2026年2月12日、ロサンゼルス。世界が注目するソーシャルメディア依存症訴訟の法廷で、Instagramのトップ、Adam Mosseri氏は、自社のプラットフォームが子供たちを意図的に依存させているという主張に対し、真っ向から反論を展開した。

この裁判は、InstagramやYouTubeなどのプラットフォームが、未成年者のメンタルヘルスに深刻な悪影響を及ぼすと知りながら、利益のために「依存性の高い設計」を維持したかどうかが争点となっている。Mosseri氏は、法廷に立った最初のハイテク企業幹部として、プラットフォーム利用を「Netflixでの一気見」になぞらえ、医学的な意味での依存症とは明確に区別すべきだと主張した。

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臨床的依存と「問題のある利用」を分かつもの

証言台に立ったMosseri氏は、原告側弁護士のMark Lanier氏による鋭い追及に対し、慎重に言葉を選びながら独自の論理を展開した。特に注目されたのは、利用者がInstagramを長時間使い続ける現象をどう定義するかという点である。

Mosseri氏は、「臨床的な依存症」と「問題のある利用」は切り離して考えるべきだと強調した。同氏は、「深夜までNetflixでドラマを一気見したとき、自分でも『ハマった(依存した)』と言うことがあるが、それは医学的な診断としての依存症と同じではない」と述べ、日常会話における比喩と臨床的な病理を混同すべきではないという見解を示した。

この主張の背景には、Instagramの過度な利用を、アルコールや薬物と同じレベルの「依存症」と認めれば、企業側に莫大な法的責任と設計変更の義務が生じるという懸念がある。Mosseri氏は、どれだけの利用時間が「多すぎる」かは極めて個人的な主観に基づくと主張し、「ある人にとっては、あなたよりも多くの時間Instagramを使っても、心地よく感じることがある」と付け加えた。

1日16時間の利用は「依存」ではないのか

Lanier弁護士は、本訴訟の原告である20歳の女性、K.G.M.さんが、かつて1日に16時間もInstagramを利用していた事実を引き合いに出した。これに対し、Moseri氏は「それは問題のある利用に聞こえる」とは認めたものの、頑なに「依存症」という言葉の使用は拒んだ。

Meta側は一貫して、K.G.M.さんの抑うつや自傷行為、ボディ・ディスモーフィア(身体醜形障害)といった精神的な問題は、ソーシャルメディアの利用以前から存在した「家庭環境や個人的な困難」に起因するものだと主張している。プラットフォームはあくまでも既存の脆弱性を顕在化させたに過ぎない、という論法だ。

暴かれた内部文書:成長か、安全性か

法廷では、これまで公にされていなかったMetaの内部文書やメールが次々と提示された。中でも衝撃的だったのは、2019年に行われた「美容フィルター」をめぐる幹部間の議論である。

当時、整形手術を模したような過激なフィルターが、少女たちの外見に対する強迫観念を煽っているという懸念が社内で浮上していた。提示された資料によると、Moseri氏を含む経営陣には以下の3つの選択肢が提示されていた。

  • 選択肢1:一時的な禁止とデータ再評価(ウェルビーイングへの懸念は減るが、成長を阻害するリスクがある)
  • 選択肢2:禁止は解除するが、おすすめ機能からは外す(依然として幸福感へのリスクは残る)
  • 選択肢3:禁止を完全に撤廃する(成長への影響は最小限だが、ウェルビーイングへのリスクは最大で、メディアの批判も激しい)

結局、Metaは成長への影響を考慮し、フィルターを完全には禁止せず、推奨アルゴリズムから外すなどの「限定的な修正」に留めた。内部メールの中には、Metaの技術責任者(CTO)であるAndrew Bosworth氏がMark Zuckerberg氏にこの問題を報告した形跡や、別の幹部が「(禁止すれば)アジア市場での競争力を失う」と懸念を表明した内容も含まれていた。

「Instagramはドラッグである」という社内の声

原告側は、Meta内部の研究者が交わしたメッセージも公開した。ある従業員は、「Instagramはドラッグだ」「我々は基本的に(麻薬の)売人(Pushers)のようなものだ」と自嘲気味に綴っていた。さらに、別の研究者は「Adam(Moseri氏)は聞きたがらないだろうが、ドーパミンが関係していることは否定できない。それは生物学的であり、心理的なものだ」と指摘していた。

これらの内部証言は、Instagramが提供する「無限スクロール」や「通知」といった機能が、人間の脳の報酬系を刺激し、抗いがたい利用継続を促すように設計されているという原告側の主張を裏付けるものとなっている。

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専門家が指摘する「脳のブレーキ」の不在

スタンフォード大学の依存症医学の専門家、Anna Lembke教授は、原告側の証人として、ソーシャルメディアを「デジタル・カジノ」や「ドラッグ」に例えて解説した。

教授によれば、人間の脳において行動を制御する「ブレーキ」の役割を果たす前頭前皮質は、25歳前後になるまで完全には発達しない。そのため、10代の若者はドーパミンによる報酬(承認や新しい情報の刺激)に対して極めて脆弱であり、一度「罠」にはまると自力で抜け出すことが困難になる。

Lembke教授は、InstagramやYouTubeなどの製品は、オートプレイや無限スクロールといった機能を通じて接続や検証、目新しさを「ドラッグ化(drugified)」していると指摘した。特に、すでに精神的な問題を抱えている子供にとって、これらのプラットフォームは「ゲートウェイ・ドラッグ(入門薬物)」として機能し、症状をさらに悪化させる悪循環を生んでいるという。

法廷の外で、遺族が問いかけるもの

裁判が行われているロサンゼルス郡上級裁判所の前には、雨の中、ソーシャルメディアによって子供を亡くした親たちが集まった。

その一人、John DeMayさんは、2022年に当時17歳だった息子Jordanを亡くした。JordanさんはInstagramを通じてセクストーション(性的脅迫)の被害に遭い、裸の写真をバラまくと脅されてから数時間後に命を絶った。DeMayさんは、「Moseri氏は法廷に立ち、子供たちが死んでいるにもかかわらず、なぜ自社の製品を作り続け、修正しなかったのかを説明しなければならない」と憤りをあらわにした。

また、ロンドンから駆けつけたMariano Janinさんも、2021年に14歳で自殺した娘ミアさんの遺影を抱え、法廷を見守った。ジャニンさんは、「企業には技術も資金もある。ビジネスモデルを変えれば子供たちを守れるはずだ」と訴えた。

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ベルウェザー裁判が示唆する未来

この裁判は、全米で提起されている1,600件以上の同様の訴訟の「ベルウェザー(先導役)」と位置づけられている。ここでの陪審員の判断が、今後のハイテク企業の法的責任の範囲を大きく左右することになる。

MetaやGoogle(YouTube)の弁護団は、インターネット・プラットフォームを第三者の投稿内容に対する責任から免除する「通信品位法第230条(Section 230)」を盾に防衛を続けている。しかし、今回の原告側は、投稿された個別のコンテンツではなく、プラットフォームそのものの「設計の欠陥(Defective Design)」に焦点を当てるという、かつてのタバコ訴訟に似た戦略を採用しており、法的な包囲網は確実に狭まっている。

来週以降は、Metaの創設者Mark Zuckerberg氏や、YouTubeのCEOであるNeal Mohan氏の証言も予定されている。彼らが法廷で何を語り、どのような内部事実がさらに明らかになるのか。Moseri氏が提示した「Netflixの比喩」は、陪審員の目には企業の傲慢さと映るのか、それとも合理的な弁明と映るのか。ソーシャルメディアという巨大な社会的実験は、今、司法による審判の時を迎えている。


Sources