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SoftBank傘下のAmpere、12チャネルDDR5メモリを搭載した192コアCPU「AmpereOne M」を発表

Y Kobayashi

2025年5月9日

Armベースのプロセッサ開発を手がけるAmpere Computingは、2025年5月初旬、最大192コアを搭載する新CPU「AmpereOne M」シリーズを、大々的な発表会もなく、ひっそりと公開した。この異例とも言える発表の背景には何があるのだろうか。そして、先日SoftBankによる買収が発表されたばかりのAmpereは、この新プロセッサで何を狙うのか。

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異例の静けさ:AmpereOne M、その発表の裏側

Ampere Computingは昨年、AmpereOneプロセッサの後継として、12チャネルDDR5メモリと最大192コアを備える「AmpereOne M」を2024年第4四半期に出荷すると予告していた。しかし、2025年半ばにしてようやく、同社のX(旧Twitter)アカウントへの製品概要の投稿という形で、その存在が明らかにされたのだ。事前のブリーフィングやプレスリリース、大々的な発表イベントもなく、この「非常にさりげない発表」は、業界関係者を少なからず驚かせた。

この静かな発表の数週間前には、SoftBankによるAmpere Computingの買収が報じられており、今回の動きが新体制下での戦略の一環である可能性も指摘されている。

ベールを脱いだAmpereOne M:最大192コア、12チャネルDDR5メモリの破壊力

今回発表されたAmpereOne Mシリーズは、クラウドやAIといった、大量のメモリと高い処理能力を要求するワークロードをターゲットに設計されている。その主な特徴を見ていこう。

圧倒的なコア数とメモリ帯域:
最大の注目点は、やはりそのコア数とメモリ仕様だろう。フラッグシップモデルである「AmpereOne A192-32M」は、192個のシングルスレッドArm v8.6+カスタムコアを搭載し、3.2GHzで動作する。そして、従来のAmpereOneが8チャネルDDR5だったのに対し、AmpereOne Mでは12チャネルDDR5-5600メモリに対応。各チャネルに1DIMM構成で、最大3TBのECC保護付きメモリ(SECDEDおよびSymbol ECC対応)を搭載可能である。これにより、大規模なインメモリ処理が求められるAIアプリケーションなどにおいて、その真価を発揮することが期待される。

充実したキャッシュとI/O性能:
各コアには2MBのL2キャッシュが備わり、さらに64MBのシステムレベルキャッシュ(SLC)がコンピュートユニットとメモリーコントローラー間のデータ転送を効率化する。I/O面では、96レーンのPCIe 5.0を搭載し、最小x4までの柔軟なレーン分割(bifurcation)が可能だ。さらに、24個の専用デバイスコントローラーにより、複数のアクセラレータ、NVMeストレージ、高速ネットワークアダプタなどを接続できるため、AIやクラウド環境における多様な構成に対応する。

電力効率と製造プロセス:
AmpereOne Mシリーズは、TSMCの5nmプロセスで製造されている。消費電力は、エントリーモデルで239Wから、フラッグシップのA192-32Mでは348Wとなっている。電力効率を最適化するため、動的な電圧・周波数スケーリング(DVFS)、適応型電圧制御、そしてきめ細かい熱センサーによる制御機能が組み込まれている。

AmpereOne M の機能一覧

AmpereOne® M
カスタムコア96~192 Ampere 64ビット Arm® ISA 準拠コア、Arm v8.6+ 
プライベートキャッシュL2: コアあたり 2MB、
L1: コアあたり 16KB 命令キャッシュ、  
コアあたり 64KB データキャッシュ
システムレベルキャッシュ64MB
メモリ12 チャネル DDR5-5600、1 DIMM/チャネル
SECDED ECC、Symbol ECC、DDR5 RAS 機能、
3TB のアドレス可能容量
接続性96個のPCIe Gen5レーン
  x4までの分岐をサポート
24個のコントローラが最大24個の個別接続デバイスをサポート
システム機能完全な割り込み仮想化(GICv4.1)
完全なI/O仮想化(SMMUv3.2)分散スヌープフィルタリングを備えた
エンタープライズサーバークラスのRAS
コヒーレントメッシュインターコネクト

SKUラインナップ:
Ampereのプロダクトブリーフページによって明らかにされたAmpereOne MのSKUは以下の通りだ。

CPUモデルコア数周波数 (GHz)消費電力 (W)
AmpereOne A192-32M1923.2348
AmpereOne A192-26M1922.6278
AmpereOne A160-28M1602.8262
AmpereOne A144-33M1443.3334
AmpereOne A144-26M1442.6239
AmpereOne A96-36M963.6331

なお、AmpereOne Mシリーズは新しい7228ピンFCLGAソケットを採用しており、既存のマザーボードとの互換性はないため、導入には新たなプラットフォームが必要となる。

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AMD EPYC、Intel Xeonと言ったライバルとの比較

サーバーCPU市場では、AMDとIntelが強力な製品ラインナップを展開している。AmpereOne Mは、これらの巨人たちとどのように渡り合っていくのだろうか。

特に比較対象となるのが、同じく最大192コアを誇るAMDのEPYC 9965 “Turin” プロセッサだ。EPYC 9965は、SMT(Simultaneous Multi-Threading)に対応しているため、1ソケットあたり最大384スレッドの処理が可能だ。これに対し、AmpereOne Mはシングルスレッドコアであるため、最大スレッド数はコア数と同じ192となる。

クロック周波数では、EPYC 9965がベース2.25GHz、全コアブースト3.35GHz、最大ブースト3.7GHzであるのに対し、AmpereOne MのA192-32Mは3.2GHzとなっている。TDPはEPYC 9965が500W、AmpereOne A192-32Mが348Wと、AmpereOne Mの方が低く抑えられている。

メモリに関しては、EPYC 9965も12チャネルDDR5に対応しているが、より高速なDDR5-6000/6400をサポートしている。PCIeレーン数では、EPYC 9965が128レーンと、AmpereOne Mの96レーンを上回る。さらに、EPYC 9965はAVX-512命令セットをサポートし、成熟したx86_64ソフトウェアエコシステムという大きなアドバンテージも持っている。

Ampereの強みは、特定のワークロードにおける電力効率と、Armアーキテクチャのカスタマイズ性にあるが、Phoronixが指摘するように、AMD EPYC 9005シリーズやIntel Xeon 6 “Granite Rapids” / “Sierra Forest” といった強力な競合が既に市場で確固たる地位を築いている中で、AmpereOne Mがどれだけ存在感を示せるかは未知数である。

市場の評価と山積する課題:期待と懸念の交差点

AmpereOne Mの登場は、特にクラウドサービスプロバイダー(CSP)やAI関連企業にとって、新たな選択肢となり得る可能性を秘めている。より多くのコアと広帯域なメモリは、彼らが求める性能要件に合致するだろう。

しかし、Phoronixはいくつかの懸念点を指摘している。まず、AmpereOneサーバーの供給は依然として潤沢とは言えない状況が続いているようだ。また、Ampere Computingが数年前のAmpere Altraプラットフォームのプロモーションを依然として続けている点も、最新製品への注力度合いに疑問符を投げかけている。

さらに、今回の製品概要には、価格設定や具体的な出荷時期に関する詳細な情報が含まれていない。当初の発表から遅れての登場となったこと、そして競合製品が市場で先行している状況を考えると、AmpereOne Mが広く受け入れられるためには、これらの不透明感を払拭し、明確な価値提案を行う必要があるだろう。

次の一手は256コアAmpereOne「MX」

今回のAmpereOne Mの発表は、より大きな目標への布石である可能性も指摘されている。Ampereのロードマップでは、AmpereOne Mの後継として、最大256コア、12チャネルDDR5メモリを備え、TSMCの3nmプロセスで製造される「AmpereOne MX」が控えている。

今回、AmpereOne Mの登場が2025年半ばになったことで、AmpereOne MXの登場は早くても来年(2026年)頃になり、AMDの次世代EPYC “Venice” やIntelの次世代Xeon “Clearwater Forest” と競合する可能性がありそうだ。

SoftBankによる買収も、Ampereの将来戦略に大きな影響を与えるだろう。CSPがより多くのコアと帯域幅を求める中で、Ampereの方向性は正しいと評価しており、SoftBank傘下でAmpereのロードマップがどのように進化していくのか、注目が集まる。


Sources

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