VercelのAI Gatewayを通る2026年7月のデータで、Anthropicは全トークンの29.8%を処理しながら、公開定価換算の支出シェア65.1%を占めた。1トークン当たりの平均価格は、他の全ラボを合わせた平均の4.4倍である。利用量は前月比59%増、公開定価ベースの支出も37%増えたが、Gateway全体の平均単価は13.6%下がった。安価なモデルへ処理を逃がしつつ、別の仕事には高価なモデルへ支出する運用が、同じ月の集計に現れている。

Vercelは毎月、実運用アプリケーションとAIラボの間で数十兆トークンをルーティングしている。8月11日に公表した「AI Gateway Production Index August 2026」は、7月末までの匿名化・集約済みデータを基にしたものだ。これはAI API市場全体のシェアではない。それでも、複数モデルを実際に切り替える開発チームが、価格差をどう受け入れているかは見える。

問いは、なぜ全体の単価が下がる局面で、Anthropicの単価プレミアムが6月の3.4倍から4.4倍へ広がったのか、という点にある。答えは単一の品質評価ではない。測定方法と低価格帯の供給を確かめたうえで、コーディングエージェントの用途や、顧客がモデル構成を頻繁に変える運用を分けて読む必要がある。

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4.4倍は何を比較した数字か

4.4倍は、同じプロンプトを各社のモデルに与えたときの請求額ではない。Vercelは「Spend」を、各リクエストをラボの公開定価で評価した合計として計算する。「Price per token」はその総支出を総トークン量で割った指標で、価格の違う入力・出力トークンや、キャッシュと長文コンテキストを混ぜた加重平均だ。AI Gatewayはプロバイダーの定価を基準にし、トークンへ上乗せしないとしている。

数値の関係は明快である。Anthropicだけを見ると、65.1%の支出を29.8%のトークンで割った相対指数は2.1846になる。他ラボは34.9%の支出を70.2%のトークンで処理しており、相対指数は0.4972だ。前者を後者で割ると約4.39となり、Vercelが示した4.4倍に一致する。

ただし、この比率から「Claudeが同じ仕事で常に4.4倍高い」とは言えない。各ラボで使われるモデルの組み合わせも、入力と出力の比率も、長いコンテキストの有無も異なる。公開定価の指標なので、企業向けのボリューム割引やサブスクリプションを含め、直接契約やクラウド経由で適用される価格を映さない。顧客が実際に支払った金額や、各社の実収益を示す値でもない。

高い支出シェアだけで品質の因果を証明することもできない。顧客属性と用途が違い、モデルの供給状況やFable 5の再提供も同じ集計に混ざるからだ。4.4倍は、Gateway上で選ばれた処理と公開価格の組み合わせを表す指標として読むべきである。

安価なモデルが量を取り、Claudeが金額を取る

7月にはDeepSeekが全トークン量の約25%を占め、10.7%のGoogleを抜いて2位になった。DeepSeek V4 Flash単体でもGoogleの全モデル合計より多く、Gateway全体の約5分の1を処理した。オープンウェイトモデル全体では、トークンシェア36%に対して支出シェアは約9%だった。大量処理を低価格帯へ寄せる動きは、単価低下にそのまま表れている。

OpenAIの変化はさらに分かりやすい。Vercelによると、7月にOpenAIへ追加されたトークン量の85%がGPT-5 Nanoへ流れ、OpenAIの平均トークン単価は6月の58%まで下がった。GPT-5 Nanoの定価は100万入力トークン0.05ドル、キャッシュ入力0.005ドル、出力0.40ドルである。Anthropicの最安モデルHaiku 4.5でもGateway全体平均の約3分の2、GPT-5 Nanoは約6分の1、DeepSeek V4 Flashは約16分の1と、Vercelは算出している。

一方でAnthropicには、市場最安層に当たる製品がない。Vercelの集計でAnthropicは観測した全月に支出シェア60%超を維持し、7月は65.1%だった。価格を落として大量の軽量タスクを取る製品群と、より高い単価の処理を引き受ける製品群が、同じ利用基盤に並んでいる。

そのため、全体単価の13.6%低下は、各モデルの定価が一斉に下がった結果とは限らない。Vercelは6月のモデル構成を固定すると単価はほぼ横ばいだったと説明する。下落の主因は、利用者がより安価なモデルへルーティング先を変えたことだ。安価な処理の量が増えても、プレミアム帯への支出が残るなら、二つの動きは両立する。

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コーディングエージェントで続く高単価の選択

Vercel Gatewayで最大のトークン用途はコーディングエージェントである。7月、この用途ではDeepSeekがトークン量のおよそ3分の1を処理した。それに対しAnthropicは公開定価換算の支出シェア80%超を占めた。トークン量の多くを安価なモデルが担いながら、公開定価換算の支出はClaudeへ集中したことになる。

ここでFable 5の再提供は見逃せない。Fable 5は6月12日に輸出規制で停止され、規制解除後の7月1日に世界で再提供された。7月にはGateway全支出の13.2%まで伸び、Opus 4.8に次ぐ2位となった。Fable 5を使ったチームの90%は、それ以前に同モデルを使っていなかったという。Gateway外での利用歴や、純増の顧客数までは分からないが、7月の利用チームは停止前の利用層と大きく入れ替わった。

Fable 5のAPI定価は100万入力トークン10ドル、出力50ドルである。Opus 4.8の通常価格は入力5ドル、出力25ドルだ。AnthropicはFable 5について長時間の自律作業とトークン効率を訴求し、顧客事例も挙げている。ただし、Vercelの集計だけでは、その訴求が品質差や投資対効果として実証されたとは判断できない。

開発チームはトークン単価に加えて、失敗時の損失や処理速度、完了までに要する手戻りを比べる。Vercelは、顧客がタスクの難度と失敗時の損失を見極め、速度と価格に応じてモデルを使い分けていると説明する。高価格帯のモデルが人手の再作業や失敗をどこまで減らすかは、このデータからは分からない。それでも、コーディングでAnthropicの公開定価換算支出シェアが80%を超えた事実は、価格だけで配分が決まっていないことを示す。

モデル構成は固定せず、月ごとに動く

7月にGatewayを通ったトークンの81%は、6カ月前にはそこになかったモデルで処理された。6月と7月の両方で1000万トークン超を使ったチームでは、75%がモデル構成を10%以上変え、60%25%以上変えた。中央値のチームの単価低下は2.9%だったが、30%超下げたチームも4分の1あり、20%以上上げたチームも4分の1あった。

平均値だけでは、個別チームの判断を説明できない。安価なモデルへ多くを移したチームがいる一方、より高い単価のモデルに処理を寄せたチームもいる。Vercelがいう「一行でモデルを切り替えられる」はAPI統合上の切り替えコストを指す。実運用ではプロンプトを調整して出力を評価し、監査で違いを吸収する必要があり、その負担まで消えるとは確認できない。

Rampの2026年6月の米国企業支出データも、併用の広がりと整合する。Anthropicを利用する企業は42.4%、OpenAIは39.5%だった。モデル提供プラットフォームを使う企業はAI支出企業の5.8%にとどまるが、そのうち93.2%はAnthropic、85.8%はOpenAIも利用している。VercelとRampは母集団も測定単位も違うため、数値を合算はできない。それでも、一社のモデルへ完全に統一するより、複数の価格帯を用途別に組み合わせる利用が増えているという説明とは矛盾しない。

Rampでモデル提供プラットフォームを使う企業のAI支出中央値は、従業員1人当たり248ドルで、AI支出企業全体の10.59ドルの約23倍だった。Rampは安価なモデルが総支出を減らすより、AI処理量を増やしている可能性を指摘する。これはRampの解釈であり、Vercelの単価低下を直接説明するものではない。だが、低価格モデルの採用が直ちにAI予算の縮小を意味しない点は、実務側で確認すべき条件になる。

Anthropicが公開定価換算の支出シェア65.1%を維持できるかを測るには、コーディング用途で安価なモデルがどこまで伸びるかに加え、Anthropic自身の製品構成や価格、用途別のトークン構成を追う必要がある。モデルを切り替えたチームが、再び高価格帯へ戻す処理は何か。各社のトークン単価ではなく、実タスクを完了するまでの費用と再作業の量が公表されて初めて、その選択の経済性を比べられる。