光ファイバーとは、石英ガラスを数十時間かけて引き伸ばした直径0.125mmの細線だ。人間の髪の毛ほどの太さしかないが、光信号を使って毎秒数テラビットのデータを伝送できる。インターネットの根幹をなすこの素材が、2026年に入って急速な需給逼迫に見舞われている。原因は2つの巨大な需要源の同時爆発だ——AIデータセンターと、ウクライナの最前線で使われる光ファイバー誘導ドローンである。
国際指標となる中国製G.652D標準シングルモードファイバーの1km単価は、2025年1月の16元(約2.33ドル)から2026年1月には40元(約5.83ドル)まで上昇した。さらに市場がより高密度なAIデータセンターに適したG.657.A2規格(曲げ損失に強いベンドインセンシティブファイバー)へと移行するなか、この規格の2026年3月の市場相場は1kmあたり33〜35ドルにまで跳ね上がっている。
問題の根深さを物語るのが、2025年から2026年にかけて約70%上昇したグローバル光ファイバー価格だ。2021年の底値が1ファイバーkm当たり約3.70ドルだったが、現在は約6.30ドルで取引されている。中国の主要メーカー4社(Hengtong、FiberHome他)はいずれも生産ラインが全力稼働状態にあり、一部製品の納期は数週間から1年超へと延伸されている。
AIはなぜ光ファイバーをこれほど必要とするのか
通常のCPUサーバーラックで構成されたデータセンターと比較して、AI特化型データセンターが必要とする光ファイバー量はおよそ36倍——STLのOptical Networking Business最高経営責任者Rahul Puri氏が明かした数字は、業界関係者にとっても衝撃的だった。
GPUクラスターによるAIトレーニングや推論では、数千台のGPU間をサブミリ秒レイテンシで結ぶ高密度インターコネクト網が必要になる。銅線ではこの距離と帯域幅の両立が難しく、光ファイバーが唯一の実用解となる。Meta、Microsoft、Googleといったハイパースケーラーは数百億ドル規模のデータセンター投資計画を進めており、その一つひとつが光ファイバーを大量に飲み込んでいく。
データセンター向け光ファイバー需要は2025年に年率76%成長を達成し、2027年までにグローバル総需要の30%を占めると予測されている。2024年時点でのシェアが5%以下だったことを考えると、この変化の速度は市場の通常の想定をはるかに超えている。
ボトルネックは最終製品の生産速度ではなく、その手前にある。光ファイバーはプリフォームと呼ばれる円柱状のガラス母材から引き伸ばして製造される。このプリフォーム生産は技術的な参入障壁が高く、新たな設備が稼働するまでに18〜24ヶ月を要する。サプライチェーンの最上流にある制約を短期間で解消する手段は存在しない。
NVIDIA×Corningの大型提携が示す産業構造の変化
需給ギャップを補うための動きは始まっている。2026年5月初旬、NVIDIAは光ファイバーケーブルメーカーの最大手Corning(NYSE: GLW)と多年度にわたる戦略的パートナーシップを発表した。NVIDIAは3億ドルを投資し、Corningはノースカロライナ州とテキサス州に3つの新製造施設を建設する。完成後、Corningの米国内光ファイバー生産能力は50%超増加し、光コネクティビティ製造能力は1,000%増加する計算だ。
Corningにとってこの時期は歴史的な転換点でもある。同社は175年の歴史を持つ製造業者で、光ファイバー部門はかつて利益率10〜15%と社内で最も不振な事業の一つだった。それがAI需要の到来で一変し、2026年現在では21%の営業利益率を叩き出しながら生産した製品をすべて完売している。同社の株価は年初来137%上昇し、Metaとの60億ドルの供給契約、さらに2社の追加ハイパースケーラーとの大型契約も相次いで成立させた。CorningのWendell Weeks CEOは「(私への)電話のほぼすべてが、どうすればもっと供給できるかという問い合わせだ。来年はハイパースケーラーが最大の顧客になるだろう」と語る。
北米市場では2026年の需要成長が22〜25%と予測される一方、供給増加は12〜19%にとどまる見通しだ(Rebio Group推計)。新工場の稼働は2027年以降となるため、当面の逼迫は継続する。
G.657.A2が結ぶ異なる「戦場」
供給危機の特異な側面は、同一規格の製品をまったく異なる用途が奪い合っている点だ。G.657.A2ファイバーは曲げに強い特性を持ち、高密度なAIデータセンターの配線と、FPV(First Person View)ドローンの誘導ケーブルの双方にとって理想的な素材だ。電子戦が飛び交う戦場では無線信号の妨害(ジャミング)が効果的な対ドローン手段となるが、光ファイバーを使えば電磁波を一切発しないためジャミングが通用しない。2023年にロシアが光ファイバー誘導FPVドローンを実戦投入すると、ウクライナもすぐに追随し、現在は双方が大量に使用している。
ウクライナ無人機部隊(Unmanned Systems Forces)に所属するDmytro Zhluktenko氏(Dzyga's Paw慈善基金の共同設立者)は、2026年5月10日のXへの投稿でこう述べた。「50kmスプールをかつては300ドルで購入していた。今は容易に2,500ドルする」。8倍超の価格高騰だ。
$35/km×50kmという裸ファイバーの原価だけで1,750ドル。そこにスプーリング、シース加工、包装、輸入物流費、戦時プレミアムが加わると、Zhluktenko氏の言う2,500ドルは理にかなった数字になる。
ロシアとウクライナの両国を合わせた年間光ファイバー消費量は5,000万〜6,000万kmに達し、これはロシアだけでグローバル総生産の約10%を消費する計算だ。ウクライナの侵攻前に年産の大半を担っていたロシア国内の光ファイバー工場(サランスク市)は、2025年春にウクライナのドローン攻撃で破壊された。これによりロシアの調達は中国依存を一層深め、すでに需要過多だった中国製ファイバーの市場をさらに押し上げた。
Zhluktenko氏は「光ファイバードローンはまだ使われているが、以前ほどではない」とも述べている。かつてロシアの電子戦が成し遂げられなかったこと——光ファイバードローン運用の縮小——を、市場価格が達成しつつあると見ることができる。
海の上にデータセンターを浮かべる発想
陸上での電力確保と土地取得が困難になるなか、一部の企業は文字通り「海に出る」選択をしている。Panthalassaは2026年5月、海洋上に設置する自律型AIコンピューティングノードの開発に向けて1億4,000万ドルの資金調達(シリーズB)を完了した。累計調達額は2億1,000万ドル。Peter Thiel(Palantir共同創業者)が本ラウンドをリードした。
同社のアプローチはシンプルだ。沖合の波が豊富な海域に浮体型ノードを展開し、波力発電で電力を得、海水で冷却を行い、低軌道衛星(LEO)経由でAI推論結果を陸上へ送信する。「我々は、地球上で最もエネルギー密度の高い波の領域で動作するプラットフォームを構築した」とGarth Sheldon-Coulson(Panthalassa共同創業者兼CEO)は語る。
Ocean-1(2021年)、Ocean-2(2024年)、Wavehopper(2024年)の各プロトタイプを経て、同社は2026年後半に北太平洋でOcean-3パイロットシリーズを展開する計画だ。商用展開は2027年以降を見込む。
ただし課題も少なくない。データセンターが光ファイバーの大容量通信に依存するのに対し、海上では衛星リンクが主通信手段となる。レイテンシと帯域幅の制約から、複数ノードを密に連携させるAIトレーニングには不向きで、当面の用途はAI推論(インファレンス)に限られる。また海水による腐食、嵐による損傷、修理の困難さといった物理的な信頼性の問題も未解決だ。
もっとも過去の実験が示すように、海洋という環境はデータセンター運用に完全に敵対的なわけではない。Microsoftは2015年と2018年にProject Natickとして海底サーバー実験を行い、陸上と比較して故障率の低さを報告している(プロジェクトはその後終了)。中国でもHainanやShanghaiの近海で水中データセンタープロジェクトが進行中だと伝えられる。Panthalassaの実験は海中ではなく海上の波力発電と組み合わせた点で独自だが、コンセプト自体は業界が模索してきた方向性の延長線上にある。
日本の電線・光ファイバー株が示す需要の構造変化
この需給変動は投資市場にも明確な痕跡を残している。Corningの株価年初来上昇率が137%に達したことは先に触れたが、日本でも同様の動きが見られる。古河電気工業(5801)は2026年3月期に売上高8.8%増(1兆3,075億円)、営業利益35.8%増(638億円)を達成し、従来計画の560億円を大幅に上回った。2027年3月期見通しも営業利益48.8%増という高成長継続を示す。
フジクラ(5803)は光ファイバーおよび光ケーブルの生産能力を現状の最大3倍に引き上げるべく、日米合計で最大3,000億円の設備投資を計画している。千葉県佐倉事業所に建設中の新工場もその一環だ。ただし同社は2027年3月期業績予想が市場期待に届かなかったとして5月14日にストップ安まで売られた。急激な増産に伴い水素等一部原材料の調達が追いつかなくなる懸念を保守的に織り込んだためだという。
住友電気工業(5802)はワイヤーハーネスで世界トップクラスのシェアを持ちつつ、データセンター向けの光配線製品・光ケーブル・光デバイスの需要も取り込んでいる。40カ国以上でビジネスを展開するグローバルな事業基盤が、需要地に近い供給体制を整えるうえで強みになる。
電線・光ファイバー株の上昇は個々の企業業績にとどまらない。AIデータセンターの世界的な増設、5G・6Gインフラの整備、老朽化した送配電網の更新、そして海底ケーブル網の拡充——これら複数の構造的需要が同時進行していることが背景にある。いずれも単発の特需ではなく、10年単位で続く構造変化だ。
供給制約が生む地政学的摩擦
光ファイバー供給の中国依存は、新たな地政学リスクを生んでいる。現在、中国の主要光ファイバーメーカー4社(Yangtze Optical Fibre、FiberHome、Hengtong、ZTTなど)が世界生産の6割超を担うとされる。ロシアへの欧米諸国による制裁が効き、日米伊のメーカーからの調達ルートが閉ざされたロシアは、調達を中国に全面依存している。ウクライナもその中国市場で競合する形だ。
Nvidiaが3億ドルをCorningに投じて米国内生産能力の10倍拡大を目指す背景には、AI半導体と同様にサプライチェーンの地政学的分断を事前に防ぐ意図が読み取れる。Corningはこの資金でノースカロライナ州ヒッコリーの既存工場拡張と、ノースカロライナ・テキサス両州の新工場3棟建設を進める。ただし新拠点の完工は2027年以降だ。
テレコム向け標準規格G.652Dから高密度AI向けG.657.A2への生産シフトも、新たな供給不足を生んでいる。AI向け高付加価値品に生産ラインを振り向けるほど、従来のテレコムネットワーク敷設向け製品が不足する構図だ。農村ブロードバンドを整備する米国の地方ISPがファイバー調達難を訴える声も上がっており、AI需要とデジタルデバイド解消の取り組みが競合するという皮肉な状況が生まれている。
供給回復までの「空白の1年」が意味すること
現時点での需給見通しを整理すると、Corningの新工場稼働は早くて2027年、プリフォームの増産サイクルも同様のタイムラインに乗っている。北米での需要成長(22〜25%)が供給増加(12〜19%)を2〜3年は上回り続ける見通しだ。
この空白期間に影響を受けるのは多岐にわたる。AIハイパースケーラーは数年分の先行予約と独占供給契約でポジションを確保しようとするが、調達力の劣るプレーヤー——地方ISP、新興のAIスタートアップ、そしてウクライナの無人機部隊——はスポット市場の高騰に直面し続ける。
「光ファイバー飢饉」というSun Telecomが2026年1月に使った言葉は、業界の希望的観測をすでに超えた現実になりつつある。Corningの2026年Q1決算では名前非公表のハイパースケーラー2社との大型供給契約が追加開示された。プリフォーム能力という根本的なボトルネックが解消されるまで、このゲームの勝者は大きな財布を持つプレーヤーに限られる。