノロジー企業や産業向け企業とも新規契約を結んだが、収益の柱は依然として対日供給にある。
同社は前年まで、未加工鉱石を中国の盛和資源(Shenghe Resources)に販売していた。米政府との提携を機にこの販売を停止し、代わりにGeneral MotorsやAppleと磁石供給契約を結んだ。GM向けの完成磁石出荷は2026年内に始まる見込みだと5月に発表しているが、実際の出荷実績はまだない。MP Materialsの現在の収益構造を支えているのは、将来見込まれる米国内磁石需要ではない。既に確立した日本向け販路が下支えしている。
Energy Fuels CEOのRoss Bhappu氏は「近い将来、酸化物を韓国に送る予定だ」と述べた。同社は韓国に金属製造工場を持つAustralian Strategic Materials(ASM)の買収も進めており、2025年には韓国大手メーカーが同社のNdPrを少量ながら磁石に加工した実績がある。Phoenix Tailings CEOのNick Myers氏はさらに踏み込み、「日本の顧客が当社の生産するレアアース金属を渇望している」「顧客は主に韓国と日本だ。防衛関連の主要企業が迅速に動かなければ、他社がより高値を提示しているため完売するだろう」と語った。同社は量産段階になく販売額を非公表としているため、この発言を規模の裏付けとして扱うことはできない。ただし顧客が日本や韓国に偏っているという構図は、MP MaterialsやEnergy Fuelsとも共通している。
ネオジム磁石はなぜ米国内で作れないのか
ネオジム鉄ホウ素(NdFeB)磁石は、ネオジム、鉄、ホウ素の合金を高温で焼結して作る永久磁石で、フェライト磁石よりはるかに強い磁力を発生させる。EVモーターや風力発電機、スマートフォンの振動モーター、精密機器のアクチュエーターまで、小型で高出力が求められる製品の多くに使われている。製造には原料の酸化物を金属に還元し、合金化し、粉砕、磁場配向、焼結、着磁という複数の工程を経る必要があり、原料採掘とは全く異なる技術と設備を要する高度な川下産業だ。
Rare Earth Observerブログ著者のThomas Kruemmer氏は「現在、ネオジム鉄ホウ素磁石を量産している国は2カ国しかない。一つは生みの親である日本、もう一つは中国だ」と述べている。磁石業界コンサルタントのJohn Ormerod氏の分析によれば、中国以外でNdFeB磁石を量産する国の生産量は、日本が年1万〜1万5,000トン、韓国が年2,000〜3,000トン、米国は年1,000トン未満にとどまるという。Kruemmer氏の発言は韓国の生産規模を度外視した表現だが、磁石産業の技術的な起点と最大の担い手が日本にあるという点では、Ormerod氏の数字とも矛盾しない。
世界のNdFeB磁石の生産能力は年約50万トンとされるが、実需要はその半分程度にとどまるという業界推計もある。米国が原料の採掘や精製に巨額を投じても、焼結炉や磁場配向設備、着磁ラインといった川下設備と、それを動かす技術者を一から揃えるには年単位の時間と追加投資が要る。Energy FuelsがVAC買収という川下企業のM&Aに動いたのも、自前でこの工程を立ち上げるより既存の磁石メーカーを買う方が早いという判断の表れだ。
支援と同じ月に、中国はMP Materialsを制裁対象に加えた
3社が2026年6月中旬から下旬にかけて相次いで発表した資金調達は、いずれも米国防総省の後押しを受けたものだった。だが同じ6月22日、中国はMP Materialsを含む米企業10社を輸出管理対象リストに追加した。Energy Fuelsが7億2,500万ドルの政府融資を獲得した6月18日、Phoenix Tailingsが5億ドル融資を得た6月16日、Energy FuelsがVAC買収を発表した6月23日——3社が計31億2,500万ドル相当の資金を動員した1週間のただ中で、MP Materialsは中国の規制対象企業に加わったことになる。
中国は世界のレアアース精製能力の約90%を握り、2025年4月以降はサマリウム、ジスプロシウム、テルビウムなど重希土類の輸出許可制を強化してきた。米国の2025年のレアアース輸入は71%が中国産で、国内消費の67%を輸入に依存している(米地質調査所(USGS)「Mineral Commodity Summaries 2026」による)。この依存構造の中で、米国が国内サプライチェーンへの投資を積み増すほど、中国は輸出管理という対抗手段を発動する理由を得る。生産段階への投資と規制対象への追加が同じ月に重なったという事実は、川上への投資だけでは埋まらない依存の深さを表している。
脱中国は生産地の分散にとどまっている
日本には2010年に似た局面があった。尖閣諸島沖の漁船衝突事件を受けて中国が対日レアアース輸出を事実上止めた当時、日本の対中依存度は89〜90%に達していた。そこからLynas(豪)への出資や国内リサイクル技術への投資を積み重ね、10年かけて58%まで引き下げた。米国の現在の対中依存度71%は、日本が禁輸を受けた直後の水準より低い位置から出発している計算になるが、日本の10年がかりの脱却プロセスと比べれば、米国はまだその入り口に立ったところだ。
住友商事アメリカは、この構図の中で最も安定した立場にいる。MP Materialsの対日独占的な販売窓口として、米国が掘り出すレアアースの主要な行き先を握っているからだ。日本の磁石産業がトヨタや日立といった川下メーカーへの供給網を含めて年1万〜1万5,000トンの生産規模を維持している事実は、皮肉にも米国のレアアース戦略を下支えする側に回っている。
3社の発表が語らない部分も残る。アジア向け販売価格が米国内向けと比べて高いのか安いのかという価格差は、いずれの企業も公表していない。米国内の磁石需要が本格的に立ち上がった場合に日韓向け供給がどの程度、いつ縮小するのかという移行シナリオも示されていない。
Energy FuelsとPhoenix Tailingsが得た融資はいずれも「条件付き」であり、条件を満たせなければ計画自体が変わりうる。日本の年1万〜1万5,000トン、韓国の年2,000〜3,000トンという既存供給網を米国内生産が置き換えるには、現在の年1,000トン未満の生産能力を10倍以上に引き上げる必要がある。この規模の転換が何年で実現するかが、「脱中国」計画が生産地の分散で終わるか、真の供給網転換になるかを分ける最初の答え合わせになる。