Appleは初のスマートグラスの発売目標を2027年末へ後ろ倒しし、2027年6月のWorldwide Developers Conference(WWDC)で披露する計画だと、BloombergのMark Gurmanが報じた。従来は2026年末に発表し、2027年初頭に発売する日程だったという。遅れた理由の一つは、カメラを備えたAIグラスへの警戒を抑えるため、技術と販売戦略の両面を詰めていることにある。Appleが迫られているのは、利用者のデータを守る設計と、レンズの向こう側にいる人が撮影状態を確かめられる仕組みを一つの製品に収めることだ。

コードネームは「N50」とされる。ただし、Appleは製品の存在も日程も発表していない。仕様や検討案は、社内計画を取材したBloombergの報道に基づく。

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カメラを残すか、AIの目に限定するか

Appleが試したとされる設計は三つに分かれる。カメラを載せず、音声AIや通話、音楽再生に絞る案。カメラは備えるものの、写真と動画の撮影を禁じ、Siriが物や場所を認識するための入力に限る案。そして、撮影機能を残しながら、現行製品より強い保護策を組み込む案である。

検討案 得られるもの 失うもの/残る課題
カメラなし 周囲へレンズを向け続ける不安を避けやすい 視覚AIと一人称視点の撮影が使えない
AI入力専用カメラ 物体・場所の認識をハンズフリーで使える 外見から撮影不能だと判別しにくい
撮影対応カメラ 写真・動画と視覚AIを両立できる 撮影表示、改ざん対策、映像処理の説明が必要

Bloombergは、最終的には撮影できるカメラと強い保護策を組み合わせる可能性が高いとみている。決定済みの仕様ではない。とはいえ、三案の比較から製品の難所ははっきりする。カメラを外せば社会的な抵抗を下げやすいが、周囲を理解するAIと、スマートグラスが支持された用途の一つであるハンズフリー撮影を同時に失う。AI専用にしても、第三者が「撮れないカメラ」だと外見から確かめる手段がなければ、心理的な問題は残る。

初代にはレンズ内ディスプレイを載せず、Siriを軸に音声入出力とカメラを組み合わせる計画だとも報じられている。この構成なら、競争相手は没入型ヘッドセットよりRay-Ban Metaに近い。画面がないぶん、製品価値は音声AIと撮影へ集中するため、カメラの扱いを曖昧にしたまま発売することは難しい。

端末内処理では、撮られる側の不安は消えない

Appleが公表しているプライバシー設計は、スマートグラスの利用者データを守る出発点になる。Apple Intelligenceは可能な処理を端末内で済ませ、より大きな計算が必要な場合はPrivate Cloud Computeへ要求に必要なデータだけを送る。Appleは、送信されたデータを保存せず、自社からもアクセスできないと説明している。Bloombergも、スマートグラスでは端末内処理を優先し、顔認識や周囲を常時解析する機能、利用者の映像をAI学習に使う運用を避ける可能性を伝えた。

しかし、端末内処理が答えるのは「映像を誰が処理するか」である。目の前にいる人が知りたいのは「いま撮影されているか」「保存されるか」「止めてほしいと伝えた後も撮影できるか」だ。データがクラウドへ送られなくても、知らないうちに端末へ保存され、後から共有されるなら、撮られる側の懸念は消えない。

AppleはApple Vision Proで、周囲へ状態を伝える仕組みをすでに実装している。前面ディスプレイのEyeSightは、静止画を撮ると一度発光し、動画や装着者の視界を録画・共有している間は光を点滅させる。利用者の視界に出る緑色やオレンジ色の点とは別に、装着者を見ている人へ知らせる設計である。

Metaも2026年7月、AIグラスの撮影LEDに物理的な改ざんや破壊を検知した場合、カメラを無効にする更新を説明した。第2世代ではLEDを覆った場合の停止機能を導入済みで、写真では短く、動画では撮影中ずっと白色LEDが点滅する。一方、Metaの利用指針は、撮影を嫌がる人がいれば止め、診察室や更衣室、トイレなどでは電源を切り、録画前に声やジェスチャーで知らせるよう装着者へ求める。ハードウェアが改ざんを防いでも、同意の運用は着用者の行動に依存している。

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69.2%を握るMetaと、製品を発表したSamsung

プライバシー設計に時間を使う間も、市場は進む。IDCによると、世界のスマートグラス出荷台数は2026年第1四半期に前年同期比167%増の約225万台へ達した。ディスプレイを持たない製品だけで、2024年通年のカテゴリー全体とほぼ同じ台数を1四半期に出荷したという。Metaのシェアは69.2%で、2位のRayNeoは3.4%にとどまる。

IDCは、ディスプレイなしのスマートグラスが2026年通年で約1,360万台、2030年には2,730万台へ増えると予測する。年平均成長率は18.9%だ。平均販売価格は2026年の約376ドルから2030年には約229ドルへ下がる見通しで、カメラ付きAIグラスが一部の愛好家向け機器から日用品へ近づくほど、周囲にいる人が避けにくくなる。

Samsungも2026年7月22日、Google、Gentle Monster、Warby Parkerと開発した「Intelligent Eyewear」を発表した。内蔵カメラで利用者の視界をAIへ渡し、通話中の視界共有や一人称映像の記録に使える。Samsungは録画機能がアプリやサービスによって異なり、市場ごとの法令と同意要件にも左右されると明記した。

規制当局も動き始めた。米テキサス州司法長官は2026年5月20日、Meta AI Glassesのプライバシー表示、録画、顔形状データの扱いを巡る調査を開始し、民事調査要求を出した。これは違法性を認定した処分ではない。それでも、カメラがいつ働き、LEDがどの状態で点灯し、映像を誰が確認できるのかが、販売後の説明では済まない審査対象になったことを示している。

AirTagが残した、被害者側に通知するという教訓

Appleには、便利な小型機器が悪用された後に保護策を拡張した経験がある。AirTagでは不要な追跡が問題となり、AppleとGoogleは「Detecting Unwanted Location Trackers」という業界仕様を作った。2024年にはiOS 17.5とAndroid 6.0以降へ実装し、所有者ではなく、見知らぬ追跡機器と一緒に移動している人の端末へ警告を出せるようにした。

スマートグラスに同種の業界仕様はない。だが、AirTag対策が示した方向は明確だ。悪用する側へ規約を読ませるより、影響を受ける人へ独立した信号と無効化の手段を渡す方が強い。まず、撮影中だけ点灯する表示には改ざん耐性が要る。さらに、AI解析と保存撮影を見分けられる状態表示を設け、アプリがカメラへ触れる範囲をAPIで縛る必要がある。映像の保持期間と学習利用を後から確かめられる記録も候補になる。

WWDC 2027で披露するなら、開発者向けの規則も製品の一部になる。AppleがカメラAPIをどこまで公開し、バックグラウンド取得を認めるのか。撮影表示をOSや専用回路と結び付け、アプリや改造で回避できないようにするのか。さらに、カメラを向けられた人が製品を見ただけで状態を理解できるか。2027年末という日程が現実になるかは、これらを宣伝文句ではなく検証可能な仕様として示せるかにかかっている。