中国の全国人民代表大会が2026年3月5日に開幕し、李強首相は2026年の成長率目標を4.5%から5%に設定した。過去3年の「おおむね5%」から一段下げた水準であり、1991年以来の低さと報じられている。同時に、中国は財政赤字目標をGDP比4%へ引き上げ、超長期特別国債や地方政府の専項債を通じて需要を下支えする構えを鮮明にした。数字だけ見れば景気下支え策である。だが政策の重心は景気刺激そのものより、次の5年でどの産業に資本と行政資源を集中させるかにある。

今回の焦点は、2026年から2030年を対象とする第15次五カ年計画である。報道ベースでは、最終案は会期末の3月12日にかけて詰められる見通しだが、開幕時点で示された方向性は十分に明確だ。中国は消費の弱さと不動産不況、若年失業、米国との技術摩擦という複数の圧力を抱えながら、AI、半導体、先端製造を国家の中核課題に据え続ける。ここで読み取るべきなのは、成長率の引き下げが守勢への転換を意味しない点である。むしろ、成長の総量目標を少し下げることで、技術自立に必要な資金配分と時間軸を確保しようとしている。

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景気対策の看板より重いのは資金の配分先である

中国政府は2026年の財政赤字目標をGDP比4%とし、1.3兆元の超長期特別国債を発行する方針を示した。地方政府も4.4兆元規模の専項債を発行し、インフラ、補助金、債務返済などに充てる見通しである。加えて、国内需要のてこ入れとして2500億元の超長期特別国債、1000億元の利子補給・信用保証向け特別基金も打ち出された。預金準備率やLPRの引き下げにも言及しており、金融面でも流動性を厚くする構えを見せている。

この構図は一見するとオーソドックスな景気支援策に見える。実際、中国経済は2025年まで輸出依存で成長をつないだ面が大きく、消費者物価の伸びも弱く、内需の細りが続いていた。消費を下支えしなければ、投資と輸出に頼る旧来型の成長モデルへ逆戻りする。しかし今回の政策パッケージでは、消費刺激は単独の目的ではない。内需の落ち込みを緩和しつつ、国家が選んだ産業に資本を切らさないことが主眼である。

そのため、財政支出の議論と技術政策の議論が同じ場で接続されている。通常の景気循環対策なら、消費喚起と雇用安定が前面に出る。今回の中国はそこにAI、集積回路、量子技術、バイオ、ロボティクス、6G、低空経済を並べた。需要対策と産業政策が別々に動いているのではない。需要の下支えが、技術覇権をめぐる長期戦を継続するための土台になっている。

15次五カ年計画の本質は「高成長」ではなく「供給網の主導権」である

報道で共通しているのは、中国が「new-quality productive forces」を軸に据えている点だ。日本語では「新質生産力」と訳されることが多い。意味するところは、量的拡大より、先端技術を組み込んだ生産性の再構成である。AIモデル、半導体、先端製造装置、航空宇宙、バイオ医薬、将来エネルギーといった分野に政策資源を集中し、製造業の競争力を高付加価値側へ押し上げる狙いがある。

この方針は、米国の輸出規制への対抗策として理解すると輪郭がはっきりする。中国にとって半導体は、単独産業ではない。AI計算基盤、電気自動車、産業ロボット、通信インフラ、軍民両用技術を束ねる基盤部材である。ここを外部依存のまま放置すれば、成長率が達成できても供給網の主導権は得られない。だからこそ、五カ年計画では経済成長と技術自立が同列ではなく、後者が前者の条件になっている。

また、中国がレアアース優位を強化し、半導体で「特別な措置」を取る方向も伝えられている。中国は単にチップを増産したいのではなく、素材、装置、設計、計算需要、国家調達までを一体で握る体制へ踏み込もうとしている。

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消費を語りながら製造業を守るというねじれ

ここで難しいのは、消費主導への転換と製造業強化が同時には進みにくい点である。Reutersの報道では、家計消費をGDP比45%前後まで引き上げる必要性や、2030年に向けた都市化率、R&D投資の積み増しが論点として挙がっていた。中国指導部も家計消費の押し上げを掲げるだろうという観測は強い。だが製造業の比率を維持し、戦略産業へ資源を厚く配分する限り、所得分配を通じて消費を大きく引き上げる政策とは緊張関係が残る。

言い換えれば、15次五カ年計画は中国経済を消費中心へきれいに転換する設計図ではない。現実には、輸出競争力と先端製造の蓄積を保ちながら、国内需要の失速だけは避ける折衷案に近い。学校の春秋休暇や有給休暇の輪番取得、外国人の消費環境改善まで打ち出しているのは、家計支出を底上げしたいからである。一方で、国家が長期投資でユニコーン育成に関与し、AIや半導体へ直接資源を寄せる姿勢はさらに強まっている。市場任せの構図ではない。

半導体とAIで何が変わるのか

半導体では、先端ノードで一気に米国や台湾へ追いつくというより、まず国内で回る供給網を厚くする方向が現実的である。成熟プロセスから装置、部材、実装まで含めて国産比率を引き上げれば、対外規制の効き方は鈍る。AIでも同じで、最先端GPUの確保だけが勝負ではない。自前の大規模モデル、産業向け導入、地方政府や国有企業の需要、クラウド基盤を束ねれば、性能競争とは別の土俵で規模を作れる。

この点で、今回の五カ年計画は中国国内のテック企業に対する投資指針でもある。資金が向かうのは、消費アプリの派手な成長より、国家課題に沿った供給能力である。半導体製造、産業用AI、ロボット、通信、量子、バイオといった領域は、政策の追い風を受けやすい。逆に、海外の装置、EDA、先端計算基盤に依存したまま中国市場の需要を取り込んできた企業には不確実性が増す。競争条件は市場シェアではなく、どの供給網に組み込まれているかで決まりやすくなる。

このニュースの意味は、中国が「成長率を何%に置くか」という議論を、産業の主導権争いの下位に置いた点にある。4.5%から5%という目標は低く見えるが、その代わりに財政余地、政策金融、行政支援を先端産業へ流し込む余白が広がる。短期の景気刺激策に見える施策も、実際には技術自立を継続するための燃料である。

次に争点になるのは、この設計が本当に内需回復と両立するかどうかだ。消費が戻らなければ、製造業の拡張は過剰能力問題を再び生む。半導体とAIで国産化が進まなければ、巨額の資金投下は効率の低い保護政策として批判される。中国の15次五カ年計画は、世界のテック産業に対して「中国市場をどう売るか」ではなく、「どの技術圏に立つのか」を迫り始めた。その選別は、この5年で一段と厳しくなるはずである。


Sources