Craigslistでわずか100ドルで手に入れた2019年製iMacが、ValveのSteamOSによってゲーミングマシンへと変貌を遂げた。旧型Intel CPUとAMD Radeon GPUの組み合わせが、人気タイトルで驚くべきフレームレートを叩き出す一方、その導入にはいくつかの課題も伴うことが明らかになった。果たして、この「Apple-Steam Deckハイブリッド」のポテンシャルはどこまで広がるのだろうか。

AD

捨てられたiMacがゲーミングPCに?驚きの再利用術

発端は、テクノロジー系YouTuberのETA PRIME氏が、オンラインの個人売買サイトCraigslistで2019年製の21.5インチiMacをわずか100ドルで入手したことだった。彼はこのマシンに、Valveが開発したゲーム特化OS「SteamOS」をインストールし、そのゲーミング性能を検証する実験を行った。その結果は、多くのテクノロジー愛好家の予想を遥かに超えるものだった。

実験に使用されたiMacのスペックは以下の通りだ。

  • モデル: 2019 iMac (21.5インチ)
  • CPU: Intel Core i5-7500 (4コア/4スレッド, 最大3.8GHz)
  • GPU: AMD Radeon RX 560X (4GB GDDR5 VRAM)
  • RAM: 8GB
  • ストレージ: Fusion Drive (32GB SSD + 1TB HDD)

使われなくなったハードウェアがソフトウェアの力で新たな命を吹き込まれる事例は常に興味深い。特に、Apple製品のような閉鎖的なエコシステムから、オープンなLinuxベースのOSへの転換は、その可能性を大きく広げるものである。

SteamOSインストール手順と特有の課題

SteamOSのインストールには、Steam Deckのリカバリーイメージが用いられた。これをUSBドライブに書き込み、iMacのFusion Driveに内蔵されている32GBのSSDパーティションにインストールするという、比較的シンプルなプロセスが採られたという。しかし、この導入にはいくつかの重要な注意点があることが判明した。

まず、最も重要なのはグラフィックスカードの互換性である。ETA PRIME氏は、もし古いiMacにSteamOSを導入しようとするのであれば、必ずAMD製のディスクリートGPUを搭載したモデルを選ぶべきだと強調している。Intelの内蔵グラフィックス(Intel HD Graphics)では、SteamOSが正常に動作しない可能性が高いという。これは、SteamOSがAMDのGPUに最適化されていることを示唆しており、ユーザーが「Steam Deck体験」をiMacで再現する上で不可欠な要素となる。

また、システムを起動する際には、Windowsキーボードの場合はAltキー、Macキーボードの場合はControlキーを押し続けることでブートメニューにアクセスし、USBドライブから起動する必要がある。

インストール自体はスムーズに進んだものの、いくつかの問題も発生した。具体的には、iMacの内蔵オーディオが動作せず、サウンド出力を得るためにはUSBサウンドカードを使用せざるを得なかった点、そしてBluetoothコントローラーのボタンマッピングがずれてしまうという課題が確認された。これらは、一般的なPCとは異なるMac固有のハードウェア構成に起因する可能性があり、今後のドライバサポートやコミュニティによる改善が期待される。

さらに、ETA PRIME氏は、Steam Deck向けに開発されたCPUの電力制限管理プラグイン「Simple Decky TDP Control」をiMacで試用した。Core i5-7500は本来65WのTDPを持つCPUだが、熱管理を考慮し40Wに制限。CPUブーストとパフォーマンスモードを有効にすることで、安定した動作を目指したのだ。

AD

主要ゲームタイトルでの実測パフォーマンス

実際のゲームプレイにおけるiMacのパフォーマンスは、その古い世代のハードウェアを考えると驚くべきものであった。

ゲーム別パフォーマンス分析

ゲームタイトル解像度・設定平均FPS備考
Hades II1080p・高設定57-60 FPS安定したプレイが可能
Forza Horizon 5900p・最低設定50-60 FPS場面により90 FPS超を記録
Marvel vs. Capcom900p・中設定約60 FPS快適な動作
Left 4 Dead 21080p・高設定100 FPS超非常に高いパフォーマンス
Cyberpunk 2077720p・低設定35-50 FPSプレイ可能だが快適とは言えず

特に『Hades II』が1080pの高設定でほぼ60 FPSを維持した点は、この旧型マシンのポテンシャルを雄弁に物語っている。一方で、より高いスペックを要求する『Cyberpunk 2077』では、解像度を720pまで落としても平均フレームレートは伸び悩んだ。AMDのアップスケーリング技術「FSR 3」のフレーム生成を試すも、深刻なゴースト(残像)が発生し、実用には至らなかったようだ。これは、GPUのVRAMが4GBしかないことや、CPUの処理能力がボトルネックになっていることを示唆している。

古いハードウェアに新たな息吹を吹き込む試み

今回の検証結果は、古いiMacをゲーミングマシンとして再利用する際の、費用対効果と実用性について非常に興味深い。100ドルという低価格で、これだけのゲーミング体験が得られるのであれば、新しいPCを購入する予算がないユーザーにとっては魅力的な選択肢となり得るだろう。特に、カジュアルなゲームやインディーゲーム、あるいは古い名作をプレイする目的であれば、十分すぎる性能を発揮すると考えられる。

しかし、その一方で、最新のAAAタイトルを高設定で楽しむには、やはりVRAM容量の不足や、CPUの物理コア/スレッド数の限界がボトルネックとなることも明らかになった。RAMのアップグレードは可能だが、iMacの分解には専門知識と手間がかかるため、誰もが手軽にできるわけではない。

筆者の見解では、今回のプロジェクトは、単に「古いMacでゲームができる」という以上の意味を持つ。それは、ハードウェアの寿命が尽きたと思われがちなデバイスに、OSの入れ替えという形で新たな価値を見出す可能性を示している。また、SteamOSがデバイスの壁を越え、PCゲーミングの新たな可能性を示している点も注目すべきだろう。

ETA PRIME氏も指摘するように、SteamOSのためだけに旧型iMacを新たに購入することは、万人にとって推奨される選択肢ではないかもしれない。特にIntelの内蔵グラフィックスを搭載したモデルであれば、尚更である。しかし、もし手元にAMD GPUを搭載した古いiMacが眠っているのであれば、この検証は、そのマシンを「ただの古いオブジェ」から「思わぬゲーミングハブ」へと変貌させるためのロードマップとなるはずだ。今後は、SteamOS上でのエミュレーションなど、さらなる活用法の検証にも期待が寄せられる。


Sources