BloombergのMark Gurman氏のニュースレター「PowerOn」によると、Apple は 2027 年に M6 iPad Pro と MacBook シリーズに自社開発したモデムチップを搭載する計画を進めているとのことだ。この戦略的取り組みは、iPhone 16e で初めて導入された「C1」モデムを基盤として、無線通信技術における Qualcomm 依存からの脱却を一層加速させるものだ。
iPhone 16eに搭載されたC1モデムと自社製通信技術の未来
Appleは最近発売されたiPhone 16eにおいて、同社初の自社製モデムチップ「C1」を実装した。市場において競争力のある製品として評価を得ているものの、現時点では高速通信規格のミリ波(mmWave、24GHz以上の超高周波帯を活用する5G通信技術)に未対応という課題も抱えている。
同社はすでに次世代モデムの開発に注力しており、将来的にはこの技術をプレミアムレベルまで引き上げるための改良を推進している。自社製モデムの開発は、同社がハードウェアの中核コンポーネントを内製化する長期的な技術戦略の一環であり、iPhone のプロセッサに始まり、グラフィックス処理、電源管理チップ、そして現在は無線通信技術にまで拡大を続けている。
Apple のハードウェアテクノロジー担当上級副社長Johny Srouji氏は、C1モデムを「世代の基盤」と位置づけ、同社の技術を競合他社から「真に差別化する」ものになると強調している。この発言からは、Appleが単なるコスト削減策を超えて、技術的優位性を確立するための長期的視点でモデム開発に取り組んでいることが読み取れる。
M6チップ搭載デバイスにおける自社製モデム統合の構想
Bloombergの情報源によれば、Appleは2027年に発売を予定しているM6 iPad Proに自社製モデムを搭載すべく準備を進めているとのことだ。これにより、現在のiPad Proセルラーモデルで採用されているQualcommモデムからの置き換えが実現することになる。
さらに注目に値するのは、同時期に展開される見通しのM6チップ搭載MacBookにも、自社製セルラーモデムが統合される計画が存在することだ。同社はすでに次世代Mクラスチップの先を見据え、2027年のMacラインナップ向けに自社製セルラーモデムを内蔵したM6プロセッサの設計プロセスに着手しているという。
MacBookへの内蔵モデム実装は、ユーザー体験に革新をもたらす可能性を秘めている。Wi-Fi 圏外の状況下では、現行モデルではスマートフォンとのテザリング接続に依存しているが、内蔵モデムを備えたMacBookであれば独立したセルラー接続を確立できるようになる。さらに、周辺機器への接続提供(ホットスポット機能)も実装可能となる。
また、C1モデムがすでに衛星通信とGPS機能を組み込んでいることから、次世代Macにもこれらの機能が統合される可能性が高い。こうした機能拡張により、MacBookは従来のノートパソコンの枠組みを超えた、より多機能なコンピューティングデバイスへと進化する展望が開けている。
Appleは市場戦略として、セルラーモデム内蔵モデルと非内蔵モデルの両バリエーションを提供することも検討しており、後者はエントリーレベルの製品カテゴリー向けオプションとして位置づけられる可能性がある。将来のMacBook Air製品ラインのアップデートにも内蔵モデムが導入される見込みだ。
2027年へ至る製品進化のロードマップ
M6搭載デバイスが市場デビューする 2027 年までの間、Appleは段階的に新世代チップを採用した製品を順次投入していく青写真を描いている。Bloombergの報告によれば、同社は今年後半(10 月頃と予測される)にM5 iPad Proをリリースする計画だ。
同様に、MacBook Proシリーズも今年後半にM5プロセッサへの移行が予定されている。このM5 MacBook Proは、外観デザインに変更を加えず、M5チップへのアップグレードが主要な進化点となる見込みである。M5チップの詳細な仕様や性能については、6 月開催のWWDC(世界開発者会議)で公表されると予想されている。
一方、より抜本的な刷新が構想されているのは 2026 年のMacBook Proアップデートだ。2026 年モデルは、MacBook Pro誕生から20周年という節目の年に当たり、M6チップへの進化に加え、刷新された筐体デザインと薄型の有機ELディスプレイを採用する計画があるとされる。
この2026年モデルのMacBook Proには、iPhone 16eに搭載されたC1自社製モデムを発展させたオンボードセルラーモデムが統合される公算が大きい。Apple の製品展開戦略によれば、自社開発モデムは計画的かつ体系的に複数の製品カテゴリーへと展開されていく見通しだ。
自社製モデム戦略がもたらす技術革新とビジネス価値
Appleが自社製モデムの開発と実装に注力する背景には、Qualcommへの技術依存からの脱却という戦略的ビジョンが存在する。現行のMacBookモデルは Qualcomm製のWi-Fiチップに依存している状況だが、Apple はこの関係性をできるだけ早期に解消したいという意向を明確にしている。ただし、完全移行までの過渡期においては、一部の新製品でも引き続きQualcommのチップを採用することになるとされる。
技術的観点からは、次世代 Mac 向けの自社製セルラーモデムが、AppleプロセッサのSoC(System-on-Chip、複数の機能コンポーネントを1つのチップに統合する技術)パッケージに組み込まれる構想が有力視されている。この統合アプローチにより、ハードウェアコンポーネント間のさらなる相乗効果が実現し、処理性能の向上と電力効率の最適化が期待できる。
自社製モデムへの戦略的シフトは、Apple のビジネスモデルにおいても重要な転換点となる。核心的コンポーネントの内製化によって、サプライチェーンの制約やライセンス料の負担から解放され、より創造的な製品設計と収益構造の強化につながる可能性がある。
さらに、恒常的にセルラーデータ接続を活用するMacユーザーの増加に伴い、通信事業者のデータプラン体系も将来的には再構築される可能性がある。このパラダイムシフトは、Appleと通信事業者の間に新たなパートナーシップの可能性を開くことが予想される。
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