YouTubeが、次世代映像圧縮方式「AV2」によるWeb向け動画配信を、最短で2027年初頭に開始する計画を明らかにした。これは、Alliance for Open Media(AOMedia)が2026年10月22日に公表した、YouTubeのエンジニアリング責任者Des Keane氏の発言によるものだ。AV2はすでに仕様の策定や再生実演が進んでいるが、今回初めて、主要な動画配信サービスによる具体的な導入時期の見通しが示された。

開発側の評価によると、AV2は現行のAV1と比べて圧縮効率が約30%向上している。さらに、複数の映像を同期させて扱う仕組みも備え、単なるデータ圧縮の改善にとどまらない機能拡張が図られている。ただし、YouTubeの配信計画、Chromeでの再生実演、半導体メーカーによる回路IPの採用は、それぞれ実用化に向けた異なる段階を示すものだ。一般ユーザーがいつ、どの端末でAV2の恩恵を受けられるのかは、今後の対応状況を見極める必要がある。

AD

AV1比で圧縮効率が約30%向上、複数映像の同期にも対応

映像データを圧縮して配信し、再生時に元の映像へ復元する技術をコーデックと呼ぶ。AOMediaが7月27日に公開した実装者向けの解説によると、AV2は従来のAV1と比較して圧縮効率が約30%向上している。これは、同程度の画質を維持しながら動画のデータ量を削減したり、同じビットレートでより高画質な映像を配信したりできることを意味する。

この約30%という改善幅は、VMAFやPSNRなどの客観的な画質評価指標を用い、さまざまな映像素材や解像度で比較した開発側の評価に基づいている。YouTubeの実際の配信環境で、通信量が一律に30%削減されると確認されたわけではない。実際にどれだけデータ量を削減できるかは、映像の内容やエンコード設定、配信サービスが選択する画質などによって変わる。圧縮技術そのものの性能向上と、実際のサービスで得られる効果は区別して考える必要がある。

AV2のもう一つの重要な進化が、複数の映像を同期させて扱う機能だ。AV2では、複数の映像ストリームを同期された単一のビットストリームにまとめられる。ビットストリームとは、映像を符号化して得られる一連のデータを指す。従来、同じ場面を異なる視点から撮影した映像などを組み合わせる場合、アプリケーション側で複雑な同期処理を行う必要があったが、AV2ではコーデック自体がこうした構成を扱うための仕組みを備えている。

AOMediaは具体的な用途として、映像の見た目を構成するテクスチャーと奥行きを表す深度情報を組み合わせる方式を挙げている。また、前景と背景を分離し、透明度を示すアルファ情報と組み合わせる構成にも対応するという。これらは、複数の視点を扱う映像や、映像の合成を伴う用途への応用を想定した機能だ。ただし、今回のYouTubeの発表で、こうした技術を利用した新しい視聴機能が具体的に発表されたわけではない。

つまり、AV2には映像の圧縮効率を高める改良と、複数の映像を同期して扱うための機能拡張という二つの側面がある。前者は動画の画質と通信量の関係を改善し、後者は複数の映像を組み合わせた新たな用途への道を開く。ただし、YouTubeが2027年初頭の配信開始を目指していることと、これらの機能がすべて視聴者向けに使えるようになることは同義ではない。

YouTubeの配信計画、Chromeの再生実演、半導体への実装は別段階

AV2の実用化に向けた取り組みは、動画配信サービス、Webブラウザ、半導体メーカーのそれぞれで進んでいる。ただし、2026年10月22日時点で確認できる進展は、YouTubeがWeb配信の計画を示したこと、Chromeで再生実演が行われたこと、Chips&MediaがAV2デコーダーの回路IPについてライセンス契約を結んだことだ。いずれも重要な進展だが、一般ユーザーが市販端末ですぐにAV2を利用できることを意味するものではない。

AOMediaの10月22日付発表と、Chips&Mediaの6月17日付発表を整理すると、各社の取り組みは次のように分けられる。

主体 公式発表で確認できる進展 現時点では分からないこと
YouTube 最短2027年初頭にWeb向けAV2配信を開始する計画 正式な開始日、対象端末、実配信でのデータ削減率
Chrome AV2による動画再生を実演 一般配布版での対応バージョン、対象OS、利用可能になる時期
Chips&Media AV2デコーダーの回路IPに関するライセンス契約を締結 契約先の企業名、搭載する市販端末、製品発売日

YouTubeのKeane氏は、AV2で符号化された動画ストリームについて、最短で2027年初頭にWebで利用可能になるとの見通しを示した。あくまで計画であり、配信開始日が確定したわけではない。一方、ChromeのJim Bankoski氏が説明したのはAV2の再生実演であり、一般向けのChromeにいつ、どのような形で搭載されるかまで明らかにしたものではない。

半導体分野でも同様に、技術の採用と製品化を分けて考える必要がある。Chips&Mediaが北米の大手企業と締結したのは、AV2で圧縮された映像を復元するデコーダーの回路IPに関するライセンス契約だ。回路IPとは、半導体チップに組み込むための回路設計資産を指す。同社は将来的にフラッグシップ端末への展開を見込んでいるが、契約先の企業名や具体的な端末、発売時期は公表していない。

回路IPのライセンス契約が成立しても、それを組み込んだ半導体が製造され、さらに市販端末へ搭載されるまでには複数の工程が残されている。そのため、この契約をもってAV2対応端末の発売が確定したとは言えない。一方で、今回の発表だけを根拠に、AV2に対応した市販端末が世界のどこにも存在しないと判断することもできない。重要なのは、動画配信からブラウザ、半導体まで、AV2の実装に向けた取り組みがそれぞれ進んでいるという点だ。

AD

AV1との長期併存を前提に進むAV2の普及

YouTubeでは、すでにAV1による動画配信が広く利用できる環境が整っている。AOMediaの10月22日の発表によると、2026年3月19日時点で、YouTubeの動画カタログのうち、視聴時間で重み付けした割合の90%超がAV1で利用可能になっていた。これは動画の総本数の90%超がAV1に対応しているという意味ではなく、視聴時間の長い動画ほど重く評価した指標だ。また、実際の動画再生の90%超がAV1で行われていることを示す数字でもない。

こうした既存の配信基盤があるため、AV2の登場によってAV1が直ちに置き換えられるわけではない。AOMediaも両方式が長期間にわたり併存すると見込んでおり、AV2はソフトウェアの最適化や対応ハードウェアの普及に合わせて段階的に導入される方針だ。YouTubeでWeb向けのAV2配信が始まったとしても、スマートフォンやスマートテレビを含むすべての視聴環境が同時に対応するとは限らない。

技術仕様の面では、すでに実装へ向けた準備が進んでいる。AV2の公式仕様サイトには、仕様のバージョン1.0.0と、それに対応するAVM参照ソフトウェアが公開されている。AOMediaによると、プレビュー段階で符号化に必要な機能をそろえ、最終仕様が確定する前から半導体メーカーがハードウェア設計に着手できるようにしたという。最終仕様では中核となる符号化機能を固定しつつ、将来的なプロファイルやメタデータの追加にも対応できる構成としている。

ただし、仕様が完成しても、それだけで動画配信サービスや一般向け端末への普及が進むわけではない。実際の導入には、映像を圧縮するエンコーダーと、再生時に復元するデコーダーの双方で実装を進め、性能や互換性を検証する必要がある。AOMediaが9月に公開したIBC 2026向けの案内では、Intelがオープンソースのソフトウェアエンコーダー「SVT-AV2」の実演を予告していた。また、Allegro DVTは同期処理や複数レイヤーのレンダリング、規格への適合性試験を扱い、Ittiamは多数のモバイル機器で評価するための環境を紹介する計画だった。

10月の発表でも、IntelはSVT-AV2の開発に取り組んでいることを示している。一方、NetflixとPrime VideoはAV2の採用を検討している段階であり、YouTubeと同じ時期に配信を開始すると表明したわけではない。各社の開発状況には違いがあり、AV2の普及が一斉に進むと考えるのは早計だ。

今回、YouTubeが2027年初頭という具体的な導入時期の見通しを示したことで、AV2は技術開発から実際の動画配信へ進む段階に入りつつある。ただし、圧縮効率の改善が視聴者にとってどの程度のメリットになるかは、対応するブラウザや端末、実際の配信設定によって変わる。通信量の削減に重点を置くのか、同じ通信量での高画質化を目指すのかも、サービス側の判断次第だ。今後は、AV2を利用できる再生環境の具体化と、実際の配信における画質・通信量の検証結果が、普及の進展を判断する重要な材料となる。