Bilibiliが、国際版Androidアプリを再始動させた。Google Playで配布する「bilibili - All Your Fav Videos」は8月18日に更新され、幅広い動画ジャンルに加え、AI吹き替えを新機能として掲げる。中国向けサービスとは別に新しい動画基盤を立ち上げるのではなく、既存のコンテンツとコミュニティを海外から使う入口を作り直す動きである。
Bilibili Groupの求人には「加速したグローバル展開」と、ゼロから構築する国際モデレーション業務が記されている。Semaforは8月19日、英語Web版、海外のコミュニティマネージャー採用、クリエイター向け施策を報じた。ただし、Web版やiOS版の提供日、対象国、海外の利用者数は公開されていない。今回の再始動を評価するには、アプリの公開そのものより、その後に地域ごとの運営をどこまで整えられるかを見る必要がある。
新規参入ではなく、国際版を作り直す
Google Playの掲載情報では、対象パッケージはcom.bilibili.app.inで、開発元はBILIBILI SINGAPORE PTE. LTD.となっている。年齢区分はTeen、アプリ内購入に対応し、ダウンロード数は「1000万以上」と表示される。もっとも、これは既存パッケージに積み上がったインストール数の区分であり、今回の再始動後に得た利用者数ではない。
アプリ説明は、ゲームから文化系の動画までを扱い、画面上をコメントが流れる「danmu」、動画投稿、AIによる吹き替えを備える。言語対応を広げても、コンテンツをゼロから調達する必要がない点は、後発の国際サービスにはない出発点になる。一方で、Google Playの掲載だけから、各国で同じ動画が見られるとは判断できない。配信権、地域の法令、モデレーションの判断によって、カタログは変わり得る。
海外展開ではデータの扱いも製品の一部になる。Google Playの開示では、個人情報やアプリ内の活動などを第三者と共有する場合があり、個人情報、金融情報などを収集し得る。通信時の暗号化と削除請求にも対応するとしている。これは不正利用を示す材料ではないが、身分証明書なしで登録できる手軽さと、サービスが実際に集めるデータの範囲は分けて確認する必要がある。
Semaforは今回の動きを、以前に終了した国際版の再始動と報じた。Semaforによると、改訂版では登録時のパスポートまたは身分証明書の確認を求めず、新設されたCreator Hubのアカウントは米国と中国でコンテンツが同じだと案内していた。これは報道とアカウント上の説明であって、地域ごとに完全に同一のカタログを保証する公式な検証結果ではない。
3億7600万超の利用基盤を海外の供給力へ
Bilibiliの2026年第1四半期の月間アクティブユーザー数(MAU)は3億7600万人を超え、デイリーアクティブユーザー数(DAU)は前年同期比8%増の1億1520万人だった。1日当たりの平均利用時間は119分である。国際版は、既存の動画群とコミュニティを海外版の立ち上げに生かせる。
Semaforが確認したクリエイター向け資料では、英語版を「近日公開」とし、スポンサー投稿向けのブランドマーケットプレイスは開発中と説明していた。ロサンゼルス、ロンドン、東京など6都市ではコミュニティマネージャーを採用しているという。同資料は、追加収入を得て、若く購買力と教育水準の高い利用者へ届く場としてBilibiliを売り込んでいた。いずれも報道で示された計画や企業側の宣伝文句であり、サービスとして完成・提供済みという意味ではない。BilibiliはSemaforの取材に回答しなかった。
海外展開で先に使えるのはコンテンツの量だが、クリエイターが投稿を続けるかどうかは別の問題である。収益分配率、決済手段、国別の権利処理は、確認できる公式資料では公表されていない。ブランドマーケットプレイスが実際に始まるまで、広告主と海外クリエイターをどう結び付けるかも未確定のままだ。
黒字を保ちながら海外投資を試す
Bilibiliの2026年第1四半期売上高は前年同期比7%増の74億7000万元、広告売上高は30%増の25億9000万元だった。純利益は2億200万元で、前年同期の1070万元の純損失から黒字へ移った。3月末の現金・現金同等物、定期預金、短期投資は合計241億9000万元である。総売上より広告の伸びが大きく、赤字下で海外拡大を急ぐ局面とは財務条件が異なる。ただし、黒字化が今回の再始動を直接引き起こしたとは資料から言えない。
費用の内訳からも、Bilibiliが何へ資金を振り向けているかが分かる。研究開発費はAI投資の拡大を主因に9%増の9億2110万元となった一方、販売・マーケティング費は1%減の11億5000万元だった。売上原価に含まれる収益分配費は7%増の28億5000万元である。国際版は、広告宣伝費を一気に積み増した大型攻勢というより、AI、翻訳、審査と既存コンテンツを使いながら、海外向けの運営を組み立てる段階にある。
ここで広告成長とクリエイター施策はつながる。クリエイターの投稿が増えても、地域の広告主が出稿できず、支払いの仕組みがなければ、海外での継続的な供給には結び付かない。Semaforが確認した資料にあるブランドマーケットプレイスは、スポンサー投稿を扱う収益化機能に当たる。提供時期や収益分配率は公表されていない。
YouTubeとの差は翻訳より運営に出る
YouTubeは100超の国と80言語でローカライズ版を提供し、月間ログインユーザーは数十億人、1日当たりのアップロード数は2000万本を超える。BilibiliがAI吹き替えを追加しても、翻訳機能の有無だけで、この配信規模と地域運営の差が埋まるわけではない。
Bilibili Groupが募集するシンガポール拠点のプロダクトマネージャーには、AIモデレーションと多言語・異文化向けの仕組みを設計する役割が含まれる。求人は、人とAIを組み合わせた審査に加え、利用者からの通報、異議申し立てへの対応、回答、ルールの説明まで対象に挙げる。方針とコミュニティガイドラインをモデルへ組み込み、検出の精度と再現率を改善する仕事も含む。海外向けの運営基盤を作る求人だが、その仕組みが全対象国で完成していること、正確に機能すること、各地の規制に適合していることまでは示さない。
翻訳の先には、異なる文化圏で何を違反と判定し、誤判定へどう応答するかまで製品として作る課題がある。動画を見つけやすくする推薦と、違反動画を止める審査は、どちらも言語と地域の違いを扱わなければならない。後者では、判定に異議を唱える投稿者へ応答し、手続きを案内する運用も必要になる。
動画の供給量を引き継げても、海外の利用者を定着させるには、地域に合わせた推薦と投稿者への支払いが要る。権利者対応やルール違反への応答も、地域ごとに用意しなければならない。「1000万以上」という既存パッケージの表示では、再始動後の初動を測れない。英語Web版とiOS版がいつ利用可能になり、海外のクリエイターが何を得られ、ブランド向け市場と国別ポリシーがどこまで公開されるかが、国際版を継続的なサービスにする条件になる。
