56年間誰も破れなかった記録が、ついに更新された。2026年4月10日午後8時07分(米国東部時間)、日本時間4月11日午前9時7分、Orionカプセルがカリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋に着水した。乗っていたのはReid Wiseman、Victor Glover、Christina Koch、Jeremy Hansenの4名——50年以上ぶりに月軌道へ到達した宇宙飛行士たちだ。アポロ計画以来となる有人月周回ミッション「アルテミスII」は9日1時間32分の飛行を終え、人類が到達できる距離の記録を書き換えて幕を下ろした。アポロ13号が1970年に記録した248,655マイルを4,100マイル超える252,756マイル——56年間誰も届かなかった距離に、今回初めて人間が到達したのだ。

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大気圏再突入の7分間

大気圏への帰還は、ミッションを通じて最も苛烈な局面だった。Orionは現地時間の午後7時53分、高度400,000フィート(約122キロメートル)から大気圏突入を開始した。突入速度は音速の35倍、約43,000キロメートル毎時。カプセル外壁は数千度の熱にさらされ、地上から機体を追う手段はなかった。この数分間、カプセルはプラズマに包まれて通信を遮断される「ブラックアウト」状態となり、NASA地上管制との交信は完全に途絶した。

ブラックアウトが続いたのは午後7時53分から8時00分までの約7分間だ。宇宙船の状態を確認する手段は一切ない沈黙の時間だったが、Orionは設計どおりに進んでいた。高度23,400フィートでドローグパラシュートが展開し、続いてメインパラシュートが開いて降下速度を毎秒200フィート以下に抑えた。午後8時07分の着水後、司令官のWisemanから管制室に最初の交信が届いた。「What a journey. We are stable. Four green crew members.(信じられない旅だった。状態は安定。クルー全員、異常なし)」——4人全員の無事を告げる言葉だった。

NASA科学ミッション局のNicky Foxは、この再突入を「絵に描いたよう完璧さ」と評し、着水についても「まさに的の真ん中に決まった着水」と表現した。乗組員は午後9時34分にOrionカプセルから救出され、午後9時58分に回収艦USS John P. Murthaへと移送された。9日間の宇宙飛行を終えたクルーが地球に帰ってきた瞬間だった。

アポロ13号が56年守った記録を超えた瞬間

距離記録の更新は、ミッション中盤の2026年4月6日午後12時56分(CDT)に起きた。Orionが地球から252,756マイル(約406,800キロメートル)に達したとき、アポロ13号が1970年4月の事故対応中に記録した248,655マイルという「人類の最遠到達距離」が書き換えられた。アポロ13号の記録は月着陸に失敗しながらも乗組員が生還するための軌道計算の結果として偶然生まれたものだったが、以来56年間、いかなる有人ミッションもその記録を超えることはなかった。

月への最接近距離は約4,067マイル。アルテミスIIは月面着陸ではなく、Orionカプセルと生命維持システムの実証飛行として設計されており、クルーは月面を眺めながら軌道を離れた。Jeremy HansenはCSA(カナダ宇宙庁)の宇宙飛行士として、月軌道に到達した初のカナダ人となった。アポロ計画の12回のミッションで月周辺に到達したのは全員アメリカ人だった。アルテミス計画は当初から多国籍での月探査を掲げており、Hansenの存在はその方針の最初の実現例だ。NASAのJared Isaacman長官はこの帰還を「人類の偉業」と評した。

総飛行距離は約694,481マイル。それだけの距離を飛んで月を周回し、4名全員が無事に帰還したという事実が、Artemis計画の次の段階への確かな基盤となった。

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マッハ35の帰還が証明した熱シールドの実力

アルテミスIIの目的は月面着陸ではなく、月面着陸を可能にするための技術実証だった。具体的には、Orionカプセルの生命維持システム、熱シールドの性能、乗組員の宇宙環境への適応、そして地球帰還時の再突入・着水シーケンスが主な検証対象だ。大気圏再突入でのマッハ35という速度は、アポロ計画以降の有人宇宙船が経験してきた地球低軌道からの帰還速度(マッハ25前後)を大きく上回る。月から帰還する宇宙船は、国際宇宙ステーション(ISS)から戻る宇宙船よりはるかに高いエネルギーで大気圏に突入するため、熱シールドへの負荷はまったく異なるレベルになる。

アルテミスIIはその差を、実際の有人飛行で初めて通過した。NASA副長官のAmit Kshatriyaは帰還後に「今夜、月面へ向かう道への大きな一歩を踏み出した」と述べた。アルテミスIIはISSミッションとも火星探査とも異なる、「月面着陸のための試験飛行」として設計されており、2026年4月の帰還がその最後の技術検証となった。

アルテミスI(2022年の無人飛行)でOrionのシステムが初めて月軌道環境で試され、アルテミスIIで有人飛行による実証が完了した。この2段階の積み上げが、次のミッションへの技術的な根拠となる。

2027年のアルテミスIIIへ、2028年の月面へ

アルテミスIIの成功を受け、Jared Isaacman NASA長官はアルテミスIIIを2027年に、月面着陸を2028年に実現させたいとの見通しを帰還後の会見で示した。アルテミスIIIでは初めて月面着陸が実施される予定であり、そこにはSpaceXStarshipを月着陸船(HLS)として使用する計画が組み込まれている。Artemis IIが「月への往復飛行」であれば、アルテミスIIIは「月での滞在」だ。

50年以上にわたって月面に人間が降り立ったことはなかった。アポロ17号が月を離れた1972年12月以来、人類は月軌道にすら近づかなかった。アルテミスIIはその空白を埋める第一歩となり、252,756マイルという新記録はその証拠として残る。Jeremy Hansenが月軌道に達した初のカナダ人として記録されたように、今後のアルテミス計画が複数の国の宇宙飛行士を月面に送ることを想定しているのも、このプログラムの本質的な特徴だ。

月面に人間が降り立つ日まで、あと2年とされる。その日に宇宙飛行士が踏む地面は、2026年4月10日の夜、太平洋に着水したOrionが証明したシステムの上にある。


Sources