半導体大手のGlobalFoundriesとガラスの巨人Corningが、AIデータセンターの進化を加速させる画期的な光接続技術を発表した。シリコンフォトニクスとガラス導波路を融合した着脱可能な光ファイバーコネクター「GlassBridge」は、プロセッサと光ネットワークを繋ぐ最後の難関を突破し、次世代の演算基盤を支える鍵となる可能性を秘めている。

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AI時代のデータセンターが直面する「接続」という物理的な壁

現代のAI、特に大規模言語モデル(LLM)の進化は、膨大な計算能力に支えられている。その計算は、数千、数万ものGPUが連携して並列処理を行うことで実現されるが、その性能を最大限に引き出す上で深刻なボトルネックとなっているのが、プロセッサ間の「データ伝送」だ。

従来のデータセンターでは、サーバー間の接続に銅線を用いた電気信号が主流だった。しかし、AIのワークロードが要求するデータ伝送量は爆発的に増加しており、銅線では帯域幅の限界、信号の減衰、そして何より膨大な消費電力が深刻な問題となっている。電気信号は距離が長くなるほどエネルギー損失が大きくなるため、データセンター規模の通信には不向きなのだ。

この物理的な制約を打破する技術として期待されてきたのが、「光」を利用するシリコンフォトニクスである。電気の代わりに光で情報を伝送すれば、帯域幅は桁違いに広がり、電力効率も劇的に改善する。しかし、半導体チップというミクロの世界で生まれた光信号を、外部の光ファイバーケーブルへと効率よく、かつ安定して受け渡す点に、長年の技術的課題が存在した。

GFとCorningが示す解決策「GlassBridge」

この根深い課題に対し、半導体ファウンドリ大手のGlobalFoundries(GF)と、特殊ガラス・光ファイバーで世界をリードするCorningが、一つの答えを示した。両社は2025年9月29日、GFのシリコンフォトニクスプラットフォーム向けに、着脱可能な光ファイバーコネクターソリューションを共同開発したと発表した。

その中核をなすのが、Corningの「GlassBridge™」ソリューションだ。これは、ガラス製の導波路を介して、シリコンフォトニクスチップと光ファイバーを接続(カップリング)する技術である。 この協業は、最先端の半導体製造技術と、170年以上の歴史を持つ材料科学の知見を融合させ、AIインフラが直面する接続の壁を打ち破る試みと言える。

「Corningとの協業は、AIと機械学習のための次世代接続ソリューションを提供する上で、重要な一歩となります。Corningの最先端ファイバー技術を、我々のシリコンで実証済みのプラットフォームに統合することで、AIデータセンター向けのスケーラブルで高密度な光パッケージングを可能にする性能と柔軟性が得られるのです」と、GFのシリコンフォトニクス製品ライン担当シニアバイスプレジデント、Kevin Soukup氏は述べている。

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シリコンフォトニクスとガラス導波路の融合

今回の発表を理解するには、まず「シリコンフォトニクス」とその最大の課題、そして「GlassBridge」がそれをどう解決するのかを深掘りする必要がある。

「シリコンフォトニクス」とは何か?

シリコンフォトニクスとは、従来の半導体チップを製造する技術(CMOSプロセス)を応用し、シリコン基板上に光の回路を作り込む技術だ。CPUやメモリが電気回路であるのに対し、シリコンフォトニクスは光の変調器、導波路、検出器などをチップ上に集積する。

この技術の根幹は、シリコンが光通信で使われる赤外線波長(約1.55マイクロメートル)に対して透明であるという性質を利用している点にある。 シリコンと二酸化ケイ素(SiO2)の屈折率の差が大きいことを利用し、髪の毛よりもはるかに細い数百ナノメートル幅の「光の通り道(導波路)」を形成。これにより、チップ上で光信号を自在に操ることが可能になる。 半導体製造プロセスを活用するため、低コストでの大量生産が見込めるのも大きな利点だ。

最大の難関「モードフィールドミスマッチ」問題

しかし、この有望な技術には大きなハードルがあった。それが、チップ上の極細のシリコン導波路と、外部の光ファイバーとの接続だ。

問題の本質は「モードフィールドミスマッチ」と呼ばれる、光が通るコア部分の断面積の極端な違いにある。

  • シリコン導波路: 幅・高さともに数百ナノメートル
  • 標準的な光ファイバー: コア径が約9マイクロメートル

その断面積の差は、実に100倍にも達する。 これは、高速道路を走ってきた車が、何の案内もなくいきなり狭い路地に進入しようとするようなものだ。光信号の大部分は接続面で反射・散乱してしまい、深刻な「結合損失」が発生する。この損失は、システムの性能と信頼性を著しく低下させる原因となっていた。

従来、この問題を解決するために「グレーティングカプラー」や「エッジカプラー」といった手法が用いられてきた。前者はチップ表面の回折格子で光を垂直方向に取り出す方法、後者はチップの端面から水平方向に光を取り出す方法だ。しかし、いずれもマイクロメートル以下の精密な位置合わせが要求され、組み立てが複雑で高コストになる上、一度接続すると取り外しが難しいという欠点があった。 データセンターのようにメンテナンスやアップグレードが必須の環境において、この「着脱できない」という点は実用化を妨げる大きな要因だった。

Corningの「GlassBridge」はどう解決するのか?

CorningのGlassBridgeは、このモードフィールドミスマッチ問題を、ガラスという素材の特性を活かしてエレガントに解決する。

その仕組みは、シリコン導波路と光ファイバーの間に、特殊なガラスで作られた「中間的な光の通り道」を設けるというものだ。このガラス導波路は、チップ側ではシリコン導波路に近いサイズで光を受け取り、ファイバー側に向かって徐々にコア径が広がっていく構造を持つ。

この「なだらかな」サイズの変化(断熱的変換)により、光は急激な変化に遭遇することなく、反射や散乱を最小限に抑えながらスムーズに伝播できる。 これにより、極めて低い結合損失で、効率的な電力伝達が可能になる。

Corningは、イオン交換(IOX)やレーザー加工といった高度な技術を用いて、ガラスの屈折率を精密に制御し、3次元的な導波路を形成できる。 これにより、特定の波長や偏光に合わせて光学特性を最適化した結合構造を作り出すことが可能だ。 まさに、ガラスを知り尽くしたCorningならではのアプローチと言えるだろう。

CPO(コパッケージドオプティクス)実用化への道筋

このGFとCorningの協業がもたらす最大のインパクトは、CPO(Co-Packaged Optics)と呼ばれる次世代技術の実用化を大きく前進させる点にある。

プロセッサと光を一体化するCPO

CPOとは、これまで個別の部品だった光トランシーバーを、GPUやCPUといったプロセッサと同じパッケージ内に統合してしまう技術だ。

現在の一般的な構成(プラガブル・オプティクス)では、プロセッサが載った基板から電気信号がコネクタを通り、そこに取り付けられた光トランシーバーで光信号に変換され、ファイバーへと送出される。この「基板上の電気配線」が、実は大きな帯域のボトルネックであり、電力消費の原因にもなっている。

CPOでは、プロセッサのすぐ隣に光I/O(シリコンフォトニクスチップ)を配置する。これにより、電気信号が移動する距離を数センチから数ミリへと極限まで短縮。電気的な接続に伴う信号劣化や電力消費を劇的に削減し、プロセッサ・パッケージ全体として桁違いのI/O帯域幅を実現できる。AIデータセンターが求める超広帯域・高エネルギー効率な接続を実現する切り札と目されている。

「着脱可能」であることの決定的な重要性

CPOのコンセプト自体は以前から存在したが、実用化には大きな壁があった。その一つが、パッケージに直接接続される光ファイバーの扱いだ。

もしファイバーが着脱不可能(永久接着)な場合、製造段階での取り扱いの煩雑さはもちろん、データセンターでの運用開始後にファイバーが1本でも損傷すれば、プロセッサを含む高価なパッケージ全体を交換しなければならなくなる。これは、コストと運用性の両面で現実的ではなかった。

今回発表されたGlassBridgeが「着脱可能」なコネクターソリューションであることは、この問題を根本的に解決する。 GFのプラットフォームに設けられたv溝(精密な溝)に、CorningのGlassBridgeコネクターをはめ込むことで、精密な位置合わせを保ちつつ、必要に応じて何度でも抜き差しが可能になる。 これにより、製造の柔軟性が向上し、現場でのメンテナンスや将来的なアップグレードも容易になる。CPOが絵に描いた餅から、現実的なソリューションへと大きく近づいた瞬間だ。

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協業がもたらす相乗効果と業界へのインパクト

今回の協業は、単なる技術開発に留まらない。半導体製造のスケールと、光学部品のサプライチェーンという、異なる業界の巨人が手を組むことで生まれる相乗効果は計り知れない。

半導体大手とガラスの巨人の連携

GFは、世界有数の半導体ファウンドリとして、シリコンフォトニクスチップの安定した大量生産能力を持つ。 一方、Corningは、光ファイバーやコネクターにおける世界的なリーダーであり、巨大なサプライチェーンを確立している。 この両社の連携は、高性能な光インターコネクト技術を、AIデータセンターが必要とする規模で、かつコスト効率よく市場に供給するための盤石な体制が整うことを意味する。

「GlobalFoundriesのシリコンプロセスとCorningの光接続における専門知識を組み合わせることで、実に強力なものが生まれます。我々は共に、未来のAI駆動産業に新たな可能性をもたらしているのです」と、Corningのグローバルリサーチ担当バイスプレジデント、Claudio Mazzali博士は語っている。

AIデータセンターの未来像

GlassBridgeのような技術が普及すれば、データセンターのアーキテクチャは大きく変わる可能性がある。CPOによってプロセッサ間の通信が高速化・効率化されることで、より大規模で結合度の高いAIクラスターの構築が可能になる。これは、さらに巨大で高性能なAIモデルの開発を後押しするだろう。

また、光接続による電力効率の改善は、データセンターの運用コスト削減だけでなく、環境負荷の低減にも直結する。AIの進化に伴い急増する電力消費は世界的な課題となっており、光技術への移行はサステナビリティの観点からも極めて重要だ。

この技術革新は、まさにAIの進化を物理層から支える基盤となる。プロセッサの計算能力向上という「エンジン」の進化だけでなく、それを繋ぐ「神経網」であるインターコネクトの革新が伴って初めて、次世代のAIはその真価を発揮できる。今回の発表は、その神経網の進化における大きなマイルストーンと言えるだろう。


Sources