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核融合スタートアップのGeneral Fusion、資金難により大規模レイオフを実施、CEOが投資を訴える

Y Kobayashi

2025年5月7日

カナダを拠点とする核融合スタートアップの雄、General Fusionが深刻な資金難に直面している。20年以上にわたり商業用核融合炉の実現を目指してきた同社は、最新実証炉「LM26」で重要な技術的マイルストーンを達成した矢先、従業員の少なくとも25%をレイオフするという苦渋の決断を下した。CEOのGreg Twinney氏はオープンレターで窮状を訴え、新たな資金調達への活路を模索している。この事態は、クリーンエネルギーの未来を担うと期待される核融合技術開発の厳しさと、現在の厳しい市場環境を浮き彫りにしている。

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「LM26」成功の光と、突如訪れた資金枯渇の影

General Fusionは2025年4月29日、バンクーバーの本社に設置された最新の実証炉「LM26」において、世界で初めて大規模な磁化プラズマを液体リチウムで圧縮することに成功したと発表した。これは、同社が採用する「磁化標的核融合(Magnetized Target Fusion, MTF)」方式の実現に向けた大きな一歩であり、Twinney CEOも「変革的なマイルストーン」と胸を張った成果だった。初期データの解析では、イオンの温度と密度の上昇、そして液体リチウムのライナーによる磁場の閉じ込めに成功したことが示されているという。

しかし、この技術的な光明とは裏腹に、同社の財政状況は急速に悪化していた。Twinney CEOはオープンレターの中で、「今日の資金調達環境は、投資家や政府が急速に変化し不確実な政治・市場環境を乗り切ろうとする中で、かつてないほど厳しいものになっている」と述べ、資金繰りの困難さを吐露。The Globe and Mail紙によれば、この発表の数日後には従業員の少なくとも25%が解雇されたと伝えられている。

Twinney CEOは、「我々は計画を実行する準備ができているが、経済的・地政学的な環境によって待たざるを得ない状況に追い込まれている」と、外部環境の厳しさが直接的な原因であると説明。この資金難により、LM26の運用規模縮小も余儀なくされている。

23年の歩みと巨額投資、それでも遠い商業化への道

2002年に設立されたGeneral Fusionは、核融合エネルギー実用化を目指す企業の中では古参の部類に入る。PitchBookのデータによると、同社はこれまでにAmazonの創業者Jeff Bezos氏、シンガポールの政府系投資会社Temasek、BDC Capitalなどから総額4億4000万ドルを調達してきた。直近では2023年7月に2266万ドル、同年8月に約1500万ドルの資金を確保していたが、それでも核融合炉の商業化という壮大な目標達成には十分ではなかったようだ。

核融合発電は、太陽や星がエネルギーを生み出すのと同じ原理を地上で再現し、ほぼ無限のクリーンエネルギーを生み出す可能性を秘めている。しかし、その実現には超高温のプラズマを安定的に閉じ込め、核融合反応を持続させるという極めて高度な技術が求められる。これまでに「科学的ブレークスルー」(投入エネルギーよりも核融合反応で生じるエネルギーが多い状態)を達成した施設は世界で一つだけ存在するが、商業的に採算が取れるレベルには程遠いのが現状だ。商業的ブレークスルーには、実証されているエネルギー量の数十倍を生み出す必要があるとされている。

General Fusionが目指すのは、この商業的ブレークスルーだ。同社が採用するMagnetized Target Fusion (MTF)は、磁場でプラズマを閉じ込める「磁気閉じ込め方式」と、レーザーなどで燃料ペレットを圧縮する「慣性閉じ込め方式」という主流の二つのアプローチとは異なる、独自の技術だ。蒸気で駆動するピストンを使って液体金属(リチウム)のライナーを圧縮し、その中心にあるプラズマを核融合条件まで圧縮・加熱するというもの。このアイデアは1970年代にアメリカ海軍が試みたものの成功には至らなかったが、General Fusionは現代のコンピュータ技術によって、かつての課題であった精密なタイミング制御が可能になると考えている。LM26の成果は、その可能性の一端を示したものと言えるだろう。

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激化する開発競争と、CEOの訴え「未来への投資を」

核融合開発の道のりは長く、そして莫大な費用がかかる。General Fusionのこれまでの調達額は決して小さくはないが、業界全体を見渡せば、Commonwealth Fusion Systemsが20億ドル以上、Helion Energyが10億ドル以上、新興企業のPacific FusionでさえシリーズAだけで9億ドルの資金を確保しているなど、桁違いの投資が行われている例もある。General Fusionは、こうした巨額の資金を持つ競合としのぎを削っている状況だ。

The Globe and Mail紙によると、General Fusionは現在、事業継続のために1億2500万ドルの資金調達を目指しているという。Twinney CEOは、「我々は図面と夢だけの新興企業ではありません。成功への明確な道筋とそれを証明する機械(LM26)を持つ経験豊富な核融合技術者集団です」と、これまでの実績と技術力を強調。さらに、「テクノロジー、科学、LM26、そしてノウハウと情熱、すべてが揃っています。あとはこの仕事をやり遂げるための資本だけです。我々は門戸を開き、我々のビジョンを共有してくれる投資家、買い手、政府、その他の戦略的選択肢を積極的に探しています」と、切実なメッセージを発信している。

人工知能(AI)の急速な発展などにより、クリーンで安定した電力供給への需要は世界的に高まっている。核融合エネルギーは、その究極的な解決策の一つとして大きな期待が寄せられているが、実用化への道のりは依然として険しい。General Fusionがこの資金調達の難局を乗り越え、独自の技術で核融合の夢を現実に引き寄せることができるのか。今、まさに正念場を迎えていると言えるだろう。


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