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Tesla、欧州で販売半減でEV市場の覇権に急ブレーキ:BYDとの競争激化

Y Kobayashi

2025年5月28日

2025年4月、電気自動車(EV)の巨人Teslaが欧州市場で深刻な販売不振に見舞われていることが明らかになった。European Automobile Manufacturers’ Association (ACEA)などが発表したデータによると、Teslaの販売台数は前年同月比で約半減。EV市場全体が成長を続ける中でのこの急減速は、業界に衝撃を与えている。Elon Musk CEOの言動、激化する競争、そしてブランドイメージの変化など、複合的な要因が絡み合っていると見られる。

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衝撃の販売データ:Tesla、欧州市場でかつてない不振

Teslaの欧州(EU、英国、欧州自由貿易連合を含む)における2025年4月の新車登録台数は、ACEAの発表によると7,261台にとどまった。これは前年同月の約14,200台から約49%の減少であり、市場シェアも昨年の1.3%から0.7%へと大幅に縮小した。EU単独で見ると、販売台数は5,475台で前年同月比52.6%減と、さらに厳しい状況がうかがえる。

この販売不振は4月だけの特異な現象ではない。Teslaは2025年に入ってから欧州で苦戦を強いられており、1月に50%減、2月に47%減、3月に36%減と、4ヶ月連続で前年同月比マイナス成長を記録している。

Teslaは2025年初頭に世界的なベストセラーであるModel Yのリフレッシュ版を欧州市場にも投入したが、現時点では販売のカンフル剤としての効果は限定的と言わざるを得ない状況だ。Elon Musk CEOは先月の決算発表で、工場の一時閉鎖などが影響したとし、Model Yの販売回復に自信を見せていたが、その楽観論とは裏腹な数字が並んでいる。

販売不振の深層:複合的な要因がTeslaを直撃

Teslaの急激な販売不振の背景には、単一ではない、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられる。

Elon Musk氏の言動とブランドイメージへの影響

最も大きな要因の一つとして指摘されるのが、Elon Musk CEOの社会における振る舞いや政治的スタンスが、ブランドイメージに与える負の影響だ。Elon Musk氏は米Trump政権下で「政府効率化省:Department of Government Efficiency (DOGE)」の設立に関与し、連邦政府の支出削減を主導したとされる。また、ドイツの極右政党を支持するような発言も過去に報じられており、こうした政治的活動や発言が欧州の消費者の一部から反発を招いている可能性は否定できない。

実際に、Teslaに対するブランドイメージは悪化傾向にある。Reuters/Ipsosが最近実施した世論調査では、Elon Musk氏に対して好意的でないと回答した人が58%に上り、好意的と答えた39%を大きく上回った。また、Axios/Harris Pollの企業評価ランキングでは、Teslaはかつての8位から95位へと急落しており、Elon Musk氏と企業ブランドを強く結びつける戦略が裏目に出ているとの見方も出ている。今年3月には、イタリアのローマでTeslaのディーラーが放火され、17台の車両が焼失する事件が発生。「Elon Musk氏のファシスト的プロジェクト」を非難する匿名の犯行声明が出されたことも報じられている。

Elon Musk氏自身も、自身の政治活動がTeslaに悪影響を及ぼしていることを認識している節があり、最近ではワシントンでの活動時間を減らし、Teslaなどの事業により注力すると述べている。先週末には、Xへの投稿で、再び仕事に没頭し、会議室や工場で寝泊まりする日々を送っていると明かし、「Teslaや他の会社に超集中しなければならない」とコメントした。しかし、一度損なわれたブランドイメージの回復には時間を要するだろう。

激化する市場競争:欧州・中国メーカーの猛追

Teslaが足踏みする一方で、競合他社の攻勢はますます激しさを増している。特に欧州市場では、地元の自動車メーカーがEVラインナップを強化し、着実にシェアを伸ばしている。Volkswagen、BMW、Renaultといった伝統的な強豪は、EVシフトを加速させている。

さらに脅威となっているのが、中国メーカーの台頭だ。BYD、SAIC Motor、Xpeng、Leapmotorといった中国勢は、競争力のある価格設定と豊富なモデルラインナップを武器に、欧州市場での存在感を急速に高めている。JATO Dynamicsの調査によると、2025年4月にはBYDが初めて欧州でTeslaよりも多くのEVを販売したと報じられた。ACEAのデータでも、SAIC Motorの販売台数は前年同月比で24.5%増加し、Teslaを上回っている。中国ブランド全体のEVおよびハイブリッド車の販売台数は、前年比で59%増と驚異的な伸びを見せている。

加えて、欧州市場ではハイブリッド車(HEV)への根強い人気も無視できない。ACEAによると、2025年1月から4月までのHEV販売台数は前年同期比で約21%増加しており、市場全体の大きな割合を占めている。Teslaは現状、バッテリー式EV(BEV)専業であり、このハイブリッド市場の需要を取り込めていない点も、相対的なシェア低下の一因となっている可能性がある。

Teslaの製品戦略と市場ニーズのミスマッチ?

Teslaの現行モデルラインナップが高齢化しつつあるとの指摘も以前から存在する。Model 3やModel Yは市場投入から一定期間が経過しており、消費者の求める新鮮味が薄れている可能性も考えられる。待望のCybertruckは、現在のところ欧州市場では正式に販売されていない。

前述の通り、リフレッシュ版Model Yの投入効果も限定的と見られる中、Elon Musk CEOがAI、ロボティクス、そして完全自動運転といった先進技術開発に重点を置いていることが、主力である自動車販売事業へのリソース配分や市場ニーズへの対応に影響を与えているのではないか、という懸念の声も一部からは上がっている。

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EV市場全体の動向:Teslaの不振とは対照的な成長

Teslaの販売不振が際立つ一方で、欧州のEV市場全体は拡大基調を維持している。ACEAのデータによると、2025年4月のBEV販売台数は前年同月比で約27.8%増加し、184,685台に達した。1月から4月までの累計でもBEV販売は26.4%増と好調だ。BEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、HEVを合計した電動車の市場シェアは、2025年4月時点で59.2%に達し、前年の47.7%から大きく伸長している。

ただし、この成長は欧州各国で均一ではない。政府の購入補助金や税制優遇、充電インフラの整備状況などによって、国ごとにEVの普及スピードには温度差が見られる。ドイツ、ベルギー、イタリア、スペインなどではEV販売が大きく伸びている一方、フランスなどでは伸び悩む動きもある。ACEAのSigrid de Vries事務局長は、「バッテリーEVが主流となるためには、政府が購入・税制インセンティブ、充電インフラ、電力価格といった必要な環境条件を引き続き整備することが不可欠だ」とコメントしている。

Teslaの課題:正念場を迎えるEVの巨人

今回の販売データは、TeslaがEV市場の絶対的リーダーという地位から、数多くの競合と覇を競う一プレイヤーへと変化しつつある現実を浮き彫りにしたと言えるかもしれない。

Elon Musk氏の戦略転換は功を奏すか?

Elon Musk CEOが公言したように、政治活動から距離を置き、再びTeslaの事業運営に集中することで、直面する課題にどこまで効果的に対処できるかが注目される。しかし、彼のカリスマ性に大きく依存してきたブランドイメージは、諸刃の剣となる可能性もはらんでおり、より組織的で安定した経営体制への移行も長期的には求められるだろう。

競争激化の中でTeslaが取るべき道とは

今後、Teslaが欧州市場で再び成長軌道に乗るためには、いくつかの重要な課題に取り組む必要がある。
第一に、魅力的な新型モデルの継続的な投入だ。既存モデルのリフレッシュだけでなく、市場の多様なニーズに応える新しいセグメントの車種開発が急務となるだろう。
第二に、ブランドイメージの再構築である。Elon Musk氏個人の影響力をコントロールしつつ、製品の品質、技術力、そして顧客サポートといった企業本来の価値を訴求していく必要がある。
第三に、コスト競争への対応だ。特に中国メーカーの低価格攻勢に対抗するためには、生産効率のさらなる向上や、サプライチェーンの見直しが不可欠となる。

EV市場の未来と地政学的リスク

European Commissionは中国製EVに対する追加関税の導入を検討しており、その動向次第では市場環境が大きく変わる可能性もある。保護主義的な動きは、短期的には地元メーカーを利するかもしれないが、長期的には消費者の選択肢を狭め、EV普及の足かせとなる恐れも指摘されている。ACEAのSigrid de Vries事務局長が述べるように、「技術中立的なアプローチを維持することのメリット」も考慮されるべきだろう。

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筆者視点:Teslaの試練はEV市場全体の転換期を映す鏡か

Teslaが直面している困難は、単に一企業の盛衰というだけでなく、EV市場全体が新たな競争フェーズに突入したことの現れと見ることもできる。かつてはTesla一強とも言われた市場に、伝統的な自動車メーカーや新興の中国勢が本格参入し、技術、価格、ブランド、そして各国の政策が複雑に絡み合いながら、新たな覇権争いが繰り広げられている。

この競争激化は、消費者にとってはより多様な選択肢と、より手頃な価格のEVが登場する機会をもたらす可能性がある。一方で、メーカーにとっては厳しい生き残り競争を意味する。Teslaがこの試練を乗り越え、再びEV市場の革新者としての地位を確固たるものにできるのか、あるいは新たな市場秩序の中でその役割を変化させていくのか。同社の次の一手、そしてそれを迎え撃つ競合の戦略から、当面目が離せない。EV市場の未来を占う上で、2025年は極めて重要な転換点となるかもしれない。


Sources

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