Anthropicは2026年8月18日、Claudeを使ったde novo蛋白質結合体設計の技術報告書と、全設計・プロンプト・測定データを公開した。結合を判定できた15標的では、1,320配列のうち354配列が結合し、14標的で少なくとも1件の結合体が見つかった。新しかったのは、個別の蛋白質基盤モデルの性能更新ではない。標的の調査から公開ツールの選択、候補の絞り込み、合成に渡す配列の順位付けまでを、専門家が定めた手順の下で一つのエージェントが運用した点である。

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約16,000語の手順書が動かした設計工程

Claudeは標的を調べ、標的構築物とエピトープを選んだうえで、専門ツールを導入して候補を生成・最適化した。多数の候補から各標的30設計を選び、順位を付けて合成用の配列を返したという。標的ごとの設計判断はClaudeに任せ、人間はその判断に介入しなかった。

ただし、実験の出発点から人手が消えたわけではない。研究者は標的とアッセイ抗原を選び、約16,000語、約3万トークンのプロトコルと参照文献群を用意した。プロトコルの内訳は科学・ツールが34.2%、オーケストレーションと検証が34.7%、運用が31.1%である。後者の二つは試験キャンペーンで改訂され、報告対象の実行前に固定された。アカウントと認証情報の準備、科学以外のアクセス要求の承認は研究者が担った。インフラ障害後のセッション復旧、合成発注、結合データの解釈も同様である。

このため、今回の結果をClaudeが新しい蛋白質基盤モデルを作った成果として読むと範囲を誤る。Claudeは公開済みの専門モデル群を組み合わせた。合成に進んだ設計には、PXDesignが358件、RFdiffusion3が267件、Genie 3が185件など、10種類の構造生成器が使われた。大半の試験配列1,133件にはSolubleMPNNを使い、主な順位付けにはESMFold2、ESMFold2-Fast、Protenix v2のアンサンブルを用いた。AlphaFold 3の重み、Rosetta/PyRosetta、ESM3はライセンス上の理由で外され、事前にオープンソースかつ導入可能と確認したツールだけで構成した。

近年の蛋白質生成、配列設計、構造予測は、初期のキャンペーンで1万10万候補を実験していた規模を、より新しい手法では数十〜数百候補へ縮めてきた。残っていた課題は、標的生物学を読み、ツールを選び、候補を絞り、計算資源を割り当て、順位を付ける専門的な運用である。今回の公開物は、その工程をモデルの外にある長いプロトコルとして明示し、エージェントに実行させた。

354件の結合体と、標的ごとに割れた成績

公開データは16標的、1,440設計を含む。成熟型GDF-8の測定は結論を出せず、分析対象は15標的、1,320設計になった。そのうち354設計、26.8%が結合し、14標的でヒットが出た。各キャンペーンの標的別1位だけを集めると49%が結合しており、順位付けの信号も測定結果に現れた。

実行形式 結合体数/試験設計数 結合率
Mythos Previewの48時間・複数標的 104/390 26.7%
Opus 4.8の48時間・複数標的 88/390 22.6%
Mythos Previewの24時間・単一標的 158/450 35.1%

単一標的のMythos Previewは13の共通標的だけで見ても143/390、36.7%だった。しかし、単一標的キャンペーンは各24時間、1件あたり1万米ドルのクラウドGPU計算を使い、複数標的キャンペーンは各48時間、5万米ドルだった。共通13標的では単一標的形式の標的当たり計算予算が2.8倍になる。35.1%を標的への集中だけで説明することはできず、報告書も集中と予算の効果を分けていない。

成績は標的で大きく分かれた。プールしたヒット数はTREM2が72/90、VEGF-Aが54/90、IL-7Rαが49/90だった一方、BBF-14は3/90、15-PGDHは1/30、MBPは0/90である。共折りたたみの信頼度は、後者の失敗を事前に警告しなかった。TNFαではOpus 4.8のキャンペーンから四つの異なるバックボーンに由来する12結合体が出たが、Mythos Previewは結合体を出せなかった。標的に依存する差は、全体の平均値だけでは設計工程の見通しを判断できないことを示す。

RBX1では、Claudeの90設計から28結合体が得られ、de novo競技の245件では9件だった。Claudeの最も強い結合体のKDは3.9 nMで、同じプレートで再合成・測定した競技優勝設計は45 nMだった。ただし、この比較に使った競技結果6組のうち4組はClaudeの読解コーパスに入っていた。一般的な10〜15%というキャンペーンの目安も標的や予算をそろえた人間対照ではないため、ここから専門家を上回ったとは結論づけられない。

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2社のCROが分けて測ったが、実証したのは結合まで

測定を担ったのはAdaptyv BioとTwist Bioscienceという二つの独立した受託研究機関(CRO)である。両社は配列を変更せずに合成し、異なる分子形式とアッセイ条件で結合を測った。相手方のデータも、各配列に対応するモデル、キャンペーン、順位も見ないまま測定し、Anthropicは事前に固定したルールで別々の判定を統合した。この設計は、計算側の順位や片方の実験結果がもう一方の測定に影響する経路を抑えている。

公開データには設計ごとの来歴、凍結したプロンプト、計算モデルが含まれる。測定側ではセンサーグラム、生データのフィット、統合後の結合判定まで公開した。データと文書はCC BY 4.0、スクリプトはMITライセンスで、主要データは展開後に129,003ファイル、9.9 GBとなる。全予測器の構造データを含む任意の階層は74.5 GBである。外部の研究者は結論に加え、どの候補がどの道具と順位付けを経たかをたどれる。ただし、これはAnthropic自身がまとめた技術報告書であり、査読付きジャーナル論文ではない。データの再解析と、別チームによる工程の再現は分けて考える必要がある。

一方、測定が確かめたのは結合であり、結合体の立体構造や生物学的機能ではない。表示された結合姿勢はすべて予測で、設計や複合体を実験的に構造解析したわけではなく、活性試験もない。五つのオリゴマー標的の親和性は見かけの値である。マウスオルソログにも試験した233結合体のうち130件が結合したが、種間反応性は副次的なプロンプト目標だった。

統計的な独立性にも留保がある。配列ごとの26.8%には同一バックボーンの変異体が含まれ、809バックボーンから最上位配列だけを数えると200件、24.7%になる。モデル、実行形式、標的の組み合わせは、補足のTNFα発注を除いて各1回しか走らせておらず、モデル差、形式差、実行ごとのばらつきは分離できない。さらに、同じツールと予算で人間の専門家が行う対照キャンペーンはない。報告書は、Claudeの設計が条件をそろえた専門家の設計より優れるとは主張していない。

「どの研究室でも」には、何が要るのか

Anthropicは設計から測定までのデータ、各配列の来歴、プロンプトを公開した。公開済みの専門ツールだけを使った点も、設計工程を検証したり、手順を改良したりする入口を広げる。だが、これを「どの研究室でも直ちに実行できる」と断定する根拠にはならない。再現には、報告で使ったモデルへのアクセスと、1キャンペーン当たり1万5万米ドルのクラウドGPU計算が必要である。合成と結合アッセイを行うウェットラボの能力、専門家が書いたプロトコルも要る。ウェットラボの費用は開示されていない。

モデルへの到達可能性も条件である。Anthropicは、生命科学研究を最も高性能なFable 5で信頼済みアクセスプログラムが整うまで制限し、Opus 5は一般提供を続けるとしている。今回のキャンペーンはMythos PreviewとOpus 4.8で実行された。したがって、公開プロンプトとオープンツールを入手しても、同じモデル設定を直ちにそろえられるとは限らない。

次の検証は、公開データを別の研究者が再解析することから始まる。さらに、同じ工程を異なるモデルへのアクセス条件、計算予算、標的で走らせ、結合に続く構造と機能まで測る必要がある。そこで再現を問う対象は354/1,320という数値に加え、専門家の手順をどこまで明文化すれば、計算設計を安定して運用できるかという条件である。