中国軍の研究者が、低コストの無人潜水艇(UUV)の普及によって海底通信ケーブルへの攻撃リスクが高まると警告した。South China Morning Post(SCMP)が2026年8月5日に報じた。警告が向けられた先には、米英豪の安全保障枠組みAUKUSが5月に発表した初のPillar II基幹案件がある。三国は重要海底インフラの防護から偵察、攻撃までを担うUUVの共通搭載系を開発し、2027年から配備を始める。海底ケーブルが運ぶ「99%」は攻撃時の損失率ではなく、世界の国際データに占める輸送比率だ。競争の中心は一撃でインターネット全体を止める兵器より、防護と攻撃に共通する海中ロボット網を常用する能力へ移っている。
2027年始動、AUKUS初のPillar II基幹案件
AUKUS三国は2026年5月30日、UUV向けのペイロードと基盤システムを共同開発する計画を発表した。Pillar Iが豪州への原子力潜水艦導入を扱うのに対し、Pillar IIは先端軍事技術を三国で開発する枠組みだ。今回の案件は、そのPillar IIで初めて「signature project」と銘打たれた。
配備は二段階で進む。まず各国が異なる効果を担うペイロードを開発し、三国いずれのUUVにも載せ替えられるようにする。その後、次世代ペイロードと運用を支える技術を共同開発・生産する。英国政府は初期能力が2027年に実用化される見込みと説明しており、英海軍は米国製と豪州製のペイロードも統合できるようになる。
共通化の対象は機体そのものより、機体が運ぶ機能と連携の仕組みである。豪国防省の資料は、ペイロードの例にセンサー、航法、攻撃能力を挙げた。基盤システムはUUV同士の情報共有や、有人艦・潜水艦との協調を支える。海域ごとに別々の専用機を用意するより、任務に応じて搭載物を交換し、同じ制御系で動かす方が配備を速めやすい。
インフラ防護と攻撃をまたぐ共通ペイロード
豪国防省が列挙した任務は海底インフラの防護から監視、偵察、攻撃まで広い。さらに兵站と機雷対処、対潜・対水上戦、電子戦も同じ案件に含まれる。ケーブル沿いを巡回して異常を探すセンサー網は、海中の状況を継続的に把握する軍事網にもなる。AUKUSの公開資料そのものが、SCMPの伝えた警告に軍事的な理由を与えている。
UUVは有人艦や潜水艦と協働する想定だ。ただし、AUKUSは機体数、搭載物の性能、運用海域、総事業費を公表していない。低コスト機がケーブルを実際に切断できることを示す試験結果も確認できない。現時点で確定している変化は、海底インフラ防護を含む多目的UUVの共通ペイロードを三国が2027年配備へ進めたことだ。
同じ技術は攻撃の発見にも、攻撃準備にも使える。三国は2024年、豪州沖の無人システムを米国から、米国沖のシステムを豪州から遠隔操作した。2025年には日本も加わり、音響通信で大型UUVへ海上任務を指示している。豪国防省は今回の案件でも、共通規格と三国共通の運用概念、制御システムによって相互運用性を高めるとしている。個々のドローンの性能より、複数機と有人戦力を一つの部隊として動かせるかが効く。
99%を運ぶ網、障害の70〜80%は事故
国際電気通信連合(ITU)によると、海底通信ケーブルは世界の国際データトラフィックの99%超を運ぶ。国際ケーブル保護委員会(ICPC)は、世界の海底通信網を約500システム、総延長約180万kmとする。個別の障害がサービス停止へ直結するかは、通信を別のケーブルや地上回線へ迂回できるかで変わる。
一方、年間150〜200件あるケーブル障害の70〜80%は、漁業や船舶の錨など偶発的な人間活動が原因だ。ICPCは国家が支援した破壊工作についてデータを保有せず、第二次世界大戦後に検証済みの事件はないとの見方を示す。同委員会は事故の意図を捜査する機関ではないため、破壊工作の可能性を否定する説明ではない。それでも日常の停止リスクを減らすには、軍用UUVの哨戒より先に漁業・投錨による損傷を防ぐ対策が効く。
「99%が危険」という表現は、この二つの数字を混同させる。99%は海底ケーブル全体が担うデータの比率であり、安価なUUV一機が同じ比率を遮断できるという意味ではない。通信事業者は複数経路へトラフィックを迂回させ、障害箇所を修理する前提で網を設計している。危険度はケーブルの本数より、特定地域で経路と陸揚げ局がどれだけ集中しているかによって変わる。
監視する海域も一様ではない。ICPCによると、障害は船舶や漁業活動の影響を受けやすい水深300m未満で最も多い。外洋の深い海底を広く探す能力と、陸揚げ地点へ近づく船や漁具を高い頻度で監視する能力では、必要な機体とセンサーが変わる。AUKUSの公開資料が水深、探知範囲、再充電方法を示していない以上、計画がどのリスクを先に減らすかはまだ判定できない。
監視網より先に、迂回と修理時間
ITUとICPCが設けた国際諮問組織は2026年7月10日、海底ケーブル強靱化の最終報告を承認した。そこで挙げた課題は、物理的リスクへの露出、修理時間の長期化、インフラの地理的集中、少数ケーブルへの依存である。対策には官民の情報共有、許認可の短縮、リスク監視に加え、経路分散と冗長化が並ぶ。
UUVは海底の異常を見つけ、接近する物体を識別する時間を短くできる。だが、切れた通信を別経路へ逃がす容量も、修理船が現場へ向かうための許可も生み出さない。軍が担う監視と、民間事業者が担う迂回・修理は別々に整備する必要がある。
2027年に確認すべきなのは、AUKUSが何機配るかより、初期ペイロードがどの水深と航続時間で異常を検知し、三国の既存UUV間で交換できるかだ。その仕様が明らかになれば、海底ケーブル防衛が実用的な監視能力になるのか、攻撃任務を含む軍事網の整備が先行するのかを判別できる。
