• 何が起きた: CTSは、中国企業の半導体工場向けに輸入された液浸DUV露光装置が、2026年第1四半期までに累計343台に達したと推計した。
  • なぜ重要か: 主力を占めるNXT:1980i系列は7nm級の製造工程にも利用できるため、EUVを入手できない中国にも先端チップを増産する余地が残る。
  • 次に見るべき点: 実際に稼働している装置の台数と工程ごとの配分、露光以外の製造装置、HBMの積層・先端実装能力、交換部品や保守体制の確保である。

米政策研究機関Center for Technology & Statecraft(CTS)は9月26日、中国企業の半導体工場向けに輸入されたASML製の液浸DUV露光装置が、2026年第1四半期までに累計343台に達したと推計する報告書を公表した。

そのうち主力を占めるのが、7nm級の製造工程にも利用できるNXT:1980i系列で、推計270台に上る。EUV露光装置を入手できない中国でも先端チップの生産を拡大できる可能性があるとして、著者らは液浸DUVの対中輸出を全面的に停止するよう提言している。

ただし、343台という数字は現在稼働している装置を実測したものではない。また、この台数をそのままAIチップの生産量へ換算することもできない。装置がどの工場・工程に配置されているかに加え、メモリ製造、先端実装、保守など、複数の条件を満たす必要があるためだ。

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343台の内訳と、推計に含まれないもの

CTSが集計したのは、2012年から2026年第1四半期までに、中国企業が所有する半導体工場向けに輸入されたASML製の液浸深紫外線(DUV)露光装置だ。

半導体の回路パターンを光でウェハーへ転写する露光装置のうち、レンズとウェハーの間を水で満たして解像度を高める液浸方式を対象としている。ドライDUVや、ニコン製の液浸露光装置は343台に含まれない。

報告書の付録Eでは、中国国内の外資系工場も含めた累積輸入を中央値396台、そのうち中国企業の工場向けを343台と推計している。

中国企業向けの推計分布について、中央80%が収まる範囲は312〜383台だった。ただし、これは現地で実際の装置台数を数えた際の測定誤差ではない。装置価格や輸入品目の分類など、推計に使う前提を変えた場合に結果がどの程度動くかを示した範囲である。

中国企業の工場向けの型番群 累積輸入の中央推計 CTSが評価する主な用途
NXT:1980i系列 270台 7nm級ロジックやHBM2e向けDRAMの製造を支え得る
NXT:2050i 22台 より高い精度を求められる先端工程に利用可能
NXT:2100i 6台 先端工程の中でも特に厳しい層に利用可能
NXT:1970i以前 45台 より旧世代のロジックやメモリ向け
合計 343台 稼働確認済みの台数ではない

出典:CTS、2026年9月報告書の付録E。対象期間は2012年〜2026年第1四半期で、中国企業が所有する工場向けのASML製液浸DUVを集計した。数値は各区分の中央値である。

CTSの中央値を型番群ごとに合計すると、NXT:1980i以降は298台(270+22+6)となり、343台の約87%を占める。比率は298÷343×100を整数に丸めたものだ。

先端工程に利用できる装置が相当数集まっていることは確かだが、この298台すべてが7nmの量産ラインで稼働しているという意味ではない。

そもそも付録Eは、これらの数字を「現在稼働中の装置数」ではなく「累積輸入台数」として扱うよう明記している。退役した装置や再輸出された装置はモデルから除外されておらず、2012年以前の輸入も含まない。工場ごとの配置を完全に追跡できているわけでもない。

343台という数字が示しているのは、中国側がこれまでに取得した液浸DUV装置のおおよその規模である。

決算、税関統計、米下院調査から343台を推計

CTSは、ASMLの財務開示、中国の税関統計、米下院の対中特別委員会が公表した出荷情報を組み合わせて、累積輸入台数を推計した。

ただし、すべての年を同じ方法で計算したわけではない。2021〜2024年は米下院委員会が取得した型番別出荷データを利用し、それ以前と以後の一部期間については、ASMLの決算資料や中国税関の数字から推計している。

米下院報告書『Selling the Forges of the Future』は、ASMLを含む半導体製造装置メーカー5社から資料を取得してまとめた調査だ。

同報告書29ページの型番別グラフでは、より高性能なNXT:2050iやNXT:2100iの中国向け出荷が2024年にゼロになる一方、NXT:1980i系列の出荷が急増したことが示されている。30ページの表では、2024年にASMLが販売した液浸DUVの70%が中国向けだったとしている。

ここでいう70%は、ASMLの装置販売全体に占める売上比率ではなく、液浸DUVの販売台数に占める中国向けの割合だ。

一方、中国の税関統計には露光装置の細かな型番までは記録されていない。液浸DUV、ドライDUV、i線露光装置などが同じ分類に含まれるため、CTSは輸入台数と申告金額を、装置単価の仮定を使って分解している。

さらに、税関上の荷受人が登録されている省と、実際に装置が設置される工場の所在地が一致するとは限らない。装置価格や品目分類、外資系工場への納入分をどう扱うかによって、推計結果は変わる。

報告書は、NXT:1980i系列の取得台数を2024年に約90台、2025年に約89台とし、この2年間の支出額を130億ドル超と推計している。

ただし、2024年は型番別出荷データが利用できる一方、2025年は財務情報や税関統計などを組み合わせた推計だ。購入が急増したという全体的な傾向と、個々の年の台数を厳密な実数として扱えるかどうかは分けて考える必要がある。

また、米下院委員会は、この調査自体が法令違反の有無を判定するものではないと明記している。規制対象企業への販売や、輸出規制導入後の装置輸入が確認されたとしても、それだけで違法輸出だったことを意味するわけではない。

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38nmの解像度でも7nmを製造できる理由

ASMLが公開するNXT:1980Diの仕様では、193nmのArF光源を使用し、条件によって38nmまでの解像度、装置間の重ね合わせ精度2.5nm以下を掲げている。

CTSが「NXT:1980i」としてまとめる区分には同系列の複数世代が含まれるため、推計270台すべてがNXT:1980Diと同じ性能を持つと考えるのは適切ではない。それでも、この系列がマルチパターニングを利用する量産工程に対応する装置であることは、ASMLの説明から確認できる。

液浸露光では、レンズとウェハーの間を水で満たすことで光学系の解像性能を高める。

さらに、一度の露光では描けないほど細かなパターンを、複数回の露光や加工に分けて形成するのがマルチパターニングだ。成膜やエッチングを組み合わせながら、それぞれの工程を高精度で位置合わせすることで、一回の露光能力を超える微細な構造を作る。

「7nm」という名称も半導体製造技術の世代を示す呼び方であり、チップ上のすべての構造が7nmの寸法になっているという意味ではない。

DUVを使って7nm級の半導体を量産した前例もある。

TSMCは2018年にN7の量産を開始し、EUVを利用するN7+は2019年に量産を始めた。同社の2019年10月7日の発表では、N7+を同社初の商用EUVプロセスと位置付け、その時点で従来のN7はすでに1年以上量産されていたと説明している。

つまり、EUVを使わずに7nm級を製造する方法は理論上の可能性にとどまらず、半導体業界が実際に量産で利用してきた技術だ。

ただし、露光を複数回に分けるほど、同じウェハーを何度も装置へ通し、成膜やエッチング、位置合わせを繰り返す必要がある。

露光装置が1時間に処理できるウェハー枚数を、そのまま完成ウェハーの生産量として計算することはできない。工程数が増えれば処理時間が長くなり、不良を抑えながら高い歩留まりを維持する難易度も上がる。

EUVを利用する利点の一つは、より細かなパターンを描けることだけでなく、DUVでは複数工程に分ける必要がある複雑な層を、より少ない工程で形成できることにある。

TSMCの量産実績が示すのは、DUVによる7nm級製造が可能だということまでだ。同じ型番の露光装置を購入すれば、中国の工場でも同じ歩留まりや生産性を実現できるという証拠ではない。

成膜、エッチング、検査など周辺工程を整え、製造条件を継続的に最適化して初めて、露光装置の能力を実際の製品へ結び付けられる。

「年10万個」の試算にはHBMと先端実装も含まれる

CTSは、露光以外の設備も十分に整った中国の工場であれば、NXT:1980i一台当たりの露光能力が、年間10万個を超える「Ascend 910C相当」の製品生産を支え得ると試算している。

ただし、これを「露光装置1台からAIチップの完成品を年間10万個作れる」という意味で読むと、製造工程を誤解することになる。

付録Dのモデルで想定する910C相当品は、7nmのロジックダイ2個と、HBM2eの積層メモリ8組を組み合わせる構成だ。

HBMについては、DRAMダイを8層積み重ねたものを8組使うと仮定しており、完成品1個当たり合計64個のDRAMダイが必要になる。

ロジックとDRAMでは、必要な露光回数も、1枚のウェハーから得られるダイ数も、歩留まりも異なる。HBMではさらに、複数のDRAMダイを積層する工程にも歩留まりの影響が加わる。

CTSはこうした違いを踏まえ、露光装置が処理できるウェハー枚数を、それぞれの工程で必要になる通過回数で割り、得られるダイ数と歩留まりを掛けて、ロジックとメモリの生産量を別々に計算した。

そのうえで、限られた露光装置をロジックとメモリへどう配分すれば910C相当品を最も多く生産できるかを求め、先端パッケージングの歩留まりも加味している。

したがって、「1台当たり年間10万個」という数字は、複数の製造工程を支える露光能力全体から逆算した換算値である。

そして最大の前提は、露光以外の前工程設備と先端実装能力が十分にそろっていることだ。

報告書は、中国ではエッチングや成膜装置の不足も制約になっていると指摘し、これらのボトルネックが解消されなければ、液浸DUVを追加しても910Cの生産量が増えない場合があると説明している。

DRAMの回路を露光できることと、それをHBMとして高い歩留まりで積層し、さらにロジックダイと組み合わせて完成品として出荷できることは別の能力だ。

2035年までの生産能力を比較した付録Fについても、中国側の数値は他工程の制約が解消されたと仮定した「露光装置から見た生産能力の上限」であり、実際の生産量を予測したものではないと明記されている。

多数の液浸DUVを保有していることは、将来の増産余地を支える重要な資産になる。一方、条件付きで算出された生産能力を、現在の工場が実際に達成している生産量と読み替えることはできない。

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CTSは許可制から全面禁輸への変更を提言

オランダは2023年9月から先端露光装置に対する輸出管理を導入し、2024年9月7日にはNXT:1970iとNXT:1980iにも許可制を拡大した。

ASMLが同年9月6日に発表した声明では、これらの装置を輸出する際、米国政府ではなくオランダ政府へ許可を申請することになると説明している。NXT:2000i以降の装置は、それ以前からオランダの輸出許可対象だった。

ただし、オランダ政府の説明では、EU域外への輸出を案件ごとに審査する制度であり、全面的な輸出禁止ではないと明記している。

CTSは2026年9月の報告で、NXT:1980iについては許可制となった後も相当数の中国向け出荷が認められていると分析した。

過去の制度説明だけから現在の個々の取引が認められるかどうかを判断することはできないが、「輸出許可が必要になった」ことと「すべての輸出が停止した」ことは同じではない。

CTSが今回提言しているのは、この許可制を、中国全域への液浸DUV輸出を原則停止する政策へ改めることだ。

さらに、先端工場にすでに設置された装置についても、保守や交換部品の供給、装置の移設・転用を制限するよう求めている。

これはあくまで研究機関による政策提言であり、9月の報告書の公表によって新たな全面禁輸が発効したわけではない。

著者らが問題視しているのは、成熟した製造工程向けとして輸入された装置であっても、後から先端チップの製造へ転用できる可能性があることだ。

報告書では、装置や主要部品を別の工場へ移すこと、既存工場の製造工程を高度化すること、加工途中のウェハーを工場間で移動させることなどを、想定される経路として挙げている。

ただし、これらは輸出管理上考慮すべき転用リスクを分析したものであり、輸入された343台すべてが実際に先端工程へ転用されたことを示す証拠ではない。

輸出規制を難しくしているのは、同じ露光装置を複数世代の半導体製造に利用できることだ。

ある型番が7nm級の製造に利用できるからといって、納入先が現在その用途で使用しているとは限らない。最終用途に応じて輸出を許可する制度を取るのであれば、購入時の申告だけでなく、導入後に装置がどこへ配置され、どの工程に使われているかも確認する必要が生じる。

ASMLの顧客支援には、製造スケジュールに合わせた保守やアップグレード、予期せぬ停止を減らす診断、装置の近くへ交換部品を配置する物流体制などが含まれる。装置を別工場へ移設する際にも、計画立案や資材、熟練技術者による支援が提供される。

つまり、露光装置は一度購入すれば、その後の支援なしで長期間同じ性能を維持できる単純な設備ではない。

そのため、新規装置の出荷を制限する政策と、既存装置への部品・保守支援を制限する政策では、影響する部分が異なる。

前者は将来追加される露光能力を抑える。後者は、すでに導入された装置をどれだけ長く、安定した性能で稼働させられるかに影響する。

中国側が累計343台を取得したという事実だけから、今後も外部支援なしで同じ生産能力を維持できると判断することはできない。

中国の先端半導体の増産能力を見極めるには、実際に稼働している液浸DUVがどの工場へ配置され、ロジックとDRAMのどちらに使われているのかを追う必要がある。

さらに、成膜・エッチングなどの前工程設備、HBMの積層、先端パッケージング能力が露光能力と釣り合っているかも重要だ。

交換部品や保守体制まで確保し、製造工程全体で高い歩留まりを維持しながら製品を継続出荷できるようになったとき、累積輸入343台という数字を、実際のAIチップ供給能力へどこまで結び付けられるかが見えてくる。