この1年において、パーソナルコンピュータ向けのメモリ市場では急激な価格高騰が観測されている。この価格上昇を誘引した最大の要因は、人工知能(AI)市場の爆発的な拡大だ。AI処理用の半導体で必要とされるHBM(高帯域幅メモリ)の需要が急増した結果、SamsungやSK hynix、Micronなどの主要メモリメーカーは、限られた生産ラインをHBM向けへと大きく振り分ける意思決定を行った。
この生産キャパシティのシフトは、一般PC向けに供給されるDDR5メモリの生産ラインを圧迫することになった。その結果、DDR5メモリの供給量が減少し、小売市場における価格は大幅に上昇した。市場調査会社のTrendForceによると、DRAMの契約価格は2025年第4四半期に前年同期比で75%以上上昇し、2026年第1四半期には最大98%の上昇を記録した。また、Gartnerの予測では、2026年のDRAM価格は前年比で125%上昇し、NANDフラッシュメモリについても234%の上昇に達するとされている。自作PCユーザーやゲーミングPC向けのハードウェア市場は、この急激なコスト増加による直接的な影響を受けている。一部のメディアでは、DDR5メモリの小売価格がピーク時に414%上昇したと報告されている。この極端な需給の不均衡が、PCシステム全体の導入コストを引き上げる主要因となっている。
中国CXMTの爆発的成長と黒字転換が示す地殻変動
こうした大手メーカーがAI向けHBMの増産に注力し、一般DRAMの供給が手薄になる隙を突き、中国のメモリ産業が急激な成長を遂げている。中国政府の強力な支援を受ける中国最大のDRAMメーカー、ChangXin Memory Technologies (CXMT) は、業績を飛躍的に向上させている。
中国の金融メディアであるCaixinが報じたCXMTの投資目論見書の更新データによると、同社の2026年第1四半期における売上高は前年同期比719%増の508億元(約74億6000万ドル)に達した。純利益は330億元を記録し、前年同期の28億元の赤字から劇的な黒字転換を達成している。また、支配株主に帰属する純利益は250億元となった。この勢いは衰えず、2026年上半期の売上高は1100億元から1200億元に達し、支配株主に帰属する純利益は最大57億元(全体での純利益は750億元)に上る見通しである。
CXMTは現在、世界市場において急速にシェアを伸ばしている。市場調査会社Omdiaの2025年第4四半期のデータによると、CXMTのグローバルDRAM市場シェアは7.67%に達し、Samsung、SK hynix、Micronの3大メーカーに次ぐ世界第4位の位置を確保した。3大メーカーの合計シェアは依然として90%を超えているものの、中国国内市場における内製化の波と世界的なDRAM不足がCXMTの追い風となり、その存在感は急速に高まっている。
CXMTはさらなる技術開発と生産ラインの拡大を目的として、上海証券取引所の科創板(STAR Market)へのIPOを計画しており、295億元(約43億3000万ドル)の資金調達を目指している。このIPOは、中国の半導体自給自足の達成度を測る試金石として市場から注視されている。
技術的ギャップと米国規制が課す成長への制約
劇的な成長を示すCXMTであるが、依然として先行する3大メーカーとの間には無視できない技術的および構造的な課題が存在する。
技術面において、CXMTが提供する最新のDDR5製品の最大容量は24Gbにとどまっており、これはSamsungやSK hynix、Micronが実用化している最先端の32Gb製品と比較して1世代遅れていると評価されている。AI処理や大容量サーバー用途では単一チップあたりの高密度化が求められるため、この技術的ギャップは高付加価値市場への参入において一定の障壁となる。
さらに大きな不確実性要因となっているのが、米国政府による半導体製造装置の輸出規制である。最先端プロセス(10nmクラスの極微細化プロセス)への移行に必要な露光装置などの導入が厳しく制限されており、生産ラインの純粋な物理的拡大や製造効率の向上が妨げられている。CXMTはこの規制を回避しつつ生産効率を最大化する戦略をとらざるを得ず、これが今後の生産コストや供給能力に不透明感を与えている。
2027年後半に訪れる価格反転と過剰供給の足音
現在のメモリ価格高騰と供給不足の状況について、半導体業界の有力者から極めて具体的な市場予測が示された。Samsungの元半導体事業責任者であり、現在はエグゼクティブアドバイザーを務めるKye-hyun Kyung氏は、韓国工学アカデミーのフォーラムにおいて、2027年後半に市場の価格が大幅に下落する可能性があるとの予測を語った。
Kye-hyun Kyung氏が価格下落の最大要因として挙げたのが、中国企業による大規模な設備投資とそれに伴う生産能力の急拡大である。CXMTやJiahe Jinweiなどの中国勢は、政府の自給自足推進方針に支えられ、国内ファブの拡張と増産を驚異的なスピードで進めている。同氏の指摘によると、中国の計画通りに供給量が増加した場合、2027年後半には世界全体のDRAM生産能力がウェハー処理ベースで月間600万枚規模に達する見込みである。これにより、現在の深刻な供給不足は一瞬にして過剰供給局面へと転換し、小売価格は急速に低下することになる。自作PCユーザーや一般消費者にとっては低価格化の恩恵がある一方で、メモリ業界全体にとっては利益率の急降下を意味する。
AI投資の不確実性と過剰設備の二重リスク
Kye-hyun Kyung氏は、この生産能力の拡大がもたらす地政学的および市場的な歪みに対して警告を発している。同氏が懸念しているのは、現在のメモリ超周期(スーパーサイクル)が、巨大テック企業(Big Tech)によるAI分野への膨大な設備投資に極端に依存しているという点である。
現時点で多くの企業が競争的にAI半導体およびその周辺メモリを買い漁っているが、このAI関連投資に対する収益性(ROI)が期待を下回った場合、企業の取締役会は設備投資の縮小に踏み切る可能性が高い。もしAIへの投資意欲が減退すれば、HBMや高性能DRAMに対する需要は急激に縮小する。そのタイミングで中国メーカーによる大規模増産モデルが市場に流入すれば、メモリ市場は「Too much of a good thing(豊作貧乏)」とも呼ぶべき未曾有の過剰供給に陥り、深刻な価格崩壊を引き起こす危険性がある。現在の高価格局面は決して永続的なものではなく、きわめて不安定なバランスの上に成り立っている。
単純なメモリ依存からの脱却と半導体業界の生存戦略
この予測される市場の暴落と地政学的変動を生き抜くため、Kye-hyun Kyung氏は韓国の半導体業界に対しても鋭い提言を行っている。
同氏は、現在のメモリブームによる一時的な高利益に甘んじるのは極めて危険であると主張する。具体的には、従来のメモリ製造に特化したビジネスモデルから脱却し、先端技術開発(ディープテック)へのフォーカスや、グローバルなファブレス(設計専門)分野の競争力強化に戦略的に舵を切るべきであるとした。さらに、国家レベルでのAI基盤(ソブリンAI)の構築や、地政学的リスクに対して強靭なサプライチェーンの再設計を行うことが、市場の変動に耐えうる唯一の道であると促している。
半導体市場は現在、AIブームの恩恵を受けて絶頂期にあるように見えるが、その背後では中国メーカーの台頭と供給過剰のリスクが確実に進行しており、次の需給調整局面をにらんだ戦略的な再編がすでに始まっている。