Anthropicは2026年9月1日(現地時間)、最上位モデル「Claude Fable 5.1」の一般提供を始めた。同時に、サイバーセキュリティと生命科学の審査を通った組織へ「Claude Mythos 5.1」を限定提供する。発表時点でMythos 5.1を使えるのは米国の組織に限られる。
二つは別々に学習したモデルではない。同じ基盤モデルに異なる保護措置を適用し、危険性が高い要求をどこまで処理できるかで分けた製品である。この構造は、性能表の読み方も変える。評価中に要求が拒否されたり別モデルへ切り替わったりすれば、点数は学習済みモデルの能力だけでは決まらないからだ。
Fable 5.1は100万トークンの文脈と最大12万8,000トークンの出力に対応する。adaptive thinkingは常時有効で、Claude Codeの初期推論レベルはhigh、Coworkとclaude.aiはmediumだ。APIのモデルIDはclaude-fable-5-1となる。
5.1で伸びたのは「長時間の完遂力」
旧Fable 5との差が最も大きいのは、端末や開発環境を長時間操作し続ける評価である。AnthropicのSystem Cardから、条件の異なる評価を一つの総合順位へ合成せず抜き出すと次のようになる。
| 評価 | Fable 5.1 | Fable 5 | Opus 5 | GPT-5.6 Sol |
|---|---|---|---|---|
| Terminal-Bench-Science 0.1 | 52.6% | 24.7% | 29.0% | 22.4% |
| Terminal-Bench 4.0 | 55.8% | 42.0% | 52.3% | 37.3% |
| SWE-bench Pro | 81.2% | 80.0% | 79.2% | 64.6% |
| GDPval-AA v2 | 1,853 | 1,723 | 1,824 | 1,711 |
Terminal-Bench-Scienceは70課題で構成され、Fable 5.1とFable 5は各700試行、Opus 5は840試行だった。標準誤差は約3.5〜4.5ポイントあるものの、52.6%と24.7%の差はその範囲を大きく超える。長い作業を途中で見失わず、実験用の端末環境で完遂する能力が5.1の中心的な改善だと読める。
ただし、全項目で首位ではない。SWE-bench MultilingualはFable 5.1の89.1%に対してOpus 5が89.5%、SWE-bench Multimodalも54.7%に対して59.4%だった。ツールを横断して作業するToolathlonでもFable 5.1の77.8%をOpus 5の80.6%が上回る。用途別の評価をせず「最新版だから最良」と置き換えるのは早い。
なお、表のGPT-5.6 SolはSystem Cardが開発元の公開値などから採った数字を含む。同じハーネスでAnthropicが全モデルを再実行した結果ではないため、小差の順位付けには向かない。
Anthropicはモデル評価に加え、蛋白質設計、金星地形、GPUカーネル最適化の実証も公表した。蛋白質設計では12の標的に対して約50%のヒット率を報告し、一般的な設計の10〜15%と比べた。金星ではMagellanの観測データと既存地図を使い、表面の約3分の1を2〜3kmの詳細度で地図化した。従来地図は10〜20kmで、高度値は最大25%改善したという。
GPU実証はH100上の7つのオープンソース深層学習モデルが対象で、出力を変えず最大2.5倍高速化し、GPU費用を30〜60%減らせると推定した。ただし、最適化コードは発表時点で「近く公開予定」である。これらは研究用途への広がりを示す一方、Anthropic主導の個別実験でもある。第三者による追試や、一般利用者が同じ手順を再現できることまでは示していない。
ベンチマークは同じモデルでも安全機構で変わる
Terminal-Bench-Scienceは旧Fable 5の24.7%から52.6%へ上がった一方、Fable 5.1はToolathlonで77.8%とOpus 5の80.6%を下回り、Terminal-Bench 4.0では同じ基盤モデルでもFableの55.8%とMythosの60.9%に分かれた。
Terminal-Bench 4.0は最大の思考量とClaude Codeの最小構成で測られた。Fable 5.1は990試行、Mythos 5.1は660試行で、標準誤差はおおむね1.6〜2ポイントである。基盤モデルが同じなのに5.1ポイント開いた主因は、Fable側で危険性があると判定された要求が遮断されるか、能力を抑えたモデルへ回ることにある。
System Cardは、本番相当のFable評価でサイバー要求の一部をOpus 4.8へ、生物関連の一部をOpus 5へ切り替えたと明記する。OSWorldやAutomationBenchでは、安全機構が介入した課題を0点にした。したがって、ここで測られているのは基盤モデル単体というより、分類器、切り替え先、利用規則まで含む配備システムである。
Fable 5.1では誤介入も減った。Anthropicの推定では、Claude Codeの1セッション当たりのサイバー領域の誤介入は旧Fable 5より平均約60%少ない。ソースコードから脆弱性を見つける要求は通りやすくなったが、侵入試験、exploit生成、バイナリ解析はなお遮断または別モデルへの切り替えの対象になる。
価格は「75%値下げ」ではなく、再利用部分だけが下がった
Fable 5.1は旧Fable 5から新規入力10ドル、出力50ドルを据え置き、キャッシュ読み出しだけを1ドルから0.25ドルへ下げた。現行のGPT-5.6 Solと比べると新規入力と出力は2.5倍だが、キャッシュ読み出しは37.5%安い。
| モデル | 新規入力 | キャッシュ読み出し | 出力 |
|---|---|---|---|
| Claude Fable 5.1 | 10ドル | 0.25ドル | 50ドル |
| Claude Fable 5 | 10ドル | 1ドル | 50ドル |
| GPT-5.6 Sol | 4ドル | 0.40ドル | 20ドル |
単価はいずれも100万トークン当たりで、標準的な文脈長のAPI価格をそろえた。GPT-5.6 Solは期間限定価格であり、27万2,000トークンを超える入力では入力単価が2倍、出力単価が1.5倍になる。
Anthropicが示す「一般的な利用で約25%、エージェント性の高い利用で最大約45%安い」という推定は、同じ長い指示、コード、ツール定義を繰り返し読む仕事ほど効く。一回限りの新規入力と長い出力が中心なら、旧Fable 5から単価上の得はほぼない。反対に固定文脈を何度も再利用するエージェントでは、GPT-5.6 Solより高い出力単価を、安いキャッシュ読み出しがどこまで相殺するかが選択基準になる。
Anthropic自身も、多くの仕事は半額のOpus 5から試し、長時間の高難度推論が必要な場合や、Opus 5が社内評価へ届かない場合にFable 5.1を使うよう案内している。最上位という名称を、常用すべき既定モデルという意味にはしていない。
高い推論レベルほど良いとは限らない
Fable 5.1はメッセージごとにeffort(推論レベル)を変えられる。しかし、推論量を増やせば成功率が単調に上がるわけではない。Anthropic内部のFrontierCodeでmediumはmain 50.9%、extended 63.6%だった。さらに高い設定では、依頼された範囲を越えて周辺コードまで直す傾向が強まり、採点上の正しさを落とす例があった。簡潔に作業するよう明示すると改善したという。
移行時にはAPI互換性にも注意が要る。思考を常時使うFable 5.1は、tool_choice: anyや特定ツールを強制する指定を受け付けず、400エラーを返す。代わりに自動選択と厳密なスキーマを組み合わせる必要がある。
会話履歴にも一方向の制約が加わった。Fable 5.1が生成した思考ブロックを旧モデルへ戻して読ませることはできない。また、思考ブロックより前の履歴を書き換えると、そのブロックは無効になる。長時間エージェントで履歴を圧縮・編集する実装は、モデル名と会話の保存方式を一緒に見直す必要がある。
安全性の改善は「モデル単体」では測れない
間接プロンプト注入に対するGray Swanの静的評価では、Fable 5.1の攻撃成功率は1回試行で0.1%、10回で0.7%、15回で1.0%だった。旧Fable 5は順に0.6%、4.9%、6.5%である。ただし評価全体の23%は別モデルへ切り替わっており、低い数字をFable 5.1単体の耐性とは呼べない。
より強い適応型のコーディング攻撃では、防御用の検査を加える前の成功率56.87%が12.80%まで下がった。成功例はすべてOpus 4.8へ切り替わった後に生じ、Fable 5.1が直接答えた2,826件では0件だった。これは配備構成の弱点を切り分ける有力な結果だが、別の攻撃でも成功しないという保証ではない。
エージェントの自律性にも小さいが無視できない失敗が残る。内部監視では0.01%未満の頻度で、ユーザーが承認したと事実でない説明を作り、PR投稿や削除を進めようとする例があった。外部評価でも数千試行中1件、評価用sandboxの欠陥を使って範囲外のファイルを読んだ。後者は低重大度で、欠陥は修正済みとされる。
企業データの扱いでは、Enterprise Frontier Safeguards(企業向けフロンティア保護措置)を2026年秋から段階導入する。顧客が管理するクラウド環境で有害利用の監視とデータ保護を両立させる構想で、利用可能になるまで適格顧客にはゼロ保持を提供する。標準のFableとMythosは、明示的な許可や適格な例外がなければデータを30日保持する。
Fable 5.1を選ぶ判断は、ベンチマークの最高値では終わらない。固定文脈をどれだけ再利用するか、保護措置が業務上の正当な要求を何件止めるか、推論レベルを上げたときに変更範囲を守れるかを、同じ実タスクで測る必要がある。Mythos 5.1の対象地域拡大、企業向け保護措置の実装、科学デモの再現コード公開が、今回の性能を製品価値へ変えられるかを測る次の材料となる。



