メモリとSSDの高騰は、PCメーカーの調達判断を変え始めた。台湾の工商時報は2026年7月7日、台湾ドル3万元台のノートPCで16GBメモリと512GB SSDを載せることが難しくなり、Lenovoや台湾系PCブランドが中国系メモリ・ストレージ製品の認証や採用を進めていると報じた。
変化の中心は、すぐに全モデルを中国系部品へ置き換えることではない。PCブランドがまず必要としているのは、価格が跳ねたときに使える認証済みの選択肢だ。DRAMとNANDの契約価格が上がり、ノートPCの店頭価格にも転嫁される局面では、BOMに載せられる部品の幅そのものが交渉力になる。
ただし、これは韓国メモリ大手の採用減を意味しない。TrendForce Newsは、台湾系ブランドが中国サプライヤーの生産能力にはなお制約があると見ており、長期供給契約を持つブランドでは韓国メーカーが主な供給元であり続けるとの見方も示している。つまり、今回の動きは主役交代より先に、調達の逃げ道が増えた話である。
代替調達は認証から始まる
工商時報によると、Lenovoは2026年から中国系メモリなどの採用を広げている。最近では、中国系サプライヤーのSSDを搭載したフラッグシップノートが北米のECプラットフォームに現れた。対象は1,000ドル前後の主流ノート市場で、部材高によって選択肢が細った価格帯だとされる。
MSIの例は、完成品への搭載より前の段階を示している。同社はAMDマザーボード上で、KingBankとLexarの市販メモリモジュールを使い、中国大手メモリサプライヤーのDDR5チップを検証した。TrendForce Newsは、MSIがAMDプラットフォームでDDR5-8000超の動作を公開検証した初のマザーボードブランドになったと伝えている。
ASUSも同じ方向にある。Tom's Hardwareによると、ASUSはROG 20周年モデルとして48GBのDDR5-6000メモリキットを880ドルで発表し、ROG ModeではDDR5-8000に引き上げられる仕様にした。このキットはBIWINとの協業で、同社はROG認証メモリプログラムも14社へ広げた。TrendForce Newsは、その提携先にBIWIN、Asgard、Lexarなど中国系企業が含まれると伝えている。
Acerは、すでに周辺部品のブランド運用でBIWINとの接点を持つ。TrendForce Newsは、AcerがBIWIN製メモリモジュールを自社ブランドとPredatorのラインで投入していたと伝えた。PC Gamerも2025年のPredator GM9000 SSDレビューで、同製品をBIWIN Black Opal X570 ProをベースにしたAcer向けモデルと位置づけている。PCブランドは、完成品、リテール部品、認証プログラムの複数経路で中国系サプライヤーを試している。
13-18%のDRAM高がPC側を動かす
この動きが出た背景には、メモリ価格の上昇がある。TrendForceは7月3日の価格調査で、2026年第3四半期のConventional DRAM契約価格が前四半期比13-18%、NAND Flash契約価格が10-15%上がると予測した。上昇率は前の四半期より鈍るが、価格水準はすでに高い。
PCメーカーにとって厳しいのは、AIサーバー向け需要が供給配分を動かしていることだ。TrendForceは、サプライヤーがサーバー用途へ生産能力を振り向けているため、PC DRAM向けに使える供給が減っていると説明する。PC OEMは在庫補充のため調達を続ける一方、高い部材コストはノートPC在庫へ流れ込み、店頭価格の上昇と年間出荷の重しになる。
ここで中国系メモリの意味が出る。価格そのものが少し安いだけなら、品質検証や保証対応の負担を考えると採用は進みにくい。だが、主要ブランドのマザーボードや完成品で動作確認が積み上がると、PCメーカーはモデル別に部品表を組み替えられる。認証済みの選択肢は、実際に使うかどうかとは別に、長期契約やスポット調達での交渉材料になる。
8200MT/sは量産採用の保証ではない
中国系メモリの評価で注意すべきなのは、高クロックのデモと大規模採用を分けることだ。Global Economic Newsは7月7日、MSIのAMDマザーボード向けベータBIOSにより、CXMTの24Gbitチップを搭載したDDR5モジュールが1DPC構成で8200MT/s、2DPC構成で7200MT/sの互換性テストを通過したと報じた。テストにはLexarとKingBankの市販モジュールが使われた。
この結果は、中国系DRAMが消費者向け高性能プラットフォームで使える範囲を広げたことを示す。AMD EXPOやXMPのようなプロファイルを通し、マザーボード側のBIOS調整を重ねれば、メモリチップ単体ではなくプラットフォーム全体として動作域を引き上げられる。PCブランドにとっては、CPU、マザーボード、モジュールの組み合わせで検証済み構成を作れる点が大きい。
それでも、8200MT/sという数字だけで量産採用を判断するのは早い。高クロック動作にはモジュールの選別、BIOSの調整、メモリコントローラとの相性が絡む。完成品ノートでは、薄型筐体の熱設計、保証期間、地域別の修理体制も問題になる。TrendForce Newsも、ASUSやAcerの高価格帯ノートでは中国メーカー製チップを使うメモリやストレージ部品がまだ少ないと伝えている。
既存大手の主導権は残るが、交渉材料は増える
短期の供給では、韓国・米国大手であるSamsung Electronics、SK hynix、Micronの主導権は大きく崩れにくい。PCブランドは長期供給契約を通じて必要量を押さえており、中国サプライヤーには生産能力の上限がある。AIサーバー向けのHBMやRDIMMが利益を押し上げる局面では、大手メーカーが高付加価値品へ能力を振り向ける誘因も強い。
一方で、主流PC向けの汎用DRAMやSSDでは、採用可能な代替先が増えるだけで価格交渉の前提が変わる。Global Economic Newsは、中国系サプライヤーの量産能力が拡大すれば、PCメーカーやグローバルOEMの交渉力が増し、スポット価格や固定取引価格に下押し圧力をかけ得ると指摘した。影響はすぐ全面的に出るのではなく、認証済みモデルの数と出荷地域の広がりに沿って強まる。
1,000ドル前後の主流ノート、ゲーミング向けリテールメモリ、メーカー純正ブランドのSSDでは、すでに入口が見えている。高級ノートや法人向けモデルまで広がるには、安さに加えて供給量、長期信頼性、サポート体制をPCブランドが確認できなければならない。