半導体チップは長年、光を使って回路パターンをウェハーに焼き付ける「フォトリソグラフィー」によって作られてきた。現代の最先端プロセスではEUV(極端紫外線)光刻が主流だが、それより一世代古いDUV(深紫外線)光刻装置も幅広い半導体品種で現役である。どちらもASMLを中心とした一握りのメーカーが供給しており、米国の輸出規制によって中国は特にEUV装置へのアクセスをほぼ失い、DUV装置の入手も年々制約が強まっている。

ナノインプリントリソグラフィー(NIL)は、この光学系の代わりにスタンプを押す方式で微細パターンを形成する。1990年代にプリンストン大学のStephen Y. Chou教授が基礎を築いた技術で、長らく「光刻の代替候補」として研究対象であり続けた。しかし実際の量産への採用は限定的で、欠陥率・テンプレート摩耗・スループット・歩留まりといった壁に阻まれてきた。

なぜ今なのか。その答えは輸出規制の圧力と、NILが比較的相性のよいフォトニクス領域の成長にある。中国のチップメーカーはEUV代替に向けてさまざまな経路を模索しており、Prinanoが選んだのはそのなかでも最も地に足の着いたアプローチの一つと言える。

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Prinanoのアプローチ——PL-AS真空気圧式の仕組み

Prinanoが採用した方式は「真空気圧式(Air Cushion Press)」と呼ばれるものだ。テンプレート全面に気体で均一な圧力をかけてウェハーに押し当てることで、空気クッションのような等圧状態を作り出す。これによりウェハー上のすべてのナノスケール単位に均一な力が加わり、残余層厚さ(RLT)のばらつきを2nm未満に抑えられると同社は主張する。

ロール方式(Roll-to-Roll)は連続処理で生産性が高い反面、ローラーによる線接触圧印のため均一性に限界があり、石英などの硬質テンプレートとの相性も悪い。一方、Canonが2023年に商用化したステップアンドリピート方式のNILは、精度は高いが1ダイずつ順番に押印するため、フォトニクスのような広域パターンには処理効率が著しく低下する。

PL-AS方式は面接触で均一加圧ができる上、真空環境での作業により気泡の混入も排除できる。複合テンプレートを使用できるため寿命が長く、光学系を必要としない分、装置構造がDUV設備より単純になる。これが「コスト1/10」の根拠となっている。

同社が公開した主要スペックは次の通りだ。線幅分辨率は10nm未満、ウェハー全面の圧力均一性誤差は0.5%以下、残余層圧印工艺(残余層ゼロのインプリント)にも対応し、対准精度は100nmレベルまで定制可能。平面・曲面基板両対応で、硬質・柔性テンプレートの双方を扱える。

フォトニクス半導体という選択の合理性

Prinanoが最先端ロジックチップではなくフォトニクス半導体を主戦場に選んだのは、フォトニクスの構造的特性がNILの得意領域と重なるからだ。

フォトニクス半導体は電気信号ではなく光で情報を処理する。光通信、データセンターの光インターコネクト、センシング、LiDARといった用途で使われ、構造としてはブラッグ格子・導波管・リング共振器など、繰り返しナノスケールパターンが多く含まれる。NILが得意とするのは、まさにこの種の周期パターンを大面積にわたって高再現性で複製することだ。ロジックチップのような複雑な多層配線や超高精度の位置合わせが求められる領域とは要求仕様が異なる。

今回の発表では複数の応用領域での実績が示されている。まずLiDARチップ分野では、深センのLitra Technology(力策科技)との共同開発により、メタサーフェス(可調超表面)を用いたOPA(光学フェーズドアレイ)チップの量産検証に成功したとされる。Litra Technologyは博士号保有者が創業したLiDAR専業メーカーで、サービスロボット・産業自動化・スマート自動車向けにOPAベースの固体LiDARを開発している。18mmアパーチャのOPAチップの量産化を進める同社にとって、低コストで高精度なフォトニックウェハー製造ラインの確保が製造コストの核心を握っており、PrinanoのNILソリューションはそこへの直接的な回答として位置付けられている。

光通信・センシングチップ分野では、GaAs(砒化ガリウム)とInP(燐化インジウム)ウェハーへの量産適用を実現した。これらは高速光モジュールにおけるレーザー源・検出器・電気吸収型変調器の基板として使われる化合物半導体だ。Prinanoは自社開発の複合テンプレートNIL技術により、GaAs・InPのもろさによる離型課題を解決し、格子・導波管パターンの高忠実度複製を実現したとしている。

シリコンフォトニクス分野では8インチウェハーのプロセス検証に成功し、線幅150nmから10μmにわたる多次元構造を単回圧印で成形、残余層を10nm未満に均一制御し、側壁粗さを1nm未満に抑えることができたという。データセンターやAI算力インターコネクト向けの光エンジン製品の早期商用化に向けた実績として示されている。

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輸出規制の文脈と業界の動向

Prinanoの発表は、より広い半導体地政学的文脈の中に位置づける必要がある。Huaweiが最近発表したLogicFolding(論理折畳み)アーキテクチャはEUVなしで高性能プロセッサを実現しようとするアプローチであり、上海AIラボはフォトレジストの安定製造問題を解決したと発表した。Prinanoのアプローチはそれらとはフェーズが異なり、DUVそのものを代替する製造装置を量産段階で検証した点で独自性がある。

Canonも2023年から商用NILを展開しているが、装置価格は1台数十億円規模とされ、ASMLのEUV装置(1台200億円超)と比べれば大幅に安価だ。Prinanoの装置価格は非公開だが、光学系を持たない構造上、Canonのステップアンドリピート型よりさらに安価になり得る。また日本ではDai Nippon Printing(DNP)がCanon装置向けテンプレート材料を開発中で、2027年から1.4nmチップ向けに量産開始を目指している。NIL技術は国際的に競争が激化している領域だ。

未解明の課題と検証の焦点

Prinanoの発表で明示されていない情報が多数ある点は特記すべきだ。量産検証とされながら、具体的な生産ロット数・歩留まり率・欠陥密度・顧客への出荷実績、そして第三者機関による独立した検証データは一切開示されていない。

半導体製造において「技術的に可能」と「商業的に成立する」の間には大きな隔たりがある。市場調査会社SemiAnalysisも以前から指摘するように、NIL装置そのものが安価でも、テンプレートの製造・管理コスト、欠陥率に伴う歩留まり損失、プロセスインテグレーションの複雑さを含めた総合的な製造経済性が問われる。特にスループット(単位時間あたりの処理枚数)は、既存のDUVラインと同等水準に達しているかどうかが商業的実現可能性の核心的指標となる。

Prinanoは2017年設立以来、NILの設備・材料・プロセスを垂直統合する「装置—材料—プロセス」の閉鎖エコシステムを構築してきた。2025年には中国国内に半導体向けNIL装置を初納入しており、今回の発表はそこからの次のステップとしては筋が通っている。しかし「量産検証に成功した」という声明と「商業量産ラインが稼働している」の間には依然として距離がある。

今後の確認ポイントは、Litra TechnologyによるOPAチップの顧客向け出荷実績、NIL方式で製造された光通信モジュールの実装データ、そしてPrinano装置の独立したスループット・歩留まり評価の公表である。