Elon Musk氏は3月29日(現地時間)、自身のAI企業xAIがソーシャルメディアプラットフォームX(旧Twitter)を全株式取引で買収したと発表した。この取引ではxAIが800億ドル、Xが330億ドル(450億ドルから120億ドルの負債を差し引いた額)と評価されている。両社の統合により、Xの膨大なユーザーデータとxAIの技術力を組み合わせた新たなビジネス展開が期待される。
買収の詳細と評価額の変動
今回の買収は、Musk氏が2022年末に約440億ドルでTwitterを買収し、Xに改名してからわずか2年余りで実現した。当初の買収額と比較すると、Xの評価額は約110億ドル下落している。実際、一時期にはFidelityがXの評価額を100億ドル未満としていた時期もあった。
ただし、Donald Trump大統領の就任後の数カ月間で、Xの評価額は上昇していると見る側面もある。これは「主に投資家が今はXがより影響力があると考えているため」と分析されている。実際に広告出稿も増えているとの報告もある。
Musk氏はX上の投稿で「xAIとXの未来は絡み合っている。今日、私たちは正式にデータ、モデル、計算、配信、人材を組み合わせるステップを踏む」と述べ、「この組み合わせにより、xAIの高度なAI能力と専門知識をXの大規模なリーチとブレンドすることで、膨大な可能性が解き放たれる」と強調した。
@xAI has acquired @X in an all-stock transaction. The combination values xAI at $80 billion and X at $33 billion ($45B less $12B debt).
— Elon Musk (@elonmusk) March 28, 2025
Since its founding two years ago, xAI has rapidly become one of the leading AI labs in the world, building models and data centers at…
この発表を受け、X社CEOのLinda Yaccarino氏は「未来はこれ以上明るくなれない」と投稿している。
急成長するxAIとXの統合戦略
Musk氏によれば、Xは現在「6億人以上のアクティブユーザー」を抱え、「リアルタイムの真実のソースを見つけるためのデジタルタウンスクエア」として機能している。また、「過去2年間で世界で最も効率的な企業の1つに変革され、スケーラブルな将来の成長を実現する態勢が整った」としている。
一方、xAIはMusk氏が2023年に「宇宙の真の性質を理解する」という目標で設立したAI企業で、OpenAIと直接競合している。設立からわずか2年で「世界をリードするAIラボの1つ」となり、「前例のないスピードと規模でモデルとデータセンターを構築」してきた。
xAIの評価額は急速に上昇している。Wall Street Journalによれば、昨年11月の投資ラウンドでは500億ドルだったのに対し、2024年春には240億ドルと評価されていた。Bloombergの報道では、2月には750億ドルの評価額で資金調達を行う交渉中とされ、今回の取引では800億ドルとさらに評価が高まっている。これは、OpenAIの2,600億ドル、Anthropicの615億ドルと比較しても、主要AI企業の中で競争力のある水準となっている。
両社はすでに密接に連携しており、xAIのAIチャットボット「Grok」はXプラットフォームに統合されている。xAIが他のスタートアップよりも持つ主な利点の一つは、Xのデータへのアクセスにあり、Xが長年にわたって蓄積してきた投稿の大量のデータは、AIトレーニングデータの競争においてxAIに大きな優位性を与えそうだ。
2024年6月、xAIはテネシー州メンフィスでGrokのトレーニング用にスーパーコンピューター「Colossus」を構築すると発表。9月には、その一部がすでにオンラインになっていることが明らかにされた。
Musk氏の事業戦略と政治的立場
今回の買収は、AIとソーシャルメディアの統合という業界トレンドを象徴するものだ。Musk氏はもともとOpenAIの共同創設者だったが、2018年に離脱。現在はOpenAIとCEO Sam Altman氏との間で広報や法的な争いを繰り広げている。
統合後の展望について、Musk氏は「何十億人もの人々にスマートでより意味のある体験を提供し、真実の追求と知識の進歩という中核的な使命に忠実であり続ける」と述べている。また、「世界を単に反映するだけでなく、人間の進歩を積極的に加速するプラットフォームを構築することが可能になる」とその意義を強調した。
注目すべきは、Musk氏が現在Trump政権で重要な役割を担っている点だ。CNBCによれば、Musk氏は「2024年のキャンペーンでTrump氏と他の共和党候補者や活動に2億7,000万ドルを寄付した後、新設された政府効率化局(DOGE)のトップに就任」している。この立場は「自身の様々なビジネスに利益をもたらす方法で変更を行う」可能性を秘めているという。
また、これはMusk氏が自身の2つの企業を合併させる初めてのケースではない。2016年にはTeslaが26億ドルでSolarCityを買収している。SolarCityはMusk氏のいとこが設立し、Musk氏自身が資金提供および取締役会会長を務めていた企業だった。この取引に対しては、Tesla株主から「SolarCityの救済であり、Musk氏個人に利益をもたらす受託者責任違反」との訴訟が起こされたが、裁判所はMusk氏とTeslaに有利な判断を下している。
だが、xAIのスタッフはXの従業員でもあり、会社のラップトップとコードベースへのアクセス権を持っていたことも知られている。また、Musk氏は以前、X投資家がxAIの25%を所有すると主張していたが、今年1月の時点では、これは会社の株式を持つX従業員には実現していなかったと報じられている。
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