米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校などの研究チームが、超伝導を失う温度まで温めても、二テルル化ウラン(UTe₂)の表面に電子の周期的な模様が残ることを捉えた。温度や磁場に対する反応を調べたところ、一様な超伝導とは別に、電子対が空間的な周期構造を作る「対密度波」で説明できる可能性があるという。

研究者はこの状態を、姿を消しても笑いだけが残る「チェシャ猫」になぞらえている。ただし、直接観測されたのは表面の電荷変調であり、抵抗ゼロの超伝導状態がそのまま続いていることを示したわけではない。

「超伝導のゴースト」という比喩の背後にあるのは、電子が対を作ることと、結晶全体が一様な超伝導状態になることの関係を問い直す実験である。

Zhen Zhu氏、Vidya Madhavan教授、Eduardo Fradkin教授らによる査読済み論文は、2026年7月15日にPNASで公開された。大学は9月9日に研究を紹介し、10月2日には同大学の発表をEurekAlert!で配信している。測定の詳細は、補足資料を含む著者公開版の論文に記されている。

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超伝導が消えても残る模様

UTe₂は、2019年に超伝導が報告された重フェルミオン化合物である。電子同士の強い相互作用によって、電子が非常に大きな有効質量を持つように振る舞う材料だ。スピン三重項と呼ばれる電子対を作る超伝導の有力候補でもあるが、対の性質や超伝導状態の全体像については、なお議論が続いている。

超伝導を担うクーパー対は、相関を持つ2個の電子からなる。電子が対を作ることと、多数の対が協調して一様な超伝導状態を作ることは、概念的には別の現象として考えられる。

今回の研究が問うたのは、その一様な超伝導状態が失われた後でも、電子対が空間的な模様を作る別の秩序が表面に残り得るのか、という点だ。

対密度波(PDW)は、超伝導の秩序パラメーターが空間的に周期変化する状態を指す。秩序パラメーターとは、対形成の強さや量子力学的な位相を表す量である。「電子対の分布に濃淡が生じる波」と考えると理解しやすいが、単なる電子対の数の分布だけで定義されるものではない。

一方、電荷密度波(CDW)は、電荷の分布が空間的に周期変化する電子状態である。PDWとCDWは互いに結び付くことがあり、電荷の模様を観測することで電子対の秩序を探ることができる。

ただし、CDWが見つかっただけでPDWの存在が証明されるわけではない。そこで研究チームは、模様の周期だけでなく、それぞれが消える温度や、磁場の向きに対する反応の違いまで調べた。

Fradkin教授が大学の発表で使った「チェシャ猫の笑い」という比喩は、一様な超伝導が消えた後にも、電子対に由来する秩序だけが残る状態を表している。その「笑い」が、消えた超伝導と本当に結び付いているのか。研究チームは、複数の測定を組み合わせてその関係を調べた。

2種類の模様は異なる温度で消えた

今回使われた試料は、溶融フラックス法で成長させた高品質なUTe₂単結晶で、超伝導転移温度は約2.1 Kだった。

研究チームは、超高真空中で結晶を割って新鮮な表面を露出させ、走査型トンネル顕微鏡(STM)で測定した。STMは、鋭い探針と試料表面の間を流れるトンネル電流を利用し、原子の並びや、各位置で電子が取り得る状態の分布を調べる手法である。

多くの低温測定は300 mKという極低温で行われた。得られた画像をフーリエ変換すると、空間的に繰り返す模様が、特定の波数を持つピークとして現れる。

従来知られていたq₁、q₂、q₃の電荷変調に加え、研究チームはp₃など、より小さな波数を持つ成分を識別した。p₂は磁場を加えた際に現れる。

高品質な結晶を使ったことは、弱い信号を隠してしまう欠陥由来の模様を減らすうえで重要だった。補足資料では、欠陥の多い領域を測定するとp₃などの信号が見えにくくなる一方、画像処理によって欠陥の影響を除くと再び現れることが示されている。結晶品質の向上によって、これまで埋もれていた成分を詳しく調べられるようになった。

今回の測定では、p₃と磁場によって現れるp₂の電荷変調が、約2.1 Kの超伝導転移付近で消える一方、q成分は4.2 Kでも残った。

表面で観測された電荷変調 主な測定条件 温度を上げたときの変化
p₃ ゼロ磁場で観測 約2.1 Kの転移温度を超えると、背景に近い強度まで低下
p₂ 磁場を加えると出現 低温では観測されるが、転移温度を超えた2.5 Kでは消失
q₁、q₂、q₃ ゼロ磁場での温度掃引、4.2 Kでの磁場測定 転移温度を超えても残り、4.8 Kでは大きく減衰

この表は、著者公開版の図2〜4について、温度と測定条件を整理して比較したものだ。図ごとに測定条件が異なるため、すべてが同じ結晶個体で測定されたとは断定できない。また、各成分の絶対的な強度を比較した表でもない。

p₁も磁場下で観測されているが、その温度依存性は今回追跡されていない。p₂、p₃と同様の振る舞いを示すことは、対称性から予想されている。

p成分の波数は対応するq成分のおよそ半分で、空間周期は約2倍になる。周期だけを見れば、同じ電荷の波に基本波と高調波があると考えることもできる。

しかし、長い周期を持つp成分が消えた後にも、短い周期のq成分は残る。そのため、単純な基本波と高調波の関係だけでは温度依存性を説明しにくい。

電子の散乱によって生じる準粒子干渉も、STM画像に周期的な模様を作ることがある。著者らは、測定する電子のエネルギーを変えても新しいピークの波数がほとんど変化せず、超伝導ギャップの外側のエネルギー領域でも観測されることを確認した。

この結果も、観測した模様を準粒子干渉ではなく、電荷密度波として解釈する根拠の一つになっている。

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磁場の向きに残った超伝導の手掛かり

4.2 Kは、今回の試料の超伝導転移温度を十分に上回る温度である。研究チームはこの温度で、q成分が磁場に対してどのように変化するかを調べた。

測定には、磁場の強さだけでなく方向も調整できるベクトル磁場STMを使っている。

a軸方向では0.4 Tでq成分が残っていたが、0.8 Tではq₁とq₂が消え、q₃もわずかに確認できる程度になった。

c軸に近い方向では1.5 Tで残っていたピークが3 Tで抑えられ、b軸に近い方向では4 Tから8 Tへ磁場を強めると抑制された。著者らは、同じ視野と測定条件を維持しながら磁場による変化を比較した。

これらの値は、それぞれのピークが消える臨界磁場を精密に決めたものではない。あくまで、ピークが残っている状態と抑えられた状態を確認した測定点である。

また、b軸、c軸に近い方向は論文ではb*、c*と表記されており、厳密に結晶軸と平行な方向を意味するわけではない。

それでも、模様を抑えるのに必要な磁場が、b*方向で最も大きく、次いでc*方向、a方向となる順序は明瞭だった。

この順序は、低温でUTe₂の一様な超伝導を壊す上部臨界磁場の方向依存性と対応している。つまり、一様な超伝導が存在しない温度でも、表面の電荷模様には、超伝導状態と似た磁場方向への依存性が残っていた。

この対応が、高温で残るq成分も電子対の秩序と結び付いているのではないかと考える重要な手掛かりになっている。

もちろん、磁場に反応するCDWだからといって、その原因を一つに決めることはできない。今回の研究では、周期の関係と消える温度の違いに加え、磁場の方向依存性まで一致したことで、PDWを含む説明を検討する根拠が強まった。

電荷の波から、電子対の波をどう推定したのか

研究チームが示した理論モデルでは、PDWの複数の成分が組み合わさることで、波数q=2pの電荷変調が生じる。この電荷変調が生まれるために、一様な超伝導成分は必要ない。

一方、PDWと一様な超伝導成分が結び付くと、波数pの電荷変調が現れる。

このモデルでは、温度を上げて一様な超伝導成分が失われると、pの電荷変調は消える。しかし、表面のPDW自体が残っていれば、qの電荷変調はその後も残り得る。

つまり、pとqの波数の関係と、両者が異なる温度で消えることを、一つの仕組みで説明できる。

さらに、三重項の電子対が持つスピン構造の向きを磁場が変えることで、ゼロ磁場では見えなかったp₂などの電荷成分が現れる可能性も説明している。

ただし、これは観測結果をもとに構築された理論モデルである。著者らはランダウ自由エネルギーを用い、PDWが一様な超伝導の転移温度より高い温度で形成されると仮定した。

モデルでは、q成分が現れる約5 KをPDWの転移温度としているが、電子対が5 Kで形成されることを独立した測定で直接確認したわけではない。

PNASの要旨でも、高温におけるPDWの存在を「示唆する」と表現し、観測された状態を説明する最も自然で単純な候補として表面PDWを挙げている。

直接観測された電荷変調と、そこから推定された電子対の秩序を区別して考えることが、今回の成果を理解するうえで重要になる。研究チームは、複数の模様を温度と磁場の両方で追跡することで、PDWを含む理論が満たすべき条件を絞り込んだ。

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表面で見えたものと、結晶内部の状態は分けて考える必要がある

UTe₂でPDWを探す研究は、今回が初めてではない。Gu氏らが2023年にNatureで発表した論文では、超伝導する探針を使い、低温で対形成ギャップが空間的に変化する様子を可視化していた。変調の大きさは約10 μeVだった。

今回の研究の意義は、PDWそのものを初めて検出したことではない。一様な超伝導の転移温度より高い温度でも残る状態を、複数の電荷変調の温度依存性と磁場応答から説明した点にある。

一方、結晶内部については、別の測定が重要な制約を与えている。Kengle氏らが2024年にNature Communicationsで発表した論文では、共鳴弾性X線散乱を使って、バルク内部の電荷秩序を調べた。

この研究では、超伝導転移温度1.8 Kの別の単結晶を使い、2.2 Kで測定した。これまで報告されていたCDWに対応する波数付近を調べたが、検出限界内では背景を超える信号を確認できなかった。

この結果は、今回の表面測定を否定するものではなく、PDWが存在しないことを証明するものでもない。両者では測っている深さも物理量も異なるからだ。

しかし同時に、表面で観測された電荷変調を、そのまま結晶内部にも存在する秩序として一般化する根拠もない。

今回の著者公開版でも、高温PDWという解釈には強い仮定が含まれており、バルクでの証拠がない以上、表面に局在した状態として考える必要があると認めている。

表面では、結晶内部とは電子のエネルギー状態や相互作用の条件が異なる。そのため、表面だけで電子対の秩序がより高い温度まで残る可能性はある。

ただし、本当にその仕組みによってUTe₂の表面PDWが形成されているのかを明らかにするには、より微視的な理論が必要になる。

また、4.2 Kで電荷の模様が残ることは、抵抗ゼロの超伝導状態が4.2 Kまで続くことを意味しない。

今後は、超伝導転移温度より高い温度で電子対の秩序をより直接的に確認する測定や、表面と結晶内部の状態を結び付ける実験が重要になる。

そこまで確認できれば、一様な超伝導が生まれる前後で、電子対と電荷の秩序がどのように組み替わるのかを、UTe₂という具体的な材料を使って詳しく検証できるようになる。